学園編 90
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その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「何が起きた?」
「後ろの方から聞こえた」
ジーニャが荷物の中から弓を出しソラに答える。
それに頷いてソラが部屋の扉を開けるとちょうど車掌が来たところだった。
「何が起こったんですか?」
「三号武装車が爆破されました」
「武装車はこういう時の為にあるんじゃねえのかよ」
「それが真っ先に狙われてしまえば対応も追いつきません」
車掌の言葉にソラは一つ舌打ちをする。それからユークリウスを呼んだ。
「ユークリウス、この列車の編成はわかるか?」
「牽引車、一号武装車、その次に人の乗る一から四号車、二号武装車を挟んで五から八号車、最後に三号武装車だったはず」
「車掌さん、五から八号車の客は?」
「五号車の十号室に一組、七、八号車にも一組ずついます」
「その人たちが危ねえ。ユークリウス、行くぞ」
「待って、私も――」
「女子は、ここで避難してくるほかの乗客を匿ってくれ。キリメとフィラデルは屋根の上に、車掌さんは前にいるお客さんたちをこの部屋に避難させてください。列車を止めてはダメです、奴らの思う壺だ」
ジーニャの言葉を遮って全員に指示を出すとソラはユークリウスの手を引き四号車を飛び出した。
ソラとユークリウスは連結部を渡り二号武装車へと入る。そこには真ん中に通路があるばかりで意味不明な機械に溢れ人はいなかった。
「無人なのか?」
「ごめん、鉄道についてはまだ資料も少ないんだ」
「無人なら助ける人数が減って好都合だ。先を急ごう」
「うん、そうだね」
頷き合って狭い通路を急ぐ。
また連結部を渡り五号車に入るとソラは十号室の扉を叩いた。
「大丈夫ですか!助けに来ました、避難してください!」
ソラが突然に扉を叩いたことに驚いたのか一瞬悲鳴が聞こえたが、十号車の客はすぐに扉を開け出てきた。
「おぉ、アース殿ですな。また命を救われようとは。私も神に恵まれている」
こういう時に顔や名前を知られているとやりやすい。
「四号車まで避難してください」
「わかった、私にも傭兵がいる。四号車に避難した後、防衛に協力させよう」
「ありがとうございます、俺たちはさらに後ろに向かいます」
返しを見るよりも早くソラは五号車を後にする。
それからすぐに七号車に乗り客室を訪ねると貴婦人が数人体を震わせていた。
さっきの人には傭兵がいるという事で自分たちの足で行ってもらったが、この人たちだけでは少し心もとない。奥の手として残しておきたかったが、ソラは自分の影に呼び掛けた。
「出てこい、ウルフ」
ソラの声に応えてソラの影から魔獣が飛び出てくる。ウルフはお行儀よくお座りをすると貴婦人たちに頭を下げて見せた。それを見て少しは気持ちが和らいだのか貴婦人たちがウルフを撫でる。すると、何も言わずともウルフは前の列車に向かって貴婦人をエスコートするように歩き出した。
「ウルフについて行ってください。四号車まで避難してもらえれば仲間がいます。女子もいますので、安心してください」
ソラの言葉に貴婦人は少し自然な笑顔を見せる。
「女子、だなんて懐かしいわね。貴方のことは思い出したわ。スタンピードの時に父が救われたの、感謝は後でしっかりと伝えさせて。後ろの両に行くのでしょう?帰ってきてちょうだいね」
「もちろんです」
「行ってらっしゃい、英雄さんとそれを支える賢者さん」
「いや、僕は決して賢者などでは……」
まんざらでもなさそうではあったが、ユークリウスはすぐに当初の目的を思い出すと後ろの両の方向へと向き直った。
「多分、敵がいる」
「わかってるよ」
「行くぞ」
貴婦人たちをウルフに任せ二人は七号車を出る。そして、そこで気づいたのは異様な熱さと光だった。
「熱い」
「こっち来て見て、三号武装車が炎上してる」
七号車と八号車の連結部に立ち二人密着して後ろを覗き込む。三号武装車はソラの思っていた数倍は大炎上していた。
「何でやられたんだよ」
「ごめん、僕も寝てたから」
「答えが無い質問だってあるんだよ、謝んな」
ユークリウスの腰を抱くようにして体勢を立て直すとソラは八号車への扉の前に立つ。
その時、中から聞こえてきた炸裂音にソラは手を止めた。
「おい、なんでそれがここにあるんだよ」
唐突に焦りの表情を露わにしたソラは連結部の手すりに登り大きく身を乗り出す。それを見てユークリウスは慌ててソラに抱きついた。
「何してるの、ソラ?」
「少しそのまま押さえててくれ」
そう言って、ソラはさらに大きく身を乗りだす。そうして見えた八号車の中では数人の顔の見えない犯人グループの中の一人がソラの思っていたものを持っていた。
「何で、SAAがこんなとこにある!」
「エスエーエーって何?」
「リボルバー銃、元帝国の対人兵器だ」
それを聞いてユークリウスも事態が分かったのか扉を見つめた。
「帝国の技術のほとんどは兄貴が規制したはずなんだ」
「どうしようか」
「中に一般人がいるかいないかの確認は出来ないか?一般人がいなければこの両を切り離しちまえば一先ずこの場は切り抜けられる」
「広域認知魔法を使えば中の様子を見れるかも」
思い出したようにユークリウスは手のひらに魔法陣を展開させると広域認知魔法を発動した。
「顔の見えない人が六人、縄で縛られてる人が二人いる。一般人がまだいるよ」
ユークリウスは手から魔方陣を消す。
「じゃあ切り離し作戦は使えねえな。他の案を……、最善の路線を探さねえと」
一刻も早く救出に行かねば一般人がさらに被害を被る状況がソラを焦らせる。目の前の扉から突入してしまえば慌てた犯人グループの誰かが一般人を巻き込んでしまう可能性がある。一般人の救出を最優先に動くとして――。
「ユークリウス、持ち上げるから屋根に乗って俺を引っ張ってくれ」
「わかった」
ソラに言われるままユークリウスはソラの手に乗って屋根に登りあがる。それからソラを引っ張り上げた。
「一般人はどこにいた?」
「一番後ろの十六号室のタンスの中だよ。今も仮面を付けた人が一人部屋の中に居る」
ソラのやりたいことを理解したユークリウスはすぐに広域認知魔法を発動するとソラに部屋内の状況を伝えた。
「俺に防御魔法を掛けることは出来るか?」
「まだ授業ではやったことないけど、やってみる。守護神よ、わが友を守りたまえ、”障壁装甲”」
ユークリウスが魔法を唱え魔方陣を起動するとソラの体の周りを紅いオーラのようなものが覆った。
「出来たよ」
「おぅ、ありがとよ、ちょっと突っ込んでくる」
「でも、これ以上は熱くて進めないよ?」
「大丈夫だ、俺は熱さには強いんだ」
右手の親指を立てるとソラは上の服を脱いでユークリウスに投げ渡す。
「援護頼んだ」
そう言うと、ソラは十六号室の上まで行きガラスを蹴り割り部屋内に突入した。
「なっ、なんだてめえ!」
ガスマスクをはめた男が驚いて一歩後ずさる。ソラはその顔を殴りつけ地面に叩きつけることで黙らせた。
まず一人。残り五人はこの部屋を守りながら戦えば一般人に被害が行くことは無い。これが俺の出来る最善策だ。
ソラが一人目を無力化した音が聞こえた犯人グループたちが何事だ、と叫び十六号室の扉を剣を構えるのを感じる。数秒物音を立てずにじっとしているとその内の一人が扉へと近づいてきた。
「そこに居るのはわかっている、出てこい!」
犯人グループの一人は扉の前で大声を上げる。その言葉に応えてソラは力いっぱい扉を蹴りつけた。前開きの扉はその衝撃に金具を吹き飛ばし勢いよく男にぶつかる。それによろめいた男をソラが殴りつけた。
「人質にしろ」
SAAを持った隊長らしき男がガスマスクの男たちに命令を下す。すると、男たちは各々の剣を取り出しソラに襲い掛かった。ソラは腕でそれを受ける。剣は障壁魔法に当たると火花を散らし跳ね返された。
「クソっ、魔術師か」
素手のソラにリーチの長い剣が襲い掛かるがソラにダメージは入らない。お互いにダメージの入らない状況で殴り合う中、再度炸裂音が鳴り響いた。
ガラスが割れるような音とわき腹への強烈な痛みがソラを突き抜ける。その衝撃にソラは数歩後ろに後退して膝を折った。
「知ってるか、魔術師?これは帝国の武器だ。防御魔法も一撃で貫通できる」
見ればわかることをペチャクチャと。しかし、ソラはダメージに動けなかった。
「しかも、頭に当てれば一発で始末できる。さっきも一人始末したところだ」
男は血溜まりに沈む貴族を指す。それを見てソラは何とか立ち上がると拳を握った。
「勇ましいな、お前の家族だったか?」
いやらしい顔で男は微笑む。家族ではなくとも、死者を冒涜することをソラは許せなかった。
「てめえら、ぶっ飛ばしてやる」
「そんな血だらけでか?」
「大人しくねんねしときな」
犯人グループの一人が鉄の棒でソラの脇腹を殴りつける。その痛みにソラは膝を付いた。そこへ――
「草木よ、我が敵を拘束せよ、”草木の鳴動”」
凛々しい声で呪文が聞こえると、列車の床から木が生えだし男たちを拘束した。
「ナイスアシスト」
腹を押さえながらソラは言う。すると、八号車へと繋がる扉からユークリウスが顔を出した。
「上手く行ったかな?」
「超上手く行った」
「よかった」
ユークリウスは安心したように笑顔になるとソラの元へと駆け寄った。自分が拘束した男たちには目もくれず撃たれてしまった人の前で少し手を組みソラの怪我を気にした。
「癒しの神よ、その癒しの片鱗を友に”簡易治療”」
ユークリウスの魔法でソラの傷跡は何とか塞がった。
「ごめんね、僕治療魔法は苦手なんだ」
「ありがとう、痛みには慣れてる」
「早くみんなの所に戻ろう。レイならもっといい治療魔法が使えるはずだから」
そう言って、ユークリウスは急いでソラに肩を貸した。
「そんなに急がなくても大丈夫だって」
変に急ぐユークリウスに、しかめっ面でもしていたかなと反省しながらソラは七号車に乗る。
その瞬間、二人の後ろを閃光が走り抜け七号車と八号車を繋ぐ連結部が吹き飛んだ。重い金属が地面に落ちて音を上げる。牽引車に引かれなくなり速度の上がらなくなった八号車と三号武装車はすぐにソラたちの乗る列車に置いて行かれた。
「あれ、問題になったりしねえかな?」
「不可抗力だから、正直に言って許してもらおう」
「そうだな」
戦闘の後だというのに、どこか気の抜けた二人はゆったりと四号車へと戻った。




