第71話 雷帝
私は深呼吸をしながら肉体の状態を確かめる。
マーサから受けた傷はすべて再生し、魔力消費も軽微だ。
精神的な疲労も皆無に等しい。
むしろ適度な"運動"を経たことで力が上がっている。
ようするに私は絶好調というわけだ。
(ラインとマーサは使い捨てのような扱いだった。つまり黒幕は……)
刹那、屋敷の奥から極大の魔力を宿す雷撃が放たれた。
軌道上のすべてを破壊して迫るそれは、まるで光の濁流だった。
私は精霊刀による防御を選択する。
最速の振り抜きは雷撃にぶち当たり、その威力を散らすことに成功した。
しかし逃がし切れなかった衝撃が私の片腕を一瞬で炭化させる。
さらに防御に使った鎖と精霊刀も砕け散ってしまった。
まあ、いずれも魔力で修復できるが、完全回復まで少し時間がかかりそうだった。
黒焦げの腕を一瞥して、私は静かに分析する。
高熱と衝撃で骨の髄まで破壊され、残った電流が再生を阻害していた。
私は傷口を抉って具合を確かめる。
(今の雷撃……個人が使える威力じゃない。儀式魔術の規模だ)
爆発四散した廊下を一人の男が歩いてくる。
砂塵の中から悠々と現れたのは、現当主のバートン・エルスワーズだった。
バートンは若々しい笑顔で髪を撫で上げる。
「やあ、久しぶりだね」
「お前の顔なんて二度と見たくなかったけどな」
「酷いじゃないか。義理とは言え、我々は親子だというのに」
わざとらしく傷付いた演技をするバートンの態度には、明らかな余裕が感じられた。
これだけの虐殺を披露した私を前に、欠片も恐れを抱いていない。
バートンは実力に自信があるのだ。
そして、彼の内包する膨大な魔力がそれを虚勢でないことを表している。
(軽く試してみるか)
私は握り込んでいた鎖の残骸を不意打ちで投擲する。
鎖の残骸は、バートンに触れる前に雷光を受けて粉々になって消滅した。
会話中の攻撃にも特に驚かず、バートンは胸を張って解説する。
「雷魔術の結界だ。空気中の魔力を取り込んで形成しているから、消費はごく僅かで済む」
「それがどうした。自慢か?」
「いや、ただ紹介だ。君に知ってほしくてね」
バートンは親しげに歩み寄ってくる。
その粘質な目つきに私は言い様のない不快感を覚えた。
殺意や憎悪よりも気持ち悪い。
その正体に気付きたくなかった。




