学園編 91
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その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「それで、犯人グループはどうなったの?」
「ユークリウスの魔法で七号車に貼り付けられたまんまだろ」
皆が避難している七号室にてレイスの治療魔法を受けながらソラが事の顛末を話すとすぐに避難した人たちには安堵の雰囲気が流れた。教皇国央都に着くのは明日の朝なわけだが、それまでは出来る限り固まっていよう、と七号室に学院生徒と女性が、八号室に男性が集まることになった。ソラとユークリウスももちろん八号室に行くかとなった時、戦える者は女性を優先的に守るべきとか何とか言いくるめられ二人は女性のいる七号室に居ることとなった。その割には傭兵さんは八号室にいるのだから言い訳ももう少し考えて欲しいものだが。
「央都の駅で降りるのはあまり良くないかもしれないね」
「停車も出来るだけ短い時間にしてほしいが、鉄道会社に迷惑を掛けるわけにはいかないしな」
「それに央都の真ん中なら大丈夫でしょう」
「そうだな」
「はい、終わり~。もう動いてもいいよ~、でも激しくは動かないでね~」
レイスの治療が終わりソラは起き上がる。それを見計らっていたかのようにすぐにユークリウスが横に座った。
「ソラ、本当に大丈夫?無理してない?」
「あぁ、大丈夫だ。ユークリウスの障壁に助けられた」
「よかった」
ソラの言葉にユークリウスは微笑む。それを見てフィラデルは危機感に体を震わせていた。
「どうした、フィラデル?」
「そのセリフはボクが言わなきゃいけないんだ」
「どういうことだ?」
「嫁が夫を助けてもっと仲良くなる場面じゃん!」
「まだお前とは婚約してねえよ!」
一気に七号室全体が湧く。ふと横を見ると、ユークリウスは曖昧に笑っていた。
そして、次の日の朝、列車は教皇国ケネッペンの央都の駅へと到着した。列車は五号車から七号車にかけてを切り離しノーレント共和国の都を目指し出発することが決定され安全面を考え兵士を数人乗せたうえですぐに発車した。
「ひとまず、俺らが出来ることは終わりか?」
教皇国の役人にも王国にも報告書は送った。八号車と三号武装車に関しては王国か教皇国の軍が回収に向かうそうだ。
「極東に行くんだから心の底から楽しまないとね」
「何度も言うが、バカンスに行くわけじゃねえけどな」
現在は部屋割りも見直され学院生だけに戻った七号室でくつろいでいる。そこまではしゃぐ気もないが、レイスに怒られるからとソラはベッドからほとんど動いていない。そこに何故だかみんなが集まって少し窮屈になりながらものんびりと列車の揺れに揺られていた。
「ねぇ、温泉は行くんだよね?」
よほど行きたいのかフィラデルはソラの脇腹を小突きながら聞く。ソラはフィラデルの手をはたくと大人しくさせた。
「行くかもしんねえが、今回の旅の目的は邪魔は入ったものの本来キリメの里帰りと俺の修行だ。バカンスは二の次だ」
「えぇ~、少しくらいいいじゃんか」
「その数日で俺と兄貴の差はさらに広がっていくんだよ」
「私も最近弓の練習して無いから一緒に修行しようかな」
ソラの言葉に感化されジーニャまでも修行をすると言いだす。元よりユークリウスとレイスはわがままを言わない子たちで仲間にはできない、とフィラデルはついにバカンスを半ばあきらめた。
「時間あったら温泉行ってよね」
少し拗ねたようにわがままを言って見せる。すると、ソラはため息を吐きながら渋々それを承諾した。
そんな雑談をしているとあっという間に夜が訪れ、長い夜も眠ってしまえば一瞬で、不思議と感じた違和感に目を覚ませば日は登り、すでにノーレント共和国の領地内に入っていた。これから少しして都に着くとまず荷物検査を受けることになる。教皇国で起きた事件とは関係なく元の予定に含まれていたことだ。その後、予約してある宿に一泊し朝起きたら飛竜便を使って直接極東に向かうことになる。
「なーんでマリーさんはことごとく男と女を同じ部屋に入れるかね」
荷物検査など早々に終わらせ先に顔を出しておこう、と訪れた高級宿屋で一行は大部屋に通された。トイレと風呂が同じ部屋にあるのは正直ソラとしてはいただけなかったが、他の人たちはあまり気にしていないようで、もう少し男が同じ部屋にいるという事を気にして欲しいくらいに自然と話が進んで行く。男として少し自信が無くなってきたソラだった。
「ベッド、五つしかないでござるな」
部屋に入るなり発した言葉に一同に緊張が走った。ソラの感じた緊張と他が感じた緊張がちょっと違う予感がしたのは気のせいだろうか。
「じゃあ、ボクがソラと寝るよ」
真っ先に名乗りを上げたのはフィラデルだった。
「フィラデルに任せると何しでかすかわからないから私がソラと寝るわ」
「私がユーと寝る」
何故みんなして男女が同衾する意見しか出さないのかと思いながら、ソラは――
「俺がユークリウスと寝る。それで解決だろ?ユークリウス、それでいいだろ?」
最善策を提示した。
「えっ、あ、うん、僕はいいよ。一緒に寝ようか」
そうして、その日の夜、一つのベッドに男二人が入り残りのベッドは女子たちに使ってもらうことになった。
「ソラ、起きてる?」
部屋の明かりも消されほとんど何も見えないようになってしまった真夜中、ユークリウスは眠れずにソラに話しかけた。
「二人は狭いな」
「話が噛み合ってないよ」
「あぁ、すまん」
「眠たいんだね」
眠たいながらも笑っているのかソラが小さく肩を震わせる振動が背中越しに伝わってくる。ユークリウスは寝返りを打つとソラの背中に触れた。ゆっくりとした心臓の鼓動が温かさを生む。
「どうした?」
「温かいね」
尋ねられたユークリウスは率直に思ったことを伝える。すると、ソラは再度小さく肩を震わせた気がした。
「良かった。俺、温度はあんま感じねえんだ」
「そうなんだ」
「あぁ、で、何だっけ?」
「寒くない?」
「俺は大丈夫だ」
「俺は……そっか。僕はちょっと寒いかも」
ソラは無意識に俺は、何てことを言ったのだろう。それとも、ユークリウスが深読みしすぎなのかもしれないが。
「寒いならもうちょいこっち来いよ」
「えっ、えっと、うん」
ユークリウスが返事を返したところでソラの方からスゥスゥと寝息が聞こえ始める。これ以上起こすのは悪い、とユークリウスはその温かい背中にもう少しだけ近づくと目を瞑った。
朝を迎え一同の準備が終わると宿屋を出る。女子は観光でもしていきたいと駄々をこねたが、飛竜便の時間が迫っているからということで急いで飛竜便の建物へと向かった。
「すいません、予約してあるソラ・アースです」
都の東の端にある飛竜便の建物はとても大きく中に入ると手乗りから成人男性よりも大きいものまでいろいろな竜たちが鞍を付けたり服を着たり忙しそうに走り回っていた。受付にてソラが名前を伝えると受付さんは紙を一枚取り出し必要事項を記入するように伝えると数枚の書類を持って受付の奥で作業をする人の所に駆けていく。
必要事項も書き終わり足元に絡んでくる小さな竜たちを構っているうちに受付さんは戻ってきた。
「今回はかなりの金額をいただいていますし場所も場所ですから許しますが、次からは人数の追加はもっと早くお願いしますね」
ちょっとだけ怒っているような表情で受付さんはソラに数枚の書類を差し出す。見ると、今回乗るのであろう三体の竜の性格や好物などが記されていた。
「竜舎まで案内します。こちらへ」
そう言って、受付さんは受付から出てくる。その後に従うと受け付けロビーよりもたくさんの竜がいる竜舎へと案内された。
「いっぱいいるね」
「ちっちゃい子もいっぱいね~」
一同は竜舎の様子を見てそれぞれの反応を示す。すると、受付さんが小さい竜を一匹手に乗せ説明してくれた。
「この竜舎には現在およそ四十種類、二百匹以上の竜が飼育されています。この子はリトルサラマンダー、貴方達が乗るのはスカイバード、飛ぶことのできる種です」
ソラもウェルミュレ時代に竜を一匹倒したことはあるが、あいつもペットに出来たのではないかと思うと惜しいことをしたと思わなくもない。今思えば何も悪いことをしてない竜を魔獣扱いされてるとはいえ力試しの為に殺したのはあまり良いことではないかもしれないが。それを考えるとソラもこの一年足らずで大きく変わったのだという事が改めて実感できる。どこかゲームの主人公のように魔獣は倒すべき敵で、自分は正義のために戦っていて他人の家のタンスの中の物を持っていってもお咎めが無いような、そんな気分だったが今ではすっかりこの世界の一人になっている。リクによって能力を封じられたことも大きいかもしれない。感情が昂った時には稀に発動できてしまうこともあるが、今のソラでは他人に頼らなければ何かを成すことはとても難しい。でも、列車の事件もあって少しだけ考えていたことがある。それは、能力があれば乗り越えられたかもしれないのに、能力が使えずに友だちを傷付けたり最悪の場合失くしてしまった時の事。後悔してもしきれないだろう。
「難しい顔してどうしたでござるか?」
この中では一番番号の高いキリメが小竜を見つめて動かないソラを覗き込む。ソラは曖昧に首を横に振るとまた歩き出した。
竜舎の一番奥まで歩いていくと、数体の翼を持った竜の前へと着く。四足歩行で鱗に覆われ翼の生えたそれは確かにドラゴン、もとい竜と呼べる風格と容姿をしていた。全体的に黒、薄茶色、灰色と色は暗いが竜たちの表情は一様に明るい。ソラが手を差し出すと、素直にその手に触れるように顔を差し出した。
「珍しいですね、スカイバードは我儘な種なんですけど」
「そうなんですね」
ソラの手を嬉しそうに舐める黒いスカイバードを見てそんな感じはしないなと思いながら、それでも怖ず怖ずとユークリウスはソラと一緒に手を伸ばす。すると、スカイバードはユークリウスの手を丸ごと咥え犬で言うところのお座りをした。
「えっと、名前は……クロース、放すんだ」
渡された書類の名前欄を見てソラが命令するとクロースはすぐにユークリウスの手を放した。
そこに残りの二匹も集まってくる。驚いた顔の受付さんはむしろ好都合とそのままで説明を始めた。
「その子たちに乗って半日弱で極東に着きます。その子たちはそこまで体の大きい子たちではないので二人ずつで乗ってもらいます。帰りは勝手に帰ってくるので心配しないでください」
「ありがとうございます、お姉さん」
スカイバードたちに襲われ受け答えのできないソラに代わってジーニャが返事を返す。それから注意事項をいくつか読み上げると他の担当にソラ達を任せ受付に戻っていった。
「それでは、二人組になってもらって、スカイバードに乗ってもらったら体を固定しますので」
担当の人にそう言われてソラはクロースの上からユークリウスの手を引き引っ張り上げる。それを見たフィラデルは少し悔しそうにしながらも、王子のような仕草で馬上、もとい竜上からキリメを引っ張り上げると必然的にレイスとジーニャが一緒に乗ることになった。
「それでは固定しますね」
その言葉にどうしても遊園地を思い出すソラだが、この世界には帝国を抜けば機械はそこまで発展していない。勉強のできるソラではないが、ソラの知っている範囲では機械より先に魔法があったため圧倒的に便利な魔法を補助するような物や魔力を使って動かすような物ばかりが発展していったイメージだ。
担当の人は一行と竜たちをひもで結びしっかりと掴まっているように指示をすると竜たちの手綱を引いて離陸場へと移動する。
先に離陸していく数体の飛竜たちを見送った後についにソラ達の番となった。
「心の準備は良いか?」
「僕は大丈夫だよ」
「高い所は平気か?」
「怖かったら抱きつくね」
「了解。フィラデルもキリメもジーニャもレイスも心の準備は良いか?」
それぞれ横に着く竜に乗る女子たちに声を掛ける。すると、元気な返事が返ってきた。
「大丈夫でござるよ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫、かな?」
「大丈夫だよ~」
一人心配な人もいるが、慣れてもらうしかない。
「よし、行くぞ。クロース、頼むぞ」
手綱を握り首元を撫でるとクロースは嬉しそうに翼を広げた。
「補助はいらなそうですか?」
「そうかもしれません、ありがとうございます」
担当の人に謝意を述べて残り二匹の頭に手を伸ばす。自分から撫でられるように近づいてきた二匹の頭を撫で頼んだぞ、と伝えると数歩離れて翼を勢いよく展開した。これで全員準備完了だ。
「クロースを先に飛ばしてもらえれば二匹はその後について行きますから!」
少し離れたところから声を掛けてくれる担当の人に言われたようにクロースに飛ぶように伝える。すると、クロースは歩き出しだんだんと小走りになり勢いが付くとふわりと飛び上がった。その後に続くようにグルーとキャッタルの二匹が飛び上がる。飛び上がる際に女子たちからは小さい悲鳴が聞こえたが、楽しんでいるようだった。
「じゃあ、半日頼むな、みんな!」
風切り音が耳を過ぎるせいで自然と大声になる。その声に呼応するように竜たちは楽しそうにいなないた。




