第7話 人生の転換
連れ込まれたのは薄暗い地下室だった。
そこには大量の薬品とその材料が保管されている。
バートンは赤い液体の入ったガラス瓶を押し付けてきた。
拒否する権利もないので私は中身を飲み干す。
舌の根に響く苦味があった。
私の表情から味を察したのか、バートンが険しい顔で忠告する。
「吐くなよ。効能を確かめねばならないからな」
その後、身体がだんだんと熱くなってきた。
肌が白い煙を上げて赤くなっていく。
体内から燃やされるような感覚に襲われ、私は息を詰まらせて呻いた。
苦しくて喋りたくなかったが、感想を伝えるのが仕事なのでなんとか言葉にして説明する。
それらを記録したバートンは二本目のガラス瓶を差し出してきた。
「薬の開発はエルスワーズ家にとって重大な事業だ。今までは奴隷を使い捨てにしていたが、お前のおかげで無駄が減ったぞ」
いつもと同じ話を聞きながら、私は薬品を飲み続ける。
身体の異変に気付いたらそれをバートンに伝えた。
バートンは顔色一つ変えず羊皮紙に記録する。
私が飲まされる薬はどれも危険な効果を持っていた。
だからこその実験体なのだろう。
マーサの虐待と同じで、不死身の私だけが適任なのだ。
ちなみに今回一番酷かったのは、血が水晶に変わる薬だった。
真っ赤な水晶が内側から身体を引き裂いて飛び出し、そのまま大樹のように成長するのである。
枝分かれした先端にへばりついた自分の肉片を見た時、さすがの私も嫌な気持ちになった。
そんな光景を目撃しても、バートンの反応は薄い。
顎を撫でつつ平然と記録を行っていた。
「ふむ、副作用が強すぎたか。調合方法も変えた方がよさそうだ」
ようやくバートンの解放された時、時刻は既に深夜だった。
私は布一枚を羽織って屋敷の廊下を歩く。
ひと眠りしたらすぐに起床時間だ。
あまり休めそうにない。
再生魔術があるので疲労は残らないが、精神的な部分は別だった。
毎日忙しいと気分が落ちてくる。
そこだけは貧民街で暇だった頃が懐かしかった。
自分の部屋に戻ろうとしたら、扉の前にノルフが待っていた。
月明かりを背にノルフは一礼する。
「リアさん、お疲れ様でした」
「まだ用があんの? もう寝たいんだけど」
「申し訳ありません。話はすぐに終わります」
ノルフがこっちに近付いてくる。
彼は静かだが力強い口調で私に尋ねた。
「戦闘訓練にご興味はありませんか」
「ノルフが戦い方を教えてくれるってこと?」
「左様でございます。私から旦那様に進言すれば、ほぼ確実に実現できるでしょう」
ノルフは嬉しそうに語る。
予想外の話の流れに私は首を傾げた。
「なんでそんな提案するんだ」
「不死身の兵士は将来的に有用な財産になる……というのが建前です」
「本音は?」
「あなたには運命を切り拓く力が必要だと思いました」
ノルフは断言する。
彼の目が、表情が何よりも真剣なことであると物語っていた。
「力があれば不条理に抗えます。それは選択肢が生まれることと同義です。今のあなたは無力ですが、やがて希望を見つけるでしょう。私はそれを取り逃がさないようにしていただきたいのです」
「うーん……よく分かんないけど戦闘訓練やるよ。ノルフみたいに強くなりたいし」
「リアさんなら私などすぐに凌駕するはずですよ。期待しております」
ノルフは優雅な笑顔で再び一礼する。
エルスワーズ家の人間の中でも、ノルフは嫌な感じがしない数少ない人間だ。
戦闘訓練で何が変わるか分からないけど、ひとまず彼のことを信じてみようと思った。




