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「さて、自己紹介をしていこうか」
ロイドがそう言うと、ロイドの後ろを付いてきた三人のうち一人が前に出た。
「私はジェミナ、情報網の広さには自信がある。よろしく」
ジェミナは名乗りながら被っていたフードを外す。中から出てきたのは金髪碧眼のお姉さんだった。ジェミナが握手を求めソラがそれを返す。
ジェミナが一歩下がり横の人の背中を叩くと、その人物が前に出てきた。
「えっと、僕は、クラッディです」
ローブの上からでもわかるほどに小太りした男、クラッディは名前だけ名乗り下がろうとする。しかし、下がりきる前にジェミナに押し返された。
「クラッディはメカニックや銃器技師、鍛冶師たちを統括してるのよ、いわゆる人見知りってやつだけど仲良くしてやって」
「あぁ、よろしく、クラッディ」
頷いてソラが手を差し出すと、クラッディはおずおずとその手を握り返し握手に応じた。
「よし、最後は俺だな」
その声と同時に前に出てきたのは、またもローブの上からでもわかるほどに筋骨隆々な男。どう見ても戦闘面の統括だろう。
「俺はウィンズドム、元冒険者だ。冒険者や傭兵どもに指示を出す。俺も戦うぞ」
ウィンズドムは発達した筋肉を見せつける。りんご程度なら余裕で握りつぶしてしまえそうだ。
「俺も戦闘面は自信がある、よろしく」
「あぁ、よろしく頼む」
握り返されたウィンズドムの手は修練の成果なのだろう、とても固くとても頼もしく感じる。
「改めて、僕はロイド。レジスタンスの総指揮みたいなことをしているよ。よろしく」
「あぁ、改めてよろしく」
「ありがとう、ソラ君、だったかな。君は、君たちは何故帝国に?」
「なんでって言われてもな」
ソラは顎に手を当て首を傾げる。ソラは観光程度にしか思っていないのだ、リクは何やら幾つか理由があるようだが。その質問にはリクが答えた。
「鉄の大龍と、銃を探しに来た」
「鉄の大龍……あ、蒸気機関車のことかい?」
「それのことだ、ロイドさん」
ソラが頷いた。
「駅に行けば見れるよ。あまり近づけないけど見に行くかい?」
「おぉ、見に行く」
「私は遠慮しておこう」
ソラは頷くが、リクは首を横に振った。
「クラッディとやら、銃の図面を見せて欲しい。あるか?」
「あ、あぁ、もちろんあるよ。ついてきてよ」
クラッディはテンション高めに部屋を出ていき、リクはその後を付いて行った。
残されるソラとロイド、ジェミナ、ウィンズドムの四人。
ロイドは苦笑を浮かべ肩をすくめた。
「不思議なお兄さんだね」
「誉め言葉どうも」
「じゃあ、龍を見に行くか」
ウィンズドムの助け舟に全員は頷くと一先ずローブを着込んで部屋を出た。
ローブを目深にかぶり兵士たちの目をかいくぐり都を北に進む。小走りで十分ほど行ったところで一行は立ち止まった。
「駅には兵士が多くて近づけないからこの塔の上からで我慢してくれ」
見上げると、そこには小さめの風車が付いた長細い塔が建っていた。鍵の無い扉を開け木製で狭い螺旋階段を上ると、窓から遠くに見慣れた駅のようなものが見えた。
「綺麗な街だな、ごちゃごちゃしてるが」
ソラが塔の中に身を隠しながら感想を述べるとロイドはそうだろう、と賛同した。
「僕たちだってこの街は嫌いじゃないよ、横暴な貴族連中やそれを黙認する国の役員に腹を立てているだけなんだ。はい、双眼鏡」
金色の細工が施された双眼鏡を手渡される。ソラはそれを覗き駅の方を見た。
綺麗な赤レンガと粘土で作られた建物が目に入る。それはあの駅にそっくりだった。駅周辺は絢爛豪華な馬車やドレス、スーツを着た貴族であろう人間たちが見える。表通りよりは少ないがやはり奴隷を連れる者もいた。
「この国は奴隷制があるのか?」
「ウォーライズには無いのかい?」
ロイドが聞き返す。ソラは頷いた。
「密売はある。でも、それも数年もしないうちに兄貴が無くしてくれると思う。他の問題が出て来るかもしれないけど」
「君のお兄さんは何者なんだい?」
「ただの冒険者だ、でもたぶんAランクなんて優に超える実力者だ」
「Aランクが一番上だろ?俺が知らないうちに枠が増えたのか?」
ウィンズドムが疑問を呈す。ソラは否定した。
「人間族が測る物差し上にはすでにいないってこと」
「そりゃ、化け物だな」
この国ではその能力は使えないのだが。
「私も情報網には自信があるけど国外の事はわからないからね」
ジェミナは小さく笑った。
ソラはもう一度双眼鏡を覗き込むと駅の中を見る。そこには、しっかりと鉄の大龍、蒸気機関車が止まっていた。実物を見るのは初めてだが。そんな事を思いながら蒸気機関車の全貌を眺めていたところでソラは手を止めた。
「ロイドさん、蒸気機関車って戦争に使われてたりする?」
「するね」
「じゃあ、あれって、あの飛び出た筒って、機関砲?」
「いや、魔導砲だね」
帝国は、ソラが予想していたよりも遥かに危険なところだった。
「城の鉄門を一撃で打ち壊す程の威力だと聞いている」
「規格外も良い所だな」
鉄の門程度リクであれば破壊するのは容易いだろうが、現在この国では魔法も能力も使えない。その理由がわかれば対処できるはずだ。リクがメカニック統括のクラッディに銃が見たいという理由だけで付いて行ったわけはないと思うが、ソラにはリクの思考は複雑すぎてわからない。生まれてこの方数十年一緒に居るというのに何を考えているのかわからないのだから不思議な人だ。
「ソラ君、こっちに」
ロイドが手招きをしてソラを呼び寄せる。
ソラが移動すると、ロイドは窓の外を指差した。
「あれが、我らが帝王の住む城、ノイシュ城だ」
闇の色に覆われ、黒い煙を吐き出し妖しく光るノイシュ城。帝都の中心に位置するその城は、なぜ今まで気付かなかったのか不思議に思えるほどに圧倒的な存在感で建っていた。王城の敷地だけで村が一つ入ってしまいそうなほどの広さに塔の集合体なんじゃないかと見間違える程の大きさの城。
あそこにラスボスが待っているってわけか。俺が今ここに居ることもバレていたりするかもしれないな。
「あんなでかいのに外からは見えなかったぜ?」
「壁の外からは見えないような魔法が掛けられているからね」
「なるほどな」
ソラは頷いて横の窓に移動した。その横にロイドも付いて来る。
「あの辺りが富裕層の住む地区だね、あの地区の店は物価も高い。まあ、あっちがこの国の普通で貧民街のほとんどが闇なんだけどね」
闇市ということだろう。時々言い回しがわかりにくい所があるのは翻訳機能のせいなんだろうが。
「ソラ君は奴隷の解放をしたいんだっけ?」
ソラはゆっくりと頷く。
ロイドは深く息を吐いた。
「奴隷の人も、案外これでいいって思っているかもしれないよ」
「俺はこれじゃ嫌だって思ってる人を救いたいし、現にこんだけの人が毎日を必死に生きているんだ。英雄は弱者を救う、俺は英雄になってこの人たちの未来を救いたい。まだ若くて細かいことはわからねえ。でも、動かないと、誰かが立ち上がらないと」
ソラは富裕層の地区から目を外し下を見る。下には雑多な貧民街が広がっていた。
ソラは窓から離れる。ロイドもそれに従った。
「俺がこの国のリンカーンだ。英雄に付いてきてくれ」
「そうだね、じゃあ僕たちは英雄を支える協力者になろう。改めて、よろしく」
「あぁ、よろしく」
ロイドの出す手にソラが答えるとジェミナとウィンズドムもその上に手を重ねた。




