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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第114話 しばらくそのままでおまちください




「上杉くんは、本当に人間か?」



 肉塊の壁を開通させた俺に対し、田無が開口一番に言ったのはそんなセリフだった。


「どういう意味だよ」


「なんというか、そう、普通の大学生っぽくない」


「…………」


 田無の指摘に思わず黙ってしまう。

 何をもって普通を定義するのか、なんて面倒な話は出さない。

 そんなの口にしなくたってもうわかっている。


「こんな世界になって、普通の大学生もクソもないだろ」


「……そうだなぁ」


 一ヶ月前だったら、俺は正真正銘、どこにでもいる普通の大学生だったさ。

 だけど、世界はもうそんな世迷言を許しちゃくれないんだ。

 ダンジョンも、ゾンビも、世界から普通という形容詞を粉々に打ち砕いて奪い去ったんだから。


「時間がない。ちょっと準備をしたらすぐに行こう」


 田無との会話は早々に切り上げる。

 なにせ、カウントはもう6600を回った。

 俺が呪腐魔病に犯されるまで十分と残っていない。


「サモン:スケルトンマジシャン」


 未だにパチパチと火を上げる肉片が残っている広間に入る前に、俺はCPを消費していつものを呼び出しておく。

 田無が、突然現れた骨に驚いているが、いちいち説明するのも面倒くさい。初見じゃないんだから我慢してほしい。


「闇魔術をいつでも使えるように準備しておけ。ただし、CPを使うのは俺が合図をしてからだ」


「カチカチカチ」


 俺の命令に従って、スケルトンマジシャンは歯を鳴らす。

 それから、骨に盛大にビビっている田無に向き直った。


「田無さん。簡単に説明する。あの防火扉をなんとか開けてほしい。だが、防火扉に近づくと敵が出てくる可能性がある。なるべく俺が守るが、絶対に守れるとは言えないから、頑張ってほしい」


「無茶言うよなあ。俺も自分では普通の大学生のつもりなんだぜ? これでもさ」


「自分が人間じゃないことは、認めたんだろ?」


「だから戦えますとはなんねーよ……」


 それもそうだが、結局はなるようにしかならない。

 ここまで付いてきてもらった以上は、仕事はこなしてもらう。



「行こう」


「……よし」



 俺が先導する形で、俺たちは階段前の広間へと足を踏み入れた。

 降り切った防火扉に苦い顔をしつつパッと周りを見てみれば、すぐにそれらしいものは見つかった。


「あのカードリーダーが怪しいな」


 防火扉が降りている壁の横に、いかにもカードをかざしてくださいと言わんばかりの装置が付いていた。

 スライドするタイプではなく、タッチ式のようだ。

 田無は、うんと頷きながら、そのカードリーダーへと足を進める。

 俺は彼の少し後ろについて、周囲への警戒を続けた。


「俺の記憶では、階段前にはこんなの無かったんだけどな。まぁ、それ言ったら店そのものがこんなに広くもなければ、ダンジョンでも無かったけど」


 ぶつぶつと言いつつ、田無は慣れた手つきで社員証らしきものをリーダーへとかざした。

 ピピッと、日本語訳すれば『正解』とでも言いそうな涼しげな音が鳴った。

 変化は、すぐに訪れる。



『通行許可証の提示を確認しました。これより閉鎖を解除します。閉鎖の解除まで3分ほど、しばらくそのままでお待ちください』



 俺を当たり前のように閉じ込めた天の声(偽)が、あっさりと通行を許可した。

 ただ、そのまますんなりとは行かないようだが。


「3分かかるってさ」


 田無は、どうだ、と言わんばかりのドヤ顔を浮かべつつ、俺に向き直る。

 だが、俺は渋い顔をしてしまった。


 3分。

 秒に直せば180秒。


 今のカウントが6800というところなので、俺のバフが効いている時間──7200秒までには間に合った。

 そういう見方はできる。


 だが、逆に言えば。

 俺たちはなぜか、3分もこの場所で足止めを食らうという話にもなる。


 そもそも、田無がカードリーダーに近づくまでに何もちょっかいが無かったのが、おかしく感じてしまう。

 嫌な予感は、拭えない。


「上杉くん?」


「しっ」


 田無が俺を心配するように声をかけてくる、だが、俺は静かにするように指示を出した。

 パッシブスキルの『聞き耳』が、異変を訴えている。


 ドドドド、とまるで地ならしでもするような音が、今にもこの場所に近づいている。

 そんな、気配を感じていた。



「田無さん。例えばだけどさ、ゾンビが溢れるゲームで次のフロアに進むまで3分待てって言われたら、どう思う?」


「……3分間耐久するイベントが始まるのかなって、思うなぁ」


「俺もだよ」



 同意した直後だった。

 突如、俺たちに天の声(偽)とは違う声が降り注いだのは。




『どうして、助けてくれなかった』


『どうして、見殺しにした』


『どうして、私がこんな目に』


『どうして、守ってくれなかった』




 恨みつらみのお手本のような、おどろおどろしい声。

 老若男女問わぬような声が、延々と、十も二十も俺たちに直接降り注いでくる。

 それはあたかも、ここから逃れようとする俺たちを、許さぬと言いたげに。




『どうして、俺たちを殺した』




 その直後。

 俺は弾かれたように、先ほどまで肉の壁が出来上がっていたところに、石壁を設置した。

 普通の人間には突破できない代物だろうが、安心はできない。

 少なくとも、一本腕を止めるには心許ないだろうし。


「上杉くん!?」


「敵が来るぞ! 身構えとけ!」


 ストレージからCP回復薬を掴み取り、飲み干す。

 それと同時に、階段前の広間にも、人の行き来を阻む程度の土の塀をいくつも設置する。

 行動阻害用だ。少しでも時間を作れればそれでいい、と割り切った安価なものである。


 ストレージから最後のCP回復薬も取り出して飲み干す。

 これでもう、魔法を潤沢に使うことはできない。

 俺の準備が整ったのに合わせるように、石壁から音がした。


 コンコンコン、ドンドンドン、ガンガンガン。


 最初は手で叩くような軽い音。

 次は拳で思い切り殴るような重い音。

 そして、何か工具で砕き始めたかのような激しい音。


「上杉くん、石壁、持つかな?」


「賭けるか? ちなみにあと120秒だけど」


 田無の口元が引きつっていた。

 体感では3分などとうに過ぎたような気もするのに、カウントスキルは無情だ。



「ちなみに俺は、もう間も無く突破されるにウサギ肉1個」


「なにその単位?」


「今俺の中で最もホットな単位」



 もう一度、そんな単位で計算できる未来が来てほしいなという願望込みの単位だ。

 そして、そんな未来を夢見たのが罰だったかのように。



「うるうるるううううううう!!」



 石壁が砕け、一本の腕が部屋へと突き出して来た。

 まだ、完全に砕け散ってはいないが、もう時間の問題だ。

 やっぱり、一筋縄では終わらなかった。



「スケルトンマジシャン!」


「カチカチ!」



 俺の命令に応じて、黙って付き従っていたスケルトンマジシャンが歯を鳴らす。

 時間は120秒。いつかの焼き直しのようにCPが引き出され、俺は苦笑いを浮かべた。


 暗黒魔術を発動する前、ちらりと田無の様子を伺う。

 田無は、恐怖なのか何か知らないが、石壁から突き出る腕や、カチカチ歯を鳴らすスケルトンを見て呆然としたような顔をしていた。



「田無さん。これからここは暗闇に包まれる。その防火扉が開いたら即座に教えてくれ」


「い、良いけど、その間、上杉くんは?」


「時間を稼ぐ」



 さて、田無は俺の中では仲間判定だろうか?

 少なくとも、戦力として当てにしているわけでもなければ、完全に気を許したわけでもない。

 だから、孤独の神様は、もうちょっとばかし、力を貸していただけるとありがたいです。


 まぁ、さっきまで一緒にいても状態異常耐性に変化はないのだから、あんまり心配はしていないけれど。



 さて、もう一度だ。

 もう一度、120秒稼ぐ。



 世界は闇に包まれた。

 そして、暗闇の中に、俺は意識を、溶かす。



 ここは闇の中だ。

 ここは死の淵だ。

 世界は混沌に満ち。

 魔術で作られた夜の世界で、俺は一人。



 この世界で、誰が俺を見つけられる?



「うるるうるぅう!」



 ついに広間へと一本腕が侵入を果たす。

 一歩入り口から進み出た巨体が、歓喜の声をあげた。

 その後、奴はキョロキョロと暗闇の中で周囲を見渡すが、直後ににいっと笑みを浮かべる。


 スケルトンマジシャンと田無の気配は、この闇の中でも消えることはない。

 そして本来、この怪物はかなりの索敵範囲を持った化け物である。

 であるなら、闇の中であろうと、障害物があろうと、まっすぐにそちらへと向かうだろう。


 実に、やりやすい。



「るっ!? ぅぅ……」



 俺の作った障害物は、同時に俺の足場でもある。

 頭の中に思い浮かべるのは、やはりいつかの忍者スケルトンだ。


 作った足場を飛び回り、即座に怪物に肉薄し、一突きする。

 バカみたいに大口を開けてくれたおかげで、鍾馗を口の中に叩き込むのは簡単だった。

 即死は、もはや俺のすぐそばでいつでも俺を見守っているように、容易く効いてくれる。


 とりあえず一体。

 だが、たった一体。



(…………今度は、こういう趣向かよ……)



 そして、一本腕のなれはてたものたちの死体が霞となって消えた直後。




「うぅううぅうああああああ!」


「ぁあああうううああううあああああ!」


「おおぉおおうううぉおおおおおおおお!」




 通路からは、数えるのも億劫なほどのゾンビがなだれ込んで来るのだった。



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