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俺が能力を発動すると同時に勇者が突っ込んでくる。それを横に一歩避けると勇者はゲートに吸い込まれていった。カミナがどこかに飛ばしてくれたんだろう。勇者なんかよりこの魔族の方が何倍もやばい気配がするからカミナが勇者を受け持ってくれれば楽だ。
それに俺なら簡単にこいつに勝てるだろう。そんなことを思っていたが、異世界はそんな簡単ではないらしい。
「あんた、早いのね」
能力を発動する俺に話しかけてきたのだ。これはだいぶピンチだ。
「ねえ、勇者はどこにやったの?」
「違う場所に飛ばした」
「あんたが?」
「……あぁ、そうだ」
本当はカミナの魔法だが、嫌な予感がしてそのまま頷く。
しかし、それも意味は成さなかったようだ。
「あんた魔力ないじゃない、後ろの女の人ね。先にそっちの人殺してからあんたの相手してあげる」
「待て!」
とっさに制止の声を掛けると魔族の少女は大人しく止まった。
「ここに来た理由を教えてくれ」
「おじさまに声似てたから止まっちゃった。理由なんて何でもいいでしょ」
「聞け、お前にも大事な人はいるんだろ」
「当たり前じゃない」
スロー再生される世界で会話しているのはなんとも言いがたい気持ちがするが、なんとか作戦を立てる時間を稼がないといけない。
一先ず戦闘する意思はないと見せるために俺は能力を解除した。
「あら?諦めちゃったの?」
魔族の少女が目を丸くして聞いてくるが俺は話を続けた。
「俺にもお前にも大事な人はいる。この街の人にもだ。失いたくないだろう、帰ってくれ」
「…………私に帰ってくれっていう人間は初めてよ」
「今までは何て言われていた?」
「死ね、失せろ、いなくなってしまえ」
「なんて感じた?」
「嫌だったわ。だから、殺した」
嫌なことを思い出させないでよ、と少女は呟いた。
「お前は俺らを殺しに来たんだぞ?」
「大事な人がいるから殺さないでってこと?」
「そういうことだ」
なんとか戦わずに済むかもしれない。今の俺では十中八九この少女には勝てない。
「それは自分勝手じゃなくて?」
しかし、説得も意味が無かったかもしれない。
「散々パパと私を殺そうと来ておいてお返しに来たら殺さないでって言うの?」
「わかるが……」
「わかってないわよ、あなたはこれまで魔物をどれだけ殺したの?」
「……もう殺さない」
「あんたが一人殺さなかったところで何も変わらないわ」
「…………」
もう何も言えなかった。兄貴ならもっと知識も経験もあってこの少女を説得できるのかもしれないが、俺には無理だ。戦うしかないのかもしれない。
「でも、おじさまだけは違ったわ。パパより何倍も強いのに一度も攻撃はしてこなかった」
「そのおじさまってのは……」
「人間族よ!」
目尻に涙を溜めながら少女は叫ぶ。なぜその人物は魔王より強いのに魔王を倒さなかったのか。しかもそんなに強い人物は限られているはずだ。兄貴でもやれそうなものだが。
「おじさまは人間族だけど人間族を殺す仕事をしているの。勇者が来るたびに後ろから暗殺するの」
国が勇者を出しながらその勇者を暗殺させている?もう意味が分からない。
「おじさまは魔族の仲間よ、呼べばすぐに来てくれるんだから、あんたはどっち!」
これは選択一つで生死が決まる。おじさまなる人を呼ばれたらこの戦場は終わる。
「……そいつの、名前は?」
刺激しないようにゆっくりと喋る。すると、少女は答えた。
「アレス」
アレス。戦神。精鋭騎士隊の指導者。
これまでの記憶が思い出される。その途端、さらに訳が分からなくなった。騎士団を強化しながら魔族の味方をする。
そして、ここに居ない。
「兄貴?」
「ソラ、しっかり」
カミナに背中を叩かれて我に返る。
こんな少ない要素だけでなんで兄貴の事を思い出したのかはわからないが、それでも俺は間違えてはいけない。
「俺は、正義の味方だ」
今この戦場のみにおいては正しいのは人間だと俺は考える。
「……勇者!」
唐突に少女がヒステリックに叫ぶ。
次の週間、少女と俺の間に黒い剣を持った勇者が降って来た。
「遅いのよ、あの女を殺しなさい!」
少女はカミナを指差しながら勇者に指示を出す。
それと同時に俺も能力を発動した。
周りはゆっくりになる中、勇者は俺と同じスピードで走りだした。まっすぐにカミナに向かう勇者を横から殴りつけ、そのまま吹き飛ばすイメージで拳を振りぬく。
しかし、勇者は少しのけぞりながらもその場から動かず俺に向かって剣を振った。とっさに避けることは出来ず腕を構えて体は守る。同時に腕に剣がぶつかり骨の折れる音がした。
「がぁっ」
激痛の走る右腕を無視して左腕でもう一度勇者の顔を殴りつけ距離を取った。
すると、勇者は俺を相手と定めたのか俺の方を向いて剣を構えた。
そこへ少女が話を振る。
「ねえ人間、人間同士で争うってどんな気持ち?魔族は争いはしないのよ」
「黙ってろ」
勇者が飛び出し振るう剣を大きく避け顔に蹴りを入れるとまた距離を取る。
「アレスは人間同士が争うことも魔族と必要以上に争うことも無駄だって言うわ」
「黙ってろ!」
俺は飛んでいき少女に拳を振るが、簡単に避けられ投げ飛ばされてしまった。その着地点で待つ勇者をタイミングをずらすことで翻弄し一撃を加えて距離を取った。
だが、勇者は全くもって効いていないようだ。
と、俺が攻めあぐねているところにカミナの"剣の檻"が差し込まれる。
しかし、勇者はゲートを剣で切り裂くとカミナの前に飛び剣を振り上げた。カミナは南門めがけて吹き飛んでいく。俺は一時的にスピードを増やし、それを受け止めた。
ガリガリと地面が削りながら門にぶつかる手前で止まると俺はカミナをその場に降ろした。
「ぁ、……あぁ、ぁ」
何かを喋ろうとしているが、肺が潰されたのか息が出来ていないようだった。可愛らしい服も血だらけで台無しになっている。
俺はポケットから治癒の魔石を取り出して握りつぶす。すると、少しはマシになったのか表情が楽そうになった。
「さぁ、もう許さねえからな」
俺は立ち上がり勇者を睨みつける。対する勇者は深淵を思わせる目でこちらを見ていた。
「来い、勇者」
能力を限界まで発動させる。それと同時に周りの世界は動かなくなった。
勇者がゆっくりと走ってくる。俺は歩いて行きその顔を殴りつけた。
能力を解除すると勇者は地面を削りながら吹き飛んでいく。そして、そのまま動かなくなった。
「よくも私のおもちゃを壊してくれたわね、次は私よ」
その時、カミナの通信用の魔石に一つの通信が入った。
「魔物の街中への侵入を確認。場所は東門。救援を」
次の瞬間、戦場で爆発が起きた。炎による爆発ではなく、俺が使った質量爆弾作戦を何倍も大きくしたような衝撃波の爆発。
それがさらに各地で起きていく。あんな芸当を出来るのは兄貴しかいない。
「兄貴」
「もう、帰らないと。人間、また会いましょう」
「二度と来るな」
俺が少し強く返事を返すと少女は黒い霧となって消えていった。これで一件落着になるだろう。
それから、俺はすぐにカミナを医療班に預けると、第一波の時にも世話になった若い治癒魔術士に折れた右腕を直してもらい東門の救援に入った。
街中に入った魔物はそう多くなかったがすぐに片付き、負傷した市民も医療班のテントに運び終わったところですぐに前線の救援に戻ったがすでに前線は残党狩りになっていた。
残党狩りは騎士隊に任せていいだろう、とソラはリクに合流することにした。
前線を見かけた残党を狩りながら適当に進むとすぐに合流することが出来た。
「よお、兄貴」
リクは魔物の血に塗れながら残党を叩き潰しているところだった。
「被害は?」
「医療班の人は死亡者はいないって」
頷くとリクはソラの横を通り街へと向かう。ソラは付いて行きながらリクに話しかけた。
「ずいぶん遅かったじゃねえか」
「仕事だ」
「世話になった街より仕事の方が大事なのかよ」
「……そうだ」
リクは一拍空けて肯定を示す。しかし、ソラにはそれが気に入らなかった。
「兄貴がいたらもっと被害も抑えられたかもしれないんだぞ」
「そうかもしれないな」
「そうかもって、ほぼほぼそうなるだろ」
「…………」
リクは答えず街へと入っていく。ソラは溜息を吐いてリクと分かれると医療班のテントに向かった。
そして、ウェルミュレにおける魔物のスタンピード事件が片付いて数日後。ソラは街の人たちに英雄と呼ばれ始め、それ以外はこれまで通りの生活が戻ってきていた。
「ソラ、王都に帰るぞ」
リクにそう言われ、ソラはカミナに王都に帰ることを告げた。すると、案の定カミナは付いて行くと言い始めた。
「カミナはウェルミュレの暗部だろ」
「ゲートで帰れる」
「それでもとっさの対応が出来ないだろ」
「暗部をやめる」
ソラにしかわからないくらい小さく頬を膨らます姿は可愛いが、無茶を言うのはやめて欲しい。
「フリンドルさんも何か言ってください」
冒険者ギルドで談話しておりフリンドルもソラの横にいたが、さっきから何も言わないのだ。
「ソラ君はカミナが付いて来るのは嫌なのかい?」
「そんな事はありませんが」
「じゃあいいだろう。暗部は他にもいるし、膝に矢を受けて暗部をやめる者も少なくないと聞く」
「膝に矢を受けるのは男の方なはずなんだが。まあ、屋敷の部屋はいっぱいあるし大丈夫だろうけど」
「屋敷を手に入れたのか、やはり君たちは凄いな」
そんなこんなでカミナも一緒に王都で暮らすことになったのだが、カミナがソラと同部屋にすると言ってこだわりのないリクが部屋を変えたのはソラでも薄々予想出来ていた話だった。
それから数日は屋敷で修行をしたり、畑仕事をしてみたりとのんびりと過ごしていた。




