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闘技大会個人の部の午後の部が開始されてから少しして司会がアナウンスをするとステージの片方の入り口からはリクが、もう片方からは獣人族、もとい華獣族の少女がステージ上へと上がってきた。
それをソラたちはVIP席から見ていた。
「華獣族、だな。」
「見ての通りにゃ。」
今わかりやすい語尾を付けてリクの短い質問に答えたのは獣王国ガレオスフィールドの華獣族の少女だ。
獣の耳を頭に生やし、獣のしっぽをお尻の上から生やしている。
手には金属製の爪を持ち、装備は動きやすいように金属製の鎧ではなく革製の服となっていた。
二回戦のノンハイカ代表戦での動きを見る限りは力も早さも人間族などと比べようもないほどの身体能力を持っているようであるから、それを阻害しないための装備にしているのだろう。
「獣は嫌いかにゃ?」
「なぜ?」
リクは質問に質問を返す。
「人間族はみんな華獣族を憎んでいるし、耳もしっぽも変って言われるにゃ。」
「そうか。」
「……」
「……」
会話が続かず二人は押し黙る。
それが観客には強者同士が睨み合っているかのように見え、観客席は緊張感に包まれた。
「そうだな、ケモノは、好きだな。」
「にゃ~。」
しかし、華獣族の少女は一声小さく鳴くと爪を握りなおした。
いざ、尋常に勝負というわけらしい。
たいして、リクも腰にさげてある洋剣を引き抜くと鞘を後ろに投げ捨てた。
「私に勝てたら名前でも教えてやるにゃ。」
「楽しみにしている。」
二人は相対して互いの武器を構える。
その瞬間、試合開始のゴングが鳴らされた。
しかし、それは正確にはゴングではない。
そもそも闘技大会にゴングはない。
では何なのか。
それは、獣人族の少女の地面を蹴る音である。
ステージがへこんだりする事こそ無いが、周りに砂埃を飛ばし一気に飛翔する。
ジャンプしているだけだが、その表現がふさわしい。
リクが瞬きをした次の瞬間には少女はすでに目の前へと飛び込んで来ていて、その鋭い爪を上段から振り下ろそうとしているところだった。
リクは慌てて、持っていた剣を振り上げその爪を受ける。
とっさの事に能力もろくに発動できていない腕が折れそうになる。
それを回避するためリクは体ごと回転させながら飛び上がる。
ついでに、と後ろ蹴りをお見舞いしようとするも少女はそれを華麗に避けると元の位置へと飛び退った。
「人間族は、嫌いか?」
刃の少し欠けてしまった剣を見ながらリクは最初にされたのとは逆の質問をする。
それに、少女は微笑んで答えた。
「なんでにゃ?」
「華獣族は皆人間族を憎んでいると言い、力なんてないくせに偉そうに華獣族を獣獣と蔑むからだ。」
「そうにゃね~。」
「……」
「……」
またしても二人は押し黙る。
少女は答えを探しているのか、それとも。
「あんたみたいな人間族なら好きになれそうにゃー。」
「そうか。」
そして、また二人は互いに武器を構える。
その瞬間、今度はリクの方から轟音が鳴り響く。
リクは自分にされたように同じく上段から剣を振り下ろす。
少女は、一瞬だけ驚いたような顔をしたかと思うとすぐにその顔を笑みに変え爪で剣を受ける。
金属音が鳴り響き、同時にリクの持つ剣が真ん中からへし折れた。
これは好機、と少女はもう片方の爪を振るう。
しかし、それよりも早く少女はステージの地面に顔を叩きつけられていた。
少女は気が飛びそうになるも、手のひらに自らの爪を刺し無理やり起きる。
そして、すぐに爪を構え追撃を警戒する。
しかし、それどころかリクは手を差し伸べていた。
「手をお貸ししましょうか、お嬢さん?」
煽るような言い方ではなく至極真剣に。
少女は気付かれぬほど小さくため息を吐くとその手を取った。
「ありがとにゃ。」
少女が立ち上がると、リクは無防備にも背中を見せ距離をとる。
少女はその背中を見てもう一度ため息を吐いた。
「そのメイスには警戒してたから剣が壊れたら使ってくると思っていたにゃ。でも、あんなスピードで飛んでくるなんて思わなかったにゃ。それに、女の子の顔を本気で殴りつけるなんて酷いにゃ。」
「そうか。」
「本気で行くにゃ。」
「来い。」
リクの返答と同時に二人はその場を飛び出した。
少女が爪を振り、リクはそれを避ける。
リクがメイスを振り下ろし少女はそれを避ける。
避けられた爪は壁や地面に裂け目を生み避けられたメイスは地面をへこませる。
片方は元から人間族ではないが、もはやもう片方が人間族と思えないほどの威力のぶつかり合いだった。
ステージに一番近い選手用観覧席まで軽々と衝撃が届いている。
いつの間にか一回戦が終わってから下がっていた魔法障壁班が出張ってきていた。
ソラがフラケートに聞いたところによると毎年午後からは魔法障壁班がすぐに出られるように待機しているのだとか。
今回は一回戦目からでかいのを出されてしまったせいで慌てたが、負傷者は選手を抜いて一人もいなかったらしい。
それからリクと少女は散々暴れまわりステージも魔法障壁もボロボロにしたところで、一度攻撃の手を止め距離を取った。
そのタイミングで魔法障壁班にも交代が入る。
ソラだってゲームはしていたし、ファンタジーも少しは知っている。
あんな攻撃力をした二人が暴れまわっていたら魔力切れも起こすだろう。
それを知っていて二人は手を止めたのだろう。
ソラはそう思い、魔法障壁班に移していた目線をステージへと戻した。
ステージでは二人とも肩で息をしていた。
ふとその二人の手元を見る。
少女の爪はところどころ欠け始めているもののまだ健在。
しかし、リクのメイスは柄から先の部分がひん曲がり使い物に成らなくなっていた。
「強かったにゃ。でも、武器が無ければ終わりにゃね?」
「…………。」
「私に格闘戦でも挑むかにゃ?華獣族は格闘技が一番得意なんにゃよ?」
「そうか。ちょうどいい。」
答えるとリクは壊れたメイスをぶん投げ微笑んだ。
そのメイスは壁に当たり先ほどの倍以上の大きさのへこみを作った。
それを見て少女も一瞬驚いた後にリクと同じく笑みを浮かべる。
「Shall we dance ?」
「にゃー。」
リクがそう煽った後は壮絶なものだった。
よく言えばダンスバトル。
見た目で言えば異種格闘技戦。
それを表すなら、災害。
それが始まった瞬間に魔法障壁班が何人も慌てて出張ってきた。
ソラにどこかあの機械兵と不死身の男の踊りを思い出させるような戦いはリクが少女を背負い投げで壁に埋めたところで唐突に終わった。
一瞬だったような何時間も掛かっていたような、そんな不思議な感覚。
とても、綺麗だった。
少女が壁に埋まる体を引っ張り出して立つ。
リクも肩で息をしているが、少女の方は満身創痍の一歩手前、といった感じだった。
「楽しんでもらえたか?」
「もう終わりみたいに言わないでもらえるかにゃ?」
「その体でまだやれる、と?」
「無論にゃ。だから、これでお前を、終わらせてやるにゃ。」
「そうか。」
少女が爪を構える。
それに対し、リクも我流の構えを取って見せた。
「兄貴の勝ちだ。」
そう小さく呟いたソラにフィーが訳を聞こうと視線を逸らそうとしたその瞬間、ステージの一角が爆発した。
その中心では少女が牙をむきだして飛び出す寸前だった。
獣化。
華獣族のみが使える、いわば必殺技みたいなフォルム変更。
先祖返りと言ったりもするらしい。
物理法則などガン無視、速さは音を超え、攻撃力は一撃で城壁を粉砕するほど。
そんな存在を前にしてしかし、リクは実に楽しそうに笑っていた。
少女の姿が消える。
ソラでさえ追いつけるかわからないほどの速度、ただ爪を構えてリクに突貫する。
次の瞬間、二人は観客の目から消え失せた。
しかし、ソラと少女には見えていた。
爪の当たったリクの左腕が火花を上げ、伸ばされた右腕は少女の頭部を掴みそのまま下に落ちる。
その一撃は広いステージのほとんどを埋め尽くす大きさのクレーターを生んだ。
一瞬遅れて爆音が鳴り響く。
魔法障壁は衝撃で砕け散り観客席まで届く。
勝負が付いたことは明白だった。
少しして気が付いた司会が試合を終わらせ少女は運ばれていった。
ただ、あんな一撃を受け血だらけになりながらも目だけはリクを睨み口元は笑みを浮かべていたのだからジャンキーどもは凄いと思う。
そりゃもう語彙力が喪失するくらいには。
「また、見えなかったよ。ソラは見えたかい?」
「あぁ、しっかりと。」
「そりゃすごいね。ピティリスは棄権しようかなぁ。あんなんじゃ生きて帰れないよ。」
フィーは大きなため息を吐く。
ステージでは魔法使いたちが設備を修繕を始めていた。
またすぐに駆り出されるとも知らずに。
ステージの修繕をしている最中にリクがまたもリリスを抱きしめに来た。
いや、さっきは撫でるだけだったか。
「お疲れ、兄貴。」
「あぁ。」
「楽しんでるか?」
「とてもな。」
少しみんなと言葉を交わすと次を見ていく、とリリスを膝に乗せて席に着いた。
そして、第六回戦のピティリス代表であるフィラデルと王都代表の試合はあっけなく、しかし壮絶な終わり方をした。
王都代表は試合開始直後に魔法障壁班を全員動員するように指示を出した。
それを確認するとフィラデルの方へと向き直る。
そして、じゃいくぞ、と微笑むと、ステージの壁にクレーターが出来上がった。
その中心にはフィラデルとその腹部を貫通した槍。
一撃であった。
決勝戦が、化け物同士の一騎打ちだと決まった瞬間でもあった。




