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「リクさん、こっちだよ、早くこっちに」
帝国のレジスタンスにおいてメカニックを担当し、銃器技師や鍛冶師たちを統括する小太りの男、クラッディ。
そんなクラッディが楽しそうに手招きするが、リクは終始顔を変えず後ろを付いて行った。
レジスタンスの密会の場となっていた酒場を出て少し歩いたところにある集合住宅のうちの一つに二人は入る。
クラッディは急かすようにリクを部屋の中に引き入れると小さいランプに火を付けた。狭い室内が薄暗く照らし出される。踏み場もないほどにたくさんのものが乱雑に置かれた部屋はいわゆるワンルーム物件だった。
それに加えて、やけに暗いと思えば窓が木材で建て付けられ陽の光がほとんど入らなくなっている。
「ようこそ、ここが僕の部屋だよ、あぁ、銃器の設計図だったよね、あるよ、気に入ったのがあったら作るから言ってよ」
クラッディは比較的早口にまくしたてるとリクに数枚の紙を押し付けた。
「そう急かずとも私は居なくならない。それで、窓は何故開けない?」
「あぁ、防犯の為ってのが一番大きいかな。貧民街は治安が悪いから。それと、兵士に見つからないようにって意味もある。銃の密造がばれたら良くて死刑だよ」
良くて死刑とは何事なのか。
「そうか、イスはないか?」
「あぁ、あるよ、どうぞ」
クラッディは慌てて積み上げられた本をドサドサと崩すと、背もたれの折れたイスを引っ張り出しリクに渡した。それを受け取りリクは一瞬固まった。
「あー、折れた背もたれあるけどいる?」
「いや……いい」
リクは首を横に振るとその場にイスを置いて設計図の束を見始めた。
「尻の穴が二つに増えてしまわないよう気を付けるとしよう」
座って設計図を読みふけるリクを横目にクラッディも本を開き調べ物を始めた。
そこにリクが話しかける。
「クラッディ、何処の誰とも判らぬ私にこんなものを見せてしまってよかったのか?」
クラッディは本から目を離さず答える。
「それは、間者の可能性を考えなかったのかってこと?」
「そうだ、スパイの可能性は十分にあった。他国から来たのに何故銃の事を知っている、そうは思わなかったのか?」
「それを本人から言うの?」
「こちらから言ったからスパイではないと?」
「リクさん、警戒しすぎじゃない?」
「…………」
クラッディは本を畳むとそれをリクに渡した。
「僕たちは仲間の選り好みをしている暇はもうないんだ、早くこの国を変えないと、この国は緩やかに死んでいく」
「お前の話を聞かせて欲しい、何故お前はこの国を変えたい?」
「大きく言えば、横暴な貴族連中と国に反旗を翻したいってところなんだけど、個人的には、奴隷にされて暴行で死んだ妹の仇が取りたい」
ゆっくりと自分の事を話すクラッディは一度固く拳を握り締めると引き出しを開け拳銃を取り出した。
「僕は、元々貧民街の出じゃない。貴族ではなかったけど、裕福で幸せな家族がいた。僕は話が長くなる癖があるんだけど、いいかな?」
「聞こう、私から聞いたのだ」
頷いたクラッディは机に座ると続きを話し出した。
「僕は妹と両親の四人家族だった。今ほどの不自由もなく、特にこれといった不満も抱くことなく日々を暮らしていたある日のことだよ。貴族の手下がやってきて母さんを攫っていった。それは流石に許せないと父さんが抗議をしに行った。その数時間後、父さんはボロボロになって帰って来たんだ。そして、その数分後に家で父さんが死んだ。父さんは亡くなる直前に、仇を討とうなど考えるなと残した。それで、僕はすぐに妹と貧民街に逃げ隠れたんだ。その数日後、その貴族は腹を立て手下に僕たちを痛めつけるように指示を出した。そのまた数日後、貧民街で見つかった僕たちは指示通り痛めつけられ妹は女だからと犯され、死んだ。笑っちゃったよ、僕は妹の死体を抱きしめて大笑いした後に寝落ちて、次の日の朝に大泣きした。泣きながら決めたんだ、妹の仇を取ろうって。作戦の一部にその貴族の殺害も入れてもらった。人脈も意地で広げた。その貴族に関してならジェミナよりも情報を持ってる。でも、帝国の法律は弱者には適用されないんだ」
クラッディはカチカチと拳銃の引き金を引く。その貴族を自らの手で裁くつもりなのだろう。
「妹が、喜んでくれるといいな」
「うん、次はリクさんの話を聞かせてよ」
「私も長いぞ?」
「いいよ、僕から聞いたんだ、全部聞くよ」
リクは頷くと話し出した。
「ウォーライズ王国は知っているな?」
「帝国の南に接する国だね」
「そうだ、私はその国の王の勅命でここへ来た」
「弟君も?」
「いや、戦力だ。細かい説明は省かせてもらうが、国から帝国の動きや内部情報を探れとの任務が出た。ほんの数日うろついて帰るつもりだったが、弟が奴隷を助けたいと言った。私の弟の願いは絶対でなければいけない。弟が奴隷を助けたいと言えば、奴隷は助けられなければいけないのだ。だから私は裏でそうなるように動く。これまでもそうしてきた、それだけだ」
これで話は終わりだと言わんばかりにリクは壊れたイスの背もたれを拾い上げた。
「弟君のために?」
「そうだ」
「喜んでくれるといいね」
「そうだな」
リクは持っていた本をクラッディに返した。
「それで、これを一丁作って欲しい」
「了解」
「ここで作るのか?」
「違うよ、協力してくれる鍛冶師に頼むんだ、一緒に行こう」
「わかった」
クラッディはリクから受け取った設計図をカバンに入れるとフードを被り部屋を出た。
貧民街を抜け商店街に入る。その中の一つに二人は足を踏み入れた。
その瞬間、汗臭さと熱気の混じった風が二人を撫でた。
「おじさん、いるかい?作って欲しいものがあるんだ。あっ、ここで名前は出しちゃいけないからね」
剣や槍、銃が所狭しと飾られた店内で奥に声を掛けたクラッディは振り返ると、リクに忠告をした。
クラッディが声を掛けて少しして、奥から上裸の白いひげを生やした老人がハンマーを持って店に出てきた。
「なんじゃまたお前さんか、今度はなんじゃ」
「おじさん、これを作って欲しいんだ」
クラッディは老人にカバンから取り出した設計図を渡す。
「おい、こりゃあ、わかってんのか?そっちの兄ちゃんの注文だろ?」
「特性は理解している。金はウォーライズの物ならある」
「ここで外国の金か、貴族好みの装飾付けていいってんなら受けてやる」
外国の物好きの金持ちにアンティークとして売ったことにしたいということらしい。
「それでいい」
「そうかい、五日待ちな」
「わかった」
注文を付けるとリクとクラッディは鍛冶屋を後にした。
人目の付く商店街で話すわけにもいかずリクとクラッディは一度貧民街のクラッディの部屋に帰ることにした。
周りを警戒してから部屋に入るとまた二人はイスと机に座り、話し始めた。
「なんでリクさんは銃器を知ってるの?」
「私の居た場所にもよく似た物があった」
「なるほどね」
クラッディは頷くと自分の拳銃をくるくると回し始めた。
「こんなものがある場所が他にもあるなんてね、悲しい限りだよね」
「私もそう思うさ」
「ま、まぁ、この話題は今はいいか、他にしたいことはあるかな?」
「……そうだな、クラッディ、綺麗な服は持っているか?」
「持ってると思う?」
「貴族たちの様子が見たい、服を買いに行くぞ」
「了解、付いて行くよ」
二人は立ち上がると部屋を後にした。




