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「はぁ、はぁ、はぁ、うっ、ゲホッゲホッ」
ソラは地下牢の硬い床に寝転がり傷の回復に努める。
ソラの担当拷問医であるゴールはソラの傷を中途半端にしか治さない。そのせいでソラはどうやって逃げるか、どうやったら解放してもらえるかなど考える余裕もなく出来る限り安静にして常に走る痛みの電流に耐えることしか出来なかった。
もう投獄されてから何日経ったのかわからない。ほんの少し差していた光も外の光なんかではなく廊下の明かりだということが分かった。それが何日前のことなのかもソラにはわからなかったが。
日にちが分かっていたのは最初の三日ぐらいだろう。それくらいから、傷も完治しないまま、睡眠も十分に取れないまま起こされては拷問部屋に担がれて拷問を受け続けた。
そんな毎日でも、ソラの体は本能で抵抗を続けた。それがさらにソラの体力を奪ったのは言うまでもないだろう。
抵抗しても無駄、ということを頭ではわかっていても体はすでに言うことを聞かなかった。
能力があれば、そんな意味のないたらればを考えているところにあのランタンの光が近づいてくる。
半ば反射的にソラは起き上がると牢の真ん中に正座をした。その様子を見てゴールは口の端を持ち上げた。
「囚人らしく、しっかりとご主人様が理解出来てきたようだな」
ソラの舌から綺麗な紅が流れ出した。
「今日は特別にお前の兄に合わせてやるぞ」
「ありがとう、ございます」
ソラは深く頭を下げながら、指をコキリと鳴らした。
「A‐831、付いて来い」
頷くことも返事をすることもなくリクは立ち上がるとスタートの後を付いて行く。周りには相変わらずハンマーを持った男たちが囲んでいるが、リクが全く以って抵抗しないために手持ち無沙汰な顔で付いてきていた。
「831、いつものだ、言え」
唐突にスタートは止まってリクに質問をする。対してリクは静かに答えた。
「執行開始から274時間、拷問は合計28回執行」
「……おしいな、276時間だ。今日の拷問は二時間だ」
懐中時計を取り出し時間を確認したスタートは口角を上げメイスを壁に打ち付けた。
脳がひしゃげてしまいそうな音が鳴り響き壁が欠け落ちる。
しかし、リクはその様子を見ても何も反応を示さない。
その様子が気に食わなかったのかスタートはリクの左胸を殴りつけた。
「ぐっ、う、あぁ」
リクは胸を押さえてうずくまる。その手の中では拳大の宝石が小さく輝いていた。
「そいつを連れてこい」
スタートが取り巻きの男に命令すると、男は頷きリクを肩に担いだ。
そのまま部屋を移動する。
軋みながら開いた扉に入っていくと、そこはこれまでとは違う部屋だった。
薄暗いのも染みが広がっているのも同じだが、部屋にイスはなく壁から鎖が四本垂れ下がっている。
リクは抵抗することなく取り巻きの男たちによってその鎖に繋がれた。
そのリクにスタートは語りかけた。
「俺は十年A級囚人担当拷問医やってるが、お前ほど反応の無い奴は初めてだ」
投獄されてからリクは時間と執行回数を言わされるとき以外は口を開かなかった。
「何やっても口は開かなかったな。でもな、今日はとっておきを用意した」
スタートはニヤリと笑う。
リクにはそのとっておきを想像することは出来なかった。
スタートはゴールとは違い拷問後に完全な治療を施すため、その分リクには考える時間があった。
リクはこの世界に来てから何万冊と本を読んでいる。その中には国が禁書とする本も含まれている。殺人鬼の日記、拷問官の拷問記録、拷問器具に関しての知識。
そんなリクが考え得る限りほぼ全ての拷問をこの数日で受けた。
もう今では完治しているだろうが、投獄されてから壊されていない部位は無い。睾丸から眼球、心臓に至るまで。解剖もされている。
もうこれ以上は無いというほどに拷問を受けた状態で言われるとっておき。
しかし、リクはすでにどうでもよくなっていた。
そろそろだから。
そこに、スタートによく似た男が部屋に入って来た。
リクにはわからなかったが、ゴールである。
「1113はまだか?」
「今連れてくる」
一言だけかわすとゴールは部屋を出ていく。
リクはその言葉を聞いて嫌な予感がしていた。
ゴールが出ていって少しして、扉がゆっくりと開け放たれる。
そこから入って来たのは上裸の男に担がれたソラだった。体中に鞭や刃物の傷が残っている。
それを見てリクは鎖を鳴らした。
「とっておきだろう?」
スタートはさらにニヤついて見せる。
リクは不機嫌そうな顔で深く息を吐いた。
男たちによってソラがリクの横の壁に繋がれる。
スタートとゴールが頷くと男たちは出ていった。
「さて、拷問を始めるか」
ゴールが言う。
「まずは、名乗るべきだろう」
スタートが反論した。
「では名乗るとしよう」
「俺たちは十年一緒に拷問医をしている」
「見てわかる通り双子だ」
「オルカ―ヌ帝国、帝都地下牢獄最高拷問医、双子のランタン」
「地獄の土産に覚えておけ」
双子のランタンはとてもよく似た顔で互いに口角を上げるとハンマーとメイスを壁に叩きつける。
その瞬間、それに反応するかのようにソラが暴れだした。
「がああああぁぁぁ、あああああぁぁぁ」
スタートは何が起きたか分からず一瞬固まるが、ソラが抵抗することに慣れていたゴールは持っていたハンマーでソラの腹を殴りつけた。
「うるさい!」
しかし、ソラは動きを止めずに暴れ続ける。それどころか段々と暴れる動きが早くなっていき、ついには部屋には鎖が立てる音しか聞こえなくなった。
それを見て今度はリクが口角を上げる。
「ぶっ潰せ!」
リクが腕に力を籠めると鎖が軋み次第に歪んでいく。やがて鎖が引きちぎれると、リクはその鎖をソラの鎖に叩きつけた。
鎖が断ち切られソラは両手が自由になる。
ソラは引き裂けんばかりの笑顔を浮かべると、一瞬でデリンジャーを二連射した。
ソラのポケットから取り出されたそれは、破裂音と共に鉛球を吐き出し双子のランタンの頭に正確に突き刺さった。
「FPSプレイヤーをなめんなよ」
崩れ落ちた双子のランタンに銃口を向けながらソラは吐き捨てた。




