第130話 セルフレジ
まず、分かったことが一つ。
それは、基本的にこのダンジョンのギミック──特に敵との戦闘が発生するようなギミックはスケルトンには反応しないということ。
端末くんの情報では、全てのダンジョンがそうだという話ではなく、あくまでこのダンジョンはそう、という話らしい。
それで何があるかと言えば、先行してもらったスケルトンくんが引っかからなかったギミックが、大量に残っていたということだ。
なので、スケルトンくんの後を追っていると、当たり前のように棚から植木鉢が落ちて来たり、ゾンビの手が伸びて来たり、一本腕がダイナミックエントリーしてきたりした。
この時点で、スケルトンに斥候を任せた理由の6割くらいはダメになった気もするが、流石にそれだけではない。
このダンジョンが比較的一本道といっても、分岐が存在しないわけじゃない。
スケルトンくんは、その分岐の先が行き止まりだった時などは、その辺りの道具を使って大きくバツ印をつけたりして、分岐を教えてくれたりしていた。
もしかしたら、その先にギミックがあるかもしれないが、現状ギミックは後回しと決めたので、正規ルートが分かるのはありがたかった。
そうこうしているうちに、戦闘がなかったとしてもついに注ぎ込んだCPが切れたのか、スケルトンの反応は消える。
俺は心で礼をしつつ、彼の残したヒントはありがたく受け取っていった。
それから、二階層攻略開始より1時間半といったところで、ついに正規ルートの先へとたどり着いた。
「これは、セルフレジか?」
たどり着いた先にあったのは、最近スーパーやコンビニなどでもちょくちょく見かけるようになった、客が自分で会計をするタイプのレジだった。
このホームセンターにも試験的に導入されていた記憶がある。
俺は使ったことはなかったが、少なくとも、今ここで店員に待っていて欲しかったかと言われると全然そんなことはない。
そんなセルフレジが、ぽつんと広間の端に置かれていて、そのセルフレジの先には、閉じたシャッターがあった。
だが、このシャッターには鍵穴がない。シャッターの鍵で開けるタイプではなさそうだった。
他には目立ったものは見当たらず、ここがひとまず二階層の終点と呼んでもよさそうだった。
「だが、レジは動いていないな」
ただでさえ薄暗い店内で、ぼんやりと照らされたレジには独特の雰囲気がある。
しかしながら、レジは現在電源が落ちている様子。
となると、鍵だろうか。
「レジの鍵って、お金の回収とかに使うんじゃないんだろうか」
そう疑問に思いながら眺めてみると、見えにくいところに鍵穴が存在していた。
鍵を差し込み、少し回すと『起動』、もう少し回すと『点検』、で、現在の位置は『停止』となっているようだ。
どうやら、ダンジョン製のセルフレジは、こんなところまでセルフにする機能がついているらしい。
「少なくとも、点検を使うことはないだろうな」
そう呟き、俺はセルフレジをもう一度よく眺めた。
なんの変哲もなさそうなレジだ。少なくとも、中にゾンビが潜むスペースはあるまい。
だが、起動したらいきなりなだれ込んでくる可能性は否定できない。
「…………とはいえか」
そう悩みはしたが、その確証はない。
決め打ちでCPを消費してフィールドを作っておくのも手ではあるが、今はCPは節約したい。
なにより、ここに来るまでに少しだけ、このレベルブーストのステータスを前提とした戦い方に『慣れた』のだ。
覚悟さえ決めておけば、そうそう不覚は取らないだろう。
「起動してみよう」
俺は、十分に警戒をしながら、レジの鍵を差し込んで起動のところまで回した。
レジはうんともすんとも言わなかった。
『情報が解禁されます。現在、このセルフレジを起動するための電源が通っていません。分電盤から電力を供給してください』
「なるほど」
俺の行動によって端末くんの攻略情報が解禁されたことで、このフロアの正しい流れが分かった。
まず、道なりに進んでいくとここでレジを発見するも、レジを動かすことができない。
そこで、順番は多少前後するだろうが、開通したルートを探っていくと『事務室』にたどり着き、鍵がありそうな部屋に入るには『事務室の鍵』が必要だと知る。
で、他のルートにはその『事務室の鍵』が存在し、また、同様にどこかに『分電盤』もあるのだろう。
事務室の鍵を手に入れたら『分電盤の鍵』と『レジの鍵』は手に入るわけだから、先に分電盤に向かえばレジはすぐに動かせる。
先にレジに来たとしても、鍵だけでは動かないので電気が必要なのを悟る。
つまり、ここを通るには『事務室の鍵』『分電盤の鍵』『レジの鍵』を順番に使用していく必要があったというわけだ。
残った『シャッターの鍵』は特殊用途系で、『外倉庫の鍵』だけは謎のままだが、店の外に出番があるのだろう。
「まぁ、俺がいきなりやらかしたので、あとは分電盤を探すだけか」
少なくとも、ここから戻って新たに開通したルートを探す必要はある。
これで事務室の鍵がある場所に行ってしまったら、まぁ、無駄足だったと諦めるしかないだろう。
とりあえず、鍵を停止に合わせた状態で引っこ抜き、俺は道を戻ることを決めた。
分電盤とは、店の至る場所に電気を分配するための装置で、現在は非常用の照明だけが点いている状態のようだ。
セルフレジを動かすためには、一度分電盤を探してそこに電気を通さないといけないということだ。
なお、詳しいことは知らない。俺は端末くんに分電盤とは何かを聞いただけだ。
で、探すとなると道を戻ることになるのだが、道を戻ると何があるか。
答えはこうだ。
「うるぅうううるるううう」
俺が戦闘を避けるために撒いて来た一本腕くんが、これまでの道程で待機中だったりする。
「逃げるだけなら、簡単だったんだけどなぁ」
来るときは、走っている俺の背後に現れたので、撒くことができた。
だが、現在は俺の進行方向にドンと構えてくれている。
なんなら、両足を大きく開いて腰を落とし、俺を逃さないという強い意志を感じさせてくれる。
この状態でも、スキルを駆使すれば脇を抜けなくはないだろうが、無駄にリスクをとる選択肢だろう。
だから、仕方なくここで排除していく。
俺は頭を戦闘の意識に切り替え、一本腕に言葉を投げる。
「まぁ、お前らの相手も慣れたもんだよ」
「うるうぅうう!」
俺の言葉を挑発と取ったのか、先に仕掛けてきたのは一本腕だった。
ズンズンと巨体に似合わぬスピードで、一気に俺との距離を詰めてくる。
だが、先ほども言ったように、俺はこいつらとの戦いに少し慣れた。
一対一なら、対処法はほぼ確立できている。
「夜の目隠し」
そう名づけた魔術は『夜のカーテン』の廉価版だ。
周囲一帯を暗闇に沈める夜のカーテンが、フィールドに影響を及ぼす魔術だとすれば、この『夜の目隠し』は単体への状態異常魔術だ。
使い方は簡単、フィールド全てではなく、対象一体をすっぽり覆うくらいの闇をピンポイントで発生させるのだ。
一本腕に目はついていないが、頭の腕の付け根辺りを覆えば、こちらを認識できなくなることが分かった。
「るるう!?」
一本腕が、突然俺を見失ったことで動揺する。
その隙を見逃さず、俺はすれ違いざまに奴の片足を切り落とす。
「るうぅっ!!!!」
一本腕が悲鳴をあげつつ、カウンターを放ってくるのを紙一重で躱し、伸びきった腕を切り上げで切断する。
足と手を失ったことで、一本腕は怯む。その状態だと、もはや鍾馗を送還するまでもなく俺のことを見失ってしまう。
俺はそっと回り込むように移動し、先端の手のひらを失って右往左往する一本腕の、付け根あたりを横一閃で切り払った。
これで、終わりだ。
一本腕は断末魔の叫びをあげることなく塵となって消えていく。
「…………ふぅ」
戦闘を終えたところで、ようやく息を吐く。
緊張から解放された体が、どっと冷や汗をかく。
余裕そうに見えたかもしれないが、別に余裕なわけではない。
足を切って機動力を削ぐ、腕を切って火力を削ぐ、最後に首を切って止めを刺す。
ただ、そういう手順を確立しただけだ。
集中している間、気配を薄くするために呼吸は最小限だし、一歩間違えれば大ダメージを受けることに変わりはない。
だが、それでも最小の消費で最大の戦果をあげるためには、こちらもリスクを負わなければいけないのだ。
先ほどの戦闘で消費したCPはわずか15である。
CPを50以上消費していた最初に比べれば、随分と進歩したものである。
「どうだった端末くん」
『戦闘評価A。上出来です。魔術による補助なしで動けるようになればA+を差し上げても構いません』
「その挑戦はまたの機会にしておこう」
レベルブーストによる仮初めの性能であろうと、端末くんに上出来と言われたのは素直に嬉しかったりした。




