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ギルド前の広場にやじ馬たちが円形に集まり、その中心にリクと数十人のリクをよく思っていない冒険者たちが向かい合う。


「さて、早速乱闘と行きますか?話し合いますか?」

「その必要があるのか?」

「では、ひとつ質問を。あなたたちはミミュレットさんの何ですか?」

「俺たちはミミュレットちゃん親衛隊だ。」

「分かりました。では、始めましょうか。乱闘の始め方を教えてもらえますか。」

「何も知らないのだな、少年。乱闘は口頭宣言だけで可能だ。これより我らミミュレットちゃん親衛隊と少年リクの乱闘を開始する。お前もそれでいいな。」

「オーケーだ。」

「では、開始!」


親衛隊を取り仕切る隊長らしき人物の開始の合図に親衛隊たちはリクを取り囲むように展開する。

取り囲み終えると、リクの死角にいた1人がリクに襲い掛かった。

それをリクは足音を聞き、振り返ると同時に向けられていた腕を掴み背中を相手の腹につけ背負い投げの要領で投げ飛ばした。

先ずは一人。

リク自身、柔道はやったことはないので見様見真似で試してみたが、案外うまくいくものだ。


「異世界のご都合主義はすごい効果を出すんだな。」


リクがつぶやいたのを親衛隊の1人が耳ざとく聞きつける。


「この数に囲まれてもその余裕か、どんどん行くぞ少年!」


親衛隊たちも少しは楽しんでいるのだろう。

リクに投げ飛ばされた人でさえやじ馬に起こされて微笑んでいる。


「少年と呼ばれるほど子供っぽくはないつもりですが。」


リクが言うと、死角から1人と正面から1人走ってくる。

リクは前からの1人の方へと踏み出し腹に正拳突きを繰り出しそのまま押し出すようにやじ馬の方まで飛ばすと顔だけで振り返り後ろ上段蹴りをもう1人に見舞う。

蹴りを食らい動きが止まった相手にリクは手を八卦掌のように広げ輪の外に押し出す。

その瞬間、親衛隊から次の相手が出される。

親衛隊はリクにただ喧嘩を売りたいだけではないようだ。


「少年、休む暇はないぞ!」

「望むところです。」


リクは元の世界のCQCの動きを思い出しながら1人ずつ連続で投げていく。

1人も戦闘不能にはしていないため外に飛ばされた者はすぐに起き上がるとまた輪の中に戻ってくる。


そして、50回ほど投げ飛ばしたころ、親衛隊たちが一度距離をとった。

それに合わせてやじ馬たちも輪の半径を広げる。

リクが不思議に思い腕を構えると一本の片手剣が投げ渡された。


「少年、次はそれを使え。」


投げてきたのは隊長だった。

やじ馬たちが少しばかり騒然となる。

しかし、当のリクは負ける気はないし、第一よく見れば渡された剣の刃は潰されていた。

親衛隊たちの持つ剣や斧も刃は削られている。


「隊長さん、これらは?」


リクが聞くが、隊長は明確に答えることはしなかった。


「察しの良いお前にならわかるだろう。」

「そうですか、では、お願いします。」


リクは剣を右手に持ち構える。

すると先ほどと同様にまずは隊員の1人が前に出る。

その隊員が剣を振り、リクがそれを受け流し肩から腰に掛けてを袈裟懸けに斬りつける。

もちろん本当に切れてはいない。


それからまた50回ほど打ち合った後、再度攻撃が止み、親衛隊たちがさらに距離をとる。

その時、隊長からリクに声がかけられた。


「少年、本気で行くぞ。」

「では、僕も本気で行きましょう。」


親衛隊たちが構えるのを見てリクも構えをとる。

リクにとって一番馴染みある空手の構えを我流に少し変えた構えだ。

それを見て隊長が少しだけ眉を寄せた気がした。


「行くぞ!」

「うらぁぁ!」


隊長の言葉に今度は一斉にかかってくる。

そこでリクはやっと能力を発動した。

するとリクの肘まで捲ったシャツから見える腕の筋肉が少し盛り上がる。

服で見えないが下半身や胸の筋肉も増幅する。


親衛隊の1人が斧を振り下ろす。

リクは左腕でそれを弾くとみぞおち付近に拳を当て、少し力を込めて押し出す。

その隊員は他の隊員の1人を巻き込んでやじ馬の足元まで飛んでいき動かなくなった。


「魔法班、用意。」


隊長の言葉にやじ馬の外から短杖を持った者たちが数人前に出てくる。

そして、魔法使いたちは呪文の詠唱を始め、サッカーボール大の火や水の球が空中に発生する。


「少年、魔法を食らったことはあるか?」


隊長の質問にリクは不敵に笑むとこう言った。


「面白い、全部捻り潰してやる。」


リクはシャツを脱ぎ投げ捨てる。

その瞬間、目にも止まらぬ赤い閃光がシャツを回収していった。


「魔法攻撃開始。」


隊長のその言葉に魔法班が球を飛ばす。

リクはそれを殴りつけた。

火の玉は周りに火を飛ばし、水の球はそれを消火するように飛び散っていく。

リクの拳に少しすすが付くが、リクは全く気にしていなかった。

その様子に魔法班たちは苦い顔をした。


「次、前衛行け。」


続いて、リクを取り囲んでいた戦士たちがリクに襲い掛かる。

しかし、リクは敵の攻撃をものともせず全員を吹き飛ばしていく。

援護で魔法班が撃つ魔法も流れるような動作で叩き潰していった。


やがて魔法班の魔力も切れ、前衛の者たちも動けなくなりリクを囲む輪が無くなった時、隊長が前に出てきた。


「ここまで俺らを苦戦させた新人はお前で初めてだ。」

「そうですか。」


リクは構えを解かずに答える。


「ほとんどの奴は少なくとも俺らが本気を出し始めたあたりで脱落していく。」

「ほとんどは?」

「これまで2人、この新人の試練を超えていった者がいる。片方は今マスターの暗部をしている。」


リクがやじ馬の中に居るフリンドルの方を向くと、微笑みながらうなずいていた。


「では、僕はこれを超えられなければいけないわけですね。」

「お、なんだ、まさか暗部でも狙ってるのか?」

「そのまさかです。」

「ふっ、そうか、じゃあ最後の俺を超えられないとな。」


そう言って、隊長は背中から大剣を取り出す。


「俺の名前はバッドだ。覚えておけ。」

「わかりました、これからよろしくお願いします。」

「よし、行くぞ。」


バッドが構えると同時にリクも少し腰を落とす。

それと同時にバッドが走り出した。

リクよりも背の高いバッドと同じほどの大きさの大剣を持っているというのにバッドの速さはリクの予想以上だった。

しかし対応できないほどではなかった。

バッドは直進して上から大剣を振り下ろす。

リクはそれに合わせて、大剣を止めるべく右手を突き出す。

大剣がリクの細腕と打ち合う。

そう思われた瞬間、


「幻影斬。」


突如としてバッドの大剣がリクの視界から消え失せた。

リクは驚きによりほんの一瞬動きが固まる。

しかしすぐに思考を回復させると勘からとっさに左手を右脇を守るように突き出す。

その左手に固いものが当たる。

遅れて目線をそちらにやると大剣の刃が手のひらに食い込み始めていた。

リクはまるで走馬灯の様だと思った。

だが、殺されるつもりなどない。

刃に触れる左手を握り、さらに力を込める。

すると、大剣は止まりバッドの動きも止まる。


「これほどの奴は久しぶりだ。お前、どこかの手先か。」

「そうですね、言ってしまえば天使か悪魔の手先ですかね。」


バッドはリクと会話をしながらもリクに掴まれた剣を抜こうとしていた。

しかしそれは叶わない。

両手で持ちながら引こうとしても文字通りびくともしなかった。

その時、リクが体の前に構えるように降ろしていた腕を少し持ち上げる。

何をするのかとバッドが警戒したその瞬間、リクの右ひじが剣に向かって振り下ろされた。

甲高い音とともにバッドの背丈と同じほどの大剣は真ん中からへし折れた。

バッドは驚愕の表情とともに折れた柄の方をもって距離をとる。


「まさか武器を破壊されるとは。」

「まだやりますか?」


折れた剣の先の方を持ちながらリクがバッドに聞く。

それにバッドは柄を投げ捨て、ファイティングポーズをとることで答えた。

リクも刃を捨て構えをとる。


「見ない構えだな。」

「我流ですから。」


バッドがリクに走り寄り拳をふるう。

しかし拳の速度などリクには遅いとさえ感じるものだった。

突き出された拳、腕を左腕で外側に流すとリクはバッドのお腹にまっすぐ正拳突きを叩き込んだ。

一瞬耐えるように足を踏ん張ったかのように見えたが、耐えられず吹き飛んでいき民家の壁に激突して地に倒れ伏した。

バッドがあの一瞬耐えていなかったら民家を破壊していたかもしれない。


「お前の勝ちだ。さすがは私が見込んだ男だ。」


構えを解いたリクの元にフリンドルがやってきてリクの肩をたたいた。


「マスター、知っていたんですね。」

「もちろんだ、新人には全員やっているからな。今となっては恒例行事だ。」

「もしバッドさんがソラにも喧嘩を売ろうとしているのならやめるように言っておいてください。」

「なぜだ。」

「あいつは僕より怒りっぽく、僕より遥かに強いからです。次は剣を折られるだけでは済みませんよ。」

「嬉しいね、兄貴。」


そこにカミナとソラがやってきた。


「もういいのか?」

「もちろんだ、全然大丈夫だ。」

「カミナさん。」

「8時間は安静にさせて。」

「分かりました。」

「ちょ、師匠ー。」


そのやり取りに少しずつ帰り始めていたやじ馬たちから笑いが上がる。


「明日から修行よ、傷が完治してなくても始めるけどそれでいい?」

「う、わかりましたよ、今日は安静にしておきます。」

「いい子。」

「うっさいっす。」


そんな師弟の会話をリクは微笑みながら見ていた。


「では、今日は早めに帰るとしましょう。マスター、ありがとうございました。バッドさんが起きたら言っておいてください。」

「了解だ。では、また明日。」


それから、リクはソラからシャツを受け取り、2人はギルドの受付で報酬を貰い帰ることにした。

受付に行ったときにミミュレットがリクにケガはないかと心配していたがリクは左手を隠しながら、大丈夫だ、と答えていた。


そして、2人はフリンドルからの依頼と指名手配の報奨金を貰うと宿への帰路に就いた。


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