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殺戮令嬢リア・エルスワーズの華麗なる侵略史  作者: 結城 からく


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第70話 融解する憎悪

 自分の顔に触れたマーサは、へばりついた皮膚を見て金切り声を上げた。

 その叫びが刺激となったのか、細い皮膚が変色してグズグズに溶けていく。

 胴体に縫い付けた頭部達も異臭を発しながら肉の液体と化していた。


 私は精霊刀を見せて説明する。


「お前が馬鹿みたいに攻撃してくる間、私は闇属性を混ぜた風を流していた。それを吸ったお前は身体が腐り始めたんだよ」


「ぐくっ……そ、そんな……」


「思ったより効くのが遅くて驚いたけどな。人体改造を甘く見ていたよ」


 マーサの身体が傾いて床に倒れ込んだ。

 腐った両足が千切れかけており、姿勢を保てなくなったらしい。

 漏れ出した風の魔力が彼女自身の肉体を徐々に切り刻む。

 その苦痛にマーサがくぐもった悲鳴を上げた。


 再生で肉体を治した私はゆっくりと立つ。

 あっという間に私達の立場は逆転した。


「ちなみに気付いてないと思うが、あんたの攻撃は再生しやすいように食らっていた。だから大した消耗はない」


「なぜ……そんなことを……ッ!?」


「優勢と思い込んだあんたが油断してくれるだろ。どんどん手の内を吐かせて、不確定要素を排除しておきたかったのさ」


 マーサが全身の魔力を制御し、活性化させようとしている。

 体内に入った闇属性の腐蝕を止めたいのだろう。

 しかし、腐蝕は容赦なく進む。

 もはや途中で食い止められる段階ではなかった。

 仮に回復できたとしても、ドロドロになった肉体では何もできない。


「やめとけよ。もう手遅れだ。苦しみが長引くだけだぞ」


「だっ、黙りなさい! 薄汚い平民がッ、私に指図を……ォッ!」


 振り向いたマーサの顔から、眼球が二つとも転がり落ちる。

 視覚を失ったマーサは発狂した。

 鼻の曲がりそうな悪臭を噴き出しながら、彼女はただ腐液を垂れ流す存在となったのだ。


「あんたには感謝しているよ。拙い部分もあったが、風の扱い方を学ばせてもらった。だからさっさと死んでくれ」


「この、この娘がァッ!」


 溶けた顔のマーサが咆哮を轟かせる。

 私はその額に精霊刀を突き刺し、脳を断つように斬り上げた。

 割れた頭部を晒して、マーサは静かに力尽きる。

 死体から禍々しい魔力が放出されて消えていった。

 たぶん精霊との契約が切れた証だろう。


 マーサを殺した私は、ふと精霊刀を振ってみる。

 風属性を込めた斬撃が天井、壁、床を切り裂き、そのまま上下の階まで達して倒壊させた。

 私は傾き出した部屋から慌てて退避する。

 そして精霊刀の魔力に意識を向ける。

 明らかに以前までとは異なる性質を宿していた。


(破壊と再生を繰り返す中で、マーサの魔力や契約した精霊の力を取り込んだのか)


 これは思わぬ収穫だ。

 作戦とは言え、何度も解体された甲斐があったらしい。

 気持ち悪い人体改造に興味はないが、新たな力が増えるのは大歓迎である。

 特に害もなさそうなので、今後も機会があれば積極的に狙ってもいい。

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