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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第101話 仮眠



「…………っ」


『そんなに緊張しなくても』


 俺の無言に、クミンはやや呆れたような声をあげた。

 しかし仕方あるまい。


 俺の目の前には、程なくして見つかった二階層の宝箱がある。

 今回はCP節約のためにスキルを外したりしていないので、ガッツリとパッシブ判別スキルが使われており、これが罠付きやミミックでないことは分かっている。

 つまり、今まで打率10割を誇っている、魔術書が混入している可能性がとても高いレア宝箱なのだ。


 いやが応でも緊張は高まるというものだ。



「欲を言えば『氷水魔術』──だが『衝風魔術』でも問題はない。そのどちらかなら俺は文句はない」


『…………』


「なぁ、クミン、このタイミングで運気を上げる方法とか、神に祈りを捧げる祝詞とかそういうのなにか──」


『時間が勿体無いので開けますね』


「ちょっ」



 と、俺の緊張による躊躇をまるで無視したクミンが、己のハサミでもって器用に宝箱を開けてしまう。

 中から出てきたのは……


「ぉおおお! やっぱり魔術書だ! このダンジョンの二階層は本当に当たり階層だぞ!」


 その姿を見るのは三度目となる、古めかしい魔術の書であった。

 俺は思わず小躍りしそうになる。

 どんな状況であろうと、欲しかったものが手に入るのは嬉しい。

 あとはこれが『氷水魔術』か『衝風魔術』なら良いのだが。


『上杉さん。喜んでいますけど、自分が言っていた予定をこなすには、魔術を習得するEPを貯めている時間はありませんよ?』


「はい」


 と、そんな俺の横でクミンにピシャリと冷水を浴びせかけられた。

 そうだった。ここで魔術書が見つかったとしても魔術の習得には400EPはかかるのだ。

 今回は鍾馗の修復と防具の新調で、合わせて200EPくらいはかかる。

 戦闘で消費するCPの回復分を考慮に入れて300必要とすれば、さらに400も余分に稼ぐ余裕はない。ドロップアイテムワンチャンくらいだ。


『とりあえず目的は達したのですから、早く第三階層に向かいましょう』


「了解」


 もはやどちらが、主導しているのか分からない様子であったが、俺たちはマップを確認したのち即座に第三階層へと向かうのだった。






『精査が完了しました。アイテム名称『【初級魔術・衝風】の魔術書』です。アイテムとして使用することで、使い切りで衝風の初級魔術を発動できるほか、納品することでスキルリストに『衝風魔術(初級)』のスキルを追加することができます』


「ナイス!」


 端末君の解説に俺は思わずガッツポーズを取った。

 ここまで被りなしで、基本の四属性のうち三属性をコンプリートすることができた。

 となると、実質俺は『四属性全て』を習得したようなものだ。

 それは何故かって? その説明はその時が来たらしようじゃないか。


「……ただ、習得には400EP必要、と」


 色々と偉業を達成してきたつもりではあるが、ここの部分だけは特に変わる様子はない。

 ただ、暗黒魔術は割引がされているという話だったから、本当に適性がある人は安いんだろう。俺はそうでもない、ってだけだ。


『現在の上杉様であれば、400EPを捻出するのに、それほどの時間はかからないと思われますが』


「まぁそうなんだけど、明日も外に出る予定があるからね。今日は疲れたし、ちょっと遠いかなと」


『予定とは?』


「……食料調達系?」


 端末くんからの問いかけに、すまし顔で返す。

 別に端末くんに今夜の最後の予定を聞かれたところで、どうするものでもないのだが。

 ただ、端末くんは端末くんで俺の無茶をそれなりに心配してるというか、咎めているというか、な雰囲気があるので、なんとなく怒られる気がして自分から言うのは止めたのだ。


 まぁ、端末君はダンジョン内のあらゆる情報を拾っているようなので、黙っていたところで話は知っているかもだし、なんなら俺がダンジョンに少しの警戒心を持っていることも把握されていそうだが。


「ちょっとEPを貯めて鍾馗の修復まで終わったら、一旦地上に戻るよ」


『かしこまりました。ですが、そもそも私に予定を告げる必要はありませんよ』


「いやまぁ、一応、念のためみたいなね」


 わざわざ予定を伝えてしまったのは、俺の心の疚しい部分のせいかもしれない。


 実際、ここで端末くんに予定を告げたところで、だから何という話ではある。

 だけど、ダンジョンが信用できなくても、俺の最初の孤独に寄り添ってくれたのはこの端末くんだ。

 その部分だけは、信用とはまた違う軸で、とても親しみを持っているのだ。


「じゃあ、軽くスケルトンを狩ってくる」


『かしこまりました。お気をつけて』


 いつもの挨拶をして、俺とクミンは三階層を練り歩く。

 すでに狩りのパターンが完成しているスケルトン相手であれば、よほどのことがない限り狩りが失敗することはない。

 そして、これだけ大変なことがあった日でも、よほどのミスを犯さない程度には俺の体は自然に戦闘を行えるようになっていた。


 昔の俺は、ちょっと体がだるいくらいで一限を自主休講しようか本気で悩んでいたというのに、今は明らかに体がだるいはずなのに命がけの狩りに興じている。

 病気に弱くなるとかではなく、純粋に体が強くなるという変化に戸惑いを覚える日が来るとは、ダンジョンが現実になるまでは思っても見なかった。





 ──────

 護刀・鍾馗しょうき+1

 疫病を払う守護の力を宿した忍者刀。

 武器としての性能もあるが、その本質は装備者に降りかかる厄災をはねのける護りの力である。

 一段階成長している。


 ステータス補正:力+7、魔+3、体+3、速+2、運+2

 特殊1:成長する武具(装備者の意志の力に応じてその性能を増していく)

 特殊2:対魔(戦闘中に一度だけ、魔術によるあらゆる攻撃に高い耐性を得る)

 特殊3:修復(EPを注ぐことで損傷を修復することができる)

 特殊4:対呪(精神系、および病理系状態異常に耐性を得る)

 ──────


「これが成長する武具か」


 スケルトン狩りでさっと貯めたEP300強から100ちょっとを捻出し、鍾馗の修復を行なった上で見たステータスがこちらである。


 わかるだろうか、特に力の補正が異様な伸びをしていることが。

 以前は力+2だったのに+7と二レベル分近くは軽く伸びている。

 これはほぼ間違いなく、土壇場の俺が眼前の敵を切り裂く力を欲したがゆえであろう。

 それとは別に、元々0だった体のステータスと『対呪』の特殊効果を得ているのは、それまでの俺が色々と状態異常を食らい過ぎたせいだろう。


 何も言わぬ武器ではあるが、俺の身を案じ、その上で俺の要望に応えるように成長したというのが嬉しい。

 今後ともヨロシクしたい相棒とはこういう感じなんだろうな。


 あとは残ったEPで、裂けたり弾けたりしていたボロい忍び装束を買い直す。

 ふと右の耳たぶを触ってみたら、弾け飛んだはずのそこが再生していた。

 耳たぶって多分再生する場所じゃないと思うのだが、これもステータスの恩恵なのだろうか。

 もしかしたら、欠損も時間で治ったり──という可能性も考えたが試す気にはなれない。

 端末くんは教えてくれなかった。




「こんなところか」


 というわけで、体の疲労はともかく、ステータス上は今朝の万全な状態へと戻った。

 むしろ鍾馗の成長のおかげで今朝よりもステータスは上だ。


 この画面を見るのも何故か久しぶりな気がするが、だいたいこんな感じだ。


 ──────

 上杉 志摩

 召魔忍者

 レベル10

 所持EP:204


 HP102/166

 CP77/126(使用中141/267)


 力:28

 魔:36

 体:19

 速:35

 運:26


【所持スキル】

 [パッシブスキル]

 悪臭 


【セットスキル】

 [パッシブスキル]

 《闇夜と死の徒》 神出鬼没 ストレージ(極小) 石工


 [アクティブスキル]

 強打 目星 測量 火炎魔術(中級) 土石魔術(中級)

 簡易鑑定 アライメント鑑定 テイム サモン

 口寄せの術 武装召喚

 

【称号】

 『屍鬼を喰らいし者』

 『闇夜と死の徒』

 『混沌と孤独の同胞』

 『魔道の探求者:序』

 『暗澹たる死よ来たれ』


【テイムモンスター】

 『クミン』(迷彩アリ)


【登録武具】

 護刀・鍾馗+1

 ──────


 レベルは上がってないので劇的な変化はないが、上がったことに文句はまったくない。

 HPが回復しきってないのが、昼間のダメージの深刻さを思わせる。

 まぁHPはとっくに0になっていただろうしな。


「じゃあ、そろそろ地上に戻るか」


 ダンジョンでできることは、とりあえずやった。

 あとは時間を無駄にしないためにも早々に戻るべきだろう。

 と、俺が口にしたところで、そこに待ったをかけるクミンがいた。


『上杉さん。地上に戻るのはいいですが、提案があります』


「聞こう」


『HPも回復しきっていない状況です。疲労も溜まっています。ここで二時間程仮眠を取ることをオススメします』


「…………」


 クミンの提案をしっかり考えてみる。


 二時間の仮眠。

 HPが回復しきっていないというのは口実だろう。

 今のタイミングで少しだけでも体を休めておくべきだ、と提案されているのだ。


「今眠ったら八時間はぐっすりしそうなんだが」


『ウチが起こします。だから、少しだけでも。お願いします』


 ここで二時間仮眠を取っても、取らなくても、朝がくる時間は変わらない。

 だったら、多少でも疲れを取っておくのは悪くない。

 このあとに、万が一でも戦闘の可能性があるのなら、尚更だ。


 何もなかったときに偵察から帰ってきて寝る時間は減るが、危険があった場合の備えとしてはむしろ取らない理由がない。


「…………」


 一度、大きく深呼吸をする。

 どこか熱に浮かされていたような脳みそを自覚する。


 慎重に行動するのを思い出せ。

 またダンジョンの『何か』に飲まれているぞ。

 そんなことにも気が回らなかったのか、俺は。


「…………ありがとう。二時間経ったら起こしてくれ」


『はい!』


 クミンにアラーム役をお願いし、俺はまだ残っていた三階層の拠点で仮眠を取ることにした。

 自分はまだまだ動ける気がしていたが、土で作られた寝台に横たわった瞬間に、全身を包み込むような疲労感に襲われ、俺は眠りにつくのだった。


 行動開始は……夜の帳が降りてから……だ……。


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