学園編 72
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「これより、第一回生徒会を始めます。会長、よろしくお願いします」
学園の制服を着用し腰にレイピアを下げた女生徒が生徒会室に集まった者たちを見回す。その女生徒の言葉にうなずくと横に座っていた女生徒が話を始めた。
「生徒会長ミコ・サタウ、四年生でハートのAです。一年間よろしくお願いします」
肩甲骨まで伸びたストレートの黒髪をさらりと肩から落とし礼をする。顔を上げると一同を見回して笑顔を浮かべた。
生徒会室には円卓とイス以外は基本的に何もない。だからこそ、それぞれの服や携帯する武器がとても目立つ。会長のミコのイスの後ろにはやり投げに使われるような真っ白な槍が立て掛けてあった。
「一年生の皆さんは初めてなので順番に自己紹介をしていきましょう」
そう言って会長のミコは座るとさっきの女生徒をどうぞ、と促した。
女生徒は異論は無い、といった風にすぐに立ち上がる。
「副会長シャリア、四年生ダイヤのAです。」
肩まで伸びた銀髪と睨むような細い目が特徴的な女子生徒だった。
続いて、体に炎を纏わせた男が立ち上がる。
「四年スペードのA、レッド・ポールだ。よろしく」
面倒見のいい明るい先輩感がとても強い。次の男は大きなため息と同時に立ち上がった。
「四年クローバーのA、バートン・チュリリオットだ」
右腕にだけ付けたアームカバーが特徴的なドラゴンスレイヤーの一族。代々ドラゴンを相手にし続けてきたが、固有魔法”火竜の翼”を使うポール家とは専ら犬猿の仲という噂である。
「四年スペードのジョーカー、アルテミス」
剣聖の家系で学年に二枠しかない特待生として学園に招待された天童。腰に下げられた聖剣に斬れない物は無いと言われている。
「四年ハートのジョーカー、ウェル・グリデンです。よろしくお願いします」
グリデン家。同じく特待生として入ってきたこの少年は王都を守る防御結界を代々張り続ける一族である。
「四年生は終わりね。次、三年生さんお願いします」
心底楽しそうな笑顔を浮かべて会長のミコが三年生のAに話を促す。イスに巨大な槍斧、ハルバードを立て掛けた少女が無言で頷いた。
「三年ハートのA、キンネ。キンネ・シューリズム」
長く伸びた桃色の髪をなびかせて小さく礼をする。キンネが座ると今度は鎧が立ち上がった。
「三年ダイヤのA、ダイア・ローレラ」
二メートルを超える鎧には似つかわしくない幼い声が鎧に反響して部屋に響く。ローレラ家は代々金属を自由に操れる。それは能力ではないのかと言いたいが、平民と貴族ではやはり対応が違うらしい。
「フォルファ」
ソラのスペード寮の歓迎会にも現れたピンクの熊の着ぐるみ。三年生スペードのAで、この学園で二年間寮生活をしているのに誰も中を見たことが無いらしい。
「三年でクローバーのA、テルビス・クローバーです。よろしくお願いします」
テルビスは薄緑の男にしては長めの髪を揺らして礼をする。クローバー家は貴族四家と呼ばれる者たちの一家だ。クローバー家、スペード家、ハート家、ダイヤ家は皆王族に意見できるほどに権力を持った建国からの貴族家なのである。
「三年スペードのジョーカーのテントウ・ダーキラです。好きなものはイチゴです!」
その明るい性格と顔とは裏腹にダーキラ一族は闇属性魔法を生み出した一族である。限りなく黒に近い紫の髪だけはそのイメージに合っていた。
テントウが座ると次は両腕に光る輪をはめた男が立ち上がった。
「三年ハートのジョーカー、ライトだ、よろしく」
ライト本人は自分の事を人間族と天使のハーフだと言うが、真相は校長と教頭しかわかっていない。もはや、学園に居ながら七不思議になったほどの男であった。
三年生も終わり今度は二年生に移る。
最初に立ち上がったのは腰にファルシオンを下げた十二、三程度の少女だった。
「ィラ、ハート」
無口な褐色少女はすぐにイスに座りなおす。すると、すぐにその横の少女が立ち上がった。
「二年生ダイヤのA、パスィ―です、お願いします」
またも見た目だけで言えば十二、三程度の少女が礼をする。しかし、その少女は深緑の軍服をしっかりと着こなしており肩には階級章が付けられていた。
「二年スペードA、マイネンです」
本人に特にこれといった特徴は無いが、魔力が抑えられないのか足元には草やツルが生え始めていた。
「二年クローバーA、ウォンタです。よろしくお願いします」
執事服を着た二メートルほどの青年が綺麗なボウ・アンド・スクレープを見せる。貴族の下について長年育てられてきたのは一目で理解出来た。
「二年ダイヤのジョーカー、プロイ・ハブ。あのハブ家です」
少年は礼をして座る。あのハブ家とは召喚魔法を生み出した一族の事だろう。ある意味、その魔法のせいで異世界から勇者が召喚され何人も魔王に殺されていると言える。一部の者たちからは嫌われている一族だった。
「二年ハートのジョーカー、ダン、よろしく」
縮れ髪の青年が礼をして座る。これまた不思議な青年で拾って育てた貴族曰く、空から降って来たらしい。
「さて、在校生の皆はこれで終わりね。恥ずかしかったら名前だけでもいいけど、一年生の皆にはこの学園で何がしたいか教えてもらえると嬉しいです」
会長のミコは一年生に笑顔を向ける。一年生一同は小さく頷いた。
「では、まず私から」
そう言って、最初に立ち上がったのは白い騎士制服に身を包んだ少女だった。
「スペードのA、魔人の少女リリスお嬢様の騎士をさせていただいております、アルマと申します。一年間、ならびに四年間よろしくお願いします」
アルマは四十五度の最敬礼をする。会長のミコはアルマに向かって頷くと彼女を座らせた。
「次は私が行こう」
そう言って今度は金髪オールバックが立ち上がる。
「クローバーA、フォイスト・ロー。いかにも、あのロー家の一子である」
確かロー家は子供に恵まれず子どもはフォイストしかいなかったはずである。
「えっと、一人息子?」
遠慮がちに会長が尋ねると、フォイストはハッとして会長に頷いて見せた。
「それです、会長」
フォイストは整った顔面、恵まれた体型とは違い頭はあまり良くないらしい。
会長に言われてフォイストは大人しくイスに座る。すると、すぐに次の者が立ちあがった。
「ハートのA、リンリンいうネ。異文化交流?を、しに来たアル。よろしくアルヨ!」
お団子ヘアーにチャイ語に訛った言葉遣い、イスに立て掛けられた大刀からすぐに極東国から来た者だと言う事は理解できた。
今年から特例として魔人の受験を許可するのに合わせて他の国からの受験を許可したところ極東国が興味を示したのだ。
リンリンはぴょんっとジャンプするようにイスに座りなおす。それを見て次はリクが立ち上がった。
「スペードのA、リク・アース。王から英雄の家名を賜りました」
そこから言葉をつなげることなくリクはイスに座る。しかし、その言葉に家名を持った者たちは体を震わせた。
「ハートのジョーカー、ファラ。おじいちゃんに入れって言われたから来ただけ」
ファラの言うおじいちゃんというのがこの学園の校長、大賢者その人の事である。過去にその溢れる魔力と魔法の才で偉業を成し遂げ王から家名を賜るという場面で大賢者は家名の代わりに後の英雄を育てよう、と学校を賜った。ファラはその子孫というわけだ。
「クローバーのジョーカー、ウルテナ、よろしくお願いします」
何かに緊張しているのかウルテナと名乗った少年はしっかりと前を向くことを避けているようだったが、この少年もアルテミスと同じく剣聖の家系だった。アルテミスとは違うものであるが腰には一本の聖剣が下げられている。ウルテナは小さく礼をするとすぐに席に着いた。
「皆さんありがとう。この場で何かコメントするのはやめておくわね。時間も掛かっちゃったので今日の生徒会はこれまでにします。リク・アースさんだけはもう少しお話ししたいので残ってください」
会長は言いたいことを並べると他の者たちには解散してください、と伝える。言いつけに従いリクはイスから動かずに待った。
やがて、会長、副会長、リク以外の全員が退室すると会長が口を開いた。
「シャリア、あなたも外してくれない?」
「会長、大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ」
「わかりました」
副会長は生徒会室を後にする。会長はそれを見届けてから再度口を開いた。
「こんにちわ、リクさん」
「こんにちわ、会長さん」
大きい円卓の反対から声を掛け合う。それでも他に音の全くしない生徒会室では大声を発さずとも声は届いた。
「何からお話ししましょうか?次の時間は講義はある?」
「ありません」
「そう、よかったわ」
会長は微笑む。リクは顔色を変えずに会長を見つめ返した。
「色々お話ししたいことがあるんだけど。男の子ってやっぱミステリアスな女の子の方が好きよね?」
会長は首を傾げる。リクは小さく肩をすくめた。
「好み次第かと」
「それもそうね、じゃあ単刀直入に行きましょう。わたし、あなたに一目惚れしたの。一年間わたしの下で動かない?」
「ことわ、……いえ、条件がありますがいいですよ」
リクは頷いて条件を伝える。すると会長は、それは楽しみね、と二つ返事で承諾した。
「ありがとう、一年であなたを落とせるように頑張るわね」
リクは会長と少し会話をした後、席を立ち生徒会を後にしようとする。そこへ会長は一言声を掛けた。
「じゃあ、お願いね」
「お任せください」
振り返らず答えると、今度こそリクは生徒会室を後にした。




