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「あ?」
カミナの突然の発言に驚いたソラとリクだったが、最初に声を出したのはフリンドルだった。
「カミナさん、理由を聞いてもいいですか?」
リクが口をはさむ。
「あんなスピードは初めて見た。だから、興味が湧いた。私も空間属性の魔法を使った、どちらかと言えばスピード型だから教えられると思う。」
カミナは真面目な顔で答える。
「そうですか、わかりました。ソラ、どうする?」
しかし、真剣そうなカミナに対しソラはあまり乗り気でないといった顔をしていた。
「いい。自分で強くなる。」
それに、カミナはすぐに口を出した。
「じゃあ、今から私と決闘して。私が負ければ引き下がる。」
その言葉にソラはほんの一瞬だけ口角を上げた。
「わかった。その決闘に負けたらあんたの弟子になろう。」
ソラが了承するとカミナは笑顔を見せた。
「マスター、決闘というのにはルールなどが決まっていたりするのですか?それとも勝負事を決闘と言っているだけですか?」
リクがまた口をはさんでいく。
「説明しよう。と、言っても説明することがあまりないが。決闘を行うと勝利の女神、ワルテレスの加護の元、相手を絶対に殺すことができなくなる。」
「一撃で殺してしまえる威力の技などを使った場合どうなるんですか?」
「1秒ほど動けなくなる。しかし、それでも決闘は続く。殺してはいけないというルールの元、力加減を誤ったのだからな。いいペナルティだろう?」
「そうですね、殺せない。僕にはあまり縁のないことでしょうが。」
フリンドルはリクの言葉をリクがあまり戦いが好きではないからだと思っているようだが、今のとこは勘違いさせておけばいいだろう。
わざわざ言う必要もないのだから。
「では、カミナ、ソラ君、両者の同意により決闘を行うが大丈夫かな?」
「もちろんです。」
フリンドルの言葉にカミナがすぐに振り返り無表情でうなずく。
しかし、リクにはカミナの眼だけが光っているのがわかった。
ソラの眼も負けず劣らず光っているわけだが。
「では、両者握手をしてから10mほど距離を取ってくれ。リク君、これは決闘の正式な作法だ。覚えておくといい。」
「はい、わかりました。」
リクが返事をすると同時にカミナとソラは睨み合いながらリクとフリンドルから距離をとる。
2人は十分かどうかはわからないがある程度歩いていくと止まり、ほんの1mの近さで向かい合う。
「ソラさん、ここで握手をします。握手をしたら距離を取り審判、今回はマスターの始めの合図で決闘は始まります。覚えておいてください。私との修業は決闘を使いますので。」
カミナは説明すると最後にソラに不敵な笑みをかける。
「じゃあ、今回で忘れちまってもいいよな。」
ソラはカミナよりさらに不敵な笑みを浮かべながら手を差し出す。
それをカミナがつかみ握手を交わすと、ソラは一瞬で距離をとった。
カミナは一瞬驚いたような表情を出したが、すぐに無表情に戻ると自分も空間魔法を使い距離をとる。
空間魔法はゲートのようなもので空間を飛び越える魔法らしい。
「あのゲートのようなものが空間魔法ですか?」
「そうだ。空間魔法の半面だな。」
「半面。」
「ソラ君がカミナの本気を出すことができれば見れるかもしれないな。」
リクにそう言ってフリンドルは片手を上げる。
「ここに女神の加護の元、決闘を開始する。決闘、始め!」
フリンドルが手を振り下ろしながら開始の合図を出す。
しかし、フリンドルの手が降ろされきる前にすでに2人の動きは止まっている。
いや、カミナは動かず、手を腰のレイピアに置いているだけだ。
ソラはカミナの目の前で自分の腹を押さえ立ち止まっていた。
そのソラの背中からはレイピアの刃先が皮膚を突き破っている。
「あああぁぁあああぁぁあああ!?」
刺されたままソラが悲鳴を上げる。
カミナの攻撃はリクにも、ソラにさえ見ることはできなかった。
「降参してもらえますか?」
カミナがソラに問いかける。
ソラはそんな言葉も耳に入らず、自分の腹を見る。
そこには、小さい空間魔法のゲートとそこから出るレイピアの刃があった。
その刃はソラの腹部に突き刺さり、背中まで抜けている。
現在進行形で猛烈な痛みが走っている。
しかし、ソラはそれに対し微笑んだ。
「おもしれぇ、ぜってぇにぶん殴ってやるよ。」
一言そう言うとソラはもう一度能力を発動する。
天井から滴り落ちていたしずくは空中で浮遊するかのようにスピードを下げ、血だまりに落ちた血が立てる波紋も動きを止める。
しかし、カミナはソラほどではないが動いていた。
カミナは自分の後ろにゲートを出し、距離をとるつもりらしい。
ソラは刃から体を抜くとカミナの方向へ一歩踏み出す。
その瞬間、ソラの目の前にレイピアの切っ先が出てくる。
それをソラは、無理やりブレーキをかけ体を捻りながら紙一重で剣の切っ先を避ける。
カミナはその間にすでに別の場所へと移動していた。
「まだやりますか?」
カミナがソラに声を掛ける。
しかし、ソラはそれには答えずに腰を落としファイチングポーズをとった。
「いいでしょう、気のすむまで向かってきてください。」
カミナがそう言うと同時にソラはまた走り始める。
それからソラの体感で10分ほどカミナのレイピアをかわし続けていたが、ソラの拳がカミナに届くことはなかった。
現在ソラはカミナから10m程のところで肩で息をしている。
「そろそろやめにしませんか?あなたの負けはもう決まったでしょう。」
「まだ本気出してねぇからやめるわけにはいかねぇよ。」
「その言葉はかっこ悪いですよ。」
「そろそろ疲れてきたから次で最後にするぜ、次の一撃を止められたら弟子になってやるよ。」
「わかりました。あなたが本気を出すというのであれば私も本気でお相手しましょう。万が一止められなかったらいい弟子を逃してしまうことになりますからね。」
カミナがレイピアを腰から引き抜く。
「万が一とは言ってくれるぜ、師匠。」
「どうぞ、いつでも来てください。」
カミナが剣の切っ先をソラへと向ける。
その瞬間、カミナの目の前にソラが現れる。
実に楽しそうな笑顔を浮かべ、カミナに向かって拳を振りぬこうとしている。
カミナにはそれがまるで走馬灯のように、あるいは本当に走馬灯だったのかもしれないが、ゆっくりに見えていた。
そして、カミナの心が恐怖と期待に埋められた時、カミナは何年ぶりだろうか、最終奥義ともいうべき技を出していた。
先ほどと同じようにソラの目の前に空間の穴が生まれ、剣の切っ先が出てくる。
ソラは、先ほどよりも速く走っていたためさらに強くブレーキを掛け後ろに避け、そこで動けなくなった。
一本を避け、少し後ろに下がったことで視界が開け気付いたのだ。
今回の剣は一本ではない。
前、後ろ、右、左、上、下。
数えきれないほど大量の剣や槍や斧が隙間なく飛び出してきていた。
普通の人であれば一瞬で、恐怖を感じることもなく死ぬのだろう。
しかし、ソラは最大限まで加速したスピードの中でゆっくりと迫りくる武器たちを見ていた。
逃げ場はなく、切っ先がソラに届こうとした瞬間、カミナは自分の首筋に体が動かなくなるほどの殺気を感じソラへの武器たちを止めてしまった。
「そこまでにしましょう。」
カミナが目だけで自分の首を見ると、綺麗な人の手がカミナの首筋に爪を立てていた。
「決闘を止めてしまい申し訳ありませんが、もう十分でしょう。」
そう言いながら、爪が離される。
カミナが慌てて振り返ると、そこにはリクがさっきまでの殺気は嘘かのように笑いながら立っていた。
「ソラ、もういいだろう?」
「あぁ、もういいさ。あんな技を隠しているなんて思わなかった。降参だ。」
「カミナさん、いいですか?」
「弟子になってくれるみたいだから私は構わない。」
カミナはソラの周りに出ていた剣たちを再度異空間へと戻す。
空間の穴が完全に消えたのを確認してからソラとフリンドルがリクたちの方向へ集まる。
「師匠、酷いっすよ。本気で殺すつもりだったでしょう?」
「加護の元だからどのみちあれ以上はあの子たちは出なかったわ。」
「「あぁ。」」
加護という言葉にソラとリクは同時に反応する。
2人とも女神の加護を忘れていたようだ。
「しかし、リク君の殺気と隠密性は素晴らしいものだ。やはりAランクになったらすぐに私の暗部に勧誘することにしよう。」
「では、早くランクを上げないといけませんね。」
「それは嬉しいがあまり急ぎすぎるのもよくないぞ。」
「はい、わかっていますよ。さて、あっちに避難してしまっている回収班の人たちと帰りましょうか。」
リクの指さす先では回収班の皆さんが、フードで顔は見えないものの呆然とこちらを見ていた。
「そうだな、帰るとしようか。回収班、回収は済んでいるな?」
「は、はい。帰還準備は出来ております。」
「よし、カミナ、街まで全員まとめて行けるか?」
「はい。大丈夫です。」
「では、頼むぞ。」
「はい。」
カミナは答えると洞窟の壁に直径10m程の空間の穴を作る。
回収班たちは慣れた感じで、盗賊たちを担ぎ上げるとそこに入っていった。
回収班が全員入っていったのを確認すると、フリンドルは2人に声を掛けた。
「私たちも帰るとしよう。これからは忙しくなるぞ。駆け出し冒険者は数をこなさないといけないからな。」
「ソラ、あなたは明日の朝から修行だから7時に南門に集合よ。」
「うへ、朝早いのかよ。」
「私から卒業できるまでは毎朝よ。」
「まじっすか、わかりました。7時に南門っすね。」
「えぇ、お兄さんも一緒に修業しますか?」
カミナがリクに聞くが、リクは微笑を浮かべて遠慮しておきます、とだけ答えた。
そんな3人を見てフリンドルは微笑みながら穴へと入っていく。
その後を追うようにソラとカミナが穴へと入っていく。
リクは一度洞窟の方に振り向くと、すぐに向き直り穴へと入っていった。
穴を抜けるとそこはウェルミュレの街のギルドの目の前だった。
回収班たちは急いで盗賊たちをギルドの中へと運んでいく。
「マスター、なぜあんなに急いでいるのですか?」
「ギルドは国営ではなく、民営なのだ。少なくともこの国ではな。」
まだ他国の間者という疑いは晴れていないんだ、とでも言うようにフリンドルは強調する。
「この街にも駐屯兵がいるからな、そいつらに見つかると身柄拘束と称して手柄を奪われてしまう。」
「だから、急いでいるんですね。」
リクがフリンドルに質問をしている傍らではソラとカミナが会話していた。
「ソラ、私が刺してしまったお腹は大丈夫なの?」
「こんなん大丈夫っすよ。」
「いや、ソラ、そろそろアドレナリンが切れる頃だ。ギルドには医療魔導士がいるらしい。行って来い。」
「そうか、わかった。」
「あどれなりん?」
カミナは首を傾げているが、リクはそれには答えなかった。
「師匠、ギルドの医療魔導士と居場所はわかりますか?」
「ギルド2階の医療室にいると思う。案内する、ついてきて。」
「はい。」
ソラはカミナに連れられてギルドへと入っていった。
「君は行かなくてもよかったのかい?」
1人になったリクにフリンドルが話しかける。
「いつもついてやる必要はありません。1から100まで用意された人生なんてつまらないでしょう?0を用意してやればいいんです。あとはあいつが自分で考えて進みます。まだ何かの拍子に0に戻らないように見守っていなければいけないぐらい危なっかしいですが。」
「そうか、道を踏み外さないように見てやれ。」
「はい、もちろんです。」
「さて、暗い話はここまでにして、中でイスに座りながら今回の報酬の話でもしようじゃないか。」
そう言って、ギルドへと入っていくフリンドルの後を追ってリクもギルドへと入っていく。
中へと入ると、昨日入った時と同様に冒険者たちの視線が集まる。
しかし、フリンドルについてきた者がリクだとわかるとすぐに視線をそらした。
「薄情な奴らですまないな。」
フリンドルが振り返らずにそう言うが、リクは構わないと答えた。
「触らぬ神に祟りなし。関わらなければ被害をこうむることも少なくて済む。未知数相手には普通の対応だと思います。」
そのまま歩きながらリクはフリンドルに持論を話す。
「達観しているな。とりあえず、座って話そう。」
フリンドルが座ろうといった席はギルドカウンターの目の前だった。
たまたまリクがそちらの方を向くと、フリンドルの声が聞こえたからなのか、ちょうどこちらを向いていたミミュレットと目が合った。
「ただいま、ミィ。」
「お、おかえりなさい、リクさん。」
笑顔を浮かべて挨拶すると真っ赤になってうつむいてしまった。
「エリーネさん、何か吹き込んだんですか?」
リクは、視界の端でお腹を抱えて笑いを我慢しているエリーネを言及する。
「帰ってきてすぐにリク君の方からただいまって言ってくれたら脈ありよって言ってあげたのよ。リク君なら絶対に挨拶してくれると思ったから。」
「はぁ…」
リクはあきれ顔で溜息を吐く。
「酷いよエリー、嘘だったの?」
「ミィ、一般的に男性が自分から話しかけるのは男女の友情が成立している場合か、気になっている相手だよ。」
「じゃあ、」
「会って2日しか経っていないのに俺とミィの間に友情はありえない。よって俺はミィが気になっているという答えにたどり着く。」
「学者かよ…」
エリーネのツッコミを無視してリクは続ける。
「だけど、ミィはギルドの嬢でみんなに愛されているからね。俺だけの物にすることは出来ないよ。」
「私はかまい」
「駄目だ。」
なんと続けようとしたのかはわからないがリクはミミュレットの言葉を止める。
「その答えがNOならそれでいい。YESならまだ言わないでほしい。」
「なんでよ。」
少し怒ったような声でエリーネが口をはさむ。
「まだ、ミィを守るだけの力が俺には無いから。」
「リク君は十分強いじゃない。バスカーさんはBランクの冒険者よ。」
「この世界にはランクでは測れないつわもの達がいるでしょう?俺が最強になるまで待ってほしい。最強になったらまたプロポーズしよう。」
「わかりました、その時まで応援しています、冒険者ギルドの受付嬢として。」
「あぁ、ありがとう。」
リクは話し終え、フリンドルの前に座る。
しかし、フリンドルやミミュレットを含めたリク以外の全員が数瞬固まる。
そして、ミミュレットがカウンターに顔を真っ赤にして突っ伏したと同時にギルドの酒場にいるほぼ全員がツッコミを入れた。
「「「もうそれがプロポーズじゃねぇか!」」」
フリンドルはその様子を見て爆笑している。
リクは疑問符を浮かべていた。
「プロポーズしないとは誰も言っていない。最強になったらまた改めてプロポーズするから答えはその時にとお願いしただけだ。」
「はっはっは、本当に面白いやつだ。なぜ答えを遅らせたのか聞いてもいいかな?」
「理由は簡単です。これから忙しくなる僕がいない間にミィに手を出す輩がいないとも限りませんから。ギルドに居る時は誰がしか見守ってくれているので大丈夫だとは思いますが。」
「リクさん、そんなに私の事を…」
そこで、酒場客の1人がリクに近づいてくる。
「もう我慢できねぇ。俺らのミミュレットちゃんを口説くとは。表へ出ろ。最強を目指しているなら俺にも勝てないとな?」
「そうですね、わかりました。マスターとの話が終わったらにしましょう。」
「逃げるんじゃねぇぞ。」
「もちろんです。」
そこまで言うと、その酒場客は元の席に戻っていった。
「すいません、マスター。今回の報酬の話に移りましょう。」
「あまり話すことはないがとりあえず残りの6泊分の報酬は君が喧嘩している間にでも用意しておこう。あとは、先ほど君たちが逮捕協力をしてくれた盗賊に懸賞金がかかっていればさらに報酬を上乗せしておこう。」
「はい、ありがとうございます。しかし、喧嘩を止めはしないんですね。」
「決闘ならば構わん。ここには凄腕の医療魔導士もいることだしな。」
「わかりました、ではお願いします。行ってきます。」
遠足前日の小学生のような顔でリクが立ち上がると奥でも先ほどリクに喧嘩を売った酒場客が立ち上がる。
そこで、リクはイスに立ち腕を広げて周りを挑発した。
「ほかにも僕に文句がある人は外に出てください。決闘スタイルで1人ずつお相手しましょう。」
「おいおい、そんなに煽っておいて乱闘が怖いのか?」
「乱闘?」
リクは初めて聞く言葉に疑問符を浮かべる。
そこに、フリンドルが声を掛けた。
「説明してなかったな。女神の加護による戦いは実は決闘だけではなく、乱闘というものもある。複数人対複数人の時に使うものだ。殺せないのは決闘と同じ。さらにそこに仲間への攻撃の無効化が付け加えられる。」
「それは面白い。では、乱闘にしましょう。僕の力が冒険者相手にどこまで通用するのか見てみたいですからね。」
リクはイスから降り、ギルドの出口へと向かう。
その後に続いて、いかにもつわもの顔の冒険者たちが15人ほどついていく。
さらに少し遅れてやじ馬たちが立ち上がる。
リクは酒場の冒険者たちを連れてギルドの扉を開け出ていった。




