学園編 67
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
ストレノス学園入学式。
そうでかでかと書かれた門に生徒たちが入っていく。貴族なのか絢爛豪華な服を着ている生徒もいれば、ソラと同じように一般的な洋服を来ている生徒もいた。ソラも一応貴族ではあるが、その服からは一切予想が出来ないだろう。
ソラは校門をくぐり前に見える校舎へと歩いていく。その手にはストレノス学園の学生証を兼ねたトランプが握られていた。
そこに書かれているのはスペードの2。学園について一切調べていないソラにはそれが指す意味は分からなかった。
「まぶしいわ」
そんなことよりもソラは、もう行かないと思っていた学校に足を踏み入れたことによる感慨深さに押しつぶされそうになっていた。
この学園は十歳から二十歳まで入学を受け付けているため十八になったソラや二十のリクでも入学できるわけで、リリスも見た目年齢で十四として入学している。そんな適当で入学を許される当たりリクの影響力が計り知れない。
ソラは校舎への道を歩きながら一枚の書類を取り出す。
「ストレノス学園へのご入学おめでとうございます。スペードの生徒さんは教室棟2に行ってください。上級生が案内します」
学園から届いた書類の通り、南校門からまっすぐに行ったところにある教室棟1と教室棟2は新入生とそれを案内しようとして絶妙に出来ていない上級生で賑わっていた。
ソラはそちらの方へと向かう。近くまで来ると、賑わっているというよりもてんやわんやという表現の方が合っていることが理解できた。
あまり我の薄い生徒はいいのだが、貴族の坊ちゃん、お嬢様とそれに突っかかる我の強い生徒が俺が私が先だと言い争っていたのだ。
「お前ら何歳児だよ」
嫌味を言ってソラはあくびをしながら扉に入ろうとする。その肩を止められた。
「待ちなさい平民、このロイヴィスタッハより前に出ようなんてありえないわ。名乗りなさい、粛清してあげる」
ソラを止めたのは貴族であろう、真っ赤なドレスを着込んだ女子生徒だった。
その女子生徒は上から物を言う。それが気に入らなかったソラはその女子生徒を鼻で笑った。
「人に名乗らせる時はまず自分からって家庭教師に習わなかったのか?」
「もちろん習ったわ」
今度は女子生徒がソラを鼻で笑う。なら何で、と続けようとしたソラの言葉を遮り女子生徒は続けた。
「貴方こそ習わなかったの?平民は貴族相手に頭を下げるべきであるって」
「いや、習ってねえな」
ソラにはカミナとメイドのマリーという飴と鞭の差が激しすぎる二人の家庭教師がいたわけだが、カミナはともかくマリーにもソラが既に貴族だということもあってそこら辺の事は教えてもらったことは無かった。もちろんリリスにはわからないし、試験後からリクにはほとんど顔を合わせていない。
「なあそれって、貴族同士の場合はどうなるんだ?」
ソラは疑問に思ったことを一つ問い掛ける。女子生徒は一度訝し気な顔をするがすぐに強調された胸を張ると答えた。
「お互いに名乗って大抵はお互いに頭を下げ合うわ」
「そうか、で、お前の名前は?」
「あなたが先に名乗りなさい」
あくまでも自分の方が身分は上だと言いたいらしい。しかし、身分なんて気にしていないソラは家名は名乗ってくれたんだしいいか、と思い至り先に名乗りを上げた。
「アース、ソラ・アースだ」
それを聞いてロイヴィスタッハと名乗った女子生徒は固まる。それどころか、先輩たちも含めてその場が凍り付いた。
「お嬢様、英雄の家系です。すぐに謝罪を」
ロイヴィスタッハの横にいた、騎士の正装によく似た服を着る女子生徒が慌てて声を掛ける。
しかし、ロイヴィスタッハはソラをキッと睨みつけると――。
「学校にいる間は身分は同じよ!絶対に謝らないから!」
そう言い放った。
実際、ストレノス学園の校則には学校に所属する限りは身分の貴賎は原則気にしてはいけない、とある。ただ、いきなり平民が貴族の子どもたちを目の前にして怖気づくなという方が難しいのである。その点、貴族制の無い場所から来たソラにはその感覚が無くいくらか接しやすいだろう。今回のように相手が高飛車でなければだが。
「そうかい、聞いたかー?身分は同じなんだとよ、全員入れ入れ」
ソラは他の生徒たちを促す。その様子を見てロイヴィスタッハはさらにソラを睨んだ。
「覚えておきなさい、このヒンネラ・ロイヴィスタッハが真っ先に貴方を越えてあげるわ。私はスペードのQ、あなたは何?A?ジョーカー?」
「あ、トランプの?スペードの2だ」
ソラは笑ってトランプを見せる。それを見てまたしてもヒンネラは固まった。
「に、2?最低じゃないの!」
「うわ、数字だけで否定された」
ソラは目を丸くする。ヒンネラは分かりやすくフンっとソラを鼻であしらうと長いスカートを翻してその場を去っていった。
「さすがだね」
さらに、一人残されたソラの肩を叩き一人の女子生徒が扉をくぐっていく。
「あっ、遅れる」
トランプをポケットにしまうとソラも案内に従って教室に急いだ。
「自分の寮と番号の一致する席に座ってください。この教室にはハートとスペードの生徒さんの席がありますので間違えないように。複数同じ番号の席がありますが自由に座ってください」
案内された教室に入ると、黒板の前で一人の教師が大きな声を上げていた。その教師には見覚えがある。初めてふたりがこの学園を訪れた時に運動場で授業をしていた先生だ。
たしか名前は、マーキー先生、魔術師だったはずである。
マーキー先生が指さししながらいくつも指示を出す。手伝いの上級生も忙しそうに走り回っていた。
机は最前列だけが教卓と同じ高さでそれ以外は後ろに行くにつれて段々と高くなっている。それに伴い、外の見える窓も次第に小さくなっていた。
席は真ん中から半分にスペードとハートに分かれていてさきほどソラが突っかかっていったヒンネラもスペードの上の方に着席している。対して、ソラの座る2の席は一番前だった。
すでに埋まりかけていた最後の2の席に座ろうとしたところでソラはふと上の席を見上げる。どや顔でこちらを見るヒンネラも目に付いたがそれ以上にハート寮の方へと目が行った。
もう見慣れたものだが、ここ数日見ていなかった黒角黒髪の美少女。リリスだった。リリスはソラと目が合ったのに気付くとすぐに手を振ってくる。ソラはすぐに手を振り返した。
リリスは上から一番上の段に腰を掛けている。よく見るとそこはQの席だった。
「ポーカーの役の順か?」
一番上の段のAを見てソラは一人で呟く。それが意味するのはソラが一番下の位だということだった。
「クイーンねえ、確かにお似合いだよ」
ソラはイスを引いて席に座った。
席であたふたする先生を眺めていると上の席から肩を叩かれる。ソラは背もたれにもたれ掛かるようにして後ろを向いた。
「どうも、英雄さん。さっきはかっこよかったよ。私はジーニャ、よろしく」
冒険者の娘なのかジーニャはとても快活そうで纏うオーラが明るかった。
ジーニャは手を差し出す。
「あぁ、よろしく」
ソラは頷くと手を握り返した。そこにもう一つ、ソラの横から声が掛けられた。
「俺も仲間に入れてくれ、ガンドレッドだ、お前と同じスペードの2だぜ」
「よろしく兄弟」
今度はソラから手を出す。ガンドレッドは気持ちのいい笑顔でそれに応じた。
ガンドレッドも冒険者の息子なのだろうか、歳はわからないが筋肉の付きが良い。おそらく近接戦闘が得意なソラと同じタイプだろう。
「あっちに座ってるのがレイスとユークリウス。二人とも魔法使いよ、入学式が終わったら紹介するわ」
「あぁ、頼む」
ジーニャは4と5の席に座る男女を指差す。二人ともこちらが見ていることに気付くと柔らかく手を振って来た。
「私たち三人は親が冒険者パーティー組んでてね。幼馴染ってやつなの」
「なるほどね」
ジーニャの紹介にソラは頷いた。
「おい、俺友達いねえんだけど」
ガンドレッドが紹介できる友達がいないと言う。それを聞いてソラはいたずらっぽく答えた。
「俺が友達だろう?」
「あぁ、そうだったな」
ガンドレッドは笑顔を浮かべるとソラと拳を突き合わせた。




