学園編 64
63話から始まる学園編以降は“”(引用符、クォーテーションマーク)に囲まれた技名や固有名詞が出てきます。
その読み方に不正解はありません。自由に読んでください。
王都の国立ストレノス学園の試験は数ある科目の中から自分の得意な科目を七科目選び受験をする。各科目百点、計七百点に加え実技が三百点の総計一千点で百五十席しかない入学権を取り合う。
ところで、ソラだが実技の三百点はもう当てにできない。ならば座学で点数を稼ぐしかない、となったわけだがその最初としてした行為は少しでも自分が得意そうな科目を見つけることだ。
もちろん、それは全受験生がやって来ることではあるが……。
「ソラ、薬草学」
「草の見分けなんかつかねえ」
「魔法薬学」
「素材が草じゃ薬草学と変わんねえ」
「草だけじゃない」
「なおさらじゃん!」
と、このように何一つ出来そうな科目が無いのである。ソラとカミナは二人の部屋で珍しくテーブルに向かって唸っていた。
「ウォーライズ王国語」
「話せても書けねえ」
「ウォーライズ王国の歴史、地理は……ダメね」
ソラの視線に気づいたカミナはメモのされた紙を一枚投げ捨てた。
「数学」
「ん?」
「天文学」
「ストップ!」
「天文学?」
カミナは紙の上を滑らせる指を止め顔を上げるがソラは首を横に振った。
「一つ前だ」
「数学?」
「それだ、数学は少しやってた。一とAならなんとか行けるだろ」
「一?A?」
「いや、こっちの話だ、気にしなくていい。カミナ、次行こう」
「わかった」
そして、探すこと幾時間か。ついに、受ける七教科を全て決めることが出来た。
まずは数学、エルフ語、魔法言語、ウォーライズ王国語、魔物学、格闘術学に加えて美術学の七科目である。
「美術は大丈夫だ。自信がある」
「そう。エルフ語は?」
「カミナが教えてくれるんだろ」
カミナはコクリと頷くと、ソラの腕を引っ張りベッドに座らせた。
「wee ururuu urappa」
ソラにはわからない言語を発しながらソラをベッドに押し倒す。ソラは訳が分からずとっさに聞き返した。
「今なんて言った!?」
「あなたは、からだで、覚える」
「嘘だろ?」
「lais(本当)」
それからマリーが食事に呼びに来るまでソラはしっかりとエルフ語を叩き込まれたとさ。
そして、二か月なんて長いようで短いもので。
ついに、ストレノス学園の筆記試験の日がやって来た。これから二日掛けて王都中で試験が開催された後一日空けて実技試験へと移る。
さて、ソラはというと、最初の試験会場で肩を小刻みに震わせていた。
「wee rar do skiii ti kuilu?」
「vau rar nee morno kuilu skiii」
会場がエルフ語で溢れていたのだ。
ちなみに今の会話を翻訳すると、(君はテストは成功すると思うかい?)(僕はおそらく成功すると思うよ)だ。
エルフ語に自信があり点数が取れそうだ、ということなのだろう。
だが、ソラとて負けていない。kila(好き)だとかlomere(愛してる)だとかばかり教わっていた気もするが。
そんな圧倒的にダメそうな雰囲気の中で、ソラは奇跡的に勝利を引き抜いた。
「私に甘い言葉を掛け落として見せなさい。0点か百点で採点します」
時間になり会場に入って来た女教師がそう言ったのだ。
「一人一人別室に呼びます、それまで待機するように」
それだけ言うと女教師は部屋を出ていく。それと同時に会場は阿鼻叫喚となった。
「嘘だろ!エルフ語で落とせとか無理だろ!」
「試験内容おかしいだろ」
「もうダメだ」
さっきまでエルフ語で話していた受験生たちは無意識のうちにウォーライズ国語で唸りを上げる。
その中でソラはカミナに感謝しながら手を合わせていた。
「次、ソラ・アース」
やがて、段々と数が減ってきたところでソラの名前が呼ばれた。
「えっ、アース家って英雄の?」
「アース家も受験に来てんのかよ」
ふたりが貴族家に仲間入りし辺境伯扱いになってからアースという家名は王都中に瞬く間に広まった。帝国の悪王を打ち倒し国民を救った英雄として。
「ソラ・アース、早く来るんだ」
「あ、はい」
他の受験生の視線に気圧されながらもソラはその部屋を後にした。
ソラは横の部屋に入るように言われる。言われるままソラが中を覗くと部屋の中央でさっきの女教師が座って待っていた。
「ser lit」
前世で言うところの「失礼します」に近い便利な言葉を言いながら部屋に入る。すると、その女教師は――
「nop pl do saa(構いません、どうぞ座ってください)」
にこりと微笑んでエルフ語でソラに対面のイスを示した。それに従いソラが座ると女教師は説明を始めた。
「ソラ・アースさん、これより試験を始めます。自然な会話で私を落としてください。質問があればエルフ語で」
人差し指を立て口を開けたソラを見て女教師は言い放った。
「えっと、vau hsl iova n hu vec vau u lal ir loo(ぼくには愛する人が居るのでたとえ嘘でも口説くようなことを言いたくありません)」
カミナに教えてもらった言葉を必死にひねり出しソラは告げる。すると女教師は黙って一度頷いた。
「vau uoru da sal skiii ti morno kuilu pl wee u iova n twr fe hu(わかりました、ですがそれではこの試験に合格できませんのでその人をどれだけ愛しているか教えてください)」
「loo(嘘だろ)」
「sal. morno lais(いいえ、本当です)」
再びにこりと笑うとその女教師はソラに続きを促した。
「疲れた」
ストレノス学園入学試験の一日の日程が全て終わったソラはカミナに膝枕されベッドに寝転んでいた。
「wee borb?(大丈夫?)」
「寝れば回復する」
「vau uoru」
カミナはソラを抱き寄せる。ソラは呆れたように深く息をするとカミナの手を取り目をつぶった。
エルフ語以外あまり芳しくない筆記試験も終わりに近づきついに最終種目の数学を残すのみとなった。
会場は綺麗に全員着席して待ち会場が数字で溢れているようなことは無かった。
時間になり試験監督が会場に入ってくる。試験監督は――
「これより数学の筆記試験を開始します」
とだけ言うと数種類の紙を配った。紙には数十問の数学の問題が書かれており直接そこに回答をして提出する形となっていた。
筆記試験なのにいきなり面接試験をし始めたエルフ語担当の教師が少しずれていたのだ。
ソラは今はどうでもいいことを頭を振り忘れ紙に目を向ける。内容もごく普通の数学だった。レベルは前世の数学一・A程度。このために少しは勉強してきたが点数は取れそうなほどである。
ソラはペンを握ると回答を始めた。
結局、解答欄を埋めることは出来た、という程度でソラの筆記試験の全日程は無事終了した。
その日の夜は久しぶりにメイドのマリーとリリスが夕飯を作るということでソラはダイニングで座って待っていた。
ソラの前には同じく筆記試験を終えたリクも座っているが涼しい顔をしているところを見ると上手くいったのだろう。
そこへ、リリスが皿を持ってキッチンから出てくる。危なっかしいな、とイスを立とうとしたソラをマリーが無言で首を振って止めた。
しかしリリスは落としそうになることもなくリクの横まで歩いていくとテーブルに皿を置いた。
そのままリクの後ろを通りソラの方まで歩いてくる。
ソラの横まで来て皿を置くとリリスはにこりと微笑みソラに話しかけた。
「お兄ちゃん、試験お疲れ様。どうだった?」
「なんとか終わったよ、問題は明日の実技試験だ」
「リリスも頑張ったんだよ、明日は一緒の会場にならないといいなぁ」
「おぉ、そう……だな?」
ソラは感じた違和感に言葉を止める。ソラは横で微笑むリリスの顔をまじまじと見つめた。
「リリスも受けてたのか!?」
「うん!パパとお兄ちゃんと同じ学校に行くよ!」
合格する前から同じ学校に行くと発言するリリスは楽しそうで何よりだが、ソラは驚いていた。しかも、リクはもちろんのことリリスも才能は絶対にあるからリリスがふたりと一緒に学校に通うために一番頑張らなければいけないのはソラなのだ。
実技試験の時だけでも能力の封印を解除してもらえないかとリクの方を見るとリクは明後日の方向を向く。
マジかよ、とつぶやきながらソラはリリスの為にも明日の実技試験は点数を稼ごうと決意を新たにした。




