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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第123話 フィールドギミック



 点いているものもあれば、消えかけているものもある電灯。

 パチパチと音が鳴っているのは、電灯の点滅の音か、はたまたダンジョン内で再現された蛾のような虫が、光に体当たりをする音か。


 その薄暗い明かりに照らされた店内は、もはやここが尋常な空間でないことを否応無く実感させる。


 並んでいる商品の半分は、壊れるか、謎の塗装で汚れるかしており、そもそも棚そのものが仕事を放棄している箇所も散見される。

 手近な商品を手に取ってみたが、値札の表記は変わっていない。

 一階層の世界がそのまま変化したのが、二階層であるという連続性を感じさせてくる。


 一階層で見せられたのは惨劇の再現だったが、ここは──あえて名付けるなら惨劇の後だろうか。

 床に散らばっているゴミやガラス片などの姿は、誰も掃除をしていない店はこうなるというのを、如実に表しているかのようだった。

 あまり、歩き回りたいフィールドではない。


「…………」


 いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。

 少しだけ長めに息を吸って、吐く。

 淀んだ嫌な空気が肺に入ったが、気にせず吐き出した。


 行こう。

 そう、一歩を踏み出す前に、ぞわぞわとした感触が頭に駆け巡った。


(これは、罠感知?)


 今まで、取ってから一度も仕事らしい仕事をしていなかった罠感知が、唐突に仕事をした。

 近くに罠がある、それを直感のような形で教えている。


(目星)


 迷わず目星で罠を探す。

 だが、この選択はあまり意味がなかった。


(…………は? なんだこりゃ)


 俺の目の前に広がる、地面一面がキラキラと怪しく光り輝いているようだった。

 その実、それらは星の輝きでもなんでもなく、床一面のいたるところに『罠』に類するものが散らばっていることを示していた。


 俺は、その『罠』を一つ、覗きこむようにして『簡易鑑定』してみる。



 ──────

 ガラス片

 ──────



 どこからどうみても、ただのガラス片であった。

 だが、俺のスキルが確かに罠であると告げている。

 どういうことかと頭を捻っていると、虚偽感知のスキルが働いた。


 このスキルは、現在は『闇夜と死の徒』に統合されてしまっているが、元々は召魔忍者にジョブチェンジした際に習得した忍者の技能スキルだ。

 隠されているものを見破ったり、相手の嘘を見破ったり、とにかくそういう『なんらかの虚偽』に対して反応するスキルらしい。


 そのスキルも、本来は罠感知と似たような働きをするはずなのだが、今は少し違った動きをした。

 つまり、このガラス片に『ダンジョン』が仕掛けていた偽装を解いたのだ。



 ──────

 血が付着したガラス片

 ──────



 偽装を解かれたガラス片は、キラキラと輝く透明な破片ではなくなった。

 薄汚れた店内にお似合いの、赤黒い汚れが付着したガラス片が、普通のガラスに混じっていたるところに点在しているのがわかった。



『偽装を看破したことにより、攻略情報の解禁が行われます』



 その様子を見ていた俺の右耳にある、ワイヤレスイヤホン状の端末くんが詳細を説明する。


『このダンジョンには、いたるところに『呪腐魔病』に感染した『何者か』の血液が付着した物体が存在しています。HPが潤沢であれば、それらによる影響を受けることはありませんが、HPが0の時にそれらによって傷を負った場合、即座に呪腐魔病の感染が始まるでしょう』


 俺はそっと、見つけたガラス片から距離を取った。

 これはあれか、フィールドギミックか。

 歩いているだけでガラス片から継続的にダメージを受け続け、HPがゼロの状態でダメージを受けると、そのまま呪腐魔病に感染する、みたいな。


 俺の足元の装備が金属製のブーツとかだったら、ガラスなんて気にする必要もないかもしれない。 

 だが、俺の装備は謎の技術によって防御力が向上している地下足袋だ。うっかり鋭い破片なんて踏めばダメージを受けるかもしれない。


 そして、そういうギミックは、この階層のいたるところに含まれていると。

 床のガラス片だけではないのだろう。

 いきなり棚から尖ったものが落ちてくるとか、突き出した棚のささくれだった箇所が伸びてくるとか、ふとした場所に感染のための罠が仕込まれているに違いない。


 HPが大事だという理由がよくわかった。

 常にHPの残量には気をつけた方がいい。

 HPがなくなった瞬間、気づいたら感染していると思って行動しなければ。


(とはいえ、掃除しながら進むわけにもいかないからな)


 安全を最大限考慮するなら、掃除用具なりなんなりを用意して、破片を片付けながら進んでいけばいいのだろう。

 だが、生憎こちらはタイムアタック中だ。

 多少のカスダメは覚悟して進み、適宜HPを回復させていくしかないだろう。


「端末くん。俺のHPが半分になったタイミングと、四分の一になったタイミングで教えてもらうことはできるか?」


『可能です』


「じゃあ、よろしく頼む」


『かしこまりました』


 端末くんの力強い言葉に、俺も無駄に頷く。

 おそらく、端末くんが携帯化して付いてきたのは、こういう役目を果たす為でもあるのだろう。

 今のダンジョンの仕様では、自分自身で現在HPを確認することができない。

 だから、知らぬ間にゾンビになっていた、なんて結末になりかねなかったからな。


(改めて、行くか)


 そう思い、俺は一歩を踏み出した。

 パキパキと何かを踏み割るような感触と共に、進んで行く。

 音はほとんどないが、それでも気配を撒き散らしながら進むのが、今はとても怖かった。

 途中、かすかに何か引っかかるような感じがするのは、罠によってHPへのダメージを受けたタイミングだろうか。


 ……確かにソロで挑むようなギミックじゃないな。

 少なくとも、僧侶だかその上位職だかで、継続HP回復魔法でもなければ、満足に探索することもできないようなものだ。

 実質的に、今握っているHP回復薬が、そのまま俺の生命線だと思うと、背筋がゾクゾクと震えてくる。


『進む意思を確認しました。目標の通知を行います。上杉様、この階層の目標は「外に出る」ことです。店内型のフィールドからの脱出を目指してください』


「了解」


 端末くんは多くを語らない。

 おそらく、語ることができない。


 それでも、少しでも道しるべになろうとしてくれるのなら、その心意気はありがたく受け取っておこう。

 まぁ、現状ではマップなんて欠片も埋まっていないので、外もクソもないのだが。





 それから、一階層と同じような簡易の地図を作成しつつ、俺はなるべく静かに急いで移動する。

 しかし、移動している最中に思うところがあった。


(一階層に比べて、構造が単純な気がするな)


 一階層はホームセンターそのものの性質か知らないが、とある目的地につくための道は、複数存在しているような構造が目立った。

 客の動線を考えている、とでも主張しそうなほど。


 それが、この第二階層では、どうにも勝手が違う。

 どちらかといえば、分岐の少ない一本道なイメージが強い。

 2分ほど歩いても、何者かに出くわす気配もない。


 そう、少しだけ気を抜いた瞬間だった。

 端末くんの刺すような指摘が入ったのは。



『敵性存在の接近を確認。およそ4秒後に接敵します』



 いきなりのエンカウント宣言に、俺の頭は瞬時にスイッチが入る。

 称号の効果か、こういった場面で混乱している時間はほとんどない。

 どうして俺の気配察知に反応がないんだ、とか思うところはあるが、限られた秒数でまずやるべきことをやる。


「夜のカーテン」


 今まで散々スケルトンに使わせていた暗黒魔術。

 周囲一帯の光を奪い、闇に包む魔術をノータイムで準備する。

 準備時間は2秒、効果範囲は俺を中心として10メートルほど。

 持続時間は30秒程度。


 これでCPの消費は30くらいだ。


 名前は、使うときにトリガーがあると便利だから適当につけた。

 マイン同様、別に口にしなくても発動はできるが、まだ慣れていないので言葉があったほうがイメージしやすいのだ。


 そしてあたり一帯が闇に包まれた瞬間。




「うるるるうううるうっる!!」




 俺の目の前の棚が轟音を立てて『倒壊』した。

 一本腕の怪物が、目の前の棚を蹴り倒して道を開けながら現れたのだ。

 いきなり虚空から現れたような登場の仕方に面食らうが、同時にチャンスだ。


 今は暗闇の中で、奴は弱点丸出しである。

 俺は慣れた手つきで鍾馗を召喚し、目星で浮き出させた怪物の弱点に突き込んだ。

 確かな手応えとともに、怪物は塵に、


 ならなかった。




「うるぅうう!? るうううううううう!!」


「っ!」




 即死が発動しなかった、と頭が理解したのは、相手の攻撃に一拍遅れてだった。

 がちっと怪物が鍾馗を噛み、俺の咄嗟の回避行動を抑制した上で、怪物の頭の腕が真上から迫る。

 それは、即死頼りだった俺では避けられないタイミングでの一撃であった。



「──っらぁ!」



 そして、レベルブーストによって身体能力、特に速のステータスが上昇した俺には、見てからなんとか回避できる一撃になっていた。


 鍾馗を一度手放し、腕をフリーにしたあと、俺はとっさに転がるようにしながら真横に避ける。

 相手の攻撃が床を砕き、ガラス片が飛び散るのを横目で見た。


 俺は回避途中で一度手をついて勢いを殺し、同時に体勢を整えて膝立ちのような格好で止まる。

 その瞬間には、まだ俺の気配を追ってきている怪物が、俺の方へと腕の二撃目を叩き込もうとしていた。


 だが、今は闇の中だ。

 その狙いは甘く、今度は余裕をもって回避しきる。


 同時に、奴の口の中の鍾馗を一度送還し、音もなく奴の背後(奴に前後の区別はないのだが)に回ってから、もう一度鍾馗を喚び出す。

 今度は、弱点を狙った突きではない。

 鍾馗を両手で握りしめ、一本腕の付け根のあたり目掛けて横一閃。


「シッ──」


 悲鳴をあげる間も無く、怪物はダメージを負っていた首元を切断され、今度こそ塵となって消えた。

 同時に、いくらか重い感触が手に残る。

 鍾馗に無理をさせた感覚がひしひしと伝わってきていた。

 少し、力技が過ぎたかもしれない。



「……やっぱ普通に失敗するんじゃん、即死」



 その事実を再確認すると同時に、一階層の俺がどれだけ針の穴を通したのかを今更実感して震えが来た。

 そりゃ、突破率も3%を下回りますわ。


 そう俺が一人で震えているところで、端末くんが淡々と言った。




『ギミックモンスターの出現により、新たな通路が解放されました。探索を続行してください』



 そういう敵だったのか、という納得より、一抹の寂しさを感じた。



「……戦闘に対する感想とかはないのかな」


『戦闘評価B-。油断は禁物です。HPの残量に注意してください』


「……了解」



 端末くんは、こういう時、やっぱりちょっとビジネスライクだった。


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