第44話 最期の望み
極限状態の攻防の中、ついにレグゥの疲労が限界に達した。
大きな隙を逃さず、私は奴の胸に突き刺し貫く。
レグゥは口から血を吐いて呻いた。
「くっ……!?」
よろめくレグゥが精霊魔術を全開にする。
迸る風と炎と闇が混ざり合って私の肉体を破壊してくるが、気合で耐えて鉈を斜めに振り抜いた。
レグゥの胴体が大きく裂けた。
断面から内臓が飛び出した。
精霊魔術が途切れ、そのまま落下していく。
私も鉈を握ったまま一緒に落ちる。
地面に衝突した衝撃で、私は勢いよく転がった。
全身の骨が砕けたが即座に再生して復帰する。
一方でレグゥは悲惨だった。
上半身と下半身が分離して血肉を撒き散らしている。
奇跡的に意識は残っているようだが、ここからの回復は不可能だろう。
私は虫の息のレグゥに近付いて尋ねる。
「遺言はあるか。一言くらいなら聞いてやる」
「俺様の、部下を……殺さないで、くれ……」
意外な要求だった。
命乞いでもするのかと思った。
少し離れた場所では、生き残りの盗賊達が降伏していた。
竜から降りて武器を捨て、ノルフ、バジル、シェリーによって拘束されている。
「やけに素直だな。捨て身でお前を助けに来ると思ったが」
「俺様が、負けたら……降伏するように……命じて、ある……」
レグゥが敗北した時点で、他の盗賊に勝ち目がない。
だからこそ、余計な被害が出る前に降伏するように指示していたのだろう。
実力主義で非情な言動をしておきながらも、こういう所では仲間想いらしい。
その指示に完璧に従う盗賊達からも、レグゥがいかに優れた主導者であったのかが窺えた。
瞬きをしたレグゥが私に告げる。
「その武器を……差し出せ……」
「あ? そんな安い罠に乗るかよ」
「違う……俺様に、勝った……褒美をやろう……」
私は鉈を一瞥して考える。
仮にこれが罠だとしても、十分に対処できる。
そう結論付けた私はレグゥに鉈を差し出す。
レグゥは震える手で鉈に触れて、自身の魔力を注いでいった。
しばらくしてレグゥは手を離す。
「何をした」
「精霊の力を、付与した……今際の際の魔術だ……俺様が死んでも……決して、消えないだろう……」
「本当に褒美ってわけか」
「はは……疑うなよ……」
レグゥは苦笑した後、痛そうに顔を顰めた。
それから弱々しい声で要求する。
「煙草……左ポケットに……取って、くれねえか」
「自分で取れよ」
「へへっ……冗談、きついぜ……」
このまま無視してもよかったのだが、私はレグゥの胸ポケットから血の付いた煙草を取り出した。
それをレグゥにくわえさせてやる。
「ほら、吸えよ」
「すまねえな……」
レグゥはなけなしの精霊魔術で着火すると、ゆっくりと紫煙を味わい始めた。
彼は目を細めて幸せそうな笑みを覗かせる。
「はあ、最高だぜ……」
それが最期の言葉だった。
間もなく煙草が転がり落ちて消える。
こうして元騎士団長の大盗賊レグゥ・ボイヤードは死んだ。




