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学園編 87

“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てくる場合があります。

 その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。


 それから、島に向かってそのまま航海を続け港であったのだろう場所に船を着けると一同は上陸した。

 港に見えるとはいえ、街もなく木製の足場があるだけのその場で一同は同じ一つのものを見ていた。

「ようこそ、ここは機国エクスマーキナーです。私は、主から訪問者の案内を仰せつかっています。付いてきてください」

 棒読みでセリフを読み上げるその人物は、はたして人物と言っていいのかわからないそれは白い体を持ったアンドロイドだった。見た目はほとんど人間と変わらないが、肌の色は白一色。確かにわかりやすいアンドロイドだった。

「ついて行くぞ」

 そう言ってからリクが船に向かって腕を一度振る。それと同時に船に雷が落ちた。

「何やってるの?」

「どのみちこの船で帰ることは出来ない」

「なるほどね」

 フィラデルは理解しているのであろう反応を見てランピートは何一つ理解していなかったが、どうでもいいかと要件を後回しに放り投げた。

 白いアンドロイドについて森を歩いていく。しばらくして、一同に違和感を感じさせるとともに目の前に摩天楼が現れた。空飛ぶ自動車にやけに主張の激しいネオン、ドワーフの国よりも綺麗に整備された道はとても歩きやすかった。

「ステルス技術か」

「そうだよ」

 リクのつぶやきに答えるように白いアンドロイドが先ほどとは違う男の声を出す。一同がそちらの方を向くも、白いアンドロイドに変化はなかった。

「エクスマキナにようこそ、人間の皆さん。そして、日本人の方」

 その言葉と同時にリクは白いアンドロイドの首を掴む。それから、拳に力を入れるとそれを握りつぶした。

 残骸となったアンドロイドが整備された地面に転がる。その数秒後には清掃用であろうゴミ箱の形をした機械がそれを回収していった。

「王の兄貴、熱くならないでください」

 ランピートはリクに声を掛ける。リクは長いため息を一つ吐くと頷いた。

「そうだよ、あまり僕の子どもたちを殺さないでおくれ」

 今度は上空から男の声が聞こえそちらを見ると六枚の羽を持った白いアンドロイドが浮かんでいた。さっきのアンドロイドと違うのは銀色で西洋風な装甲を身に着けているところか。

 その装甲のアンドロイドは地に降り立つと六枚の羽を背中にしまい込んだ。

「案内いたします。こちらへ」

 見た目にあった声で喋ると装甲のアンドロイドはすぐに身を翻し歩いていく。一行は大人しくどの後を付いて行った。

 脚部のヒールがコツコツとアスファルトを叩く。しばらくその音を聞きながらついて行くと急にアンドロイドが話し出した。

「私たちは戦闘用に作られたアンドロイドです。これまでに幾度も島に侵入してきた人間たちを排除してきました。先ほどのアンドロイドは案内用です」

「私は戦闘用だから、そう簡単には負けません、とでも言いたいんですか?」

 至極真顔でランピートが尋ねる。すると、戦闘用のアンドロイドは首だけで少し振り返ると頷いた。

「私の名前はザラキエル。七体いる近衛戦闘アンドロイドの内の一人です」

「機械が一人とは、傲慢だな」

 リクも言葉を挟む。しかし、ザラキエルは気にしなかったのか、はたまた気にする心が無いのかそれには答えることなく歩き続けた。

「主がお待ちです。こちらへお入りください」

 そう言われて一行が示されたのは、かのパルテノン神殿を精巧に真似たような建物だった。近未来を表現したようなこの都市には似合わない。

 当たり前のように中へと入っていくザラキエルについて一行も中へと入る。中では、一つの大きな玉座と六体のアンドロイドが待っていた。

「いらっしゃい、エクスマキナへようこそ」

 ピリピリと少しノイズの混じった男声の機械音声が聞こえる。玉座に座る唯一の男性体のアンドロイドからだった。

「それはもう聞いた」

「じゃあ、世間話でもするかい?」

「いらん」

「それは、寂しいね」

 小さく肩をすくめると男性体のアンドロイドは腰のナイフを取り出した。

「ボクの真名は、デウスエクスマキナっていうんだ。この世界では当たり前かもしれないけど、機械に関して僕の右に出る者はいないだろうね」

「天使を侍らせて神気取りか」

「違う、僕は神だ」

「では、何故真名だけ名乗っておいて、開示は行わない?」

 ここに居る全員、ミネカツを除いてお互いが能力者だという事はだいたい察しがついている。フィラデルとソラがユケに固有空間に引き入れられたように真名開示は基本的に先に発動の出来た者の勝ちとなる場合がほとんどだ。では、ほんの少しの例外は何か。実力がかけ離れている場合だ。能力には距離や規模の違い、相性はあれど、そこに優劣はない。それでも、実力がかけ離れていれば能力者は本能的にそれを理解し真名の開示が出来なくなる時があるのだ。蛇に睨まれた蛙が動けなくなるのと同じく、死の恐怖に睨まれた人間は動けなくなる。もしくは……。

「開示しても意味がないからだよ。僕の能力は開示しても一見強くなることは無い。ちょっと量が変化する程度だ」

「そうか」

「それで、この国にはどういった御用事で?」

 立ち上がることなくデウスエクスマキナはナイフを投げる。リクはそれを取ると投げ返した。それがデウスエクスマキナの玉座に当たるとそれを粉々に破壊する。その衝撃波にデウスエクスマキナは無理やり立たせれる形となる。それと同時に前衛三人が武器を構えた。

「あー、こりゃ、頼めそうだな」

 笑顔のようなものを浮かべながらもデウスエクスマキナは舌打ちをかます。

「ランピート、ミネカツ、敵の近接兵装は高周波ブレードだ。一瞬でも斬られたら言え、撤退する」

「了解」

「承知」

 短い返答にフィラデルはランピートとミネカツの二人を見る。その顔は先ほどまでの人懐こいような顔とは違って、戦士と武人の顔だった。

「ザラキエル、ラグエル、レミエル、あいつらを殺せ!」

 デウスエクスマキナが吠えると同時にザラキエルが羽を展開し胸部装甲を開き光の線を放った。それはリクの張った障壁に当たって眩いほどの光と衝撃波を発生させ一行を覆う。

 しかし、ランピートとミネカツは横から迫るラグエルとレミエルに気付いていた。

 左右から挟むようにフィラデルを捕らえんとする高周波ブレードを二人は正面に捕らえると真向に斬り合った。金属同士がぶつかり合う甲高い音の後に耳をつんざくような不快音が響く。一瞬遅れて二人の様子を捉えたフィラデルは驚愕に口を開いた。

 高周波ブレードごと両断されたアンドロイドを抱きとめるミネカツ、ギザギザと尖ったオーラを腕に纏わせ敵の体を嫌な音と共に削っていくランピート。フィラデルが思っていた以上に二人は戦闘に特化した人物であった。

 光の線が無くなり敵の姿も見えるようになる。

「極東の日本刀に切れ味で勝てる武器などないでござるよ」

「”魔動鋸”は刃こぼれすればするほど攻撃力が増す。俺の腕を斬れなかった時点で逃げるべきだったな」

 倒れた二体のアンドロイドを見てザラキエルは胸部装甲を戻すと飛び上がった。

「殺します」

 ザラキエルは背中から高周波ブレードを取り出すと羽から火を噴いて一行へと飛び掛かった。

 ランピートとミネカツが一瞬構える。しかし、次の瞬間にはザラキエルはリクに首を掴まれぶら下がっていた。

「これは何だ?」

 リクはザラキエルの胸で白く光る何かを指でつつく。

「やめろ、放せ!」

 首を掴まれたザラキエルはしかし、呼吸は必要としていないのか両腕でリクの腕を捻じろうとし足はリクの頭部を蹴る。リクはそれを群がる蝿を振り払うように首を少し振るとザラキエルの胸に白く光る何かを無理やり引き抜いた。

 ザラキエルの体内とコードでつながったそれをザラキエルはリクの腕を押さえることで元に戻そうとする。しかし、リクの腕は一切止まることなくブチブチと音を立てながらそれを引っ張っていく。段々と苦しそうな表情になっていくザラキエルの顔にリク以外は顔を背ける。すると、リクは手を止めた。

「死に対する恐怖などないのだろう?苦しくなどないのだろう?人間らしい感情などないのだろう?なぜそんな顔をする?」

「…………」

 ザラキエルは答えない。ついにリクによって核の抜き取られたザラキエルはただの鉄の塊へと成り果てた。

「お前たちも何を機械相手に躊躇している。人間の形をしていれば魔道具を人間として扱うのか?」

 リクは振り返らず三人を叱責する。

「拙者の世界には八百万の神という考えがあります」

「ただ命令に従って苦悶の表情を浮かべただけの心の無い機械を付喪神とでも呼ぶのか?」

 痛い所を付かれたミネカツは黙る。その様子を見てデウスエクスマキナは呆れてため息を吐いた。

「大事なところで仲間割れなんてやめてくれよ。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル最後の仕事だ。あいつらを生きて返すな」

「カシコマリマシタ」

 四体揃った声で返事をすると四体は同時に飛び出した。杖を地面に突き刺したリクは必然的にそのうち二体を受け止めランピートとミネカツが一体ずつを受け止めるという形になる。しかし、リクの案の定さっきまでの三体とは違い力も強ければ剣の切れ味も高い。四大天使と呼ばれることはある。デウスエクスマキナはこの四体の天使には最高級の武器と義体を与えていたのだ。

 と、幾度か剣戟を繰り返したのち、突然天使たちがリク、ランピート、ミネカツを羽交い絞めにして拘束し始めた。元々羽交い絞めという解きにくい拘束に加えそれに手間取っているうちに天使たちは地面にアンカーを差し込みついには動けなくなってしまった。とっさにフィラデルはレイピアに手を伸ばす。しかし――、

「死にたくなければ何もしないことだ」

 フィラデルが非戦闘要員だとわかっているのであろうデウスエクスマキナが発した声にフィラデルは動かないことを選択した。

「当てが外れたが、まあいいか」

 デウスエクスマキナは一つ呟いて玉座を立ち上がる。それから障壁の中まで歩み寄ると背中から天使たちとは形の変わった高周波ブレードを取り出した。

「高周波ブレード、元の世界では医療用のメスくらいでしか見ることのできなかった技術だ。刀身を高速振動させることで切れ味と威力を増す」

「何が言いてえんだよ」

 ランピートはデウスエクスマキナを睨んで拘束から逃れようとするがびくともしなかった。

「話の腰を折らないでいただきたい。高周波ブレードはね、この世界でも、能力をもってしても再現が難しくてね。成功作はこの一本だけなんだ」

 そう言って、デウスエクスマキナは高周波ブレードを起動させた。静かな神殿に耳をつんざくような高音が響く。すぐに、デウスエクスマキナの持つ剣が赤みを帯びた。

「この剣に斬れない物はない」

 デウスエクスマキナはリクの胸にその剣を突き立てた。豆腐でも斬るかのようにすらりとリクの胸を刀身が通り抜ける。リクの口から赤い血がこぼれ出た。

「今回もダメだったね」

 デウスエクスマキナはリクの胸から剣を引き抜く。血さえ蒸発し跡は残っていなかった。

「フィラデル、この距離なら行けるな」

「行けるよ。真名はイス。未熟な精神も健全なる精神も我が元に集まれ”精神干渉”」

 次の瞬間、デウスエクスマキナの体が動かなくなった。

「愚かだな、最悪の可能性を考えていればよかったものを」

 羽交い絞めになったリクとは別のリクがデウスエクスマキナの後ろに現れる。リクはデウスエクスマキナの両腕を掴むと一息に引き抜いた。

「あがああぁぁぁ。痛い痛い痛いぃぃぃ」

 デウスエクスマキナは地面を転げ回ろうとする。それをリクは足で押さえた。

「ああああああ糞、糞、糞ぉ!騙したな!」

 赤くない血を千切れた肩から流しデウスエクスマキナは吠える。

「真名はデウスエクスマキナ!機械仕掛けのこの街は機械仕掛けの我である!”機械仕掛けの願い”」

 その瞬間、壁や天井を崩しながら街中に散らばっていたのであろう戦闘アンドロイドたちが飛び込んでくる。しかし、リクは顔色一つ変えず呪文を唱えた。

「我が名は帝釈天、我は天、天は我、我が勝利は天の総意”天帝の裁き”」

 唱えて終わると同時にデウスエクスマキナを含むその場にいたアンドロイド全てに雷が落ちその体を撃ち落とした。

「これで終わりだ」

 リクは両腕の失ったデウスエクスマキナを拾い上げる。しかし、すでにそれに意識は無かった。

「俺はここにいるぞ!」

 玉座の方から聞こえた声に一同は振り返る。玉座の上に、一人の少年が浮かんでいた。

「それが本体か」

「これで終わりだ!”物体創造・プルトニウム”!」

 少年は両手を広げて唱える。その一秒後、神殿に影が差し掛かった。

「何をした?」

「グラウンドゼロだよ」

 デウスは安心したかのように笑い声を上げる。一早くそれに気づいたのはフィラデルだった。

「お兄さん、上!」

 その声に一同は崩れてなくなった天井を見上げる。その先には、銀に光る巨大な立方体があった。

「全て終わらせる」

 デウスはザラキエルの残骸から羽を拾って空に向ける。それは、レーザーを出す部分だった。デウスは羽から出るコードを玉座を刺すと防御結界を張った。

「これが最悪の可能性だよ、予測していたかい?」

 デウスは満面の笑みで笑うとレーザー砲のチャージを始めた。

 リクは自分の障壁をそこに置き飛び出す。しかし、デウスの防御結界はそう簡単にリクの侵入を許してはくれなかった。

「聞け、フィラデル。二人の精神に干渉して今すぐこの島から出て出来る限り離れろ。その杖を持っていけ」

「でも――」

「私はギリギリで逃げる、構うな」

「わかった、またあとで」

 答えると、フィラデルはランピートとミネカツとともにその場を離れていく。それを見たデウスは鼻を鳴らした。

「仲間を逃がすなんて実に日本人らしい考えだ。その思考で死んで来た仲間を何人も見た」

「私が死ぬわけなかろう」

 リクの言葉に、デウスはさらにわざとらしく鼻を鳴らした。

「今僕がやろうとしていることの説明が必要かい?」

「プルトニウムにグラウンドゼロ、原子爆弾だな」

「そうだ、それも100メガトン級の大爆発だ」

 何が楽しいのかデウスはユラユラと足を揺らす。

「あと十秒でプルトニウムの落下が開始される」

「その心配はない」

 絶対絶命に見える状況もしかし、リクはついにデウスの防御結界を解除するとレーザー砲を奪い取った。

「チャージは完了していたか?」

 リクはレーザー砲をへし折る。中から大量の液体が流れ出た。

 リクはデウスを見下す形になる。これで戦いは終わりだろう。だが、デウスは顔色を変えずリクを見返す。どころか、突然に笑い出した。

「はっはっは、はっはっはっは!僕の勝ちだ!それは電解質溶液だ、プルトニウムが落ちればまとめてお陀仏だ!」

 それを聞いてリクは一歩後ろに後ずさる。

 その時、リクの背後にゲートが現れ一人の少女が現れた。

「お待たせ、お義兄さん」

 カミナだった。

「急ぎだ、上の物体を丸ごと消せ」

「了解」

 カミナが返事をすると神殿内がさらに曇る。上では落ちてくるプルトニウムの塊の下に巨大なゲートが出現しているところだった。

「待て、待てよ、援軍なんて聞いてねえ、ずるいだろ!」

「何十という数の天使に守られていた神が何を言う」

「糞ぉぉぉ!」

 自棄になったデウスはリクに生身で殴りにかかる。しかし、事も無げにデウスを掴むとリクは壊れかけた玉座にデウスを座らせた。

「ここで死ぬか?私に付いて来るか?」

 ゲートがついにプルトニウムの塊を飲み込み消える。神殿内が一気に晴れた。

「敵に情けでも掛けるのか?あの子たちを顔色一つ変えず壊していったお前が!」

「情けではない。お前の力をよこせと言ったんだ。それ以上でもそれ以下でもない。逆らえばお前とて殺す」

 リクは目を見開きデウスを見る。デウスはそれで諦めたのか玉座から飛び降りた。

「座って待ってろ。付いてくれば放射能汚染で死ぬ」

 言われた通りリクは玉座に座る。

 カミナはまるで王女のようにその横に立ち、待つこと二十分ほど。

 デウスは一人の少女を連れて戻ってきた。

「王、あんたは力が欲しいんだろ?」

「そうだ」

「じゃあこの子を連れていけ」

 デウスはその少女の背中を押すと崩れるようにその場に座り込んだ。

 白い肌、星の輝きにも負けない銀の髪に琥珀のような眼、デウスの連れてきた少女は人間だった。

「今、そいつを人間だって思っただろ?違う、アンドロイドだ。頭が良いんだろう?そいつは俺の最高傑作だ、上手く扱えよ」

 言い終わるとデウスはタバコの煙を吐くかのように音を立てて深く息を吐く。そして、神殿の床に寝転がると二度と動かなくなった。

「カミナ、島ごとしまえ」

「了解」

 カミナに指示を出すとリクはアンドロイドに一歩近づき膝を付く。すると、アンドロイドは小首を傾げた。

「お前の名前はメタトロンだ。来るべき時に備えて力を付けろ」

「了解、ご主人」

 メタトロンは頷くとデウスの心臓を拾い上げた。


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