学園編 68
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
大講堂に集められた生徒たちは二分され、もう一つの大講堂で二分された半分と合流しコロシアムに案内される。理由は、校内にはコロシアムが二つあり片方がダイヤとハート用、もう片方がスペードとクローバー用だからだ。
コロシアムに向かう途中でソラはリクの姿を見た。ダイヤ、ハート用のコロシアムに向かったところを見るにリクはダイヤだろう。
スペードとダイヤの生徒たちがすれ違う際に我の強い生徒たちがメンチ切っていたり肩をぶつけてたりしていたが、ソラは見ていないことにして案内役の上級生の後を付いて行った。
先に待っていたクローバーにソラ達スペードが合流するとコロシアムのアリーナに通される。観覧席からの拍手に迎え入れられた。
「広いな」
ガンドレッドがつぶやく。アリーナだけで直径150メートルくらいだろうか、観覧席や廊下を合わせると直径は200メートルを超えているだろう。
「コロッセオか」
「ここはスペードとクローバー用のコロシアムよ。お父さんもお母さんもここ出身だからこの学校についてはだいたい知ってるの。何でも聞いて」
ジーニャは胸を張ってみせる。ソラは一つ質問をした。
「じゃあ聞くけどよ、今からここで何をやんだ?」
「入学式よ。そのために今日来たんでしょ?」
「ここでかよ!」
コロシアムは競技場の事を指すこともあるが、元は円形闘技場の事を指していたはずだ。そんな場所で入学式とは物騒極まりない。
しかし、この世界ではソラの常識は通じないらしく入学式は厳かに執り行われた。
髭の伸びに伸びた学園長の言葉や教頭の言葉を聞き流し何事もなく入学式が終わる。ソラにはギリギリでも合格出来て良かったという安心以外の感情はあまり湧かなかった。
前世のころと場所以外はほとんど変わらない入学式を終え一気に解散となった。特にやることの無かったソラは部屋の片づけでもしようかな、と帰ろうとする。それをガンドレッドが止めた。
「ソラ、この後スペード寮で歓迎パーティーだとよ。一緒に行こうぜ」
ガンドレッドはソラの腕を引っ張る。見ると先輩たちが一年生たちをパーティーに誘っていた。
「あっ、レイスとユークリウス紹介してもらわねえとな」
そう言って、ソラとガンドレッドはスペードの寮へと向かった。
学園に通うにあたって遠くから来ている生徒向けに寮が用意されている。そこで、ソラもメイドのマリーの助言という名の強制で寮で一人暮らしをすることになった。だから、この寮に来るのは初めてではないし、二人だけだが先輩を見かけたこともある。常に炎を体にまとった男と熊の着ぐるみを着た生徒だ。それを見た時はこの学園の上層部の頭を疑った。
ソラとガンドレッドはスペード寮へと入る。入ってすぐの靴箱に靴をしまいさらに中に入ると共同リビングへと入るための扉があり生徒たちはそこでパーティーを開いているようでとても賑わっていた。
共同リビングにはキッチンも設置されており、上級生がそこで作った料理やスイーツが運ばれていく。テレビなどは無いがソファとダイニングテーブルが置かれた広めの部屋だった。
玄関横に設置された階段とは別にリビングに設置されている階段を下から覗くと、二階にも同じような共同リビングがありそこでもパーティーが開かれているのだろうことが窺えた。
二人して人と話すわけでもなくただ何となくフラフラとしていたソラとガンドレッドに一人の女子生徒が近づく。ジーニャだった。
「ソラ、ガンド、こっちに来て」
ジーニャはもうすでに楽しめているのか明るい笑顔を浮かべて二人の腕を引っ張っていく。その先では二人の生徒がジュースを抱えて待っていた。
「こっちの男がユークリウス、そんでこっちの女の子がレイスよ。改めてよろしくね」
「よろしく、お願いします」
「よろしくね~」
ソラは握手をと手を出す二人の手を握り返す。ユークリウスは左利きだった。
「ユークリウスは左利きか」
ガンドレッドが気付いてユークリウスに左手を差し出す。ユークリウスはおずおずといった感じでガンドレッドの手を握り返した。
「は、はい、左利きです」
「身分は同じ、数字で言えばお前の方が上なんだからもっと楽に話せよ」
ガンドレッドは笑って話しかける。ユークリウスは爽やか系のその顔に小さく笑顔を浮かべると頷いた。
「う、うん、わかった、段々と、ね」
「おう!改めてよろしくな」
ガンドレッドとユークリウスの挨拶が終わったところで今度はソラがレイスに声を掛けた。
「俺はソラ、よろしくレイス」
「うん、よろしくね~」
いわゆるゆるふわ女子である。
「ガンドレッドだ、よろしく」
「ソラちゃんにガンちゃんね~、これからよろしくね~」
「ガンちゃんかー、まあいいや」
ガンドレッドは困ったような笑顔を浮かべるが満更でもない様子だった。
「ソラ様」
「今度は誰だ?」
ソラは突然後ろから掛けられた声に振り返る。そこに居たのはヒンネラ・ロイヴィスタッハのお付きの女子生徒だった。
「ヒンネラ・ロイヴィスタッハ様の護衛をしております、ゼラと申します。ヒンネラ様がアースを呼んで来い、と命令されましたので呼びに来ました」
「地球を呼んで来い、ねえ。で、あいつはどこにいんの?」
しょうがねえ奴だ、と溜息を吐いてソラはゼラにヒンネラの場所を聞く。一度小さく頭を下げるとゼラは答えた。
「上でスイーツを召し上がられております」
「そか、じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
ソラは事も無げに手を振る。周りの者たちは一瞬唖然とした。
「わかってんのかソラ、ロイヴィスタッハって言ったら大貴族なんだぞ。そのご令嬢に呼ばれたって、くれぐれも失礼なことはするなよ?」
ガンドレッドはソラに声を掛ける。一度首を傾げたソラはあ、と気付くとソラとヒンネラの関係を話した。
「ガンドは先に来てたから知らないだろうけどな」
「貴族に喧嘩売るとか何考えてんだよ」
ガンドレッドは呆れてため息を吐いた。
「早く行かねえとヒンネラのことだ、怒られちまう。行ってくるわ」
ガンドレッドたちと分かれるとソラは共同リビングの階段を上った。
「ソラ!遅いわよ!こっちに来なさい」
階段を上がるとすぐにヒンネラがソラの事を呼んだ。ソラは肩をすくめながらもヒンネラに歩み寄る。すると、ヒンネラは何よ、と頬を膨らませた。
「で、何の用でしょうかお嬢様」
ソラは嫌味たっぷりに問いかける。しかし、ヒンネラはそれに満足したのか自分の横のイスを示した。
「ソラ、座りなさい。極上のスイーツを用意させたの、美味しいからあなたも食べなさい」
「何でだよ。お前にだって他に友だ……居ねえんだな、わかったよ」
言ってる途中でヒンネラの睨む顔で気づいたソラは観念してヒンネラの横に座った。
「ほら、これも、これもこれも食べなさい」
ソラが座ったとたんヒンネラはソラにスイーツを出していく。ソラには名前も何もわからなかったが、とりあえずフォークを掴み食べ始めた。
「へぇ、美味いんじゃねえの?」
「なんで疑問形なのよ。これは全部王都で一番有名な料理人に作らせたんだから、世界一美味しいに決まってるわ。それとも、貴方はこれより美味しいものを食べたことがあるの?」
ヒンネラは憤慨してソラに聞く。ソラは頷いた。
「兄貴が作った飯の方がもう少し旨い」
「なっ、アース家は英雄の家系でしょ?なんで料理が上手いのよ?」
「知らねえよ、兄貴が料理好きなんだろ、たぶん」
ソラとヒンネラの口論の声が二階の共同リビングに響く。それに気づいて一人が駆け寄って来た。
「ソラ殿!久しぶりでござる」
聞きなれた声にソラは振り返る。赤と白の袴を着たキリメだった。
「おぉ、試験以来だな。キリメも受かったのか」
「すぺーどの9?で受かったでござるよ」
「おぉ、上の方なんだな」
ソラはキリメの意外な上位宣言に驚く。そんなソラなどお構いなしにキリメはスイーツに目を付けた。
「美味しそうでござるな?」
「おぉ、お前も食えよ。俺たちだけじゃ食べきれねえだろ」
そう言って、ソラは食べていたケーキであろうものをフォークで掬い取りキリメの口へと運ぶ。キリメはそれを口に入れると美味しそうに唇についたクリームまでもを舐め取った。
「ちょっと、ソラ!私にも食べさせなさい!」
「お前には護衛の奴がいるだろ」
「あの子たちは護衛よ、世話役ではないわ。そうよ、ソラ、貴方を私の世話役にしてあげるわ」
「だが断る」
世話役は断りながらもなんやかんやソラはスイーツをフォークで掬い取るとヒンネラに差し出す。
ヒンネラがそれを食べようとして――、
スペード寮の全ての明かりが一斉に落ちた。




