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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第106話 グリッチのようなもの




 僧侶へのジョブチェンジを果たした後に真っ先に試したことは、召魔忍者に戻ることは可能かの確認だ。

 もうずっと前(といっても一週間前くらいだが)に端末くんに、ジョブのシステムを確認したときの回答は確か『一度習得したジョブは自由に変更できる』というものだった。


 だが、ここはこれまでのダンジョンのルールがちゃんと適用される保証のない、ウイルス製のダンジョンだ。

 状態異常耐性を上げる必要があった以上、このジョブチェンジは避けられなかったが、召魔忍者に戻せるかどうかの確認は必須だ。


 はっきり言えば、僧侶レベル10のステータスで、なれはてたものたちとの直接戦闘などできるわけがない。

 その基礎ステータスはこうである。


 ──────

 僧侶レベル10


 力:14

 魔:20→32

 体:10

 速:20

 運:16→20

 ──────


 ここに装備の加算分を足してこう。


 ──────

 力:14→21

 魔:32→35

 体:10→13

 速:20→22

 運:20→22

 ──────


 護刀・鍾馗はユニーク装備だったせいかステータス補正を乗せてくれたが、忍者装備は適正外なのかステータス補正が消えてしまった。

 故に、俺のステータスは、並みの僧侶よりは強い程度に止まっている。

 召魔忍者と比較するとこう。


 ──────

 僧侶 - 召魔忍者


 力:21-28

 魔:35-36

 体:13-19

 速:22-35

 運:22-26

 ──────


 何一つ僧侶が勝っているステータスが無いのもそうなのだが、何より速の違いが致命的だ。

 元の召魔忍者の時点で、怪物との肉弾戦がギリギリだったのに、僧侶でそれをやろうとするのは無謀だろう。


 ……かつて、僧侶とさしてステータスが変わらないだろうテイマーで、それをやろうとしていた男がいたことは、目を瞑るとして。


 だから、僧侶にジョブチェンジしたはいいとして、そこから召魔忍者に戻せるかどうかは重要だ。

 俺の今の考えでは『僧侶で自分に状態異常耐性バフを最大限掛け』『そのバフが効いている間に召魔忍者で探索する』というのを計画している。


 その際の懸念点が二つあって、一つは『ジョブチェンジは本当に自由に行えるのか』であり、もう一つは『バフの効果はジョブが変わっても継続するのか』だ。

 だから、まずはジョブチェンジが自由に行えるのかを確認する必要があったのだが、これに関してはすぐに分かった。


『習得済みのジョブにはいつでも変更可能です。ジョブの変更を行いますか?』


 というのが、ジョブ習得画面にタブが増えていた『ジョブ変更』の項目を選んだ際の説明である。

 試しにその項目を表示してみれば、俺の選択可能ジョブとして僧侶と召魔忍者が表示されていた。


 ここは素直に助かった。

 正直言えば、ジョブチェンジが自由に行えるかどうかは心配だった。

 ゲームによっては、ジョブチェンジは特殊な施設じゃないとできないとか、再就職には特殊なアイテムを必要とするとか、シンプルにEP的なポイントを要求されるとか色々あるから。


 とりあえず、ジョブチェンジでいつでも召魔忍者に戻れることは確認できたので、ひとまずそれはヨシ。

 次はもう一つの確認。


 すなわち、自分に掛けたバフ効果はジョブチェンジ後も引き継がれるのか。

 これに関しては、バフが『自分』と『自分のステータス』のどちらにかかる効果なのかで変わるだろう。


 バフが『自分』にかかる仕様であれば、ジョブチェンジをしようがバフされているのは『自分』なので、問題なくバフの効果を受けられる。

 だが、バフが『自分のステータス』にかかる仕様であれば、召魔忍者に変更した時点で、それまで掛かって居たバフが打ち消されるかもしれない。


 これは、どちらもあり得ると思っていた。

 できれば前者であってほしいと思っていたが。

 そして、それを試すのは簡単だ。少しCPを消費して、バフを掛けてジョブチェンジを試してみればいいのだから。


「神聖魔術の使い方は、もう言われるまでもないな」


 僧侶になって初めて知ることになる神聖魔術。

 この魔術は他の魔術と違って、僧侶になる以外に習得方法がない特別な魔術系統らしい。

 だが、どれだけ特殊であろうと、魔術関連の称号までもらっている俺に扱えないというものでもない。


 重要なのはどういう効果をもたらしたいかと、そこにどれだけのCPリソースをつぎ込むかだ。

 俺の欲しいものは『呪病耐性』であって、それが分かっているならイメージはたやすい。

 まずは、テストだけの簡単なものだ。CPを10だけ注ぎ込んで、軽い耐性上昇をイメージする。


「はっ」


 いつもの魔術を使うのと同じ要領で、自分へと神聖魔術を行使した。

 魔術を直接自分に使うのは初めての体験だったが、特に支えなく終えた。

 体感として劇的に何かが変わった感じはないが、なんとなく暖かい?感じがした。


 この状態で端末からステータスを確認すると、確かに表示が増えている。


『呪病耐性上昇(小):1787s』


 先ほどの魔術で、耐性上昇バフが30分ほど付与できたらしい。

 思ったより効果時間が長い。これは嬉しい誤算だ。


 そして問題は、これがジョブチェンジ後に引き継がれるのかというところだ。


「端末操作で、ジョブ変更っと」


 独り言を漏らしながら俺は端末の画面を操作する。

 ……端末くんが事務的でも対応してくれていたことの温かみを感じずにはいられない。

 ジョブ変更を選択した途端、ジョブ習得の時と似たような粒子の移動があって、俺は体の調子が慣れ親しんだものへと変化したのを感じた。

 いつの間にか、召魔忍者の状態を自分のデフォルトだと思い込んでいる。


 そして肝心のステータスだが。



「…………バフが消えている」



 俺は、そこそこに深い落胆を隠せなかった。

 一つだけ判明したことがある。

 どうやら、バフの効果は人体に直接かかるのではなく、ステータスの方に影響を与えるものであるらしい。


 さて、困った。


 ほんの一瞬脳裏に──バフじゃなくてデバフはどうなのか、とか状態異常はどういう扱いになるのか、とか気になることが浮かんでしまったが、それは今は置いておこう。

(ちなみに、俺の予想はHPなどと同様、ステータスそのものが状態異常に対する盾となっている説だ)


 単純に自分にバフをかけてもそれを引き継げないとなると、道は二つ。

 一つは、僧侶のまま探索を行うこと。

 もう一つは、どうにか召魔忍者にバフを持ち越す方法を考えること。


「……はっ、考えるまでもない」


 選ぶのは後者だ。

 このダンジョンが、どうあがいても尋常で無い以上、ほんのわずかにでもステータスを高めておきたいのは当たり前だ。

 少なくとも、何も試さずに僧侶で突っ込むのは論外だろう。


「そして、こういう時の解決法はだいたい相場が決まっている」


 俺は今まで読んだ様々なweb小説の知識から、できそうな方法をいくつかピックアップする。

 おそらく、ダンジョン側からすればグリッチにも似た方法だろうが、ダンジョンが現実になった時点でそういう挑戦がされるのは当然だ。


 ましてや、このダンジョンのシステムは、魔術に関してこちらの想像力に委ねるような要素が強い。

 それはすなわち、ダンジョン側が想定していなかった抜け道もたくさんありそうだということ。


 もしここで上手くいったら対策されるかもしれないけど、それこそ今の俺には知ったことか。

 後の俺、ごめん。





「さて、準備は整った」


 というわけで、俺は一発で目的通り召魔忍者でバフをかけることに成功した。


『呪病耐性上昇(中):7172s』


 CPを現時点でのMAX50注ぎ込んで作った一品だ。

 現在可能なバフ効果最大にまで振った後、感覚的に限界を感じたら、細工の分を残してあとは全部効果時間に注ぎ込んだ。


 よって、耐性上昇(中)を、およそ2時間維持できるようになった。


 やったことは簡単だ。

 自分に直接バフをかけるのではなく『これに乗ったらバフを得る』という、魔法陣のようなものを生成し、召魔忍者に戻ってからそれに乗っただけだ。


 自分に直接かけるよりも小細工が必要だったので、その分にCPを持っていかれることにはなったが、目的は達した。

 これがダメだったら、ボール状にして投げてから落ちてくる前にジョブチェンジするとか、魔法を発動中に無理やりジョブチェンジするとか、色々と無駄なCPを食いながらチャレンジすることになっただろうから助かった。


 CPを無駄にできない、というのもそうなのだが、僧侶から召魔忍者に戻った時、か細くも確かに繋がっているクミンとのテイムの線から、かすかな苛立ちのようなものを感じるのだ。

 多分、俺が僧侶になるたびにあっちに何か迷惑かけてるな、と実感してちょっと後の反応が怖いのである。


「……じゃあ、行くか」


 なんて、こんな状況を少しでも紛らすように自嘲しながら、俺は気合を入れる。

 この先に、そんな『後』が待っているなんて保証は、どこにもない。


 武器はいつでも呼び出せる。

 CP回復薬は二つ使ってCPは満タンに回復している。


 今一度、黒い部屋を見渡した。

 CP回復薬を飲む前に、溢れるCP分と思って目星を使ってくまなく調査したが、この部屋には何もなかった。

 時間差の罠がこれから発動する可能性はあるが、それを待つ意味もない。


 だから、ここにいる意味はもうない。

 あとは出たとこ勝負で行くしかない。


「…………」


 俺は静かに、部屋の出口となるスイングドアを押した。

 隙間から光が漏れ、少しだけ不快感を覚える。

 だが、これでもかと上げた耐性が、即座にそれをシャットアウトした。


 動ける。


 思い切り、ドアを押し開けた。

 漏れていた光が俺の目を焼いて、一瞬だけ景色を白く染める。

 危機感のスキルは、それでも危険はないと告げている。


 ややあって、俺が視界を取り戻したとき。

 そこに映っていたのは。




「ホームセンター……?」




 俺が何回も通っていた、ホームセンターの中のようなダンジョンだった。


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