42
「王の言う通りの腕前だったか」
盾を持った二人のサイボーグの後ろで腰にブロードソードを下げたサイボーグがふたりに話しかけてきた。
全員が喋らないわけでは無いようだ。
「オルカ―ヌ帝国、帝都警ら隊隊長リカオン・ビギ。その内私と会うこともあるだろう、覚えておけ」
男は威圧的な態度でふたりに話す。
ふたりは特に気にする様子もなくそれに答えた。
「名前を憶えんの苦手なんだよな」
「警ら隊、覚えておこう」
「盾兵、やれ」
その言葉に、盾を持った二人のサイボーグが盾の横から手を出した。
とっさに飛び道具かとふたりは構える。
次の瞬間、盾サイボーグ二人から破裂音が響き渡った。
それをリクは能力を防御力に振ることで防ぎソラは能力を発動することで紙一重で避ける。
ソラが避けた物を見るとそれは鉄の球だった。
「兄貴、鉄の球だ」
能力を解除したソラはリクに早口に教える。
それにリクも頷いて答えた。
「手元を見ろ、フリントロック式拳銃だ」
「細かいのはわかんねえが拳銃なんだな」
「そうだ」
ふたりが話し合っている間にも盾サイボーグたちは銃の弾の再装填を終えたようで盾の横から手を出しこちらが動くのを待っていた。
「ソラ、弾は避けられるか?」
「もちろんだ、兄貴は、って聞くまでもねえか」
「いや」
ソラの言葉を短い言葉で否定してリクは以前よりもだいぶ筋肉質になった左腕をソラに見せる。
そこには鉄の球が刺さっていた。
リクはそれを事も無げに抜き投げ捨てた。
「切り替えが遅れたようだ」
「大丈夫なのかよ?」
「まだ問題ない」
実際、ソラも短剣使いとの戦闘からの連戦なせいなのか能力が弱くなってきていた。
帝国戦の前にもピティリス代表戦があったわけで、疲れも出てきているのだろう。
能力でゴリ押しは少し危険かもしれない。
「俺が正面から行く。ソラは横から攻撃を加えてくれ」
「了解」
リクの指示にソラが応じて能力を発動する。
それと同時に、さっきと同じ破裂音が鳴った。
片方はリクに向けて、もう片方はソラに向けて飛んでくる。
しかし、リクはお構いなしに前へと出る。
弾丸はリクに当たり火花を散らし後ろへと逸れていった。
ソラも今度は余裕を持って弾を避けると、盾兵の横へと走った。
そのまま急停止して拳打を入れようと身構える。
しかし、その場で見た光景にソラは慌てて身をひるがえしリクの陰に隠れるように帰ることになった。
「どうした」
こんな状況でも顔色一つ変えないリクはソラに聞く。
その質問にソラが答える間もなくその答えは示された。
盾サイボーグたちが空気が抜けるような音と水蒸気のようなものを出しながら盾を小さく格納しながら立ち上がる。
盾が小さくなったことで体が見えるようになりソラが慌てて帰ってきた意味が理解できた。
三面六臂。
三方向に向いた顔と六本の腕。
その腕に二丁ずつの拳銃が握られていたのだ。
いくらソラとはいえ目の前で亜音速でものを射出されては避けきれない。
それに、六本も腕を持っていれば再装填の遅いフリントロック式拳銃でも扱いやすいのだろう。
「今回は、俺は力になれなそうだ」
「わかった、下がっていろ」
「了解」
ソラは頷くと少し距離を取った。
しかし、ソラが居ても居なくても状況は変わらない。
"力の操作"の切り替えが鈍くなっている今防御力を捨てて突貫するのは非常に危険な行為だ。
さらに、相手がサイボーグなために行動不能にしても女神の加護が効かなかった反面、サイボーグたちからの攻撃で殺されてしまう可能性がある。
あれほどまでに怪力のサイボーグが先に出てきたのだからこの盾サイボーグたちも怪力を使えてもおかしくはない。
体の固さは普通の人間族と変わらないソラにこれ以上前に行かせることは出来ない。
色々な考えがリクの頭を駆け巡る。
その時間はほんの数秒の間であったが、リクには数十分にも感じられるほどの思考。
結果、リクは長い溜息を吐いて踵を返した。
そのままステージを後にする。
遅れてソラもその後に付いて行く。
サレンダー、降参する、という意思表示であった。
理由のわからない観客は口々に文句を垂れるがふたりはお構いなしに係員に降参の意を告げ、司会によってついに闘技大会団体の部が終了したことが宣言された。
表彰式が二日後に催される。
その際に、個人の部の優勝者は国王に直々に願いを聞き入れてもらえる。
大抵の願いは頷かれ叶えられる。
リクはそれが目当てでもあったためにこんなにすっぱりと諦められたのもある。
それを抜きにしても諦めるしかなかったというのもあるのだが。
闘技大会団体の部が終わった後、リクと別れたソラはフィラデルの病室を訪れた。
少しけだるい腕を上げ病室のドアを開ける。
中では浮かない顔でベッドに寝るフィラデルが待っていた。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「そうかよ」
ソラはベッド脇のイスに腰掛ける。
「キミたちが負けたって司会の声が聞こえたからね」
「だろうな」
「……ごめんね」
イスに深く座りだらけるソラにフィラデルは申し訳なさそうに言った。
「もう騙されねえよ」
「だからごめんって……」
「だから、もう騙されねえからいつも通りでいてくれよ」
ソラがそう言うと、フィラデルは一瞬驚いた顔をした後、いつも通りのいたずらっぽい顔に戻った。
「試合前からやられるなんてな。油断はダメだな」
「ほんとうだよ、お兄さんなんて全然掛からなかったんだから」
「当たり前だ、兄貴は俺の百倍は強いんだからな」
微笑むフィラデルに無意識にソラも笑って返す。
「キミのせいで傷がまた開いて痛いんだからね」
「それは完治してねえのに試合に出るお前が悪いだろ」
「それでもだよ、女の子をあんなに本気で殴るなんてひどいじゃないか」
「顔は避けてやったんだ、感謝しろ」
「え?それって」
「え?一応とはいえ女の子の顔を殴るのは男として最低だろ」
「あぁ、そういう。待って、一応って何さ」
「あ?男だったか?」
「ボクはれっきとした女の子だよ!」
頬をプクーっと膨らましてフィラデルはまんざらでも無さげに怒る。
「ボク、なんて言ってちゃわかんねえなぁ」
ソラも笑って返した。
「嫌でも女の子だって感じさせてやる」
そう言うとフィラデルはソラを引き寄せ自らの唇をソラの唇に近づける。
しかし、それはすんでのところでソラの手によって止められた。
「俺に早さで勝つなんて十年は早えよ」
そう言って無理やりフィラデルを引きはがすと、デコピンを喰らわせた。
「イタっ、キミのデコピンは痛いよ」
「はいはい、今度来る時は差し入れでも持ってきてやるよ」
そのままソラは病室を後にした。
後ろではその様子をニヤニヤした顔で見つめるフィラデルがいた。
これだから同い年は苦手なんだ。
恋心とかでは決して無い。
あのいたずらっぽい笑顔だ。
うるせえ、何も言うな。




