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闘技大会団体の部においてピティリス代表戦を勝ち抜いたふたりは控室で王都代表の八年前の英雄と帝国の帝都代表の試合が終わるのを待っていた。


「どうすんだ、兄貴があのフォルグって兄ちゃんで俺があの爽やか系の兄ちゃんでいいのか?」

「そうだな、そうなるだろうな」


しかし、そんな会話も数分後には意味のないものとなる。

王都代表の敗北がアナウンスされたのだ。

リクと互角に戦うほどのフォルグとその相方が負けたということになる。


「聞こえたか、兄貴?」

「あぁ」

「帝国ってそんなに強いのか?」

「400年ほど前に一人の英雄が前皇帝を打倒し今は二の舞だそうだ。だが、軍事力は世界一だと聞いている」

「そりゃ楽しみだな」


ソラは他人ごとのように机の菓子を口に放り込んだ。


「何でも、国の一部には、蒸気機関車なるものが走っているらしい」

「おい、それって」

「言わば、スチームパンク」

「行ってみてえな」

「考えておこう」


その会話がフラグになるなど考えもせずふたりは決勝戦前を静かに楽しんでいた。



そして、ついに闘技大会団体の部決勝戦。

ウェルミュレ代表と帝国代表の試合の時がやって来た。

ふたりはステージへと続く廊下で司会の入場の言葉を待つ。

反対側では禍々しく光る眼が五対、同じくこちらを見つめていた。


やがて、司会のアナウンスが入りウェルミュレ代表であるふたりが先にステージへと出る。

それと同時に観客席は歓声で包まれた。

続けて帝国代表が入場する。

その瞬間、場は騒然となった。

入場してきた者たちは盾を持った者が二人、短剣を持った者が一人、ブロードソードを持った者が一人、武器を持たない者が一人の五人組だった。

こう言えばこの集団はなんらおかしいところは無く聞こえるだろう。

武器を持たない一人の身長が三メートルに届こうとしている程だ、ということも少し異彩を放ってはいるが問題はそこではなかった。

むしろ、この世界には色々な種族がいるのだから少し背が大きかったところでそこまで気にする人は居ないだろう。

では何故観客たちは黙ってしまったのか。

それは、帝国代表の容姿にあった。

服装にあったと言ってしまっていいものなのだろうか。

帝国代表の戦士たちは皆、筋肉繊維が体表に露出していたのだ。

肌が無い人間と言えばわかりやすいのだろうか。

ただ、色は灰色だった。

それに加えて顔には仮面が縫い付けられている。

観客たちは何と言えばいいのかわからない、と言った表情で固まってしまっていた。

しかし、ふたりの知識にはこれがあった。

元の世界の知識を頼りにこれらを言い表すのであれば、


「サイボーグ」

「それも人造人間寄りだな」


サイボーグたちは司会の試合開始の言葉を待つ。

その間、話したり煽ったりすることも無ければ身じろぎ一つすることも無かった。


「兄貴、この世界の技術はサイボーグを作れる段階まで来てるのか?」

「いや、禁忌として蘇生魔術、死霊魔術、錬金術によるホムンクルスといったものは有るがサイボーグは聞いたことが無い」

「それで、帝国は蒸気機関まで走っている、と」

「これは察せられるな」


ソラにリクは頷いて見せる。


「ひとまずは目の前の敵を倒すことに集中しろ、帝国はその後だ」

「了解、おーい、審判、始めてくれ」


ソラも頷き、司会に声を掛けると司会は慌てて試合開始の合図を始めた。


「これは失礼いたしました。これより、闘技大会団体の部最後の試合、決勝戦を始めます。女神の加護の元、正々堂々と戦うように。試合、開始!」


司会による合図が終わる。

それと同時に、リクと巨体のサイボーグがその場から消え、会場を揺らすほどの轟音が鳴り響いた。

文字通り、瞬く間にリクと巨人はステージのど真ん中まで飛び、ぶつかり合っていた。

お互いに両手を掴み合い単純な力での押し合いが始まる。


「よし、俺も行きますか」


リクを見てソラも肩を回して準備をする。

その瞬間、ソラは吹き飛ばされた。


壁際まで吹き飛んでいったソラは慌てて起き上がり周りを確認する。

変わらずリクと巨人は掴み合って力勝負をしていた。

ということはあの巨人に殴られたのではないのだろう。

じゃあ後ろで控えていた奴らの中で、とソラが確認しようとしたときソラは背中に悪寒を感じてとっさに能力を発動して前に転がった。

すぐに起き上がり後ろを確認する。

そこに居たのは短剣を持つサイボーグだった。


「よう」

「……」

「喋れないのか?」

「……」


喋れないのか、喋らないのか、短剣使いの答えはソラに向かって短剣を振ることだった。

ソラは慌てて数歩分飛び退る。

そこでソラは一つの事実に気付いた。


能力を発動しているのに、目の前のこいつは遅くなっていない。


つまり、この短剣使いはソラと同じレベルのスピードということになる。

だが。


ソラは距離を詰め飛び上がると、短剣使いの顎に膝蹴りを喰らわせた。


「兄貴に何度喰らったことか」


カミナとの修業時期はカミナだけでなくリクはもちろんギルド長のフリンドルやリリスにまで毎日のようにボコボコにされて育てられたのだ。

ただ早いだけの奴だとは思わないで欲しい。

相手も短剣を持っているのだから早いだけの奴ではないことは確かなんだろうが。


ソラの膝蹴りの喰らって倒れていた短剣使いが立ち上がる。

兄貴はまともに喰らえば脳震盪で一分は動けなくなる、って言っていたんだが。

もう一度倒れてもらおう。

そう思い、ソラはもう一度膝蹴りを繰り出す。

しかし、それは紙一重で避けられてしまった。

じゃあもう一度、と行こうとしたことろで今度は予備動作の段階で避けられカウンターを狙うように短剣を振られた。

もちろん敵の短剣は空を切る。

その事に短剣使いは首を傾げていた。


「なーんか、調子狂うな」


自分を相手するカミナはこんな感じだったのか、と思えるほどに短剣使いの動きは初心者だった。

少し前まで戦いなんかとは無縁な生活をしていた奴が何を言っているのかと思うかもしれないが。

ただ、短剣使いは少しずつだが確実に、ソラとの戦闘の中で成長を見せている。

それはソラも理解していた。


「おもしれえ、なら成長する前にぶっ潰してやる」


そう言うと、ソラは短剣使いに掴みかかり壁際へと押し出した。

そして、得意の乱打を叩き込む。


「うらあああああああああああああ」


観客の認識ではほんの数秒のうちに、壁が見る見るうちに削れ、その中に短剣使いが埋められた。

そこでソラは能力を解く。


ステージの中心では相変わらずリクと巨人が殴り合っていた。

リクが受け流すように腕を弾き背負い投げの要領で叩きつけると、巨人はダメージを喰らった様子もなくその腕を掴んでリクを地面に叩きつけ返す。

なら、とリクが馬乗りになり顔に拳打を叩き込むもまたも巨人は喰らった様子を見せずリクに馬乗りされながら殴り返した。

一発一発が轟音を発し、会場を揺さぶる様な威力なのにも関わらずお互いにほとんど怯んだりするようなしぐさを見せることなく殴り合う。

盾を持った二人と、ブロードソードを持ったサイボーグたちは相変わらず動かない。

動かないならばむしろ都合がいい。

兄貴のサポートでもしよう、とソラが決めた瞬間、またもソラは吹き飛ばされた。

ソラは能力を発動して飛び起きる。

案の定、短剣使いが立っていた。

ただ、さっきまでと違うところは腹から胸にかけての筋肉が熱せられた金属のように赤くなっていた。

短剣使いは自身の体を観察するソラに短剣を振るう。

それをソラは事も無げに避けながらその赤熱した部分を重点的に狙った。

数発入れたところで学習したのか、短剣使いはソラの拳を弾いたり防御するようになった。


この赤熱した部分は何を示しているのか。

俺が乱打を入れたからこうなっていることはわかっている。

じゃあ、もう一回乱打を入れればいいのか。


ソラには嫌な予感がしていた。

これが乱打によるダメージで浮き出ているならまだいい。

最悪なのは、短剣使いが戦闘中に成長しているように、体も相手の攻撃に合わせて変化している場合だ。

そうだった場合、勝てなくなる前にリクに援護を頼まなければならない。


だが、ソラが横目でリクを確認するもリクも中々手こずっているようで援護は頼めそうになかった。

ソラだけでこの短剣使いを倒すしかないということだ。


ソラは短剣使いと少し距離を取る。

全身灰色の筋肉繊維らしきものに張り付いた仮面。

全部おかしいが、他におかしいところは無い。

小走りに後ろへ回り背中を見るも特に見つかるものは無かった。

遅れてゆっくりと短剣使いが振り返る。

そこで、ソラはやっと気づくことが出来た。


「お前、俺よりちょっと遅いのか」


短剣使いは何も答えない。

沈黙は肯定、とはよく言うがもしかしたらソラの言葉を聞き取れてないのかもしれない。

それならいい。

全身赤熱するまでぶっ潰してやるだけだ。


そうと決まれば、とソラは短剣使いに向かって走り出す。

短剣使いが構える。

ソラはそのまま走っていき、短剣使いの剣の範囲ギリギリで急に動きを止めた。


「ぶっつけ本番でもやれるもんだな」


足で無理やり止めるのではなく、能力を使ってスピードをゼロにする。

知覚するスピードはブーストさせながら立ち止まることが出来ているんだから出来るんじゃないか、と前々から思っていたのだ。

兄貴が筋力で無理やりやっていたのを見ていたからというのもある。


短剣使いは思っていた通りに短剣を振るう。

それを見届けると、ソラは渾身のストレートを顔に叩き込んだ。

短剣使いは大きくのけぞる。

その隙をついてソラはさらに殴る。


やがて短剣使いは全身の筋肉が赤くなり動きがだいぶ緩慢になった。


「これがゲームだったらクソゲーだぜ」


もうこれ以上は殴る場所が無い、と敵のすでに赤くなった腹から胸にかけてをひたすら殴る。

これだけ殴っても倒れないのはもはや人間ではない。

見た目からしてサイボーグなのだから予想は出来ていたことだが、改めて考えてみると殺せない闘技大会において殺しでもしないと止まらないサイボーグを出すのはずるいんじゃないのかと思う。

と、そこまで行ってソラには一つの疑問が生まれた。

まず、サイボーグは女神の加護において生きてる判定なのか。

たとえ殺せてしまえる様な一撃でも加護によって止められるだけなんだから試す価値はある。


決めるとソラは拳を握り能力の発動を強める。

そろそろ疲れも来ていたからこの辺りで決着をつけるのは丁度よかったということもあった。

一歩一歩ゆっくり歩く短剣使いの目の前まで歩いていくと腰を落とし、その胸に本気の拳打を叩き込む。

ソラの手は後ろまで貫通することこそなかったものの、前の胸を貫いて心臓らしき器官を押しつぶした。

そして、短剣使いは白色の液体を流し動かなくなった。

そこまで確認してソラはやっと能力を解除する。


大きく息を吐いてソラがリクを見るとリクもこちらを見ていて気付いたのか、巨人の腕を引きちぎり顔を踏みつぶしているところだった。

ソラはリクの横まで歩いていく。

ふたりとも白い液体でまみれていた。


「人工血液に人工筋肉、そしてサイボーグ、もとい人造人間。怪しい物のオンパレードだな」

「帝国見に行くか?」

「まずは目の前を片付けてからだ」

「了解!」


気を引き締めなおすとふたりは残った三人に向けて拳を構えた。



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