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「よぉ、小僧。華獣族のお嬢ちゃんとの戦い見てたぜ。」
闘技大会決勝戦。
ウェルミュレ代表と王都代表の試合。
まさに化け物と化け物の戦いである。
「フォルグ。八年前に闘技大会に出場し個人の部、団体の部共に優勝した猛者。」
「おぉ、俺のことは調べ上げてあるってか?いいねぇ、じゃあこれが何かもわかってるのか?」
そう言って、フォルグは持っていた槍を見せびらかす。
「勿論だ。」
ダンジョンの遺物。
またの名を、ゲイ・ボルグ。
投げれば数十の鏃となって降り注ぎ、突けば数十の棘となって破裂する。
伝承通りであれば相手にしてはいけない相手。
それが今、リクの目の前でまるで錨のように地面に突き立てられていた。
「この槍は俺しか使えない。俺以外が持てば薔薇のように突き刺さり、俺が持てば敵の体は貫かれる。」
「自信があるんだな。」
「これを持って負けたことは無いからな。期待してるぜ?」
そう言ってフォルグは楽しそうに笑う。
リクは構えを取ることでそれに答える。
そこで、試合開始の合図が司会からなされた。
「闘技大会決勝戦、開始!」
観客が轟々と沸き立つ。
こんな実力者同士の戦いなど滅多に見られないからだろう。
魔法障壁班もかなりの数が動員され厳戒態勢が敷かれている。
それでも先ほどまでの試合を見ていて完全に安心しきれる人はいないだろうが、それでも強者同士のぶつかり合いは心沸き立つものがあるのだろう。
それもふたりが元々居た世界より、敵という存在や死が身近にあるせいかもしれない。
「獣と張り合える力、そんなん久しぶりに見たぜ。師匠以外にいるなんてな。戦うのが楽しみだったんだ。一個前の試合も一瞬で終わらせちまった程だぜ。」
「それは光栄だ。」
「でも、もう終わりだけどな。」
そう言った次の瞬間にはフォルグはリクの目の前にいた。
フォルグはリクに槍を振るう。
リクは紙一重の所でそれをかわすと、フォルグを蹴り飛ばした。
再度二人は距離を取る形となる。
フォルグが笑ってリクに話しかけた。
「鈍っちまったか?闘技大会に出たのは八年前なんだし仕方ねえか。」
「二世代も前の者なんだ。仕方ないだろう。」
「お?煽ってきてるつもりか?そんなんじゃ俺は乗せられねえぜ?なあ!」
そう言いながらもフォルグはリクの前の地面に槍を突き立てる。
もちろんまたも紙一重でリクがかわしたのだ。
リクは言わずもがなパワータイプでそこまでスピードに自信があるわけでは無いが、それでも強大な筋力に任せてスピードを求めることも出来る。
心配性のリクが防御力を捨ててスピードに全振りするようなことは無いが、それでも攻撃力を一時的に捨ててスピードを重視している今の状況で辛うじて避けられるようなスピードの攻撃をフォルグは放ってくるのだ。
先ほどの一撃目の後にフォルグを突き飛ばした時もほとんど力は入っていなかった。
フォルグが鈍ったか、と言ったのは自分に問うと同時にリクにも言っていたのだろう。
「なんだ?攻撃しねえのか?」
フォルグは槍を地面から抜くこともせず、目の前のリクに声を掛ける。
「さすがは歴代の猛者だな。」
「現役の若者にそんなこと言ってもらえるなんてな、嬉しいぜ。」
フォルグはニヤリと笑った。
この状況、リクにとってはとてもまずい。
負けることは無いが、勝てないのだ。
スピードや防御力を取って低威力で攻めてもダメージは与えられず、攻撃力に振って遅く重い攻撃をすれば防御力の薄くなった体にカウンターを貰う。
会場ごと吹っ飛ばしてしまったもいいが、ソラやパーティーメンバーがいる手前そんな派手なことはあまり出来ない。
ソラが何とかしてくれるだろうが、後で怒られてしまう。
フォルグがそれにさえ対応できてしまう可能性もゼロではない。
良い意味でも、悪い意味でも完全にゼロでない限りはリクはその選択肢を常に頭に入れて行動する。
“力の操作”で思考力をブーストしているからこそ出来るようになった芸当ではあるが。
と、ふとリクはゲイ・ボルグに手を伸ばし柄を握った。
その瞬間、リクの手の甲を15㎝程の数本の針が刺し貫いた。
防御力に全振りしたリクの肉体を貫いたのだ。
「言っただろ。刺さるってよ。」
リクが手を放そうとすると、同時に針は引っ込みその穴から血が流れ出る。
「痛くねえのかよ?」
「痛いな。」
その時、リクはゲイ・ボルグの持ち主で知られるクーフーリンの伝記を思い出していた。
少し興味がわいた時に少し調べただけであまり細かいところまでは覚えていないが、確かクーフーリンは足でゲイ・ボルグを投擲したことがあるはずだ。
もし、クーフーリンが正式なゲイ・ボルグ継承者で無いとしたら。
師匠であるスカーサハから譲り受けたという話も見た覚えがある。
握るたびに血が出ていたなどということは聞いたことは無いが、書かれていなかっただけかもしれない。
そう思い至り、リクはフォルグから少し距離を取ると靴を脱いで後ろに放った。
「何してんだ?」
「すぐわかる。」
「そうかよ、じゃあ行くぜ。」
言うと、フォルグはゲイ・ボルグを引き抜きリクに突貫する。
対するリクは一度攻撃を避けるとすぐに距離を取るということを繰り返した。
二人はそれを地面や壁に切り傷やクレーターを作りながら何度も続けた。
しかも、リクは全く攻撃の意思を示さない。
フォルグはイラつきながらもリクが何を考えているかわからず攻めるに攻めれなかった。
それから数回のゲイ・ボルグでの突貫の後、フォルグはカウンター覚悟で攻めに出ることを決意した。
少し大振りに横なぎをし、それを避けたリクが飛び上がり壁に足を付いたところでフォルグは腰を低く槍を構える。
そして、フォルグはそれを力一杯投擲した。
実は、ゲイ・ボルグはフォルグが念じればフォルグの元に飛んで帰ってくる。
それはこの大会内では一度も使っていない。
恐らく、リクはこの槍をギリギリでもなんでも避けるだろう。
フォルグはその後に賭けたのだ。
ゲイ・ボルグは音さえも容易に置き去りにしてリクの元へと飛来する。
しかし、リクはそれをフォルグの予想通り壁を蹴り体をたたむことで避けて見せた。
そして、次の瞬間、フォルグは赤い茨となった。
リクがゲイ・ボルグを足で持ちフォルグの方へと投擲したのだ。
リクの筋力に加えフォルグが手元に戻そうとしていたスピードが加わり、フォルグの動きやすさ重視の鎧は簡単に貫かれた。
突けば数十の棘となって破裂する。
その伝承通り、フォルグの体はサイコパスの作ったオブジェかのように内部から数十センチの棘に貫かれた。
「さすがに、降参だ。」
少しかすれた声でフォルグがそう呟くと司会によって試合終了の合図がなされた。
体を貫かれながらも喋ることが出来るフォルグも意味不明な強さだったが、これでリクの力が異世界でも通用することが証明された瞬間だった。
兄が決勝戦をしている頃、ソラは何となくピティリス代表のフィラデルの居る医務室に来ていた。
兄が負けることは無いという絶対の信頼があるため決勝戦は見なくてもいいと判断したのだ。
その期待に応えて兄は優勝を遂げるわけだが。
「よぅ、大丈夫か?」
白いシーツを被って目をつぶるフィラデルに声を掛ける。
返事はすぐに、いつも通りのいたずらっぽい声で返ってきた。
「大丈夫に見えたの?お腹を貫かれたんだよ?」
「だから、お前はあの攻撃を喰らって大丈夫な奴なのか聞いたんだよ。」
「キミのお兄さんだったら大丈夫って?」
「心配してやってんだから素直に答えとけよ。」
「あははっ、そうだね。笑うとまだ少し痛むよ。」
お腹を押さえてフィラデルは笑って見せた。
「じゃあ笑ってんじゃねえよ。」
「それはキミ次第だね。」
「それはすまなかったな。」
「ふふっ、ほんと反省して欲しいよ。」
ソラは正直フィラデルの事が苦手だった。
他の人といるよりも断然楽だが、どうも会話の主導権を握られていると話しづらくなってしまう。
それはたぶん、いや確定的にリクも師匠のカミナも基本無口でこっちから話しかけなければ喋らない人だからだ。
フラさんも基本的にソラの話を聞いてくれる。
リンカさんは聞き専ではないが、主導権を握るような話し方はしない。
それは皆よりもソラが年下だからということもあるかもしれない。
そう考えると、同い年くらいの人と長く喋るのはあまり無かったことかもしれない。
元の世界でも、兄の背中を追っていたせい、いやおかげで同い年と趣味や趣向が合わないこともあった。
いまさらそんなことは気にしても仕方ないし、ソラ自身はそれが良かったんだと思っているが。
「なぁ、フィー。」
「どうしたの?」
無意識にソラが少し真剣な声で呼びかけると、フィラデルは優しい笑顔を浮かべてソラの手を取った。
やめろ、それは、ダメだ。
ソラはフィラデルの手を離すと医務室を出ていった。
「またおいでよ。」
そんなソラの背中にフィラデルはまた来い、と声を掛けた。




