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少し経ってから俺はカミナから離れる。
すると、カミナは雨に濡れた俺の顔を掴むともう一度口を重ねてきた。
さらに舌まで入れてくる。
「んー、んー」
「なに?」
少し無理やり引きはがすと、カミナは俺に押し倒されたまま首を傾げた。
何、は俺のセリフだ。
「先にやって来たのはそっち」
「それはたしかにそうだけど」
「私なりに愛を示した」
「それは、嬉しい、けど今度にしよう」
そう言って俺は立ち上がりカミナに手を差し伸べる。
カミナもその手を取って立ち上がった。
と、思った矢先に足を引っかけられ押し倒されてしまった。
「強い男だって示したかったのね」
それから俺は……想像に任せよう。
カミナにはなかなか放してもらえず日没ギリギリになってやっと放してもらえた。
相変わらず雨は降り続いていて、日没の正確な時間はわからなくなりそうだが。
「なぁ、師匠」
「カミナ」
「うぐっ、あーもうカミナ、急いで戻らないと怒られちまう」
「任せて」
そう言ってカミナは俺の手を引っ張りゲートに飛び込んだ。
ちょっと嬉しそうな顔をしていた気がするのは俺の気のせいだろうか。
ゲートの先は冒険者ギルド前だった。
よかった、俺たちの他にも雨に濡れている人たちはたくさんいる。
カミナと、あ、いや、ずっと雨に降られていたせいで俺もカミナもびっしょびしょで服が重い。
こんな状態で屋内集合なんてなったら目立ってしょうがない。
カミナは俺の手を引いて色々な装備をした冒険者たちの間をすり抜け一番前で待つギルド長のフリンドルさんの場所へと向かった。
「ギルド長、終わりました」
フリンドルさんに合流してすぐにカミナが声を掛ける。
俺たちに気付いたフリンドルさんは俺がいることに驚いたようだった。
「説得され返されたのかい?」
「はい」
「そうか。では、ソラ君、君にはカミナと共に最前線で戦ってもらうとしよう」
「はい、了解です」
俺は頷いて返した。
「聞いただろうが、カミナが君を参加させるのを嫌がってね」
「ソラ、行く」
あまり聞かれたくない話題だったのかカミナは俺の腕を引っ張る。
そんな仕草も可愛いな、とか思った自分を殴りたいと思いながらされるがままにカミナに付いて行った。
フリンドルさんはそんな俺たちを苦笑いのようなもので送り出した。
ギルド前に集まる集団を抜け一気に南門を抜けて外へ出る。
地平線がモンスターたちで埋まる光景は気持ちの良いものじゃない。
「ソラ、開戦の合図で敵の中心に移動する」
「大丈夫なのかよ」
「いいえ」
「じゃあ、」
「背中を守って」
俺の言葉を遮って出されたカミナの言葉に俺は自然と笑みを浮かべていた。
「おもしれえ、ぜってえに守ってやるよ」
「言質」
「あ、あぁ、言われなくても絶対だ」
そう言って、俺はカミナと拳を合わせた。
そして、何もせず南門で待つこと少々。
ついに日は落ち切り、冒険者や駐屯兵団たちが集まった。
冒険者は一々俺の横を通るたびにカミナと一緒に居る俺の背中を叩いていくのはやめて欲しい。
思わせぶりな口笛を吹いていくのもやめろ。
「ソラ、どうかした?」
「なんでもない」
「そう」
俺の顔を覗き込むカミナはそれには気付いていないようだ。
ここでフィーなら気付いててあえてにやにやした笑顔で聞いて来そうなものだが。
そんなことを考えていると、魔物側から角笛の音が響いてきた。
一つが鳴ったと思ったら一つまた一つと増えていき、やがて魔物たちは共鳴し合い人間を威圧しだした。
しかし人間族側も負けじと武器や防具を鳴らし威圧し返す。
お前らはスパルタンか。
「全員、準備は出来ているかー!」
「うおぉぉぉ!!!」
駐屯兵団の団長の声にウェルミュレの戦士たちは気合で答える。
士気は上々といったところだ。
この人たちなら俺がいなくても街を守り切れる気がする。
そこにリンカさんが走り寄って来た。
「ソラ!はい、最前線でしょ、持っておいて」
そう言ってリンカさんが俺に渡したのは緑色の球だった。
ビー玉を二回りくらい大きくしたぐらいの大きさでガラスで作られているようだった。
「これは?」
「簡易的な治癒魔法が仕込まれたガラス、それを割れば発動するから」
特別な名前がありそうと思ったが、ただのガラスだったことには驚いたもののこれはありがたい。
「ありがとう、リンカさん、ありがたく使わせてもらう」
「うん、ソラは大丈夫そうだけど、彼女さんが攻撃受けたら使ってあげるんだよ」
「彼女じゃねえ!」
「はいはーい、そういうことにしといてあげるー」
リンカさんは笑って南門に入っていった。
「待て、あんたカミナの名前知ってんだろ!」
とっさに言ってしまって気付いたが、人前でカミナを呼び捨てで呼ぶのは初めてだ。
なんか気恥ずかしいなと思いつつもカミナの方を見るとカミナはすでに臨戦態勢に入っていた。
俺も慌てて気を引き締める。
そして、ついに魔物たちが侵攻を始めた。
魔物によって速さはまちまちだが全体的にゆっくりと攻めてくる。
支援部隊によっていくつもの光弾が空に打ち上げられ雨の降る荒野が照らされた。
こちらも迎え撃つ頃だろう。
「全員、迎え撃てぇ!」
駐屯兵団長の号令に最前線の者たちが雄たけびを上げて前進し始める。
それと同時に俺はカミナと共に魔物の軍勢のど真ん中にゲートで移動した。
「"剣の檻"」
「"高速の拳打"」
一瞬にして体が大きく厄介なトロール二体が串刺しにされ吹き飛んでいく。
迎撃に走っていた冒険者、駐屯兵団からも見えたのだろう。
走りながらさらに強く雄たけびを上げていた。
しかし、次の瞬間から俺に周りの音は届かなくなった。
能力を発動したからだ。
そこからはひたすらにむごい混戦だった。
斬っては斬り返され、吹き飛ばしては吹き飛ばし返される。
雨が降っていることもあり、泥沼の戦いだった。
ただ、被害は出たがなんとか敵を全滅させ撤退させることに成功した。
「カミナ、ケガはないか?」
「ソラ、ケガ」
カミナと言葉が重なってしまい、俺は一瞬口を開けて呆けてしまった。
すぐにカミナの言っていたことを理解すると俺は息を吐いた。
「ははっ、俺は大丈夫。カミナはケガは?」
「ない」
一度キスしただけでこんなに一気に馴れ馴れしくなるのはおかしいかもしれないが、さん付けしたり敬語で話そうものなら無視されたり怒ったりするのだからしょうがない。
そんな様子も可愛、いや、何でもない。
「ソラ、ギルドの手伝いに行ってくる」
通信用の魔石を耳から離してカミナが言う。
空間属性の魔法使いとして負傷者を運んだり物資を運んだりと色々あるのだろう。
これでもウェルミュレの冒険者ギルドの暗部なのだ。
これでも、は酷いかもしれない。
俺なんかより何倍も強いのだからリスペクトは大事だろう。
「俺も別で負傷者の救助でもしよう」
「わかった」
カミナは頷いて俺の頬に軽いキスをするとゲートで消えていった。
俺らは新婚さんか。
いらっしゃいか。
そんな下らないことを考えながら南門に向けて歩いていると倒れて動けなくなっているらしい冒険者を見かけ俺はその人に駆け寄った。
「大丈夫っすか?」
「腹が、腹が、刺された」
その人のお腹を見ると革鎧が真っ赤に染まっていた。
俺は慌てて医療班のところまで運ばないとと思い冒険者を担ごうとするも、冒険者が痛みに顔をしかめたのを見てまたも慌てて地面に降ろした。
「すまん、痛みが酷くてな。我慢する、肩を貸してくれるか?」
「はい、掴まってください」
そう言って腕を出したところで俺は治癒の球があることを思い出しそれを試してみることにした。
「ちょっと待ってください、治癒の魔法が詰められたものです。使ってみてください」
冒険者は受け取るも使い方がわからずに怪訝な顔をした。
使い方を教えるとすぐにガラスを握り割り体に緑色のオーラを纏わせた。
やがてオーラもガラスも手に刺さることなく消え、冒険者の傷口は何とか塞ぐことが出来た。
その冒険者に肩を貸し医療班のテントまで行くと応急処置だけしてある、とベッドに寝かせるところまでを手伝った。
兄貴ならこのあとも手伝えるかもしれないが俺にはこの先は任せるしかない。
「ありがとう、君みたいな優しい人が一人いるだけで救える人数が違うからね。よかったら、負傷者を運んでくれないかい?」
あまり医者に似つかわしくない若くイケメンな男が言う。
だが、その男の放つ雰囲気は柔らかく優しいものだった。
「ゲームみたいな言い方だな、わかった、最後まで手伝うぜ」
「そうだね、頼んだよ」
頷くと男はすぐに魔法での治療を開始した。
「ソラ、大丈夫?」
「あぁ、疲れただけだ」
あの後、二十人以上の負傷者に肩を貸し門外と医療班のテントを往復した。
今現在は冒険者ギルドの長イスで休んでいる。
カミナも俺の体をペタペタと触りながら横に座った。
だから、大丈夫だって、疲れただけだっての。
「カミナは?」
心配されたら返すのが常識だ。
「大じょ、疲れた、膝枕を望む」
「そこは普通男女逆だろ」
「所望す」
「わかった、わかったから」
顔を近づけ迫るのでしょうがなく承諾するとカミナは雨に濡れた頭を俺の膝に乗せた。
俺はカミナの髪をぼさぼさにしてある程度の水を払った後に手櫛で梳いてやった。
すると、一瞬喉を鳴らすような音が聞こえた後慌てて止めるような音が微かに聞こえてくる。
「カミナ?」
「…………」
頬を赤く染めるような性格ではないが、カミナは恥ずかしかったりするとよく無言になるな。
「人間からそんな音鳴るのかよ」
俺が笑って言うとカミナは俺のお腹の方を向いて小さく喉を鳴らし始めた。
「猫かよ」
それから、冒険者ギルドの喧騒の中いつの間にか眠ってしまっていた。
ギルド職員に肩を叩かれ起こされる。
外はいつの間にか朝になっていたが、雨は降り続いていた。
俺の膝で眠るカミナの肩を揺らし起こす。
「なんか、ありました?」
「カミナさんとソラさんに伝言が、ギルド長からです。また魔物の侵攻です」
「なっ、いつですか?」
「明日の昼頃だと予測されています」
「数は?」
「約、二万です」
「嘘だろ、異世界」
いつの間にか俺はカミナの手を強く握っていた。




