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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第112話 なんて名前、なんだっけ



 男の鑑定結果を見た俺は、間抜けな声を漏らした。


「…………は?」


 ヒトカタ?

 なんなんだその『?』は。

 簡易鑑定だからといって、鑑定を途中で放棄するような真似は良くないだろう。システムよ。


 つまりどういうことなんだ。


 いや、推測はできる。

 そもそも、ここは人間がマトモに過ごしていられる空間ではない。


 称号による加護と、ユニーク装備による防護に、ステータスに仕込まれた特殊な抗体と、ありったけCPを使った異常耐性バフでもって、2時間しか正常でいられないような死地だ。

 そんな中で、普通の人間が普通に過ごしていられるわけがない。


 だから、男は普通の人間ではない。


 だが、ヒトカタ特有の感情のない目もしていない。

 なにより、状態があまりにも特殊すぎる。


 今まで見たことのない表記である『??変異中』。

 悪性変異体がもっとも近いが、彼の印象はむしろ真逆だ。

 どこからどう見ても、俺と同い年が少し年上くらいの、普通の好青年にしか見えない。

 思わずタメ口が漏れそうなくらいの、そういう親しい印象すら感じる。


 とはいえ、正常でないことは間違いない。


 今の状態がなんであろうと、鑑定結果が結果な以上、呪腐魔病が進行していると見るのが丸いだろう。

 呪腐魔病、という表記がないのは気になるが、じゃあ他にこの場所で何が変異するんだって話である。

 つまりは、今この瞬間にも変異が終わって、俺に襲いかかる化け物になる可能性がある。


 相手が人間であれば、それでももう少し、何か対応を考えたかもしれない。

 相手は推定ヒトカタだ、不確定要素はない方がいい。

 だから、


「……殺しておくか?」


「ふぁっ!?」


 うっかり、俺の本音が漏れたところで、男は盛大に後ずさる。


「ま、待て待て! なんでだ! なんでそうなる!? 俺がなんかしたのか!?」


「……簡易鑑定って知ってる?」


「へ? し、知ってるよ。あの、よくわからない声が配ったっていうスキルだろ。その、ゾンビと人を見分けられるっていう」


 俺は、いつでも鍾馗を呼び出せるように神経を尖らせながら、会話自体は通じていそうな男とのやりとりを続けた。


「あんたの鑑定結果だ。種族は『ヒトカタ?』、状態は『??変異中』。多分だが、あんたは人間でもなければ、正常でもない」


「……っ!?」


 とはいえ、ここでのんびりとコミュニケーションを取っている時間も惜しい。

 そもそも、立ち止まっている時間すら惜しい。

 だから、俺は淡々と事実だけを述べて、男に突きつける。


「あんたは多分、このダンジョンが生み出した幻みたいな存在なんだ。だから」


「ま、待ってくれ! 待てよ! そんなバカな話があるのか!? 俺は、だって、こうして普通に……」


 普通に、生きて喋っている。

 俺の目にだってそう映っている。


 これまで見たヒトカタとはまるで違う、生きた人間そのものの反応。

 ダンジョンの外で会ったら、簡易鑑定をして確かめたかも怪しいくらい、人間にしか思えない素振り。

 だけど、それだけはあり得ない。

 それだけはこの環境の中ではあり得ない。


「普通というのが、ありえないんだ。このダンジョンは普通の人間が生きていられる環境じゃない」


「で、でもあんたは」


「俺は今、ちょっと普通じゃないからな。少なくとも、俺の状態とあんたの状態は違う。そしてあんたは、普通じゃない」


 男は、唐突に突きつけられた真実を信じられぬというように慌てる。


「いや、おかしいだろ。だって、俺はちょっと前まで、ホームセンターのみんなで集まって、立てこもっててさ。そう、ここの店長と協力して、バリケードとか作って、そしたら……なぁ、それからどうしたんだっけ? なんで、途中から記憶が曖昧なんだ? 気づいたら、このわけのわからない空間の中で、俺は……」


 そして、自分で色々と口にしながら、男の声はどんどん尻すぼみに縮んでいく。

 ちょっとずつ、自分の記憶がおかしいことに気づくように。




「……俺は、なんて名前、なんだっけ……?」




 そこには、自分が人間だという自意識だけを持っていて、名前すら曖昧な何かの姿があるだけだった。



「……俺がしてやれることは、今ここであんたを殺すか、見逃すか、それくらいだ」



 意思ある相手を怪しいという理由で問答無用で斬り殺す覚悟までは、決まってなかった。

 完全に敵対したならまだしも、相手は自分が何者かすらも分かっていないのだ。

 だから、俺はせめてもの選択肢を突きつけるだけだ。


「…………………………」


 男は、黙って俯いた。

 俺は、ふう、と息を吐いて踵を返した。


 やっぱり、頼まれもしていないのに斬る気にはなれない。

 彼の正体はわからないままだが、このダンジョンでそれを追及しても良いことがあるとは思わない。

 だから、ここに置き去りにしていこうと思った。


「……なぁ、あんた」


 俺が立ち去ろうとしたところで、男が呼びかけた。

 今度は、俺はその言葉を無視して歩き去ろうとする。


「待ってくれ! 一つだけ、聞いてくれ!」


 俺は足を止めないまま、目も向けずに返した。


「なんだ?」


「俺を、一緒に連れてってくれないか」


「……それは」


 俺は尚も足を止めずに、されど言葉を詰まらせた。

 返答に迷った。

 それを、『嫌だ』と言うか『無理だ』と言うかの二択で。


 先も考えたように、この男は現在進行形で謎の変異中の存在である。

 いつ、変異を終えて襲いかかってくるのかも分からない、びっくり箱だ。

 そんな存在を連れ歩くなんて、正気の沙汰じゃない。


「一つだけ! 一つだけ思い出したことがあるんだ!」


 俺の否定的な気配を感じたのか、男は更に必死に言った。

 何を思い出したところで、俺にとってはどうでもいいんだが──。


「俺の名前は、田無。田無だ」


「田無さん。そう言われてもだな」


「この社員証に、そう書いてあった」


「……社員証?」


 足を止めないながら、俺はそこで初めて男を振り返った。


 男の服装は、さっきまでどう見ても私服だったはずだ。

 だが、今振り向いたところで、それが変化していた。


 男の服装が、昔ここが普通のホームセンターだったときの制服に。

 そして、胸元には『田無』というネームプレートが。

 いつの間にか、この店の『店員』になった田無の姿があった。



「ちょっとだけ、思い出した。そうだ、俺を連れて行かないと、たぶん後悔することになるぞ」



 男──田無が、俺を伺うような目でそう言ってくる。


「……何を根拠に」


「この場所がなんなのかは、分からないけど、ホームセンターの中、みたいじゃないか。俺のバイト先とそっくりなんだ。商品に見覚えがあるし、棚や看板、ポップの作りもそうだ」


「それが?」


「この店には、社員証がないと入れないスペースがあったはずだ。多分そういう場所もあるんじゃないのか? そしたら、あんた困るんじゃないか?」


 田無は、当てずっぽうで言ってみた、という感じの探るような表情である。

 だけど、それに俺は苦い顔をすることしかできない。


 今まさに、俺は、そうやって足止めをされている最中だった。

 田無が提示している『社員証』──これは『通行許可証』なんじゃないのか?


 このダンジョンが悪辣すぎて、あそこが実は通れないだけのクソギミックの可能性も考えていた。

 だから、どうにかしてやろうとアイテムを集めていたのだが、ここにきて、いきなり、キーアイテムらしきものが現れた。


 あまりにも怪しい、まるで用意されたかのような男と一緒に。



「…………」



 一瞬、殺して奪い取るという選択肢も浮かんだ。

 だが、即座にそれを却下した。


 心情的にあまりにも苦しすぎるから、というのは理由の一つ。

 だけど一番の理由はそうじゃない。


 もしここで田無を殺したら、その社員証も一緒に消えてしまう可能性があるからだ。

 つまり、田無を生きて連れて行かなければ、階段を通過することはできない……という可能性がある。


 もちろん、田無が適当をぶっこいているだけの可能性もある。

 そもそも、明らかに都合が良すぎる登場だ。

 ??変異中という危険要素もある。


 信じられる要素が、今のところのこのダンジョンには無い。欠片も無い。

 さりとて、じゃあどうする?

 現時点で、俺は他にそれらしい答えを持っていない。

 物理的に、こじ開けようという『考え』しかない。


 あからさまに怪しくとも、今は田無だけが、階段を通る手がかりになりそうな存在だった。


 俺が悩んでいることを見て取った田無が、追い打ちをかけるように言った。


「俺が、何者なのか、ってのはさ、わかんないけどさ。でも、だからってこのままここで野垂れ死ぬなんて嫌なんだ。頼む、俺を、助けてくれよ」


「……もし、田無さんがいきなり怪物になったりしたら、俺はあんたを殺すことになる。それでもいいのか?」


「まぁ。そりゃ嫌だけど、そんときは、そんときだろ。このまま、よくわかんない場所で、何もわかんないまま死ぬよりは、良いんじゃないのか」


 田無は、そういって苦しそうに笑った。

 自分の存在すら曖昧な彼だが、気丈に笑って見せた。


 俺はその、あくまでも人間らしい仕草に、折れた。

 そして、警戒だけは怠らないようにしながら、軽く息を吐いた。


「分かった。一緒に行こう。ただし言った通り、何かあったら──だ」


「……お、おお! 言ってみるもんだな! ああ! よろしく頼む!」


 まるで暗闇の中に一つの光を見つけたように、田無は笑った。

 俺は、そんな彼に礼儀として名乗る。


「上杉だ。大学二年だった。今は大学がどうなってるのかも知らないけど」


「おお、多分同い年くらいかな。よろしく、上杉くん」


 俺の名乗りを聞いて、田無は、握手をするように手を伸ばした。

 だが、俺が首を横に振ると、残念そうな顔をして手を引っ込めた。

 さて、無駄な時間を使ってしまった。その分急がないと。



「付いてくると決まったのなら、急いでくれ。さっきも言ったように、時間がないんだ」


「時間がないって、どうして?」


「あと20分くらいで俺はゾンビになる」


「やべーじゃん!?」


 

 そして、俺はやや小走りになりながら、先ほど見つけた階段へと向かうことにした。


 俺のステータスを考えると田無にはきついと思うのだが、彼はひいこら言いながら、どうにか俺に付いてきているのだった。

 今はステータスを見る術がないのだが、彼の速はどうなっているのだろうか。




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