表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/169

第113話 何がアートだバカバカしい





「整理すると、ここはゾンビの大元が作ったらしいダンジョン。そして上杉くんはここに閉じ込められている。ただ、一階層を突破すれば外部からの救援があるはずなので、一階層突破を目指している」


「そう」


 歩きながら田無は、最低限共有した情報を整理していた。

 今の俺の状況など、正直言えばさっぱり分かっていないのが本当なのだが、突き詰めるとそういうことになる。

 そんな俺の状況を共有したあと、俺の説明はなぜ田無の同行を許可したのかに続く。


「そして、階段を見つけたのは良いが、通行許可のないものは通れないと閉ざされた上に、ゾンビが進化したみたいな怪物をけしかけられてな」


「だから、俺の提示した社員証が、その通行許可なんじゃないかと期待している、と」


「そういうこと」


 大幅に省いた部分はあるが、おおよそのところは共有できただろう。

 田無は、俺の説明にうんうんと頷いた後、言った。


「あの、上杉くん。それ聞くと、今から向かってるところに、その怪物がまだ居るように聞こえるんだけど」


「……まぁ、まだ居るといえばまだ居るな」


 謎の肉塊の壁に変わっているが、まだ居るというのは正しい。

 が、田無はその答えに大いに慌てた。


「ちょっと待って! いや、上杉くんが強いのは分かったけど、つまり俺たちは今、その怪物とやらにわざわざ会いに行ってるってこと?」


 どうやら、田無は怪物が未だ健在であるイメージのようだ。

 俺は彼を安心させるように言う。


「大丈夫だ。俺が最後に見たときは、壁をみっちりと封鎖する謎の肉塊になっていたから」


「……何が大丈夫なのか分からない」


 そうだろうか。

 少なくとも、いきなり動き出して近づいてこないという点においては、だいぶ安心感があるんだが。


「でも信じよう。つまりこの先で戦闘はないってことなんだな? 言っちゃ悪いけど、俺に戦闘を期待されても困るからな?」


 田無の情けない自己申告に、俺はじっと彼の立ち姿を見る。

 武術を習っていたとか、そういう背景を感じさせない普通の男である。

 さっき、服装が変わったあとにこっそり鑑定を掛け直したが表記は変わらず『ヒトカタ?』であった。


 しかし。

 俺が言えた義理ではないが、どう見てもホームセンターの制服はダンジョンに潜るのに適している服ではあるまい。

 ワイシャツとスラックスにエプロン。防御力には期待できない。

 そして、ストレージ持ちや魔法使いでないなら、攻撃手段も持たないだろう。

 つまりは、戦闘における役立たずであることに違いはない。


「とりあえず、死なないように気をつけてくれ」


「投げやりすぎないか?」


「俺にだって、この先どうなるかは分からないんだ。何も言えない」


 特に、この先で戦闘が起きない保証などできるものか。

 ラーメンの替え玉感覚で化け物を追加してくる奴が相手なんだから。







 それから十分ほどかけて、俺たちは階段のあった広間の入り口にまで来ていた。

 ここで何も無ければすぐに社員証の検証を始められるのだが、生憎と目の前には肉塊の壁が残ったままだった。


「いやなにこれ」


「壁だな」


「壁ってこういう肉感的な感じじゃないと思うんだけど!?」


 田無はこんな状況下であっても、元気に一般常識的なことを語る。


「ここはダンジョンだぞ、こういう壁があってもおかしくない」


「いやおかしいだろ」


 まぁ、おかしいよな。

 本当は俺も肯定したいところなのだが、ここで押し問答をしていても始まらない。



「時に田無さん。あんたはこの肉塊がアーティスティックに見えるかな?」


「趣味の悪いプリンとかゼリーにしか見えないよ」



 肉塊の表現としてはそれもどうかと思ったが、的を射ていると言えばそうも思えた。

 実際、俺もアーティスティックには全く見えない。


「というわけで、多数決だ。な」


「どういうこと?」


「賛成1、反対2でこの壁は撤去だよ」


 俺は田無の理解を待つことなく、ストレージから、ホームセンターでかき集めてきた『アイテム』の一つを取り出す。

 このダンジョンに点在する棚からかき集めてきた商品。



「ガソリン……混合ガソリンか」



 田無は、さすがホームセンターの店員らしい滑らかさで、俺が集めてきたアイテムの正体を述べた。


 混合ガソリンとは、ガソリンとオイルを混ぜ合わせたもので、単純な構造の農機具などを動かす時に使うもの──らしい。

 俺は使ったことなどないのでさっぱり分からないが、重要なのはそこじゃない。


「おらぁ!」


 俺は早速、その金属製の容器の蓋をあけると、勢いよく肉塊の壁にふりかけた。

 ガソリン特有の臭いを鼻に感じながら、びしゃびしゃばしゃばしゃと盛大にぶちまけていく。


「ちょ、上杉くん!? 何をやって!?」


「見ての通り、邪魔な肉塊にガソリンをかけている」


「なんのために……?」


「あわよくば、爆発で吹き飛ばすため。それができなくても、これ以上ないほど燃やすため」


 そう。

 俺の普通の攻撃がまるで通用せず、マインの最大火力でもってしても通るか不安な肉塊をどうするか。

 最初に思いついたのは、ガソリンをぶちまけて燃やすか吹っ飛ばすことだった。


 俺は危険物に詳しくはないが、密閉空間でガソリンが気化した状態だと、車を軽く吹っ飛ばすくらいの爆発が起こることは知っている。

 そして、ガソリンがよく燃えることも。


 俺にもっと知識があれば、ここで即席の爆薬の一つでも作ると言う選択肢もあったかもしれないが、生憎俺はただの大学生だ。

 だから、ただの大学生にできる方法で、考えた結果がこれだ。


「……っていやいやいや! 仮に爆発が起きるとなんなの!? どれだけ離れたら良いのかも分からないのに、どうしてそんな盛大にぶちまけてるの!?」


 田無は、俺がガソリンをどんどん撒き散らして居る様に、戦々恐々としていた。


「大丈夫。というか爆発の圧力を向こうに向ける方法くらい考えてある」


「そ、そうか」


「俺は土や石の壁を作れる魔術を使える。それをこっち側の蓋にして、爆風を向こうに向ける」


「なるほど?」


 田無は俺の勢いに一応、納得したような顔をしていた。

 だから俺は、迷わずパクってきた混合ガソリンを一缶1L全て撒き終わった。


 近くに立って居るだけで、ここが死地に近づいたような気配がぷんぷんする。

 爆発を起こさせるための石壁を、行為の前にある程度設置してからやるべきだったかもしれない。

 石が擦れて火花でも散ったら……。


「というわけで田無さんは急いで離れていてくれ。もし何かの拍子で爆発したらやばい」


「お、おう」


 田無は、俺が何かやらかす気配を感じ取ったのか、早々に肉塊の壁から離れて行った。

 俺はその肉塊の壁から数歩だけ離れる。

 足元に、わずかにガソリンが散って服にかかっている気がして、少し気が滅入る。


「さて、こういうのはクミン任せだったからなあ」


 俺も土石魔術を取ってはいるが、土木系の作業に使ったことがない。

 ただ、火炎魔術と基礎は一緒だ。

 俺は床に手を置いて、瞑想する。


 気化したガソリンが充満しつつある空間に蓋をするように、厚く重たい石の壁を連想する。

 それも、肉塊との根比べで負けないように、うんと重いものを。

 それを一枚ではなく、何枚も重ねるように。

 重さと重さが肩を組むようなイメージで。


 ごっそり、遠慮なくCPを50持って行かれたような感覚のあと、俺の目の前に黒い石の壁が生まれていた。

 CP回復薬でCPを補充したあと、念のため、その壁をもう一枚設置する。

 二重の構えで、棚を押しのけるようにして誕生した壁を、俺は眺めた。


「あとは、この密閉された空間に火種を打ち込むだけ」


 実は、今からやることが一番の難関だった。

 俺はいままで、なんだかんだ自分が知覚できる範囲にしか魔術を使ってこなかった。

 言い換えれば、目に見えない場所で魔術を発動させようと思ったことがないのだ。

 だから、この密閉された空間の内部に、火種を生むには正確なイメージがいる。

 そう、正確な。



「『測量』──石の壁は厚さ1m20cmね」



 そしてたまたま、俺は正確な長さを測るスキルを持っていた。

 最近ちゃんと使えてやれていなかったが、俺が必要だと思って取った、れっきとしたアクティブスキルである。

 もともとは視界に映る範囲を測るスキルだったが、少し成長したのか今はちょっとだけ使い方に幅ができている。


「……さて」


 石の壁の厚さがわかったら、あとは俺も田無が隠れているあたりまで行って、そこの距離も測って、と工程を重ねれば安全だ。

 安全だが、同時にCPを消費する。


 距離が遠ければ遠いほど、魔術の行使にかかるCPは増える。

 現在、この石の壁を作ったことで、CP回復薬は残り2本だ。


 余裕がない。



「……やるか」



 俺は、石の壁に手を当てた。

 どのみち、どのみちだ。


 どのみち、これで突破できなければ、八方塞がりなのだ。

 石の壁が爆発に負け、こっちに爆風が雪崩れ込んできたとしても。

 死ぬのが遅いか早いかの違いしかない。

 だったら、石の壁が勝つことを信じ、先のために回復薬を残す。


 回復薬を消費し、安全に実行するのも、もちろん手だ。

 万全を期すなら、石の壁を更に厚くしても良いだろう。

 だが、すでに全部の行動が賭けなのだ、今更賭け事が一つ増えたところで、だ。


 田無が遠くから、俺の様子をちらちら伺っているのがわかったが、それに応えることなく、俺は意識する。


 慣れ親しんだ火炎魔術を。

 発動するのは、1m30cm先。


 さらにそこに、少しの性質を加える。

 これは爆発させるための魔法だ。

 ただの火種ではない。


 この魔術によって起こる現象は『爆発』の属性を強く帯びる。

 科学的な爆発だけでなく、そこに魔術の色も合わせて、強く念じる。


 開拓の火種よ。

 道を拓け。

 アートは──。


 すーっとCPが抜けて行った。

 ただの火種に、体感だとCP25も注ぎ込んだだろうか。

 その注ぎ込まれた多量のCPが、俺の唇を歪ませた。


 成功した、そう確信させた。



 ズドゴォオオオオン!!!



 ガス爆発とはとても思えぬ破壊的な音が、石の壁を貫通してこちら側まで抜けてくる。

 振動と、音と、ほのかな熱気さえも感じるようだった。

 魔術的な感覚で石の壁が削られたのもわかった。それも結構、ごっそり。

 ……思ったより破壊力があって、思ったよりも危なかったかもしれない。


「解除」


 石の壁を意識的に解除し、ぼろぼろに壁が崩れ去った先の光景に目を細める。


 左右の棚だったものは跡形もなく消えており、ダンジョンの壁にまでダメージを与えているように見えた(見えただけかもしれない。ダンジョンの壁を壊せるのかは知らない)。


 そして、その先だ。

 俺の行く手を阻んでいたあの忌々しい肉塊は。



「ははっ」



 バラバラに飛び散ったひき肉と化して、俺に道を譲っている。

 散らばった肉にもガソリンが火をつけてぱちぱちと音を立てており、まるで世紀末がそこだけ現れたみたいな有様だった。


 ただ、清々しいくらいの破壊の痕がそこにあった。



「何がアートだ、バカバカしい」



 盛大に吹っ飛ばしてやった、相手曰くのアートに目をやって、俺は言ってやる。




「アートは爆発だこの野郎」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ