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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第121話 レベルブースト



 現状の理解は大凡成った。


 戦力は俺一人。

 難易度はベリーハード通り越して、マニアクスとかルナティックとかインフェルノ級。

 失敗した際の被害は、東京壊滅。日本滅亡へも大きく進む。


 控えめに言ってクソかな?



「良くわかった。納得は全くできてないが現状は理解した。それで端末くん、俺のモチベーションのためにも、あと一つ聞きたいことがある」


『お伺いします』


 この時点で、俺はもう肩にのしかかるプレッシャーで、身長が縮むんじゃないかと思うくらいだった。

 だが、それでもなんとか踏ん張って、これを尋ねる。

 少しでも、気分を上向かせる要素が欲しかった。



「この人類試練を越えた時の報酬はあるのか?」



 マイナスの要素ばかりぶつけられたのなら、せめて少しくらいプラスの要素があってもいい。

 人間が動くには報酬というのが不可欠だ。

 やりがいが報酬、みたいなのはブラック企業だけで十分だ。

 ゆえに尋ねたわけだが、対する端末くんは、少しだけ、黙った。


『…………』


「端末くん?」


『上杉様。冷静に受け止めていただきたいのですが』


 しばしの沈黙ののち、端末くんは苦しそうに、絞り出すように言った。



『人類試練突破による報酬は、現時点では確約できません』



 は? という困惑の声は出なかった。

 怒りや呆れという感情も、やや違う。

 抱いたのは、純粋な疑問だ。


 なぜ?


 端末くんの、本当に絞り出したような声と、そこに滲む無力感を感じてしまって、俺は何らかの感情を抱く前に、疑問に思った。


「どういうこと?」


『それは……』


 端末が言葉を選ぶように少し時を開け、それから言った。


『我々、ダンジョン側が地上に対しては明確に介入しない方針であることは、ご存知だと思います』


「なんとなくわかる」


『そして、此度の模造人類試練は──『』──……『』────っ……『上層部』においては『地上での出来事』という認識が強いのです』


「いや、いやいやいや」


 そう言われて「はい、そうですか」と納得できる状況じゃない。

 こちとら、東京壊滅が天秤にかけられているんだ。

 それも、その原因は、そちらの不手際で。


 確かに発端はダンジョンの外での話かもしれないが、ここまでがっつりダンジョンのシステムまで絡んでいる事柄で、今更無関係はないだろう。


「ダンジョン側が情報を盗まれたせいで発生した事態、という認識だったけど」


『おっしゃる通りです。ですがそれを踏まえても、ハッキングすらも、地上でウイルスが行なったことであり、根本の原因はダンジョンではなく、地上の、ウイルス側にある、という認識です』


「要するに、盗まれた我々も被害者で、盗んだウイルスが悪い、と?」


『言葉を選ばなければ、その認識で正しいかと』


 出そうになるため息を飲み込んだ。

 端末くんは、いわばメッセンジャーであり、ここに端末くん個人(?)の気持ちは含まれていない。

 そう思っても、ちょっと飲み込むには、事態がトゲトゲしすぎる。


「それは、ダンジョンサイドの総意なのか?」


『違います。多数の管理神、特に、日本を贔屓している神々──上杉様へと依頼を投げた神々は、その認識に否を唱えています。ですが』


 ダンジョンの管理に関する組織図は何も知らないので、意見が割れているのだろうというのは理解した。

 その上で、日本と、世界全体では認識が違うとも。

 特に『上層部』とやらは、現場とはまた違う認識なのかもしれない。


 そう思っても、続いた端末くんの言葉は、空々しく響く。


『ですが、世界全体で見れば、今回の模造人類試練の失敗によって直接被害を受ける人類の数は、総人口の1%未満です。日本全体を足しても3%には届きません。つまり、不幸な事故として切り捨てることも、視野に入る、数字です』


「……吐きそう」


 ダンジョンサイドが人類の純粋な味方ではないことは、散々わかっているつもりだった。

 だが、その認識をこうやってまざまざと突きつけられると、色々と吐き出したくなる気持ちだった。


 例えばだ。

 仮に何かの実験のために100匹のモルモットを用意したとして。

 そのうちの一、二匹が、研究者側の不手際で病気になったとしよう。


 モルモットの面倒を直接みていた現場の人は、病気になったモルモットをなんとかしたいと思うかもしれない。

 病気になったモルモットだって、生き残りたいと願うだろう。


 だが、実験全体で見れば一、二匹のモルモットは、仕方ないで切り捨てても惜しくはない程度の数だ。

 助けるために、効果があるかも分からない高価な薬を用意したいと、一も二もなく考えられる者はそういまい。


 今後、同じような不手際を冒さなければそれでいい、と割り切って実験を進めるのも、頷ける。

 もちろん、不手際を冒さないための情報共有は今後に活かすものとして。


 これは、そういう話なんじゃないだろうか。



「つまりあれか。世界全体で見れば、ここで東京が壊滅しても、それはそれで仕方ないよね、で済ませられる程度の被害だと」


『…………』


「そして自分らは悪くないから、報酬の話はないし、東京を滅亡させたくなければ自分らで頑張れと」


『…………』


「ちくしょうめ」



 端末くんに吐き出しても仕方ないのは重々承知なのに、結局吐き出さずにはいられなかった。


 頭ではわかっている。

 端末くんは、そして少なくとも俺に依頼をした神々は、俺のことを全力で手助けしようと、あれこれと力を尽くしてくれているのだろう。

 それゆえに、一階層でもなんとか連絡を取ろうとしてくれたし、今こうして、ダンジョンの権限を奪ってまで俺に事情を話してくれている。


 だが、それはあくまで総意ではなく、広い目で見れば俺がここで失敗しようとも『不幸な事故』で済ませられる程度の話だ。



「ああ。了解。全部飲み込んだ」



 ぐつぐつと煮え出した腹とは裏腹に、頭の中は妙にスッキリしていた。

 端末くんや女神様方の距離が近くて勘違いしそうになっていたが、そもそも、俺たち人類とダンジョンは対等な友達関係でもなんでもない。

 ダンジョンは人類の秩序をぶっ壊した未知の存在なんだ。


 やっぱりダンジョンは純粋な味方じゃない。そうわかっただけで儲けものだ。

 モルモットはモルモットらしく、己の力でせいぜい病気に打ち勝ってやるよ。

 東京を救うということ、そのものが報酬だと、思い込んでやろうじゃねえか。


 ただし『上層部』とやらは、いずれ痛い目に合わせる。

 モルモットの意地をどこかで見せてやる。

 そう、口には出さず、心の中で誓った。


『上杉様。それでも我々は』


「いいよ端末くん。端末くんや、称号をくれた神様が、東京の人を救おうと頑張ってくれてることはわかっている」


『……現時点で報酬は確約できませんが、必ず、上杉様の働きに報いるものを、勝ち取ると、私の存在を掛けてお約束します』


「迂闊なこと言うなよ。フラグみたいじゃん」


 端末くんの静かな意思を感じさせた言葉を、俺はそう言って流した。

 今日の端末くんは、いつもより感情豊かだ。

 もしかしたら、端末くんもグツグツしているのかもしれない。



「報酬の話はわかった。それで、これから俺はどうすればいい?」



 無い物ねだりしていても仕方ない。

 今は、この絶望的な状況をなんとかする手段を前向きに考えよう。


『まもなくレベルブーストの準備が整います。こちらは、上杉様の今後の成長に影響を残さない範囲で、上杉様のステータスに補正をかけるものです。それによって……』


「それによって?」


『上杉様が個人でこの試練を突破できる可能性が、0%から0.8%程度にまで上昇する見込みです』


 絶句したかったし、聞き間違いと思いたかったがそういうわけではなさそうだった。


「……まぁ、0と1なら差は大きいよね」


『0と0.8です』


「知ってるよ……」


 反骨心だけで奮い立つには限度がある。

 だが、沈み込んだ俺に反して端末くんは前向きだった。


『それでも上杉様なら、この事態を越えられるものと確信しております』


「……お、おう」


『なぜなら、私の当初の試算では、ダンジョン全体を通してここまで上杉様が生き残っている可能性は、ほとんどございませんでしたから』


「俺、そんなに無謀だった?」


『…………』


 沈黙は、時として言葉よりも雄弁に語る。

 そんな名言を思い出した瞬間であった。


 まぁ、召魔忍者になれてなかったら死んでた場面が……ちょっと考えただけでも、いくらでも浮かんでくるからあれなんだけど。

 あの時はダンジョンの熱に浮かされていたとはいえ、真剣にテイマーのステータスで忍者とかやらなくてよかったと今なら思う。


 忍者だけでも、テイマーだけでも、どこかで死んでいたのは間違いない。


『レベルブーストを行なったのち、こちらでも可能な限りナビゲートしますので、我々がウイルス側の権限を封じている三時間以内に、第二階層を突破してください』


「第二階層だけでいいのか?」


『第三階層は、上杉様の知識で言う所のボス階層です。第二階層を突破した際にさらなる介入が可能か確認した上で、戦闘に臨んでいただきたい。場合によっては、試練突破の可能性はさらに上昇するでしょう』


「出たとこ勝負ってことね」


 このダンジョンは不安定だから階層突破が進めば進むほど、ダンジョンサイドが介入できるようになる。

 報酬はともかく、精一杯手を尽くしてくれるのだから、そのバックアップはありがたく受けたいところだ。


 結局のところは、一人で頑張る以上の答えはなさそうだけど。

 そんな打ち合わせ未満の話し合いを行なっていたところで、端末くんがついに告げた。



『準備が整いました。レベルブーストを行なってもよろしいでしょうか?』


「頼む」


『かしこまりました。これよりレベルブーストを開始します』



 言ったのち、端末くんからEPの粒子に似た金色の輝きが溢れ、俺に吸い込まれていく。

 途端、俺は自分の中を無理やり拡張されるような不快感と、それと相反するような全能感にも似た不思議な感覚を覚えていた。


 その状態も長くは続かず、端末くんは静かにレベルブーストの終わりを告げる。



『レベルブーストが完了しました。ステータスをご確認ください』



 そして端末くんは、拡張されたという俺のステータスを表示した。


 ──────────

 レベル50(+40)


 HP 2/566(+400)

 CP 3/926(使用中141/1067)(+800)


 力:108(+80)

 魔:116(+80)

 体:79(+60)

 速:135(+100)

 運:26

 ──────────



 え、めっちゃ上がっとる。

 そしてこう見るとめっちゃ死にかけてた。



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