学園編 73
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「ソラ、私と賢人会に見学に行くわよ」
「私と冒険者ギルドに行かない?」
ストレノス学園に入学して一か月ほど経過したある日曜日。ソラが自室で参考書とにらめっこをしているとジーニャとヒンネラが乗り込んできた。
「何の話だよ?」
ソラは肩をすくめる。すると、二人は本気で言ってるの、とでも言いたげな顔をした後揃ってソラのベッドに座った。
「とりあえず今日は鍵をかけてなかったことを褒めてあげる」
ヒンネラは微笑む。一度、普通に鍵をかけていたら扉を魔法で吹き飛ばされて弁償が全てこちらに来たことのあるソラとしては当たり前の行動だった。
「ソラ、どうせ職場体験の場所まだ申請して無いでしょ?私と一緒に冒険者ギルド行こうよ。ガンドもキリメちゃんもいるよ」
「いいえ、ソラは私と賢人会に行くの、申請書は書いてあげたわ。あとは貴方が提出するだけよ」
ジーニャはソラの手を取り上目遣いで訴え、ヒンネラは紙を差し出して微笑みかける。
果たして、ソラの出した答えは――、
「ちょっと、……お出かけしてくるね?」
二人を払いのけるとソラは足早にスペード寮を後にした。
「職場体験?」
ソラに突然の家庭訪問をされたユークリウスは首を傾げる。
「玄関先で悪いが、あんまり時間が無いんだ」
「うん、今日の十八時が締め切りだしね」
ユークリウスの家は王都の北の住宅街の中にある。学園を出たソラは一直線にここまで走ってきていた。
「お前はどこに行くのか聞いておきたくって。出来れば、誰と一緒に行く予定なのか、とかも教えてくれると助かる」
「誰と……ジーニャが迷惑かけてごめんね」
ユークリウスはその爽やか系イケメン顔に苦笑を浮かべる。ソラは首を横に振った。
「俺だって本気で嫌だって訳じゃないし、そもお前のせいじゃないだろ。たまに息抜きしたいってだけだ」
「そっか、僕は魔術教会に行く予定だよ、レイスと一緒にね」
「よし、俺も魔術教会に行く」
「じゃあ一緒に見て回ろうか、ソラ、何も調べてないんでしょ?」
「あぁ、頼む」
「施設までは会長もいるらしいし、安心だけどね」
「会長って、生徒会長と行く約束付けたのかよ?」
「施設までは魔術教会に行く生徒皆で行くんだよ?」
フローレンツ先生の言うことを全く聞いていないソラにユークリウスは少し困った顔を見せる。しかし、心なしか満更でもなさそうではあった。
「はーい、皆さーん、魔術教会に行く子たちは集まりましたかー?お友達がまだ来ていなかったら教えてくださいねー」
生徒会長が心底楽しそうに学校の東門に集まった一年生たちに声を掛ける。その横では黒い男子用学園制服に身を包んだリクが点呼をしていた。
「会長さん、私も居ますから大丈夫ですよ」
引率の先生が生徒会長に声を掛けていた。
「おはよう、ソラ」
先生と生徒会長の動きをボーっと見つめていたソラに声が掛けられる。振り返るとそこにはレイスとユークリウスが立っていた。
「おはよう、お二人さん」
「ソラちゃんおはよ~」
「ソラが早いなんて珍しいね」
「ジーニャに叩き起こされたに決まってるだろ。ヒンネラ起こしてあげないとまた怒られちゃうよ、って言葉付きでな」
「それは大変だったね」
「早起きは苦手だからな」
「それでよく一限目に間に合うね」
「ジーニャに叩き起こされてるんだよ」
「それは起こしてもらってるの間違いでは?」
「そうとも言う」
「そうとしか言わない気がするんだけど、そんな事より点呼しているみたいだから僕たちは行ってくるね」
「俺の分も頼むわ」
「わかった」
いつも通り困ったような笑顔を浮かべるとユークリウスはレイスとリクの所へと歩いていった。
試験からずっとソラが寮生活を選んだのもあってリクとは会話をしていない。それで困ったことは特にないが、以前より話しかけづらくなったのは確かだろう。きっとリクから話しかけてくることは無い。奪われた能力を返してもらうには四年間で認めてもらわなければいけない。焦らず、ゆっくりとなんて言ってはいられないが力を付けていかないといけないわけだ。もう既に一か月が経過した。何か事を起こさないといけない。
「行きますよ皆さん、東の転送ゲートまでは歩きますからね。はぐれないでくださいね」
引率の先生がいるのにも関わらず生徒会長は生徒たちを率先して引率する。先生はそれを見て列の一番後ろに加わった。引率を生徒会長に任せるということだろう。
確かに、生徒会長はスタイルもよく勉強も出来て男子にも女子にも人気だ。そんなことを考えながら前習えで歩いてると突然レイスが顔を覗き込んできた。
「ソラちゃん朝からボーっとしてるけど大丈夫~?体調悪いの~?」
「いや、大丈夫だ、体調は少し眠いのを除いて万全だ」
「それは体調悪いに入るんじゃないのかな?夜更かしでもしてたの?僕からジーニャに言おうか?」
ユークリウスはソラに何かあるとジーニャかヒンネラのせいだと思いがちだ。
「もう少しわがままに過ごせよ」
「え、どういうこと……?」
ユークリウスは戸惑いの表情を見せる。するとレイスがそのわけを説明し始めた。
「ユーちゃんは五人兄弟の長男なの~。弟たちの世話をするうちに周りの人を気遣うのが普通になっちゃったの~。わざとじゃないから嫌わないであげて~」
レイスは少し笑いながら話す。ユークリウスはそれが恥ずかしいのか頬を赤くして俯いた。
「なるほどな、優しいのは良いじゃねえか。お前が損して無けりゃ俺は構わねえよ」
「うん、ありがとう」
それから毎日会うわけでは無い二人との会話に華を咲かせていると、すぐに王都の東の転送ゲートに到着した。
転送ゲートのある建物は元々倉庫だったものを改造したような構造で、人間用の通用口の他に高さ五メートルくらいの大きな扉があり今回は人数が多くそちらから通された。
「一斉に飛びますので出来るだけ固まってくださいねー!」
生徒会長が一年生に声を掛ける。その横では生徒会長に抱きつかれたリクが無表情で立っていた。
ところで、とソラは首をひねる。
「ユークリウス、こんなとこで何やんだ?」
「空間属性の魔法を応用して荷物や馬車、人間を遠くに転移させるんだよ」
わかりやすい説明にソラは頷いた。それと同時に、石敷の床に青い字で書かれた魔法陣が浮かび上がる。
それを見てユークリウスはソラの腕を叩き床を指差した。
「これはね、魔法言語って言ってね、魔法陣には色々な字や文様を書いて魔法のプログラムをするんだけど、すごい人は魔法陣を見ただけでその魔法を当ててしまうんだ」
ユークリウスは楽しそうに語る。ソラも、やっぱどこにでもすごい奴はいるんだな、と頷いた。
「ユーちゃん楽しそう」
こちらも楽しそうにユークリウスを見つめるレイスのつぶやきは小さく、周りのざわめきにかき消されていた。
やがて、一同の周りが眩い光に包まれる。瞬きをして次に瞼を開けるとそこはすでに違う建物の中だった。壁の素材も違えば、明るさもガラッと変わり暗い。そんな中、男性の声が部屋に響き渡った。
「いらっしゃいませ、ストレノス学園の生徒の皆さん。これは録音です。この部屋を出て、ぜひ魔術教会を見学して行ってください。見学の生徒の為に各部門に一人対応する者を用意させています。備品には基本接触禁止でどうぞ楽しんでください」
声が切れると一同はそれぞれどこから回るかと話を始める。
「皆さん、二時間後にここに帰ってきてください。時計が無ければ貸しますので声を掛けてくださいね」
引率の先生がみんなに声を掛ける。それを受けて幾つかのチームは先生の近くに寄っていった。
「ソラ、時計持ってる?」
「あぁ、時計はある」
ユークリウスに聞かれてソラはリクから貰った懐中時計を取り出して見せる。
その瞬間にソラの脳内に小さな声が響いた。
「…………ケテ……タスケテ」
「おい、お二人さん、今の聞こえたか?」
ソラはユークリウスとレイスに聞く。しかし、二人は首を横に振った。
「……ダレカタスケテ」
その幼い声は確かに助けを求めている。
「んじゃ、英雄の出番かね」
ソラは肺にたまった悪い空気を一気に吐き出した。




