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「よ、また会ったな。」
「そんな街中で偶然出会ったような挨拶しないでよ。ここはボクの控室だよ。」
「あぁ、だから来た。」
ソラはピティリス代表のあのボクっ娘と帝国代表の黒剣士の試合の後、ピティリス代表用の控室へと遊びに来ていた。
「そっか、何しに来たの?」
「いや、何しに来たってわけでもないんだけど、そうだな、謝りに来た、かな。」
「謝りに?」
ボクっ娘は布で拭いていた剣を一度置き、ソラの方向に向き直ったうえで首を傾げてみせる。
「いやお前を……、そういや名前知らなかったな。」
「聞かれなかったからね。キミの名前も知らないし。」
「あぁ、そうだったな。俺はソラ。」
「ボクはフィラデル・ローズネイル。フィーって呼んでよ。」
「わかった。それで、フィー。」
「なぁに?」
フィーはにやにやとした笑顔でソラを上目遣いで見つめる。
こいつ、わざとやっていやがる。
「なんて言やぁ良いんだか、その、なんだ、間違えてすまなかった。」
「ふふっ、年端も行かない少女を男子トイレに無理やり連れ込んだんだもんねぇ。」
フィーはくすくすと笑う。
ソラはこいつは苦手なタイプだ、と頭を掻いてため息を吐いた。
「ため息を吐くと幸せが逃げていってしまうよ。」
またフィーはくすくすと笑う。
そんなにおかしいだろうか。
「ボク、貴族の娘なんだ。名前でわかるだろうけど。小さいころからあまり同年代の友人が居なかったんだ。だから無性に楽しくてね。なんとなくわかるだろう?」
「わからないほどバカじゃないが、わかるほど察しが良い人間でもないな。」
「……ボクに合わせて難しい言い方しなくてもいいよ?」
「うるせぇ。バカで悪かったな。」
ソラはそっぽを向く。
すると、フィーはそれさえも面白かったのかまた笑い出した。
「アハハッ、ごめんごめん、冗談だよ。」
「はぁ、楽しそうで何よりだよ。お前、貴族らしい高慢な感じじゃないんだな。」
「キミこそ、ボクが貴族って言ったのに口調も態度も一切変えないじゃないか。」
フィーは少し偉そうに胸を張り、自分の対面の席をソラに勧める。
ソラはそれに従ってイスに座った。
「俺の居た所は貴族なんかいなくてな。上司や年上になんかはちゃんと敬語使ったりするぞ。」
「貴族がいない……そっか、家柄に縛られたりはしないんだ。」
「いやぁ、俺の居た所はそうでもなかったが、貧富の差が激しい所もあったからな。そう考えたら、俺は恵まれていたんだろうな。でも、根本的に貴族と農民みたいな大きい身分の隔たりは基本ない所だったな。」
「そっかぁ。へぇ、しかも嘘じゃないんだ。」
「え?」
「いや、こっちの話。それで、何しに来たの?」
「は?」
ソラは意味が分からずマヌケな声を二度も出してしまった。
なんでさっきと同じ質問をしたのだろうか。
「え?もしかして、本当に謝るためだけに来たの?戦うかもしれない相手の所に?」
「あぁ、そうか。団体戦でフィーが勝ち残ってれば戦うかもしんないのか。」
「あれ?ボクの方が弱い感じで話されてる!?」
フィーは困惑した顔で叫ぶ。
「あぁ、俺の兄貴に勝てる奴なんて今のところいないからな。」
「むぅ、ボクもそんなに弱くないよー。」
続いてフィーはふくれっ面になる。
いそがしい娘だ。
「キミのお兄さん、確かにランクが上がるのは早いけど、冒険者のランクでしょ?あ、冒険者を貶したりしているわけじゃないんだよ。お兄さんよりも早くランクを上げた人だっているよね?」
「確かにスピードじゃ一番じゃないけど、力の強さじゃ誰にも負けないさ。」
「じゃあお兄さんのことを教えてよ。」
フィーはそんなに強いならと弟であるソラから情報を聞き出してやろうと、聞き出せなくてもまあいいだろうと軽い気持ちで聞いた。
実はふたりの情報はほとんど見つからなかったのだ。
使える魔法も、特技も、出身地さえ。
精々、自分と同じくらいの年齢であるということくらい。
しかし、ソラから帰って来た言葉にフィーは目を丸くした。
「兄貴と俺は魔力を持ってない。」
「そんな、じゃあ今キミから出てる濃厚な魔力は何?一回戦でお兄さんがあんな巨大な火球を喰らって無傷だったのはなんで?」
フィーは立ち上がってソラに迫る。
ソラはフィーに落ち着け、と座りなおさせるとまたも当然のようにそれに答えた。
「たぶん、俺から出てる魔力は妹のものだ。妹はものすごい魔力の持ち主でな。」
リリスは実の妹ではないが、血のつながらない妹みたいなものだと思っているから嘘は言っていない。
「兄貴は、わかんねえや。ぶん殴ったんじゃねえの?」
それを聞いて、フィラデルは半分納得しもう半分はもっと謎が深まった。
魔術結界、魔法障壁は建造物でも人にでも掛けることが出来るため、愛する人や家族に外出前に掛けておくと言ったことはよく聞く。
そのため、魔力の無いはずのソラから魔力が感じられるのは、その妹が相当な結界や障壁の使い手でソラを守っているからということなのだろう。
しかし、兄の方はもう全くもって意味が理解できない。
ソラが井の中の蛙で無ければ、俺の兄貴に勝てる奴は居ない、と言ったからにはその兄は相当強いのであろうが火属性の上級魔法であろうあの大きさの火球を殴り飛ばすと言われても想像も出来ないし、それが出来るのであればもう暗部にスカウトされていてもおかしくない、それどころか国に管理されるレベルだ。
こんなお祭りみたいな大会に王都代表でもない状態で出場させてもらえることもないはずだ。
ただ、国に管理されているとすればフィラデルが色々な方面から調べても情報が出てこないことにも納得がいくのだが。
それならまたダメ元で聞いてみるか、とフィラデルはソラに聞いた。
「お兄さんは国に頼まれてお仕事とかしていたりするのかい?」
それに対し、ソラはわからないが、と言葉を添えてから答える。
「時々妹を俺に頼んで一人でどこかに行くことはある。仕事だって言うから、もしかしたらそうなのかもしれない。兄貴ならありえない話じゃない。」
国に管理されながら自由に動ける存在。
それはもう国ごとのパワーバランスが崩れるレベルで危険因子なのではないか、とフィラデルは思った。
と、同時に自分がウォーライズ王国民でよかったと安堵した。
もし自分がウォーライズと仲の良くない国の代表者として出場していたら今日から寝ることが出来なくなるところだった。
恐らく、この目の前で笑うソラという少年はそれを自覚していないのだろう。
家族なのだから消されるどころか守ってもらえるのだろうが。
そこまで考えて、フィラデルはさらにもう一つの可能性にたどり着いた。
兄は暗部並みの実力者、妹は防御系魔法のスペシャリストならもしやソラも。
「ソラ、キミの冒険者ランクは?」
「なんもしてないからFのまんまだな。」
「あぁ、そっか。」
フィラデルは胸をなでおろす。
しかし、続けられた言葉にソラの一家のイレギュラーさを改めて痛感させられることとなった。
「おい、憐みの目で見るな。俺だって暗部の師匠に修行付けてもらってたんだからそう弱くはねえぞ。団体戦で俺だけ先に狙おうだなんて思わないことだぜ。」
「暗部に、なるほどね。」
なるほどこれはイレギュラー、規格外だ。
情報がほとんど出てこない時点で気づけたかもしれないのに。
だが、そこで気づけようと気づけなかろうとサレンダーなんかしない。
ボクだって街の人たちに期待されてこれに参加しているんだ。
闘技大会を見るためにわざわざ王都に来てくれている人もいるんだ。
それに、団体戦の前に個人戦がある。
王都代表は八年前の猛者だが、それに勝てばおそらく華獣族の代表に勝利したソラの兄と戦える。
そこでどの程度の実力なのかが少しは窺えるだろう。
華獣族との試合も出場者専用のVIP席から見ることが出来る。
そろそろ行かないと王都代表の試合も見逃してしまう。
「ソラ、VIP席がある。行こう。」
「いや、でも妹が。」
「連れてくればいいよ。」
「パーティーメンバーも。」
「連れてくればいいから、早く行くよ。」
と、いうことでフィーの選手用観覧席にリリスとフラさんとリンカさんを連れて一緒に観覧させてもらうことになった。
移動途中にリンカさんが彼女でもできたの、とにやにやした顔で聞かれたから違う、と答えておいた。
それでもリンカさんはにやにやをやめないし、フラさんは温かい笑顔をやめなかった。
ところで、フィーの観覧席につくと砂国代表と王都代表の試合はすでに終わって予定よりも早めに昼休憩に入っていた。
この時間はコロシアム周りの出店はとてつもない忙しさになる。
そんな中、ソラ達はVIP席でフラケートが作ったお昼ご飯を優雅に食べていた。
午後の試合が始まる直前に突然リクが入ってきてリリスの頭を少し撫でると何も喋らずに出ていった。
何が何だかわからない様子のフィーにああいう奴だと言うとあからさまに首を傾げていた。
かくして、闘技大会個人の部の午後の部がゆるりと開始された。




