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学園編 94 「決心」



 極東が極東と呼ばれる以前、この世界には大陸が一つしか無いと思っていた時代。

 中央を何者も通れぬ毒の沼で隔たれたジンとチャルナは陸路に限れば唯一と言える相手の領地との境目、北と南に二つある砦の所有権をかけて争っていた。

 西のジンは西方崩御拳術を東のチャルナは東方古武術を、魔法の見つけられなかった極東は自らの体を鍛えることでそれを武器とした。鍛えられた極東人の体は刃を通さず、その拳はどんなに硬い岩石も砕く。

 言葉通り、極東人は互いの体を砕き合い、引き分けとなった。ジンが北の砦を手にし、チャルナが南の砦を手に入れたのだ。

 そこまで来て、両国は自分たちの国力の疲弊から戦争をやめた。今では両国は和平協定を結び実質戦争はなくなったのだが。

 それから何十年と経ち、人体について研究を進めたジーニンは自分たちに魔力というものがあることを発見した。しかし、それはすでに大昔に使われているべきもので、発見当時にはただ残滓が漂っている程度しか残っていなかった。そして、何代も全く魔力を使わずに暮らしてきたことで魔力を生産する器官が衰えてしまったのだろうという結論に至った。

 学者は何も無い所に突然火種を発生させる魔法を編み出した。しかし、拳法家はそれを一掴みで消した。

 学者は数人がかりで体力を使わずに木を伐採する魔法を生み出した。しかし、侍は一太刀の下に木を切り倒して見せた。

 学者は砂しかない平原で水を出す魔法を発見した。しかし、仙人は朝露一滴で事足りた。

 やがて、ジーニンから魔法は姿を消した。

 それから、また数十年だか数百年だかが経ち、ジーニンはついに自分たちのいる大陸以外にも大陸があることを理解した。その貿易の中で魔法の技術も伝わってきた。自分たちが鼻で笑った魔法よりも数段奥まで調べつくされた魔法の真髄、しかし拳法家は、侍は、仙人は再度鼻で笑って見せた。

 迫りくる炎をかいくぐり、圧し掛かる大水を払いのけ、吹きすさぶ鎌の風と共になりその拳を、刀を放つ。

 そうして、極東は魔法を手品と呼んで嘲笑った。


「簡単に説明するとこんな感じでござるよ」

 キリメは持ってきていたろうそくを元に戻しながら、ソラ達にどうだったか、と聞く。

 ソラが理解は出来たと答えるとキリメは満足そうに頷いた。

「そういうわけで、私も全否定はしていなくとも魔法より強いものもあるということを知っているのでござる」

 この意見に関してはソラも賛成である。魔力の全くないソラも能力が使えた時期はそこらへんの魔法など痛くはなかった。ソラは当たらなかったという表現が合っているが、リクは当たっても意に介していなかった。

「極東のサムライは大陸の魔法使いより強いってこと?」

 ジーニャは首を傾げる。

「全員ではござらぬよ。血の滲むような努力をした者たちの話でござる」

「斬女はどうなんだ?」

 ソラが少しイタズラっぽい顔で尋ねるとキリメは首を激しく横に振った。

「私なんてお侍さんや東の拳法家の人たちの足元にも及ばないでござるよ」

 少し困ったような笑顔を浮かべるキリメ。キリメの実力をある程度知っているソラも微妙な笑みを返すしかなかった。

 ソラとキリメが戦ったのは学園の入学試験の一度きり。キリメと対峙したソラには瞬きのうちにキリメが消えたようにしか見えなかったし、一か八かで思い切り後ろに飛び退っていなければ刀の一振りで戦闘不能にされキリメの点数にされていたことだろう。入学試験を思い出すとキッカのあの顔を思い出して一度殴りたくなってくるが。

 入学後、キッカのあの光景を思い出したソラはユークリウスに遅効性の麻痺毒や人体を腐敗させるような何か、ガスなどを発生させる魔法があるか聞いたところ一週間後に無さそうだと答えが返ってきた。わざわざ調べてくれたユークリウスに感謝しながらも、その時はキッカを能力者だと決めつけることで結論付けた。

 能力の無いソラならまだしもキリメを一瞬で戦闘不能にするのはよほどの能力だろうと思ったことは覚えている。だが、今回キリメの話を聞いてキッカが能力者か、それに近い何者かだという事はほぼ確定したと言える。魔術師よりも強い者は確かに存在するのだ。

 それを改めてキリメに話すとキリメは思い出したように頷いた。

「あの時はびっくりしたでござるよ」

 キリメは何故だか嬉しそうに笑う。キリメにもどこか戦闘狂なところがあるのかもしれない。

「入学試験かー、もう半年前なんだよね」

 ジーニャが思い出すように話す。ユークリウスとレイスもそれに頷いた。

「ボクはそこまで難しくなかったなぁ」

「精神乗っ取れる能力者が何言ってやがる」

 ソラがフィラデルにツッコミを入れる。すると、ジーニャは驚きの顔を見せた。

「ソラとフィラデルって能力者なの!?」

「え?言ってなかったか?」

「魔法が使えない、みたいなことは聞いた気がするけど」

 またもジーニャは記憶を辿るように明後日を見る。

「お前には話したよな?」

 不安になったソラはユークリウスに聞く。ユークリウスは頷いた。

「聞いたよ、能力者は悪魔の子だって言われてるけど偉人の中に数人の能力者がいたっていう書物も残っていたよって話もしたよ」

「それはー、したっけ?」

「ひどい、僕泣いちゃうかも」

「今度からはちゃんと聞くからよ」

「約束ね」

 ユークリウスは小指を出してソラに迫り約束をせがむ。観念したソラはそれに応じるとすぐに座らせた。

「それで、話を少し戻すけどよ、簡単にまとめると魔術師なんかよりよっぽど強い奴らはこの世界にゴロゴロいるってわけだな」

「キミは話を簡単にまとめすぎていやしないかい?」

「ニュアンスが伝わればいいだろ。国の重鎮が会議してるわけでもねえ」

「それもそうだけど」

 引き下がったフィラデルは少し不満そうにペシペシとソラの膝を叩く。やめろ、とソラがそれをはたき落とすと今度はソラの膝を枕に寝転び始めたのでついにソラは諦めて気にしないことにした。

「俺の兄貴は見たことあるよな?副会長と決闘してたんだし当たり前か。あの人も能力者なんだが、あの人は多分その内戦してた時期の侍や拳法家さえ足元に及ばない地点にいる」

 ソラは事あるごとに、まるで自分の事を自慢するかのようにリクの事をまるで神話の話でもするように大げさに言うが、ソラは実は一度もリクと戦ったことは無い。それに、リクはパワー型、ソラはスピード型のファイターだ。どちらも近接型なこともありソラが近づくのは危険ではあるがようは一発も貰わなければいいのだ。

「斬女、お前の師匠はどんな人なんだ?」

「剣術、武術、馬術、槍術すべてに精通した素晴らしい方でござる」

 スピードに技術を上乗せして完璧にリクの攻撃を避けながら攻撃を入れ続ける。あとは持久戦。目の前で今からお前を越えるから能力返せとでもいえば能力は返されるだろう。

 兄に勝てるかもしれない。そう思うと、ソラはいつの間にか立ち上がっていた。

「どうしたのさ、ソラ。突然……ふーん」

 膝で寝ていたフィラデルは文句を言おうとしてソラの顔を見てそれをやめる。

「休みが終わったら一度兄貴に挑戦する」

「あの人に勝てるの?」

 フィラデルは挑発するようにソラに聞く。ソラは拳を握ると頷いた。

「やってやるさ、勝ち筋が無いわけじゃねえ。そうとなったら修行だ修行!そのために今日は早く寝るぞ!」

「その前に夕餉でござるよ」

 皆がクスクス笑うのでソラも笑顔を浮かべた。


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