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リクがギルド酒場の冒険者たちの「新人の試練」を無事クリアし、医療室に行っていたソラと合流し宿屋に戻ってきていた。

そして今はツインベッドに寝転び、部屋が真っ暗な中2人は雑談していた。


「腹は本当に大丈夫なのか?」

「もう痛みはないな。」

「そうか、それならいい。」


リクは寝返りを打ちソラに背を向ける。


「もう寝ちまうのか?」

「そのつもりだが、何かあったか?」

「新人いびり?は、どうだったんだ。」

「あれは軽く超えられなければいけない壁だ。あれ程度で手こずっていてはAランクにも暗部にもなれない。」

「本気で暗部になるつもりなのか?」

「異世界に来たら冒険者で最高ランクになるのが夢だったからな。それに考えてみろ、あの新人いびりによって俺らにも良いことがある。」

「ん、人望か?」

「それもあるな。しかし、それ以上に俺らが望んでいるもの。」

「わからないな。」

「より強いやつとの戦闘フラグだよ。あのいび、試練を超えた者は俺合わせて3人だけだ。」


そこで、リクがまた寝返りを打ち上を向く。


「ソラ、お前はこの世界で何がやりたい。」

「俺は適当にその場で思いついたことをやるさ。」

「その時に兄が高い地位についておけば融通が利くぞ。」

「利かなくても押し通すだけだ。」

「確かに俺も最初はそう思ったよ。だが、この世界はそんなに甘くない。カミナさんに負けたのがその証拠だ。」


その時、部屋に赤い閃光が走った。


「んなこと、俺が一番知ってんだよ。殴り殺すぞ。」


ソラが暗い部屋でリクにのしかかっていた。


「やってみろ、今のお前では俺には勝てないぞ。」

「ちっ。」


ソラはまた赤い閃光を出し自分のベッドに戻ると寝返りを打ってリクに背を向けた。


「ソラ、大丈夫だ、お前が強くなるフラグは立っている。」

「ふっ、やっぱ兄貴は最高だぜ。」

「単純な奴だな。」

「うっせぇ。」

「明日は修行で朝が早いぞ。寝ておけ。」

「はいよ、お休み。」

「お休み。」


2人はそのまま眠りについた。



次の日、リクにたたき起こされたソラは7時の10分前に南門についていた。

そこにはすでにカミナが待っていた。


「おはようございます、カミナさん。今日はお願いします。」

「おはようございます、師匠。」


リクが挨拶し、それに続いてソラもあくびしながら挨拶をする。


「お兄さん、お早うございます。ソラ、おはよう。」

「修行ってどこでやるんすか?まさか滝行とかするんですか?」

「知っていたのね。」

「え、冗談っすよね!?」

「冗談ではないわ。転移するからこっちに来て。」

「フラグはそう安易に建てるものではない。作者も困ってしまうだろう。」

「作者?なんだそれ。」

「俺も知らん。行くぞ。」


リクはカミナの出した空間の狭間に入っていく。

ソラもそれに続き、最後にカミナが通過した。


移動した先は森の中。

バシャバシャと水の鳴る音がする。

振り返るとそこには決して小さいとは言えない滝が流れていた。


「さあソラ、服を脱いで。」

「マジでやるんすか!?」

「やる。」

「えー。」

「文句言わない。また剣の檻に入る?」

「う、わかりましたよ。」


リクは上着を脱ぎ7分丈のズボンで滝下に出来る水たまりに入っていく。


「ソラ、30分滝行しましょう。その後の事は滝行が終わったら言うわ。」

「りょーかいっす。」


ソラはそのまま歩いていき滝に打たれ始める。


「お兄さんもどう?」

「いや、僕は遠慮しておきます。寒いのも熱いのも苦手なので。」

「お兄さん、敬語はいい。」

「……分かった。カミナもかしこまらなくていい。」

「わかったわ。」


滝行をするソラを無視してリクとカミナが歓談していたところにソラが言葉をはさむ。


「師匠、何分経ちました?」

「一分よ。」

「うへぇ。」

「ソラ、能力を発動しながらやれ。」

「なんでだ?」


ソラが滝行しながら閉じていた目を開けリクに問う。


「悪環境の中でも能力が続けられる様にする訓練だと思え。」

「なるほど、わかった。」


その瞬間、ソラの体感時間は引き延ばされていく。

どうせ普通と変わらないだろう。

そう、ソラが思ったのもつかの間、ソラの能力は解けてしまった。


「どうした、弟よ?幽霊でも見たかのような顔をして。」

「思っていた以上に滝行というのは難しいんだな。」

「そうだな、しかし手伝うことも出来ないからな。あとは自分でやれ。」


リクはシャツを脱ぐと木の枝に掛ける。


「頑張れとは言わねぇのか。」

「その難しさも知らずに無責任に頑張れとは言えないからな。」


リクはそれだけ言うとシャツを掛けた木とは違う木の前まで行くと腰を落とした。

そして拳を握りその木の幹に打ち込み始めた。

それを見届けたソラは自分もやるかと意識を自分にだけ集中し始めた。

そんな2人を見てカミナは近くの岩の砂を払うとそこに座り瞑想を始めた。


その後、30分が経過してもまだ不十分だからとソラは滝行を続け、リクは格闘技の型を始めていた。

その間、カミナは剣を振ったり、リクと軽めに手合わせをしたりして過ごしていた。


結局、開始から2時間が経過してもソラは満足せず、リクは少し用事があるからとカミナの能力で先にウェルミュレに帰っていった。


その後ソラは昼ご飯も食べず辺りが暗くなるまで修行を続けたが完全な制御は出来ず明日以降の課題となった。


一方、カミナにウェルミュレに帰してもらったリクは一人で図書館を訪れていた。

本当にあるかどうかはわからなかったが街をぶらぶらと散策していたら見つけた。

リクが図書館を探していたのは、明日冒険者としての依頼を受けるにおいて必要な知識を集めておくためだ。


リクは閑静な雰囲気を漂わせる図書館の中へと入っていく。

中は大きく、二階建てで所狭しと本棚に入れられた本が整列していた。

その様子に気圧されきょろきょろと周りを見回していると司書らしき人がリクに話しかけてきた。


「何かお探しですか?お手伝いしましょうか?」


声にリクが振り向くとそこにいたのはリクより背の低い女の司書だった。

腕に本を抱えているし、手伝いを自ら申し出るのは司書ぐらいしかいないだろうと思ったわけだが。


「あっ、私ウェルミュレ図書館の司書をしています、アンナと言います。」

「リクだ、ここを利用するのは初めてでな。どこに何が置いてあるのかわからない。」

「リクさん……新人の試練を超えた期待の新人さんですね。」

「ん?俺の記憶が正しければやじ馬の中に君みたいな可愛らしい娘はいなかったと思うが。」

「まぁ、可愛いだなんて、嬉しいですね。」


アンナは頬を少し赤くする。


「この街の情報のほとんどはこの図書館に集まります。内緒話から噂話、自慢話まで。」

「内緒話までか。」

「えぇ、私の耳は誤魔化せませんよ。」

「そうだな、ここでは重要な話はしないでおくよ。」


リクが微笑むとアンナも微笑んだ。


「何かお探しなんでしょう?これ片づけたらお手伝いしますよ。」

「そうか、頼もう。代わりに本の片づけを手伝おう。重いだろう?」

「ではお願いします。意外と重いですよ。」


そう言って、アンナは両手で抱えていた本をリクに渡す。

それをリクは能力を甘く発動させ、軽々と持ち上げた。


「力持ちなんですね。」

「そこら辺の冒険者よりは力持ちだと自負しているよ。」

「もしかして肉体強化魔法ですか?その若さで肉体強化魔法を体得しているのは凄いことですが。」

「そんなところだ。」


雑談をしながら本棚と本棚の間を歩いていく。


「一番上の本をそこに。一番下の本をこちらに。上から3つ目をここに。」


アンナの指示のもとにリクが本をしまっていく。

20分ほど図書館の中を歩き回るとリクの持つ本は無くなった。


「お手伝いありがとうございました。」

「いや、構わない。」

「さて、今度は私がリクさんのお手伝いをする番です。どういったものをお探しですか?」

「ありがとう。そうだな、明日冒険者として初依頼を受ける予定だ、それに合ったものを頼みたいんだが出来るか?」

「もちろんです、任せてください。そうですね、魔物図鑑に植物図鑑に魔法学初級編と剣術指南書、と言ったところでしょうか?」

「いや、剣術指南書はいらない。」

「?リクさんは槍か斧を使うんですか?あれらは初心者には難しいと聞きますが。」

「俺は拳を使う。」

「拳闘士さんでしたか。では、拳術指南書を持ってきましょう。」

「運ぶのは手伝おう。」


そう言ってリクが立ち上がるとアンナは微笑んでリクを止めた。


「私にやらせてください。」

「…わかった。」


リクは再度ソファーに腰を下ろす。

それにアンナは満足そうな顔をするとリクに1つ質問をした。


「リクさんは記憶力はいいほうですか?」

「今の俺なら辞書の丸々1つや2つは簡単に覚えられるだろう。」

「わかりました。少し待っていてください。」


アンナは小走りに本棚の間に消えていった。


柔らかいソファーに座りながら待つこと10分。

本棚の間から両腕いっぱいに本を持ったアンナが現れた。

リクは立ち上がると近くにあった机を持ち上げソファーの前まで持ってきた。

アンナはその机に本を置くと、ソファーに座り込んだ。


「ふぅ~、お待たせしてすみません。リクさん記憶力があるとのことなので色々見せたくて悩んじゃいました。」

「お疲れさま。」


リクもその隣に座る。


「早速お見せしていきましょう。これが魔物大全、これが植物大全、魔法学初級編、魔術大全、拳術指南書、英雄ガンタの冒険、ダンジョン攻略書、幻獣大全、格闘術上級編、です。」


予定より増えているのに加えて、一冊が思っていたよりも厚かった。


「魔物大全?」

「この世界すべての魔物が記された書物になります。リクさん、記憶力いいって言っていたのでならこれを読んでほしいなと思いまして。」

「なるほど、読むのに時間はかかりそうだがこれを覚えておけば困ることはほとんどないと。」

「はい。あっ、ダンジョンにしか出ない魔物に関してはダンジョン攻略書にしか書いていませんので。」

「わかった。貸出とかはしているのか?」

「はい。もう貸出手続きはしておきました。」

「ありがとう。返す時は向こうの受付でいいのか?」

「本来はそうなんですが、植物大全と英雄ガンタの冒険は私の私物なので返す時も私経由でお願いしていいですか?あと、落書きがたくさんあると思いますが気にしないでください。恥ずかしいので。」


この娘は恥ずかしさより知識の共有欲が勝るタイプの子らしい。


「了解した。わざわざすまない。」

「いえいえ。ところでリクさんこの後は何か予定が?」

「今日は無いからここで本を読もうかと。」

「そうですか、わかりました。」


とだけ言うとアンナはまた本棚の間に消えていった。

さらに本を追加するつもりなのだろうか。

それならそれでいいか、とリクは魔物大全を本の塔の一番下から引っ張り出すと読み始めた。


数分して、リクが変わらずソファーに座って魔物大全読んでいると横に座る影があった。

それに反応してリクがそちらを向くとそれは一冊の本を持ったアンナだった。

アンナはリクに一度微笑みかけると、リクの肩に頭を預け本を読み始めた。

リクはそれに、よくある冴えない男子が主人公のラブコメのように慌てることはせず、気にせず魔物大全を開きなおし読み始めた。


「ハーレムフラグを立てた覚えはないんだがな。」

「何か言いました?」


アンナが上目使いに聞いてくる。


「何もない。独り言だ。」

「そうですか。」


そうして二人して夜遅くまで本を読み漁っていた。


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