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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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125/166

第125話 あからさま





 恐る恐る踏み出した一歩。二歩。そして三歩。

 俺が完全に、その従業員用の通路なんだか倉庫なんだか分からないエリアに足を踏み入れたところだった。


 ズズズズズ、と背後から音がした。

 振り返ったら、先ほど開通した道はなくなっていた。

 あるのは、棚の背面にはとても見えない壁である。



『攻略情報が解禁されました。この階層には条件付き通路がございます。開通された通路を進む場合は、ご留意ください』


「先に言ってよ……」


『…………』



 俺は恨めしい声を上げたが、端末くんは申し訳なさそうな沈黙を返しただけだった。

 まあ、さっきのさっきまで教えられなかっただろうことは、口ぶりから分かるが。

 そもそも、本来は知ることもなかった情報なのだから、文句を言う筋もない。


(何より、一方通行じゃなく、条件付き通路、だ)


 一方通行であれば、ここはもう通れない、と考えるところだ。

 だが、端末くんの言葉は条件付き、つまり、何らかの条件を満たせばまた戻ることができるのだろう。

 閉じ込められた、という考えをしなくて済む。


 とはいえ、条件付きでいいなら一階層の防火扉もそうだったので、あまり楽観視できる状況でもなさそうだが。


(今は、進むか)


 時間は有限だ。

 考えても分からないことに足を止めている時間はない。

 ダンジョンであるなら、何か通路を開通させるギミックがあると考え、足を再び踏み出した。


 進んでいて気づくのは、この場所がさっきまでの通路と本当に雰囲気が違うということ。


 このエリアの通路の広さは、二メートルあるかないか。

 両脇の棚は、先ほどの棚に比べて間隔が縦横共に広く、大小様々なダンボールが積まれている。

 というか、棚のない場所も存在していて、そこも段ボールが山になっている。


 さっきまでは頭の高さを超える場所に商品はあまりなかったのだが、こちらは脚立でも使わないと取れない場所にまで段ボールが乗っていたりする。

 何かの拍子に崩れてきたりしたら、ただの背景が立派な質量兵器に早変わりしそうだ。

 店内に比べれば全体的な荒れが少ないが、時たま赤黒い汚れがこびりついているのはご愛嬌だろう。こんな愛嬌はいらねえ。


 また、足元のガラス片の量が穏やかになっている。

 さっきまではどう頑張っても避けては通れない量だったが、この通路は気をつけていれば避けられる程度だ。

 それを証明するかのように、たまに俺以外の誰かの足跡らしきものが残っている。赤黒い、足跡なのだが。



(そして、こうまであからさまに残っていると、そういう罠にしか見えねえんだよな)



 穿った見方と言われればそうだが、俺はそれ以上にこのダンジョンを信用していない。

 正確には、このダンジョンがあからさまに『線』を引いていたら、その線状に罠があると信じている。


 ガラス片の偏り、進むべき道、そして枝分かれの少ない通路。

 本来の倉庫であれば、通路ではなくもっと広い空間なのだろうが、そこはダンジョン故の異常性だろう。

 店内の様子からして普通じゃないのに、倉庫に普通を求めても、といったところだ。


 そうやって疑ってかかっていたせいか、その『異常』は簡単に見つかった。

 

 ガラス片を避けるように、段ボールが積まれた壁に沿うように続いている足跡。

 そして異様に高く積まれた段ボールの山。

 ちょうど、人一人くらいなら簡単に隠れそうな、山だな。


「…………」


 罠感知にわずかな反応。

 しかし、気配察知は感なし。

 ただの、設置型の罠だろうか。


 いずれにせよ、直感は怪しいと告げている。


 俺はストレージから棒手裏剣をひとつ取り出し、段ボールの山へと構える。

 棒手裏剣の在庫も減ってきた。あまり無駄遣いはしたくないのだが、まぁ、何事もなければ拾い直せばいい。


 俺は、その段ボールの山目掛けて、攻撃を叩き込んだ。

 棒手裏剣の一撃が予想外に段ボールを二箱ほど弾き飛ばし、その直後、その山が『倒壊』した。


「なっ?」



「うぅうぅううおおおおおおお」


「あぁああうあううあぁおぉおおおおお」



 続いて、山の中からゾンビが二体現れる。

 若い男女の組み合わせ。

 出てきた瞬間、その二人の手が絡み合っていたのを見て、嫌な気分になった。


 このホームセンターで起きた悲劇の話と、倉庫の中で段ボールの山に隠れるようにしていた男女。

 反吐が出そうなありきたりなストーリーだ。


 そしてそれを、よくも、条件を踏んだら出現するダンジョンギミックに使いやがって。


「…………」


 俺は無言で、二人の首を刎ねた。

 レベルブーストも相まって、真正面から向き合えばゾンビに遅れを取ることはない。


 それでも、何も知らずに近寄っていたら分からない。

 突如崩れた段ボールに気を取られた隙に、手や足の一つでも捕まれ、噛まれたらそれでおしまいなのだ。

 

 レベルが上がろうと、HPが潤沢であろうと、油断すれば即座にゲームオーバーという状況を、今一度飲み込んだ。


「しかし、気配はなかったはずなんだがな」


『上杉様。呪腐魔病患者が相手の場合、相手が死体であれば、動いていない限り気配察知が正常に働かない可能性もございます。お気をつけください』


「……死体は、そうか」


 気配察知に思わぬ弱点を見た。

 対モンスター相手ならほぼ無条件で信用できるスキルだが、動いていない死体になると途端に信用性が損なわれるのか。

 呪腐魔病もモンスター扱いだとは思うが、本質はウイルスだ。

 ウイルスや微生物の気配を察知しろというのは、難しい注文かもしれない。


 外のゾンビであれば、これぞ動く死体とばかりに重症患者こそ動き回っていたから問題なかったが、ことダンジョンとなれば話が変わる。

 罠感知と直感を、もう少し信用して進んでいくしかない。


 そう考えていたところで、端末くんが少しだけ申し訳なさそうに言った。


『ダンジョンからの干渉によるモンスターポップでしたら、こちらからお伝えできます。ただ、それ以外となりますと』


「いや大丈夫だ。むしろ、それを教えてもらえるだけで大助かりなんだ』


 端末くんなりの苦労は分かっているつもりだ。

 なるべく、無理はさせないように進んでいくしかない。

 俺は、崩れ落ちた段ボールを退けて道を確保し、隠し通路じみてきたこのエリアをさらに進んでいく。




 そして、急ぎながら静かに足を進めると、やがて通路の行き止まりらしき場所に着く。

 そこは、スイングドアではなく、普通にドアノブがついたタイプの部屋であった。

 ドアの上には、その部屋がなんの部屋であるのかを示す部屋名が書いてある。



『事務室』 



 どうやら、ここはホームセンターの店員──というか多分店長とか事務関係の人の執務室のようなものらしい。

 普通に考えて、事務室は外に通じているわけではないだろう。

 ということは、こっちは正解のルートではなさそうだ。


(時間を無駄にしたか?)


 いや、一概にそうとも言えない。

 正規ルートで外に向かうのは失敗したとも言えるが、逆に事務室には窓がついているかもしれない。

 第二階層の目的が外に出ることだけでいいなら、窓から飛び出すというのが解答になる可能性も、わずかにある。


(だが、中に確実に、いる)


 ポジティブな考えをしてみたが、同時に俺にすごくネガティブな情報を、気配察知が伝えてくれていた。


 最低でも二体。

 気配の強さからして、一本腕。

 事務室に入れば、間違いなくこいつらと戦闘になるだろう。


(…………ただし、戻っても道はふさがっている。進むしかない)


 真正面から二体に挑むのに尻込みしたが、戻ったところで道はない。

 このダンジョンは、俺の退路を断つのがよほど好きらしい。

 俺は覚悟を決め、準備を先に済ませる。


(俺を中心に、夜のカーテンを展開)


 CPを50消費し、そこそこの広さの暗闇を2分ほど展開する。

 俺を中心としたため、やや範囲がずれているだろうが、部屋の中まで覆ったはずだ。


「うるうぅううぅう!?」


「るううぅうう! るうううぅぅるるるう!!」


 事実、中にいる連中は突然の闇にざわめいている。

 さて、ここからは時間との勝負。のんびりしている暇はない。

 作戦開始だ。


 俺は事務室のドアを蹴破るようにして中に侵入する。

 当然、音に反応した怪物、やはり二体が、一斉にこちらに迫る。

 俺は即座に部屋の中を見渡し、地形を把握する。


 事務机がいくつか並んでいる、狭い空間だ。

 小学校の教室の半分くらいか。

 なれはてたものたちが二体いるだけで手狭になる。


 即座に、障害物のない方へと転がり避けると、机をなぎ倒しながら迫ってきていた怪物二体をやり過ごす。

 自分たちが立てた轟音で、俺を見失った怪物を視界に捉えたまま、俺は自分の近くにいた怪物へと忍び寄る。


 すぐ後ろに下がれる位置を確保し、一体の足首あたりを切断した。


「るうぅう!?」


 怪物がバランスを崩し倒れこむ。

 だが、ただでは転ばぬと豪腕でなぎ払いをしかけてきた。

 俺はそれを余裕を持って避けるが、腕は狭い室内の机を薙ぎ払ってスペースを作る。


「うぅうるううう!!!」


 その開いたスペースに、無事な方の一体が躍り出てきて俺の真ん前へと着地した。

 そして、大口を開けて腕を振り上げた時には、俺はすでに鍾馗を突き出していた。


「弱点がガラ空きだ」


「うぅるぅ……」


 ぶすり、と良い手応えを感じつつ、同じ轍は踏まぬよう、鍾馗を手放した俺は即座に横っ飛びに回避する。

 だが、その回避は不要だったようで、今度の即死は問題なく成功した。

 一本腕の一体は、塵となって消え、カランと音を立てて鍾馗が床に落ちる。


 その音を俺の足音か何かと見たか、バランスを崩していた一本腕は、切られた足で踏み込む。

 倒れこむような突進だったが、生憎と俺はそこにはいない。


 一度送還した鍾馗を再び手元に喚び戻した俺は、わざわざ斬りやすい態勢になってくれた一本腕の首元に、すっと鍾馗を落とした。


「っ」


 もはや悲鳴をあげることもなく、怪物は首を切り飛ばされて塵と消える。

 先ほどの横一閃に比べて、だいぶ上手く斬れた手応えを感じつつ、少しだけ落ち込んだ。


「即死に頼ってしまったな……」


 明確なチャンスだったし、事実成功したので良いのだが、とっさに即死を狙ってしまったのは、正解だっただろうか。

 弱点への攻撃だから、即死抜きでも有効なのは違いないのだが。


『戦闘評価B+。反省を活かせているのは評価します』


「……そりゃ、どうも」


 思っていたら、端末くんの評価がさっきより少し上がっていた。

 内心ホッとした。


『ただし、音を立てて部屋に入る必要性は全くありませんでした。隠密行動を心がければ、もっと戦況を有利に勧められたはずです』


「……おっしゃる通りです」


 確かに、勢いで蹴り破った意味があまりなかった。

 暗闇の制限時間にはまだ余裕があったわけだし、そこで急いで突入する意味があまりなかったかもしれない。

 急がば回れではないが、もっと時間を有効に使うべきだったと反省した。





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