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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第105話 救われたもの



 時間がないのならひとまず質問はしない。

 そう言ったのは俺だが、そう言ったのを後悔しそうなほど重い話だ。


 俺がダンジョンを攻略できなければ──あの肉塊を倒せなければ東京が壊滅する?

 いったい何をどうしたら、そんな話になるんだ。


『戸惑うのも分かりますが、事実です』


 流石の端末くんでさえ、こう言うレベルである。

 だが、それでも端末くんは俺の疑問を解消するよりも話を選んだ。

 本当に、時間がないらしい。


『今は説明よりも上杉様にしていただきたいことを優先いたします。このダンジョンは我々の観測したところ三階層からなる不完全なものです。階層の広さもさほどでは無いはずです。しかし外部からの干渉をシャットアウトしており、現状我々はこのダンジョンに対して何らかのアクションを取ることができません』


 必要そうな情報だけを叩き込む。

 ダンジョンは全三階層。これは不完全らしい。

 外部からの干渉はできない。クミンを呼び出せないのもそれだろう。

 そして、端末くんのダンジョンサイドでも手出しはできてない。


『ですが、ここに上杉様が紛れ込んだことにより話が変わりました。先述したようにこのダンジョンは不完全であり、ダンジョンの階層攻略により綻びが生まれる可能性が高いです。つまり、内部にいる上杉様がダンジョンの攻略を進めることで、我々がダンジョンに干渉できるようになる、と考えられます』


 さらに叩き込む。

 理屈はわからないが不完全なダンジョンは攻略されるとさらに揺れる。

 なので外からではなく中から揺さぶれば──俺が攻略を進めればダンジョンに干渉できるようになる。


『上杉様。どうにか、一階層を突破してください。それが成れば、我々が上杉様を直接サポートすることも可能となり、状況を説明する余裕も生まれます』


「兎にも角にも、まずは一階層を突破しろと」


『はい』


 聞きたいことは山ほどあるが、現状のミッションは簡略化された。

 まずは一階層。

 そこを超えられれば、端末くんたちは俺をサポートできるようになると。

 ……その一階層を攻略する前に、外に出ることが今できないのだが。


『重ねて申し上げますが、時間がございません。ダンジョン攻略のタイムリミットは──およそ6時間です』


「ちょっと待ってくれ!」


 いや、6時間だと!?

 勝手知ったる俺の家のダンジョンなら四階層まで降りるのにそのくらいの時間で普通にいけるだろうが、ここは未知のダンジョンだ。

 加えて言うなら、おそらくこの中をウロウロしているのは、あの腕一本のなれはたてものたちであろう。


 そんな連中をやり過ごすなり、倒すなりしながら、全三階層を6時間で初見突破しろと?


 端末くんの無茶振りに思わず声をあげるが、端末くんの返答も苦しそうなものである。


『私たちも出来る限りサポートの準備はございます。なので、なんとか、なんとか一階層を突破し、隙を作ってください』


「──っ」


 これが精一杯。

 本当に、どうにもならない。

 そんな感情が、伝わってくるようだった。


「……現在、ダンジョンのフロアに出ると呪腐魔病の侵食を受けるような状況だ。それを避ける方法は無いか?」


 だが、俺にもどうにもできない事情があった。

 この小部屋の外は、まともに活動できる空間じゃない。

 俺がどれだけ端末くんの要望に応えようとしても、呪腐魔病に感染してしまってはおしまいだ。


 端末くんも、そんな俺の状況は知らなかったようで、少し息を飲むような気配のあとに、言葉を連ねた。


『…………っ! 上杉様のステータスに存在する、鹵獲用抗体を活性化させます。これで2時間は、通常時よりも耐性が高まるものと思われます。ただし──』


「それだけじゃ足りない?」


『前回の攻撃と同様の強度であれば、鍾馗の強化を加味しても保って2分というところかと』


「2分……」


 2分で、未知のダンジョン一階層を突破しろ。

 絶対に無理とは言わないが無謀だ。

 せめて、道筋が分かっていればだが、それだけでどうにかできるものじゃない。


 せめてもう一手。

 もう一手何かあれば。


『私の接続が切れる前に、この端末の操作権だけは確保いたします。端末の機能を利用して、何かを見つけてください。ただし、怪しい挙動や表示が発見された場合は、罠の可能性が非常に高いので、即座に操作を中止してください』


 俺の悩みを置き去りにするように、端末くんは言い募る。

 本当に、焦っている様子がうかがえる。

 俺も必死だけど、俺以上に向こうも必死なのだ。


『上杉様に無茶をお願いしているのはわかっております。二階層に到達できれば、可能な限りの浄化を行えます。なので、くっ、もう接続が──上杉様──あとは──たのみ──』


 ブツン、と再び電源が落ちるような音。

 それからしばらくして、端末は再起動した。

 ただし。


『……………………』


 端末は、何も言わなくなっていた。

 偽端末が復活する様子もない。

 しばらくじっと見つめていると、画面に一文だけメッセージが。



 ──上杉様。救いはきっとあります。



 それだけを表示すると、端末くんは言葉を発さない本当にただの端末へと成り下がった。

 ただ、なんとなく空気で感じることがある。

 端末くんも、俺も、諦めるのはまだ早い。

 俺はそっと、カウントスキルを切った。

 6時間──21600秒がタイムリミットだ。


「少なくとも、この端末でできることはある」


 ここにはもう、偽端末の意思も、端末くんの意思も残っていない。

 ただの、ホログラム表示があるだけだ。


 画面には以下のような項目があった。


【ステータス】

【レベルアップ】

【スキル習得】

【ジョブ習得】

【アイテム購入】

【アイテム納品】

【ダンジョンをクリアする】


 一番下は論外として、まずはステータスを表示してみる。

 ホームセンターに向かう前に表示されたものと変わらない。

 端末の基本的な機能をウイルスは弄っていないようだ。


 ただし、所持EPは当然0だった。


「まず、スキル習得。きっと必要なものがあるはずだ」


 そう思って俺はスキル習得の画面を開いた。

 今まで端末くんに適当にソートを頼んでいたのであまり気にしていなかったが、自分で探すとなるとスキルが溜まっていてきつい。

 パッシブもアクティブも、これでもかとスキルが並んでいる。


 ──そして中には、EPが0で買えるあからさまに怪しいスキルが紛れている。

 『侵食攻撃』『貫通攻撃』『ステータス10倍』『HPCP全回復』etc...


 これはおそらく、端末くんが最後に言っていた罠だろう。

 そんな罠を踏まないように注意しながら、俺は目当てのものを見つけた。


 ──────

 呪病耐性☆5:200EP


 精神系、および病理系状態異常に耐性を得る。

 コストCP:5

 ──────


 鍾馗の特殊能力に追加されていたのと同じ種類の耐性だ。

 これを得られれば、外での活動時間が大幅に増えるはず。


 ただし、200EPだ。


「所持EPが0じゃ──いや、アイテム納品をすれば?」


 ふと思いつく。

 普段は納品といえばモンスターのドロップアイテムを納品するだけだが、石の矢がEPに変換可能だったように、ストレージ内のアイテムなんかはEPに換えられるはずだ。

 そうであれば、EPを確保してどうにか耐性スキルを取得することが出来るはず。


 そう思い、アイテム納品の画面を開く。


『納品したいアイテムを提示してください』


 今まで端末くんに口頭でお願いしていたので、こういうのは初めて見た気がする。

 試しにと、俺は先ほど武装召喚で呼び出していた棒手裏剣を提示してみる。


『こちらのアイテムはEP:2000に──』


「キャンセル!!」


 何か、まずい選択をしたかもしれない。

 キャンセルが間に合ったと思いたい。


「どう考えても、そんなEPになるアイテムじゃない。つまり、ここに何かヤバイものが隠されている?」


 少なくとも、ウイルスの罠があることは間違いない。

 棒手裏剣──まさか、魔術で作った道具だから?

 ウイルスは魔術を解析したがっている?

 まずい。今のはセーフだと思うが、今後は迂闊にアイテムを掲示するのも怖い。



「…………でも、そうなるとEP0で出来ることなんて……」



 危険と認識したとしても、じゃあ何が出来る?

 とりあえず、俺の手持ちのアイテムを慎重に提示してみたが、ダメだ。


 ダンジョンのシステムが製作に関わっているアイテムは、軒並み異常な値段を提示され、そうでない地上の物は1EPにもならない。

 どんな種類のアイテムであっても、そこからダンジョン側が守っているデータが抜かれる危険があると認識した。



「どうする。どうすればいい」



 ここでリスクを承知でアイテムを売り払うことが、今だけを生き残るなら必要なことだろうか。

 だが、俺の危機感に尋ねるまでもなく、その行為が危険であると本能が警告している。


 ここを切り抜けられても、よりひどい未来が待っていると。


「……でも、たとえひどい未来が来るとしても、今を生きなければどうしようも──」


 そう言って、安易な選択に意識が傾いた時、ふと先ほどの端末くんのメッセージが浮かんだ。




 ──上杉様。救いはきっとあります。




「…………っ!」




 そして俺は、弾かれるように項目を選択した。

 選んだのは【ジョブ習得】だ。



「……ああ。あるじゃないか。EP0でも出来ることが。一つだけ」



 そこには以前見た時と同じように、五つのジョブが並んでいる。


 ──────────

【ジョブ習得】

 所持EP:0


 現在のジョブ:召魔忍者


 習得可能ジョブ:


 戦士:0EP(救済ジョブ)

 魔法使い:0EP(救済ジョブ)

 僧侶:0EP(救済ジョブ)

 斥候:0EP(救済ジョブ)

 弓兵:0EP(救済ジョブ)

 ──────────


「なぁ、端末くん。救済とはこういうものなんだろうな」



 今更だが、一つ説明しておこう。

 どうして俺が、この救済ジョブを今まで習得していなかったのか。

 それは魔法使いのジョブを習得した際に、ボーナスでもらえる魔術の種類を固定したかったからだ。


 どうやら魔法使いのジョブについた際に貰える魔術スキルの種類は、本人の意思と、本人の適性を加味した上で、基本四属性からランダムらしい──というのが南小コミュからもらった情報だった。

 某魔法学校にて所属する寮を分ける帽子なんかのイメージかもしれない。


 それを聞いた俺は思った。

 つまり、基本四属性のうち三つを埋めてしまえば、ランダム性がなくなって自動的に残り一属性が習得できるのでは? と。


 もちろん確証なんてない話だった。

 だが、確実に氷水魔術が取得できるとしたら、美味しい話だと思った。


 だから、条件が揃うまで救済ジョブにはとりあえず手を出さないでいたのだ。

 別に他のジョブを取っても、後でEP100を余分に払うだけだというのに。

 そのEP100を今までケチって、救済ジョブを取得しないでいたのだ。



「……貧乏性も、たまには役に立つ」



 たったそれだけのために、今ここで救済ジョブを選択できる。

 そして俺は、迷わず一つを選んだ。


「僧侶を習得して、ジョブチェンジ」


『現在、召魔忍者のジョブに就いています。レベルは引き継がれませんがよろしいですか?』


「イエス」


 注意文を流し読みしながら、画面に表示されるYESのボタンを、押下する。

 途端に、召魔忍者の時とは比べものにならないほど……小規模な光の粒子が、端末から溢れる。

 それらが俺の体に吸い込まれていくと、がくん、と体が重くなったような感覚が襲う。


『僧侶にジョブチェンジしました。習得済みのジョブはいつでも変更可能です』


 いきなり重くなった体、そしてもう一つ明らかな変化がある。


「クミンとの繋がりが、かなり細くなった……」


 これまでは繋がらなくても確かに感じていた繋がりが、今は頼りないほどに細くなっている。

 活動状態から休眠状態に無理やり移行したような、そんな印象。

 多分、何か負担を強いたに違いない。


「許してくれクミン。こうする他なかった」


 と、届くわけのない謝罪をこぼしながら、俺はステータスを確認する。

 パラメータなんてどうでも良い。

 俺は自分が欲しいスキルがあるのを確認したかっただけだ。


 そしてアクティブスキルの欄に、確かにその名前があった。



『神聖魔術(中級)』



 僧侶である杉井さんが使っていた魔術の種類。

 その効果は暗黒魔術と対のようになっていて、体力の回復や、神聖属性の攻撃。

 そして、


「バフが使える」


 そう。バフに特化したのが、この魔術だ。

 バフといえば一般的には攻撃力や防御力を上げる魔術のイメージだが、当然それだけじゃない。




「神聖魔術にCPを注ぎ込んで、呪病耐性を限界まで上げてやる」



 パッシブスキルが取れないなら、アクティブスキルで上げれば良い。

 それが、この土壇場で俺にもたらされた救済であった。


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