学園編 86
“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「機会があったらまた来るね」
「えぇ、待ってるわ」
結局、手に持っていたものを全て買ったフィラデルの水着や洋服をランピートは持たされていた。
そして、フィラデルは着てきていたものを脱ぎ捨て真っ白なワンピースを着ている。およそ手作業で作られたものだとは思えないほどに精巧なそのワンピースは見ているだけで涼しさを感じさせた。
「それ、濡れたら透けちゃいそうですね」
嬉しそうに裾をヒラヒラさせながら歩くフィラデルを見てランピートは口を滑らせる。それを耳ざとく聞きつけたフィラデルはニヤニヤとしながら自分の体を抱いた。
「そんな目で見られていたなんて、驚きだなぁ」
「あ、いや、冗談ですよ。それに、極南国は極端に雨が少ないと聞きますし」
慌ててランピートは赤面しそうになる顔を背け両手を振る。
「まぁ、これからビーチに行くわけだし、服の上から見られたところで気にしないけど」
「それは、良かったです」
ランピートは苦笑いと愛想笑いが混ざったような顔を浮かべショッピングの荷物を担ぎなおした。
それから、二時間弱ショッピングを楽しんだ後、一度ホテルに荷物を置いて二人は海へと繰り出した。だが、楽しめていたのはやはりフィラデルだけのようで疲れ切ったランピートにはビーチの白さが目に痛かった。
「あぁ、綺麗ですねぇ」
「ボクが?」
「いえ、海が」
フィラデルのボケにツッコミを入れる元気もなく開いてる場所を見つけて荷物を置く。それから、パラソルを砂に刺し布を引くとフィラデルの手を引き真っ先に彼女をそこに座らせた。疲れていても女性への気遣いは忘れない、それがランピートという男である。
「いやぁ、ボクの周りにいるのは優しい男の人ばかりで嬉しいなぁ」
パラソルの棒を挟んで横に座るランピートに話しかける。すると、座ってやっと余裕が出たのかランピートは会話に応じた。
「それはあねさんに振り回されているだけでは?」
「こんな可愛い子に振り回されるなら本望でしょ?」
「否定はしませんね。着替えてきてはどうですか?」
質問と提案の応酬の果てにとりあえず水着になるかと荷物番を先に申し出たランピートを置いてフィラデルはパレオの水着に着替えた。
「どう?」
「ソラさんが見れば喜ぶんじゃないですか?」
「ボクの扱い方がわかってきたね」
それから二人でボーっと海を眺めて過ごす。こんな時間も悪くないな、なんてことを思いながら決して多くないバカンスに来ている富裕層を見ていると、不意にフィラデルがランピートに話しかけた。
「日焼けするからオイル塗って」
「はぁー、やっぱ来た」
「ほらほら早くー」
うつ伏せになってトップスの紐を解くフィラデルを出来るだけ見ないようにしながらランピートはオイル塗りにだけ専念した。
そして二日後の朝、港の船に集まった一行の中でランピートだけが異様に疲れたような顔をしていた。
「さて、無人島に出発しようか」
「あねさんは元気ですね」
「キミが男のくせに気合が足りないだけさ。さ、行くよ」
フィラデルがランピートの手を引き船に乗り込む。その後に続いてミネカツとリクが乗り込むと船を出発させた。
離れていく港をぼんやりと見ながら船尾で気を引き締めなおすランピート。そこへ、リクが歩み寄ってきた。
「平気か?」
「えぇ、大丈夫ですよ。人付き合いには慣れていますから」
「そうか」
「それで、その恰好は何ですか?」
今のリクの格好は体を隠すような大きなローブに、宝石のはめられた杖を持っている。
「魔力を御しやすくなるものだ」
「御しやすくって、王の兄貴はおじいちゃん魔法使いじゃないんですから」
「私は魔法使いでもある」
その言葉にランピートは一瞬固まった。
「冗談ですよね?俺に肉弾戦で勝てる魔法使いってもう化け物じゃないですか」
「そう呼ばれたことは何度もある」
リクにとってはどうという言葉ではなかったが、ランピートにはありえないことだったようで彼は口を開けて動かなくなってしまった。
そこへ、二人が話してるのを見つけたフィラデルが加わった。
「何話してるの?」
「私の格好に関してだ」
そう言われてフィラデルは一歩引いてリクの全体を見る。すると、何かを察したように数度頷いた。
「お兄さんほどの拳闘者が魔法使いなのは信じられないって顔だね」
「当たり前でしょう!俺、これでも単純な肉弾戦にはけっこう自信があったんですよ」
復活したランピートが身振り手振り騒ぎだす。今度は、それを聞きつけたミネカツが船尾に登ってきた。
「どうしたでござるか?戦闘前に仲間割れは死の予兆でござるよ」
少し諭すような口調のミネカツも、フィラデルから大体のことを教わり同じく数度頷いた。
「ランピート殿、我が国には、天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず、という言葉があるでござる。この言葉は本来力の優劣に使うものではござらぬが、同じことでござろう」
「え、どういうことです?」
「雷爵殿はすでに人と同じ尺度で測っていい次元にはいないという事でござるよ」
武人とも言われる極東の人間をしてさらに上の存在だと言わせるリクの実力もさることながら、ランピートはどこかその説明で納得していた。納得していたというより納得せざるを得なかった。実際、ランピートは一度リクに、肉弾戦で敗北している。それも驚くほどの大敗北。そこでリクの強さを知っていたからこそランピートはこの説明に納得できた。魔術師だから肉弾戦は苦手、前衛だから魔法はほとんど使えない、このセオリーに乗っ取っていようと関係ないのだ。元の能力値が10と1000では苦手な方の数値でさえ10の人間の数倍や数十倍に匹敵する。さらに、この男はどちらも苦手ではないだけ。常識もセオリーも通用しないだけ。ただそれだけのことなのだ。
「ただ、――」
今度はリクが口を開いた。
「今から行く場所は私でも生きて帰ることが出来るかわからない場所だ」
その言葉に一同は一瞬で笑みを解き仕事の顔になった。
「もうここで話しちゃえばいいでしょ?無人島の事を教えてよ」
フィラデルが提案するとリクは頷いた。
「今から行く島には機族がいる」
「貴族?」
「分かりやすく言えば、からくり人間、機械人間だ」
「からくり人形でござるか」
「極東にもあるんですか?」
「いや、人形を紐で操ってお芝居をする建物がある程度でござるよ」
「それは戦闘用ではないだろう」
話が脱線しかかったところでリクが制止の言葉を放った。
「機族は、木と布で作られたような人形とは違う。鉄と鉛と電気で作られた戦闘用の武器だ。数少ない報告では島に入るなり戦闘を仕掛けられるという報告が出ている」
「鉄の人形……」
「自我はあるの?」
フィラデルは訝しでな顔で尋ねる。
「おそらく、ほとんどの個体には無い」
「ほとんど?」
「そうだ、報告によれば隊長機のような唯一の男性体を守るように配置されていたのを船上から発見したらしい。しかし、島が小指の爪と同じくらい小さく見える地点から遠視の魔法で見ていたところ一体の機族と目が合い撤退したらしい」
「そんな距離から魔力を検知して、威嚇ですかね?」
「わからん」
「他に報告は?」
予測ばかり立てていてもしょうがない、とフィラデルは続きを促した。
「最後の報告だ。最重要事項だ。この島に訪れた、または近づこうとした者の七割は帰還してからも死んでいる。その家族や医者も一緒に死んでしまった例もある」
「まさか、精神的な攻撃を?」
「それで、ボクが呼ばれたんだね」
リクを通して、リクの知人に精神に干渉できる人物がいると聞いたウォーライズ王国はリクを隊長とした少数精鋭の特殊部隊を、隊員は全員リクが選び国に対して個人情報の開示はしないというリクの出した条件を飲んだうえで作らせた。
「精神的な攻撃をしてきた場合、フィラデルに防いでもらう」
「キミたちほどボクが強くないことも忘れないでよね」
フィラデルとて貴族として英才教育も受けていればレイピアの技術に関しては国でかなり上位に入る腕前だろう。フィラデル自身、その事は理解している。しかし、だからこそリクを始め今自分と共に無人島に向かう男三人の実力が自分など足元にうろつくネズミ程度だという事も理解できた。
「大丈夫ですよ、あねさん。何があっても俺が守りますから」
「女は一歩引いて男に守られるものでござるよ」
二人の言葉はフィラデルにとってありがたいものだった。
「ただ、私の予想が正しければ、今回フィラデルが能力を使う必要は無い」
「それはなんで?」
「正体は精神攻撃ではない可能性が高いからだ。それも、恐らく私にしか防ぐことのできない類のものだ」
「それは危ないんじゃないの?」
リクにしか防げないとなると他の三人が島に近づくのは危険ではないのか。リクは頷いた。
「私から十歩以上離れるな。それ以上離れれば死ぬ。助けることも出来ない。いいな」
「はい」
いつも通りともいえるが、リクの真剣な顔に一同は頷いた。
「王の兄貴、あとどれくらいで着くんですか?」
「30分もしないうちに着く」
「なら船首からなら見えるかもしれませんね。見てきます」
「拙者も共に」
ランピートとミネカツは船首へと走っていき、船尾にはリクとフィラデルだけが残された。
「お兄さん、ボクの頭にはソラからもらった知識が少しある。精神攻撃じゃないのなら一体何?あっちの世界のもの?」
「恐らく、放射線だ」
「放射線、えっと、原子炉……」
ソラからもらった記憶をたどっているのだろう。ある程度時間が経つとフィラデルはため息を吐いた。
「機械を動かすために原子炉を作ったの?」
「恐らくそうだ。あの世界の医療に関しては詳しくないが」
「こっちの世界ではどうやって処理を?」
「変死だ」
「放射能汚染はこの世界の医療レベルでは対応しきれない」
「常識が無いからだ。空気が酸素と二酸化炭素と窒素からなっていることも知らない。だが、だからこそこの世界ではそれも防ぐことが出来る」
リクは手を広げると魔力を集中させると、半径七、八メートルほどの半円状で半透明な魔法障壁を生み出した。
「コストが高いが、これで放射能汚染は防ぐことが出来る」
と、そこへ船首へと偵察に行っていたランピートとミネカツが帰ってきた。
「王の兄貴、それは何の魔法ですか?」
「敵の攻撃を防ぐものだ。何が来るかわからない。死にたくなければここから出るな」
「了解です」
「相承知」
答えると、二人は障壁の中へと入った。
「魔法は受け付けなくとも近接攻撃は通れば、中にも侵入される。戦闘時は、わかっているな?」
「任せてください」
「お任せ下され、雷爵殿とフィラデル嬢は守るでござるよ」
「こうやって一目で女ってわかってくれる人が相手だと助かるよ」




