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「なあ兄貴」
ソラはデリンジャーの引き金をカチカチと鳴らしながらリクに聞く。
「殺しちまってよかったのかな?」
「気にするな、どのみち私が殺していた」
「そっか、兄貴がそう言うんなら、いいんだ」
ソラは針が刺さったような自分の胸を触りながらさらに質問をした。
「兄貴、それは?」
「これか?」
リクは自分の胸に埋まった宝石に触れながら聞き返す。ソラは頷いた。
「ダンジョンスターだ、魔術適性の無い者に対する実験だそうだ」
「抵抗しなかったのかよ?」
「しても無駄だろう。そんなことより、だ」
リクはソラの腕を取るとランタンの光でそれを照らした。
「痛みはないか?」
「大丈夫だよ!」
ソラはぶっきらぼうにリクの手を振り払うともう片方のランタンを拾い上げた。
「で、なんで能力が突然使えるようになったんだ?」
「クラッディだ」
「あの人見知り銃器技師が?」
「言うようになったな」
リクは微笑を浮かべると小さく笑った。
「まずは上に出なければいけないな」
リクがそう言ったその時、遠くから声が聞こえてきた。
「今の音は何だ!」
「銃声だ!」
「A級囚人が拷問医を殺した、捕らえろ!」
どこかから遠隔で見張られていたのだろう。声が聞こえてきてすぐに鎧の金属同士が擦れる音が聞こえてきた。
「吹き飛ばすぞ」
リクは地下なら上を全部吹き飛ばしてしまえばいい、と拳を握る。しかし、ソラが慌ててそれを止めた。
「他にも捕まえられてる人が居る、その人たちが埋まっちまう」
「罪人なのだろう?」
「それでも命まで奪うことは無いだろうし、冤罪の人もいるかもしれない」
「……わかった、ではまずは隠れよう」
ソラの真っ直ぐな目にリクは一度溜息を吐くと双子のランタンの腰から鍵を引き抜いた。
「一度牢獄に戻れ。兵士たちをやり過ごすんだ」
ソラは頷いて鍵を受け取ると、元居た牢獄に戻り端の方でうずくまった。
少しして兵士の足跡が近づいて来る。
「いったいどこに行ったんだ?」
「ツーマンセルは崩すなよな」
「A級囚人だからな、油断はしないようにしないとな」
警戒しながらソラの牢獄の前を通り過ぎていく兵士たち。
何となく感づいてはいたが、兵士たちはふたりを、少なくともソラを判別できていない。能力が使えるようになったとはいえいつまた使えなくなるかわからないし、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。
兄貴なら警戒して進むだろう、ソラがそう思っていたところに声が掛けられた。
「ソラ、行くぞ」
リクは一言言うと牢屋の鍵の部分を捻じ曲げ扉を開けてしまう。
「鍵いらねえじゃん」
ソラが扉を出てから文句を言うとリクは事も無げに答えた。
「もういらん」
ため息を吐きながらソラは鍵を投げ捨てる。その鍵は落ちる時に金属音と共に小さな水音を立てた。
「こっちだ、ひとまずここを出るぞ」
手招きをするリクについてソラは地下牢の廊下を走る。すでに金属の擦れる音は聞こえなくなっていた。
少し走るとすぐに地上への扉が見つかった。それは鍵が掛けられておらずリクが押して通る。
扉の先は小さな小屋でついさっきまで賭け事でもやっていたのだろうか、幾つかのイスに囲まれた木箱の上にはトランプが散乱していた。イスの後ろにダイヤのエースとスペードの2が落ちている。
囚人が逃げ出したというのに小屋の外はとても静かだった。責任追及を恐れて報告を怠ったのだろうか。それならふたりには都合がいいのだが、しかしそこまで無能な兵士たちではなかったらしい。
ふたりは小屋の扉を開けて外に出る。砂利が敷き詰められた城の庭では一人の男が待っていた。
「ロイドさん、あんた――」
レジスタンス総統括ロイド、に成りすましたオルカ―ヌ帝国軍総指揮ライネード・ドルファスだった。黒を基調としたオルカ―ヌ軍制服に腰の黒光りするリボルバー式の拳銃が目立つ。
ライネードはソラを見ると話を始めた。
「皇帝様は、こう仰られた。お前は所詮前座にさえならない、と。ならば、ソラ、お前一人で私を越えて見せろ」
ライネードは拳銃を抜き構える。対してソラは笑みを浮かべることなく答えた。
「ロイドさん、俺はあんたを殺さない」
「それは慈悲のつもりか?」
ライネードは拳銃の撃鉄を押し開ける。ソラは首を小さく横に振った。
「俺はロイドさん、いやライネードさん、あんたに誓うよ。俺はもう殺さない。エゴでも偽善でもいい、俺は全部助ける。双子のランタンの墓も後で作る。だから、俺はあんたを殺さない」
「私はお前を殺すぞ」
「それでいい、俺はあんたを越えて見せる、それで良いよな、兄貴?」
「好きにしろ」
頷いてソラはライネードに向かって拳を握る。ライネードが引き金を引く。それと同時にソラは消え失せた。
次の瞬間、ソラはライネードの目の前に現れる。
「雷帝の怒りよ――」
「遅いよ」
いつものようにへらへらとした笑みを浮かべることなくただ真剣に、ソラは拳をライネードの腹に叩き込んだ。
スピード任せの一撃ではなくライネードの体が耐えられるギリギリの一撃。腹部にもろに一撃を喰らったライネードは膝から崩れ落ちた。
「皇帝様は、上で、お待ちだ。行け」
呼吸がしにくいのか途切れ途切れで言うライネード。ソラはライネードの元へと近寄った。
「先にあんたを医務室に連れて行く」
「殴った本人が、何を、言っている。すぐに医療、班が来る。行け」
ライネードはソラを手で押すと拳銃を投げ捨てた。
「俺も、殺しはやめよう」
ライネードのつぶやきに背中を押されソラは城へと歩き出した。




