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魔物のスタンピード事件もなんとか解決し王都の屋敷でしばしの休息を楽しむソラリク一行。
今日は珍しくソラとリクとリリスの三人で商店街を訪れていた。
「パパ、次はこっち。お兄ちゃんもちゃんとついてきてよね」
会った当初はリクの腰ほどまでしかないくらい小さかったリリスもいつの間にか一行の中では身長の低いソラやフラケートにもう少しで届くというところまで大きくなっていた。
そんなリリスも年齢相応に可愛いものや綺麗なものが大好き。今日も大好きなパパとお兄ちゃんを引っ張りまわしてショッピングに来ていた。
「リリス、さっきのはいらないのか?」
リリスに引っ張られながらリクはリリスに聞く。しかし、リリスは笑って頷くと答えた。
「何でも欲しい、っていうのはわるい子なのよ」
「私はリリスがいい子に育って嬉しいが、少しくらいねだってもいいんだぞ?」
「パパはわたしが欲しいって言ったらなんでも買っちゃうでしょ」
「ははっ、親の事は何でもわかってらあ」
ソラが笑う。リクもリリスの言葉には苦笑を浮かべていた。
「あっ、パパ見て花嫁さんのドレス」
一つの建物の前で止まると、リリスはガラスの奥を指差した。そこは高級洋服店だった。
「パパ、わたしがパパと結婚するときはここで買ってね」
「リリス、私は……」
「大丈夫よパパ、わたしは第二夫人でいいもの」
「子どもはいったいどこからこういった言葉を見つけてくるのだ」
頭が痛くなりそうだ、とリクが頭を押さえる様子を見てソラは肩を震わしていた。
「屋敷の図書室よ」
現在、屋敷の図書室にはリクの集めた大量の本が収められている。元から屋敷にあったものを含めるとすでに足の踏み場が少なくなってきている程だ。
足の踏み場が無いと言えば、言葉通り屋敷の図書室は大量の本が乱雑に積まれている状態なわけだが、そんな状態にはつい最近なった。異世界に来てからは何かとしっかりとしていたリクが最近になって少しだらしなくというか、前世の癖が戻って来たようなのだ。
何かを熱心に研究しているようでそれに夢中で一時的なものかもしれないが、ソラにはそれがとても懐かしかった。
そんなこともあり、心配したリリスに図書室から引っ張り出されてきたというわけである。ソラも少しは運動をしていたものの、やはり運動不足だと言われ引っ張り出された。
「リリス、おいで」
リクはリリスに向けて腕を広げる。そして、近寄って来たリリスを抱き上げると高級洋服店の扉を開けた。
「もう買うの?」
「リリスが大きくなるころにはもっと可愛いものが出ているだろう」
「じゃあなんでお洋服の店にはいったの?」
「今似合うものを探すためだ」
リクはリリスを抱っこしたまま女児服のコーナーで止まる。すると、リリスは頬を膨らまして抗議した。
「わたしもう子どもじゃないよ!」
「私から見れば可愛い子どもだよ」
「むー、お兄ちゃんはどう思ってるの?」
いきなり話を振られたソラは驚いた顔で答えた。
「可愛い、妹?」
「私が子どもか子どもじゃないかってこと!」
「の、ノーコメントで」
「お兄ちゃんまでー」
怒りながらもしっかりとリクの腕からは離れないリリスを店員たちも微笑ましく見ていた。
「リリス、これなんかどうだ?」
リクは一つのドレスを見せる。それを見てリリスはまたも少し頬を膨らませた。
「パパ、ドレスって貴族の娘さんしか着ないんだよ?」
「そもそも貴族でもない限りこの店には入らない」
「あっ、そっか。あれ?でも、パパは冒険者でしょ?」
「私は稼いでいるからな」
「パパってもしかしてすごい人?」
「比較的そうだな」
「わぁ、そうだったんだ」
リクはリリスを抱っこしながら洋服やドレスを数着選ぶとそれを購入して店を出た。
店を出てまた商店街を歩く。
「ねぇ、お兄ちゃんもすごい人?」
リリスはリクの腕の中からソラを見下ろし聞く。ソラは笑って答えた。
「俺は英雄って呼ばれるほどだぜ?」
「もしかしてわたしの家族ってすごい人たちばっかり?」
目を丸くしてリリスは聞く。それにはリクが答えた。
「カミナは暗部、フラケートは影の女王だ」
「女王様!」
間違ってはいないが、フラケートは能力の名前だ。ここにフラケートがいたらリクは叩かれていたことだろう。
「じゃあ、リンカさんは?」
「貧乏神か?」
「神様!」
もはやそれは悪口ではないだろうか。
そこに、一人の少年がリクに当たり駆け抜けていった。
「?」
リリスは首を傾げる。
しかし、ソラとリクは走り抜けていった少年を見つめていた。
「兄貴、追いかけるか?」
「急がなくていい」
そう言うと、ソラとリクは少年の駆けていった方向に歩き出した。
やがて、ふたりは一つの路地裏の中へと入っていく。奥では、さきほどリクとすれ違った少年が串肉を頬張っていた。ふたりが少年に近づいていくと、こちらに気付いた少年は慌てて立ち上がった。
「さ、さっきぶつかっちゃった人だよね。ごめん、この串肉早く食べたくてさ」
「さっきは……」
「待てソラ、私がやる」
そう言って、リクはリリスを下ろすと少年へと数歩近づいた。
「すれ違った時は、串肉の袋は持っていなかっただろう」
「お、お兄さんの見間違えじゃない?」
「……そうかもしれないな。では、その串肉はどこで買った?」
「そりゃ、ここら辺には肉屋は一つしか無いでしょ」
「そうだな、お前が私にぶつかった場所からこの路地までの間にある」
リクの日ごろからあまり開かれない眠そうな目が、薄暗い路地裏の雰囲気も相まって不気味なオーラを醸し出していた。
「そ、そこで買ったとは言ってねえよ」
「では、どこで?」
「二つ先の通りの串肉屋だよ」
「では、なぜここまで来る必要があった?この両隣の店に子どもはいなかったはずだが」
「ここが好きなんだよ」
少年は少し目をそらし言う。リクはそれを見逃さなかった。
「なぜ今目を逸らした?ここが好きならそれでいいだろう。それとも、何かやましいことが?」
リクが問い質しながら一歩詰める。
その瞬間、少年は小型のナイフを取り出すとリクの首を斬りつけた。リクが倒れ伏す。
それを見て逃げようとした少年は違和感と悪寒に足を動かせなくなった。
次の瞬間、首を切られたはずのリクが立ち上がる。
「なんで、首を……」
立ち上がったリクは少年の前にしゃがむと少年の目を見つめ話し出した。
「暗殺者の才能はあるかもしれないな。的確に相手の首を狙える技量、後ろの二人が全く動じていない違和感に気付ける六感。ソラよりも強くなるかもしれない」
「まじかよ」
「暗殺においては、だ」
「なるほどね」
何が何だかわからないといった表情の少年を見てリクが肩を掴んだ。
「お前、親は」
「いない」
「選べ、駐屯兵に突き出されるか、私の屋敷に来て一からやり直すか」
「屋敷に行くって、どういうことだよ」
「私が直々に育ててやる。闘技大会の優勝者にスリを働くとは運がいい」
リクは悪い笑顔を浮かべると少年を無理やり担ぎ上げた。
「おい、何する、やめろ!」
暴れる少年をリクは腕力にものを言わせて押し込めると屋敷へと向かった。
屋敷へ帰りつくと、リクはすぐに一人の人物を呼んだ。
「マリー、いるか。」
「はい、ただいまー!」
遠くから返答が返ってきて少しして、一人のメイド服の女性が小走りでやって来た。
「お帰りなさいませ、旦那さま、坊ちゃま、リリスお嬢様」
服だけでいえば冒険者ギルドのギルド嬢の服と似ているが、この人の来ている服はしっかりとしたメイド服で、この人も訓練したメイドの人らしい。
リクがだらしなくなったのも、この人を雇ったからというのもあるだろう。
「ただいま」
「ただいまー」
ソラとリリスはマリーに答えるとリビングに入っていった。
「風呂の準備を、こいつを入れる」
そこまで言ってやっとリクは少年を下ろした。
「この子は誰ですか?」
突然知らない子どもを連れてきたのだから当たり前の質問だろう。
「名前は知らん。引き取ることにした」
「旦那さまも物好きですねー」
マリーは少年の前にしゃがみ込むと安心させるために笑顔を見せた。
「旦那さまは顔は怖いですが、優しい人ですよ」
「図書室にいる。そいつを風呂に入れたら言ってくれ」
「私が入れるんですか?」
「入らせるだけでいい、あとは勝手にやらせればいい」
「わかりました」
マリーが頷くとリクは図書室に向かおうとする。そこに少年は声を掛けた。
「待てよ」
「なんだ」
リクは振り返らずに聞く。
「返さなくていいのかよ」
「もうお前は私のものだ。小遣いだと思え」
答えると今度こそリクは図書室に向かった。
そして、空が茜色になる頃、フユーレ以外のこの屋敷の住人一同がリビングに集まっていた。
「詳しい経緯は省くが、家族が増える。以上だ」
「異常だろ」
「その場にいながら反対しなかった者が言うな」
「反対はしねえけどよ。カミナは?」
「部屋は?」
ソラの質問にカミナは首を傾げる。その質問にはマリーが答えた。
「監視が欲しいというのであれば、一時的に私と同じ部屋にしてはどうでしょう?少ししたら、部屋数も余っていますし部屋を与えればいいかと」
「問題ない」
カミナの問題ない、には自分とソラの邪魔をしなければ問題ない、という意味が込められている。
それから、マリーが他の人たちにそれでいいかどうか聞いて誰も反対する者がおらずひとまずそれで良しとなった。
「少年、名を言え」
「俺にはもう名前はないんだ」
リクの言葉に最初より幾分か態度の柔らかくなった少年が答える。対して、リクはおもむろに頷いた。
「過去はお前で振り返れ。お前は今日この場で新しく始まるのだ。少年、名を言え」
もう一度リクは同じ質問をする。少年は暖炉の火を見つめて少し考え込むと決意新たに名前を述べた。
「俺の名前は、アグニだ。」




