58
暗い室内、硬い床、木漏れ日にも満たない僅かな光しかない室内にソラは寝転がっていた。
目を開けても開けているのかわからないほどに暗く何も見えないがここが牢屋だということは理解できた。
三方を壁に、もう一方を鉄格子に囲まれた部屋。ここが牢屋じゃないとしたらソラにはもう想像できない。
何も見えないながらもソラは手探りで部屋内を探る。
結果、シーツの一枚さえなかった。
扱いが雑すぎやしないか、そんなことも思ったが思っていてもしょうがない、とソラは考えるのをやめてもう一度意識を手放した。
「起きろ、小僧!」
どれくらいの時間が経ったのかわからないが、ソラは鉄のぶつかり合ううるさい音に起こされた。
ソラは体を起こすと声の主を睨む。ランタンに照らされたその顔は醜悪を押し固めたようだった。
「誰だ?」
ソラは聞く。しかし、男は鼻で笑うと言った。
「囚人の質問に答えるわけがないだろう」
「そうだな、ここはどこだ?」
「答えるわけが――」
「城壁内の地下牢ってところか」
男は険しい顔をして黙る。それでソラは自分がいるのが地下牢だということを理解した。
「一つだけ教えてくれ、レジスタンスはどうなった?」
「まだ分かって無いのか、レジスタンスなんぞ最初から無かったということだ」
「酒場の主人は?」
「尊い犠牲だな」
事も無げに言ってのけるランタンの男。ソラは握る拳が熱くなるのを感じた。
「で、何しに来た?囚人の顔を見に来るために来たんじゃないんだろう?」
ソラは立ち上がり聞く。ランタンの男はまたソラを鼻で笑った。
「こいつを連れてこい」
ランタンの男が言い放つと、後ろの闇から上裸の男が二人現れた。
上裸の男たちはランタンの男によって開けられた扉から入ってくるとソラを後ろ手に手錠を掛ける。
ソラも抵抗を試みるが、上裸の男たちの鍛え抜かれた力に封殺された。
ソラを担ぎ上げたまま部屋を移動する。
レンガ壁の地下からは出ずに進むとやがて重厚な扉が現れた。ランタンの男はその扉を開け中に入っていく。その後を追ってソラを担いだ上裸の男たちも部屋に入っていった。
部屋にはイスが一つと車輪の付いた金属製の棚が一つ。
置いてあるものだけ見れば何ら不思議ではないが、ソラは目を丸くした。
ランタンに照らされた床や壁に消えずに残る赤黒い染み。
前の世界のゲームでよく見た表現だった。
「……拷問部屋」
ソラがポツリとつぶやく。すると、ランタンの男は口元を歪ませ微笑んだ。
「A級囚人担当拷問医 ゴール・ランタン。もちろん偽名だ」
その宣言でソラは今から自分が拷問されるのだということを理解した。
途端に余裕ぶっていたソラの心には恐怖が生まれた。
「座らせろ」
ゴールが言うとソラを担ぐ男がソラをイスに拘束しようとする。
「やめろ、離せ!やめろ!」
抵抗むなしくソラはイスに縛り付けられた。それでもソラは暴れ続ける。
前の世界で拷問など受けているはずもない。得体の知れない絶望がソラを襲っていた。
まだ何もされていないはずなのに全身が痛む。
無意識のうちに目から涙が零れ落ちていた。
「心配するな、殺しはしない。皇帝様からの命令だからな」
ソラの方は向かずにゴールは様々な器具を取り出していく。
一通り出し終えるとゴールはソラの方に向き直った。
「まずは、何からがいい?選ばせてやろう」
「やめろ、やめてくれ!」
もうソラはお構いなしだった。
あの世界で育った人間がこの世界の拷問に耐えられるわけがない。ゴール・ランタンはソラに拷問医と名乗った。普通であれば、拷問官と名乗るはずである。それは医療魔術を使える拷問官だということは容易に理解できた。
ソラはガタガタと拘束具を鳴らす。
「選ばないなら選んでやろう、まずは爪剥ぎからだな」
そう言って、ランタンは器具を手に持つ。
その瞬間、ソラには感じたこともない絶対的な逃走本能が走った。
さっきまでとは比べ物にならないほどにソラは暴れだし命乞いを始めた。
「やめろ!やめてくれ!何でもする!命令を聞くから!」
「執行開始」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ソラの声が地下牢に響き渡った。
「起きろ!」
リクは怒声によって起こされた。硬い地面に手を付き体を起こし声のした方向を見るとランタンを持った一人の男が立っていた。リクは眩しさに手で目をかばう。
すると、男は大仰に名乗り始めた。
「A級囚人担当拷問医 スタート・ランタン。囚人A‐831、私がお前の担当だ」
「……」
リクは深く息を吐くと立ち上がりスタートに背を向けた。
「縛って連れてこい」
スタートが命令をすると筋骨隆々の男たちがリクの手首を結び担ぎ上げた。
「何だこいつ、軽すぎだろ」
「おい、喋るな!」
「すいません!」
スタートに怒鳴られた男は改めてリクを担ぐとスタートに付いて行った。
ソラは二人掛かりだったのに対しリクは四人用意されていた。ロイドがリクの戦闘力を鑑みた結果だろう。
しかし、リクは逆らうことは出来なかった。なぜなら――
「お前が逆らえば弟を拷問にかける」
リクにはどうする事も出来なかった。ひたすら好機を待つしかない。
果報は、果報は拷問でも受けながら待つしかあるまい。
「まずは百叩きだ」
そう言って、スタートはメイスを手に取ると、リクの顔面を殴りつけた。
「ぐっ、う、あ、あぁ」
頬の骨が燃え盛るような痛みで折れていることが理解できる。
しかし、次の瞬間には痛みも傷もすべてが消え去った。
「まだ始まったばかりだぞ、果ててくれるなよ」
口を歪ませて微笑むとスタートはもう一度メイスを振りかぶった。




