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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第118話 通行許可



「……何を言ってるんだ、端末くん」


 端末くんの笑えない冗談に、俺はそう返した。

 ……そう返したのだが。

 頭の隅では、なんとなく分かってしまっていた。


『上杉様。この場には、上杉様の反応しかございません』


 端末くんは、気軽に冗談は言わない。

 そういう、頭の固いのが売りの存在だった。

 そんな端末くんが言うのだから、きっとそれは本当のことで。

 端末くんには俺しか、見えていないのだ。


「……そんな馬鹿な話があるかよ。だって確かにそこにいるじゃないか」


『何が、いるのでしょうか?』


「田無さん──このダンジョンに現れるヒトカタ、らしい人……が」


 俺は言いながら、田無を見る。

 確かにそこに、青年がいる。


 このダンジョンで出会ったおかしな存在。

 ヒトカタ?という謎の種族の、一見すると人間にしか思えない存在。

 それでいて、人間は絶対生存できないはずのダンジョンにいた非力な存在。


 たった数十分の付き合いながら、命を救って、救われた、そんな存在が確かにここにはいるのだ。


『……その方は本当に存在しているのですか?』


「そりゃそうだろ、というか簡易鑑定が効くんだから端末くんに見えないはずが」


『鑑定が効くというのは、本当ですか? 今でも?』


「当たり前だろ、だって──」


 端末くんの疑うような詰問に困ったような顔を浮かべた田無を、俺は突き動かされるように『簡易鑑定』していた。

 結果は、すぐに出る。



『鑑定対象を指定してください』



 田無のことは、鑑定できなかった。

 いつも視界に浮かんでくる鑑定結果の代わりに、そこにはそんな表情があった。

 確かにそこにいるはずなのに、システムはそこにいる存在を認識できていなかった。



「上杉くん。最後に、一つだけいいかな」



 そこにいるのに、いないものになった田無が、そんなことを言う。

 俺は言いたいことがいくつもあったのだが、それらを全て飲み込んだ。

 彼が語った『最後』という言葉が、冗談ではないのだと思ったから。



「実はさ。もともと、上杉くんは『通行許可』を持っていたんだよ。君は本来なら、あの防火扉に阻まれることはないはずだった」


「……そうなのか」


「だけど、君を阻みたかった『ダンジョン側』が、君から『通行許可』を秘密裏に剥奪した」


「…………店員、か」


 それとなく思い当たる節はあった。

 第一階層で遭遇したヒトカタは、俺のことを『店員さん』と呼んだ。

 だが、防火扉が閉じられた時に、ダンジョンから呼び出された『店員』は、なれはてたものたち──あの一本腕の怪物だった。


 ヒトカタ以外をまとめて店員と呼んでいた、という可能性もあったが。

 ヒトカタは、俺と一本腕のあいつらに何か共通点を見ていた、と考えても不思議はなかった。


 そして、俺と怪物に共通することなど、一つくらいしかない。



「俺は、ダンジョンが君の中に潜む『ウイルス』から情報を切り取って作った、ヒトカタもどきだった」



 そう言った瞬間、田無の姿が、変わった。

 俺は、その姿を鮮明に覚えている。


 ぶよぶよの肉塊のような胴体に、頭からイソギンチャクのように三本の腕を生やした、怪物。

 小学校を襲った、なれはてたものたち。

 俺の中に残ってしまった『不活化ウイルス』の元の宿主。


 半日前には命のやりとりをしたそいつの姿で、田無は不器用に笑う。



「だが、しょせんもどきはもどきだ。俺はもともと、君の中にいた。だから、君と接触すれば、無理やり作った仕掛けは綻びる。君と行動を共にすることで少しずつ、俺は自分を取り戻し、そして少しずつ君の中に戻っていった」



 切り取られた時には、確立した個であったとしても、田無が自分の存在を知れば知るほど、ただのウイルスの影となっていった、とか?

 俺には、詳しい原理は分からない。

 ただ、そういうことなのだろう、とぼんやり想像しただけだ。


 その理解と同時に、田無の姿は再び、俺と同い年くらいの青年に戻る。

 泣きそうな顔でいて何かを悟ったみたいな、年齢不相応の大人びた顔だった。



「もともと俺は死んだ身だ。それどころか、死してなお、周りの人に迷惑を──いいや、人を殺しまわったような化け物だ。そんな俺が、なんの因果かこうして正気を取り戻して、会話ができている。たぶん、君の中で何かが変わったからだと思うんだけど、どうかな?」


「……わかんねえよ。そんなこと」


「……そうだよな。俺も、わかんないや」



 何が起こっているのかなんて分からない。

 ただ、俺がここで出会った田無は、三本腕の化け物じゃなくて、ホームセンターのバイトの田無だった。



「そんな俺だからさ、身勝手な話だと思うんだけど、一つだけ。一つだけ聞いて欲しいんだ」



 俺はそんな田無に黙って頷く。

 そうして田無は、本題を切り出した。



「俺の願いは些細なもんだ。ただ覚えておいてほしい。ホームセンターで何があったのか。そして、俺たちはどういう存在だったのか。人々の命を、自分の意思ではないとはいえ徒らに奪っておいて、身勝手な願いだとは思うんだけどさ」



 どうして田無が、自分を取り戻したのかは分からない。

 俺の中で不活化したことが原因なのか、ヒトカタもどきとして切り離されたことが理由なのか。

 ただ、肝心なことは、田無は小学校を襲った怪物で、そして同時に、あの怪物もまた元は人間だったのだということ。


 理不尽と恐怖の象徴だった怪物も、この、ゾンビパニックに巻き込まれた被害者だったのだということ。



「あんたの言っていることが嘘か本当かなんて、俺には分からない」



 黙って話を聞いていた俺は、田無にそう返す。

 さっき田無が語ったホームセンターのことも、そして田無に何が起こったのかという話も、それが本当かどうかなんて分からない。

 頼りの端末くんも、空気を読んで黙っているが、何が起こっているのかを理解はしていないのだろう。



「だけど、忘れない」



 だから、俺はそれだけを約束した。

 ホームセンターの出来事は、きっとこの世界ではありふれた、悲劇の一つに過ぎなかったとしても。

 それを知って欲しくて化けて出てきたやつがいるのなら、俺くらいは覚えておいてやる。


「それで良いんだろ?」


「ああ。よろしく頼むよ。その代わり」


「その代わり?」


 俺の約束に、田無は嬉しそうに笑った後、言った。



「俺も微力ながら、上杉くんの力になれるように頑張るからさ」



 その言葉を最後に、田無の姿は消えた。

 いや、ただ消えたわけじゃない。

 田無がいた場所に、一つだけ残っていたものがあった。



「……端末くん、あれは、分かる?」


『……はい。つい先ほど、唐突にダンジョンに『出現』しました』



 今度は、端末くんにも認識できる形であったらしい。

 俺はそれを拾い上げる。

 それは『田無』と書かれた、少し汚れた社員証だった。


 これだけが、田無が確かに存在していたという証明か……。

 と少し感傷に浸ったところで、端末くんがそっと付け足した。


『また、上杉様のログを再三確認したところ、情報の改ざんの痕跡が認められました。修復した結果、ダンジョン内でウイルスの一部が突然変異し、上杉様に協力していたように見受けられます』


「なんだよ。ロマンのないやつだな。あいつは」


 跡形もなく消える、みたいなのがああいう存在のロマンだと思うのに。

 ばっちり痕跡も、落し物も残して行きやがって。

 俺は拾った社員証を端末くんに提示してみる。


「これ、いる?」


『……解析させていただけるのであれば、ありがたいです』


「罠かもしれないぞ?」


『それでも、です』


「……そうか」


 少しだけ悩んで、俺はふっと鼻で笑う。

 俺のことを手助けするとか言ってたけど、どうなるかな。


「大事なドロップアイテムだから、丁重に扱ってくれよ」


『本当に、納品してしまってもよろしいのですか?』


「ああ。大事なのは、たぶん『こっち』に帰ってきてるからな」


 そう言って、俺はどんと自分の心臓のあたりを叩いた。

 今の俺は、さっきのようなギミックがあっても、わざわざ社員証を掲げる必要もないだろう。


 命を散々脅かされた敵で、南小のメンバーを何人も葬った宿敵だけど。

 今後は俺の力になるっていうんだったら、きっとそうなんだろう。

 本体は、今も俺の中にいるはずだからな。


 このダンジョンの『通行許可』は、俺の中にある。



「じゃあ、頼むよ」


『かしこまりました』



 端末くんに提示した『田無』の社員証は、EPのような粒子になって消えていった。

 と同時に、端末くんが静かに告げる。


『不明なアイテムの納品を確認しました。新たなモンスターのサモンが可能になりました』


「……まじか」


 微力ながら力になるって、もしかしてそういう意味か?

 俺は頭の中でサモンの選択肢を念じてみて、そして思わず笑ってしまった。



 ──────

 ゴブリン:10CP

 ゾンビ:15CP

 スケルトン:20CP

 スケルトンスカウト:20CP

 スケルトンアーチャー:20CP

 スケルトンマジシャン:20CP

 ?????????:300CP

 ──────



「高すぎて召喚できねーよ馬鹿野郎」


 かっこいいこと言っておきながら、その実、今の俺にはどうあがいても使えなさそうな力のなり方に、頭を抱えながら笑うのだった。



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