学園編 69
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
「きゃっ」
「何が起きた?」
「慌てずに目が慣れるまでは動かないように!」
一気に真っ暗になるスペード寮だったが、冒険者の子どもたちは流石非常事態への対応に優れているらしく共同リビングはすぐに静かになった。
それはソラも例外ではなく、ソラはキリメの手を取るとすぐに自分の方へと引き寄せヒンネラに声を掛けた。
「落ち着けよヒンネラ、原因がわかるまではイスに座っていろ」
「ソラ?ソラ?そこにいるの?私暗い所は苦手なの。」
ヒンネラは不安そうな声を出してソラの声がした方をまさぐった。
「おい、やめろ、それは俺の顔だ」
ソラは空いている方の手でヒンネラの手を掴む。それで安心したのかヒンネラの方からは小さい安堵のため息が聞こえた。
「そ、ソラ殿?私は夜目が効くから大丈夫でござるよ」
今度は遠慮がちにキリメが声を上げる。ソラは慌ててキリメから手を離した。
寮の共同リビングは建物の内側に作られており窓は無く、電灯が消えると途端に何も見えなくなってしまう。
「私が原因を探ってくるでござる。ソラ殿はヒンネラ殿と一緒に居てあげて欲しいでござるよ」
そう言って、キリメがテーブルから離れようとしたその時――、
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
共同リビング一角から悲鳴が上がった。とっさにソラはそちらに顔を向ける。そこには、火の玉が二つ飛んでいた。
「ね、ねえ、ソラ、あ、あれ、火の玉よね?私お化けは嫌いなの!」
ヒンネラはソラの腕にしがみ付く。
こうなってしまっては力を借りることは出来そうにないしソラ自身も動けない、とキリメの方に顔を向けるも――、
「わ、私もお化けは無理でござるー!」
キリメまでソラの腕にしがみ付いてきた。
「おい、お前ら放せ動けねえよ」
しかし、火の玉が段々と近づいてくるせいでヒンネラとキリメはソラにさらに強くしがみついた。
あと二メートルほどで火の玉に飲まれるというところで、ソラたちの目の前を深紅の一筋が通り過ぎた。
「英雄が、この様か」
炎を纏った剣を持ったその青年は机の上からソラを見下して鼻を鳴らす。ソラもそれを睨み返すと青年は机を飛び降り火の玉に向けて剣を構えた。
それに反応して火の玉が燃え上がり人の形をとる。それはさらに燃え上がると青年に向かってその腕を振った。青年は平然とそれを炎の剣で受け止めた。
それからも青年は燃え盛る者の攻撃を受け止め続ける。
しかし、呆然と見惚れていたソラは青年の小さな舌打ちでその意図に気付くことが出来た。戦闘能力の無い生徒たちを避難させろ、と言ってるような気がしたのだ。気のせいでも、他の生徒たちを移動させないことには青年も本気で剣を振れないだろう。
思い立ったが吉日。ソラはすぐにキリメとヒンネラを避難させることにした。
キリメもヒンネラもソラに引っ付いていたので歩きにくくはあったが、すぐに避難させることが出来た。
ソラの部屋になった二階の角部屋の鍵を開けて二人を通す。相変わらず電灯は付かないが窓から差し込む夕日で部屋の中は明るかった。
まだあまり荷物を持ってきておらずベッドくらいしか無いためソラは二人をベッドに座らせる。そこでやっと落ち着いたのか二人はソラの腕を慌てて放した。
「ここに居れば大丈夫だ。ここに居てくれ」
ソラは二人に言い聞かせる。お化けが苦手な二人は仕方なし、と小さく頷いた。
実は、ソラが学校に通う間の住む場所になるこの部屋だが、どこかのお兄ちゃん大好きっ子が防御魔法を掛けていったため邪な感情を持った者は入れないようになっている。もちろん、判定は曖昧だしソラが許可さえすれば入れるのだが、逆を言えばソラが拒否すればおそらくリクでさえ魔法を丸ごと解除しなければ入れない。侵入者が来た際の避難場所には最適だろう。
それを軽く二人に説明するとソラはもう一度部屋を出た。手探りに共同リビングに侵入し避難の出来ていない生徒たちを誘導する。その中でも、救助に回れそうな者にはソラの部屋への避難をしてくれるように声を掛けた。
ある程度声を掛け終わったところで音を立てないように階段から一階の様子を覗くと避難は順調なようだった。
ところで、一階にはどんな奴が侵入したんだと思い目を凝らすと、そこに居たのは熊の着ぐるみだった。着ぐるみと炎の男、どこかで見たなと思いつつもソラは今はその時では無いと二階に戻った。
すでにそこそこ夜目も利いてきているし部屋の真ん中で炎がぶつかり合っていることもありある程度部屋の中を見ることが出来る。ソラは部屋を見回す。すると、一人だけ女子生徒が逃げ遅れていることに気が付いた。
ソラはキッチンに隠れて反対側へと回ろうとする。
しかし、その途中で燃え盛る男はすでにほとんどの生徒が逃げてしまっていることに気付いてしまった。燃え盛る男は炎剣の青年をけん制しながら周りを見渡すとその女子生徒を見つけそちらに走る。
と、同時にそれに気づいた炎剣の青年は燃え盛る男を止めようと足を踏み出す。しかし、不自然な速度で姿勢を崩してしまった。
ソラは一度青年の方を向く。リビング中央にあった机は盛大に破壊され上に有った物が散らばってしまっていた。その物とは、ほとんどがヒンネラのスイーツだろう。青年はスイーツに足を取られ姿勢を崩したのだ。
燃え盛る男の炎爪が女子生徒に迫る。
次の瞬間、ソラは燃え盛る男の前にいた。腰は低く、燃え盛る男を見据える。ゆっくりと迫りくる炎に向かってソラは真正面から拳打を突き入れた。ソラの拳は男の爪を弾き体に刺さる。その体を反対側の壁にめり込ませると男は動かなくなった。
「無事か?」
体勢を立て直した炎剣の青年は剣をしまい込み女子生徒に声を掛ける。少し不満に思いながらもソラは二人に自分の部屋の事を話し非難してもらい、それから少し後にこの件は落着となった。
侵入者事件から30分程後、ボロボロの共同リビングで歓迎会が再開された。もちろん、燃え盛る男と熊の着ぐるみを交えて。
この二人はストレノス学園の生徒会で、熊の着ぐるみが三年生のAで燃え盛る男が四年生のAだと名乗った。毎年入学式の後の歓迎会はこうやって新入生を怖がらせるらしい。どおりで他の先輩たちが動いてくれなかったわけだ。
熊の着ぐるみは暗闇でよく見えなかったが、明るいところで見るとその色はピンクだった。確かに、ピンク色の熊の着ぐるみと炎を纏う男のセットをスペード寮で見ていないようなこともない。
熊の着ぐるみの先輩が少しだけ治療魔法を使えたから助かったが、ソラの一撃は炎先輩のあばら骨をへし折って内蔵にダメージを与えていた。炎先輩はそれを笑い飛ばしたが、バートンの奴だったら半殺しにしてた、とつぶやいていたのでバートンさんには悪いことをしたかもしれない。
「いやー、助かったでござるよ」
「ソラ、今日のことは全部忘れなさい、いいわね!」
全てが無事終了し再度開かれた歓迎会は一層の盛り上がりを見せた。
何故だかあの炎剣ばかりが女子たちにちやほやされてソラの所にはキリメとヒンネラしか来なかった。
一階から二階の様子を聞きに来たジーニャたちに話を聞くと一階ではジーニャ、ガンドレッド、ユークリウス、レイスの四人で先輩を足止めしたらしい。二階は炎剣が一人で足止めをしていたことを伝えると、だから女の子に囲まれてるのか、と揃って苦笑いを浮かべた。
それから日も落ち切ったころ、ようやく歓迎会はお開きムードになった。
「じゃあ、僕たちは帰るね」
「バイバ~イ」
そう言って、ソラの部屋から最初に出て行ったのはユークリウスとレイスだった。
確かに歓迎会は日没丁度に終わった。しかしヒンネラが、二次会よ!、とソラたちをソラの部屋に引っ張っていった。
「俺もそろそろ帰るぜ」
あくびしながら出ていったのはガンドレッドだ。
おわかりだろうか。ソラの部屋に残ったのはジーニャとキリメとヒンネラというレイス以外の女子勢。女子会じみたことを始めたまでは良かったが、ジーニャとキリメが寮に部屋を持っていることを知ったヒンネラが護衛のゼラとライラに帰らない、とわがままを言い始めたところでお菓子の中にアルコールの入ったものがあったことが分かった。もちろん、ゼラとライラはそんなに急に部屋を取ることは出来ないと言ったが、ほろよい箱入り娘がそんなこと聞くわけもなく、ソラの部屋に泊まると言い出してベッドを占拠した。それを聞いたキリメとジーニャが若い男女が二人きりで一夜を過ごすのは許せない、とソラの部屋に三人の女の子が泊まることになった。
「もう何でもいいや、勝手にしてくれ」
ソラは大きなため息を吐くとカーペットの上に肘をついてふて寝した。




