学園編 74
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
助けを求める幼い声の主を助けようにもまずは探さないといけない。そのためにソラはユークリウスの肩を叩いた。
「よし、魔術協会を案内しながらここで何が研究されてんのかも軽く教えてくれ」
「突然やる気になったね。いいよ、僕も何でも知ってるわけじゃ無いけど教えてあげる」
三人は転送部屋を出て施設内を歩き出す。まずはたくさんの植物が置かれている部屋に入った。
「多分ここは見ての通り植物の品種改良とか培養をしているところだね。悲鳴を上げないマンドラゴラも作られているよ」
ユークリウスはヘッドフォンが隣に置いてある一つの鉢を指差す。
「そりゃ便利だな」
「でも、薬効は天然の物より低くなっちゃったんだ。だから、今は薬効の方に目を向けて品種改良が進められているんだって」
「なるほどな」
薬効が低くあるとわかっても研究自体は打ち止めされないということはそれでも十分に利用価値があるのだろう。
「知ってる?人間族だと悲鳴を聞くと失神しちゃうマンドラゴラをドラゴンはおやつ感覚で食べちゃうんだって」
ユークリウスはクスクスと笑いながら語る。ソラの知ってるドラゴンの居た場所には少なくともマンドラゴラは生えていなかっただろう。
「よし、次の場所だ」
マンドラゴラが助けを呼んでいた訳は無いからとソラはユークリウスに先を促した。
長い白い廊下を抜け、次の部屋に入る。そこはまるで図書室だった。首が痛くなるくらいの高さまでの本棚に隙間もないほどにぎっしりと本が詰められている。その中の数冊はカタカタと震えたりもしていた。
「すごい、これ全部魔術書だよ」
「すごいね~」
ユークリウスとレイスはキラキラした目で手を伸ばそうとする。その腕をソラが慌てて止めた。
「基本触るのは禁止だろ?」
ソラとは違って二人は魔術師だ。魔法に関してはやはり興味があるのだろう。
手を伸ばしてしまわないように気を付けながらもソラ達は大量の本の題名を見ていく。そこにこの部屋の担当の研究員が声を掛けた。
「生徒さんたちが触ってもいい魔術書がこちらに数冊用意してあります」
三人は研究員に付いて行く。すると、部屋の真ん中のテーブルに明らかに学園の生徒たちだとわかるような子どもたちが魔術書を開いて目を輝かせていた。
周りには何か起こったときの為に研究員が数人待機している。その輪に三人も加わり魔術書を一冊受け取った。
「ソラ、レイス、見て」
ユークリウスに手招きをされそれを覗き込む。しかし、ソラにはそれがさっぱりだった。
「なんて書いてあるんだ?」
「ソラも魔法言語の授業は受けてるでしょ」
ユークリウスは小さく頬を膨らます。担当教師じゃないんだからそんな顔はやめて欲しい。
「まだ慣れてねえんだよ、ユークリウスに頼んだ方が早い」
「そ、そっか、そうだね」
そして、ユークリウスはコホンとわざとらしい咳ばらいを一つするとそれを解説してくれた。
「これは確定因果の法則について書いてあるんだ」
「確定因果?」
難しい言葉にソラは微妙な顔をする。
「原因と結果は繋がっているよってことだよ」
「年取るから死ぬ、みたいなことか?」
「そう、それに死ぬから年を取る、ということも言える」
「俺らは、死ぬために年を取っているってことか?」
「屁理屈だと思う?」
ユークリウスは本で顔を半分隠し首を傾げる。ソラは一応頷いた。
「屁理屈でもあると思う。」
「……なるほどね」
「ソラちゃん頭良いのね~」
いつもより楽しそうに微笑んでいるように見えるレイスが声を挟む。ソラは肩をすくめて言った。
「いつも俺が頭悪いみたいじゃねえか」
「まあ、2だしね」
「それを出されると弱いな」
それから少し魔術書を見させてもらった後、三人は次の部屋に向かった。あの声の主もそろそろ心配になってくるところだ。
また長い廊下を歩き次の部屋の前まで来るとそこには研究員が待っていた。
「この部署では靴を脱いでいただきます。出入口はここしかありませんので後でちゃんと靴はお返ししますよ」
脱いでおいた靴が簡単に置き引きされる世界ならではの言葉だろう。
指示通り三人は靴を脱ぐ。ソラとは違い貴族ではないユークリウスとレイスは靴下は履いておらず裸足になる。それを床が冷たいねと笑いあっていた。
「あ、ごめん」
ソラはとっさに謝り靴下を脱いで靴に入れる。足の裏が一気に冷えた気がした。
「どうしたの~?」
突然謝ったソラに疑問を抱きレイスはソラの顔を見る。ソラは首を横に振った。
「何でもねえよ、行こうぜ」
おそらくソラだけ靴下を履いていたことを気にしてないどころか気付いてさえいなかったのかもしれないが、わざわざこちらから自分だけ靴下ですまなない、なんて言うべきではないだろう。温かくなりつつある足を前に出しソラは扉を開いた。
三人まとまって中に入る。案内された部屋の中が想像以上に寒かったからだ。おまけに転送部屋以上に暗い。自分がどの辺にいるのかも分かりにくかった。
「ユーちゃん、ソラちゃん、寒い~」
レイスは泣き言を言って二人にしがみ付く。豊満な物が二人の体に押し付けられた。実は、何がとは言えないがカミナはあまり豊満なほうではない。ソラには大きいも小さいも同じだけ愛せる度量があったが男として抗えない何かがあった。
しかし、今回ばかりはソラはすぐにレイスを自分から引き離しユークリウスに押し付けた。
「タスケテ……イタイ」
またあの声が聞こえたからだった。ソラはユークリウスとレイスの手を引いて早歩きで進んで行く。
色々な魔物の入ったガラスケースの間を縫って進み部屋の一番奥らしき場所へとたどり着く。
最奥では、恐らく零度以下の冷気がソラの腕の長さ程の分厚いガラスの向こうから漏れ出ていた。
「……イタイ」
今までで一番強く聞こえる声と感情。ソラは一度首元を掻きむしった。
「ソラちゃん?」
「ソラ?」
二人が心配してソラを見る。
ソラは大きく息を吸い込み吐き出した。
「離れていてくれ」
「でも……」
口では反論しながらも体が勝手にソラから離れていく。ユークリウスはとっさにレイスを抱き寄せるとうずくまった。
「”強打の構え”」
ソラは金色に輝く髪を冷気になびかせ腰を低く落とす。そして、力を溜めるとその分厚いガラスに拳を叩き込んだ。
拳の威力は優に分厚いガラスを貫通し全体をひび割れさせる。次の瞬間、淵の近くを残しガラスは砕け散った。それと同時に魔術協会全体に警報が響き渡る。
「お前たちは先に先生の所に行っていてくれ。俺はこいつを逃がしてくる」
すでに金色の髪ではなくなったソラは凍り付く床にしかと足を付け巨大な何かを撫でる。ユークリウスとレイスは声が出せなかった。




