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ゴウルディマと専属契約を結んだふたりは、街中では実戦訓練も出来ないからとリリスとフラケートを連れて店の手伝いに来ていた。
とは言うものの、ソラは裏で寝ているだけだし、リリスは店の端のイスに座っているだけなのだが。
リクとフラケートは店番をしながら経理の手伝いをしていた。
まだ店を出して間もないこともありお客の数も決して多すぎることは無いのだが、まだ十分な数の従業員が雇えておらずゴウルディマ自身がいくつもの作業をこなしていたところにソラ達が手伝いに来て随分と助かったらしく、しきりに頭を下げていた。
パーティーに関しては、リンカに組まないかと相談しに行くと泣いて喜んだ。
いや、涙を流してはいないがとても喜んですぐに申請に行こうとソラ達を急かしていた。
「ただいま戻りましたー。」
そこへ、仕入れに行っていたゴウルディマが表側のドアから入ってきた。
それをフラケートが迎える。
「お帰りなさい、ゴウルディマさん。」
「店番、ありがとうございます。リクさんは?」
「奥で帳簿の整理を。」
「わかりました。」
ゴウルディマは頷くと上着も脱がずに奥へと小走りに消えていった。
その後ろ姿を見て微笑みながらフラケートはまたカウンターのイスに腰かけた。
そこからは奥からの話し声が漏れ聞こえていた。
「リクさん、ただいま戻りました!」
「落ち着け。」
「これが落ち着いていられますか。ダンジョンスターの卸先がやっと見つかったんですよ!」
「仕入れから半月、ダンジョンスターの希少性を鑑みても良い方だろう。で、相手と値段は?」
「はい、これです。相手はストレノス学園のヴォイドゼミで値段は白金貨105枚です。」
そう言ってゴウルディマが出した契約書にはゴウルディマが話したのと同じ内容が記されていた。
「あの学園、一つのゼミでそんなに出せるのかよ。」
「あっ、ソラ君、起きていたんですか。」
「今起きたよ、よこどうぞ。」
「どうも。」
あくびをしながらもソファの半分を開けたソラの横にゴウルディマが座る。
今度は逆方向のひじ掛けに頬杖をつきながらソラは続けた。
「ゼミって、部活とかサークルとかの進化系みたいなもんだろ。ゼミ一つにそんなに経費が使えるってことは上の方はもっとすごいんじゃねぇか?」
「その可能性もあるが、あの学校は少し特別だ。実力至上で、現役の王宮魔導士が教師をやっていたり、貴族の子どもが金に物を言わせて入ったりもできるらしいからな。ゼミの経費も実力次第らしい。」
「兄貴、その情報はどこで?」
「道行く制服姿の子どもたちに聞いて回った。」
「変なことしてないだろうな?」
「高級料理店を奢ってやっただけだ。子どもたち側にもペナルティは無いようだしな。」
「力で脅したんじゃないならいいけどよ、ちょっとあの学校が気になって来たわ。」
「そうか、考えておこう。」
と、そこへリリスが小走りに駆け込んできてリクの胸に飛び込んだ。
リクはその拍子に落ちてしまったシルクハットを拾い上げる。
「パパ、ひと。」
「男か?」
リクの問いにリリスはコクリと小さく頷いた。
「ソラと待っているんだよ。」
そう言ってリリスの頭を撫でるとリクは表へと出ていった。
店の中では一人の男がフラケートと話していた。
昔のトラウマのせいで少し人見知りの気があるフラケートがいつもと変わらずに話せているということはそう悪い人物ではないのだろう、と思いながらもリクはいつも通り抑揚のあまりない声でフラケートに話しかけた。
「客か?」
「あっ、リクさん、この方、闘技大会の関係者の方です。」
「お邪魔しております。しかし、探したのですよ。ギルドで依頼は受けていない、目撃情報は街中あちこちで。三日かかってやっとここの店番をしているのがわかりましてね。」
「迷惑を掛けたな。」
「いえいえ、それが仕事みたいなところがありますからね。」
そう言って闘技大会の関係者の男は笑った。
「まだ探さないといけない人が残っていますので手短に行きますね。リクさん、ソラさん、一週間後の祈農祭の中で開催される闘技大会に出場されるということで間違いありませんね?ウェルミュレの代表としてリクさんが個人の部に、お二人で団体の部に出場ですね。」
「間違いない。」
あの男本当に五人までの団体の部に二人で出場させたのか、どれだけ人選めんどくさがったんだと心の中で呟きながらもリクは頷いた。
「二人でですか。いつでしたかね、8年くらい前にもたった二人で出場した人たちがいましたね。王都代表でしたが。」
「その二人は今でも出場を?」
「いえ、その一度きりだけですね。」
答えながら男は店のイスに腰を掛けた。
「そうか、結果は?」
「結果ですか、聞いて驚いてください、優勝です。」
「ほぅ、たった二人でか。」
「あなた達も二人で挑もうとしているんですけどね。」
そう言って、男は苦笑した。
そこにフラケートが話に入ってくる。
「その人たちは居なくなっちゃったんですか?」
「いえ、王都にいますよ。もしかしたらあなた達も街中ですれ違っているかもしれませんよ。片方は冒険者をやっているのでギルドですれ違っている可能性もありますね。」
「ランクは。」
「確か、Aランクでしたかね。」
男は首を傾げながら答えた。
「もう御一方は何をされているんですか?」
「もう片方は宮暗をしていますね。」
「宮暗?」
今度はリクが首を傾げた。
「リクさん、宮暗とは宮廷暗刃部隊の略称です。」
「なるほど。」
小声でフォローに入るフラケートにリクはそんなものもあるのか、と頷いた。
宮廷暗刃部隊とは、王家直属の暗部ということだ。
王や女王、王女の私的な部隊ではなく王族全体の特殊部隊のため、実質この国最強の部隊ということだ。
片方がそれなら冒険者をやっているというもう片方も、暗部に匹敵するほどの実力の持ち主とみて間違いないだろう。
「そうですね、声を掛けてみましょう。また無謀な者たちが現れましたよ、と。もしかしたら会いに来てくれるかもしれません。」
「そうか。」
「おっと、そろそろ行かないと次があるんでした。」
そう言って、男は慌てて立ち上がると店を出ていこうとする。
しかし、男はドアを開けたところで一度止まって振り向かずにこう言った。
「名乗れなくてすいませんね。お詫びに良いことを教えてあげましょう。その8年前の二人組ですが、実は、片方はボクなんです。決勝で待っていますね。」
とだけ残すと男はドアを閉めて消えていった。
「実に綺麗なフラグ建築だな。」
既に閉められたドアを睨んで口角を上げるリク。
店と裏の部屋を結ぶ廊下では立ち聞きしていたソラが同じく口角を上げていた。
面白い。
俺らが、全部ぶっ潰してやる。
ふたりは揃って拳を握っていた。




