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なぜかあまり大事にならなかったダンジョンスター盗難及び誘拐事件が無事に解決した次の日。
一行はダンジョンスターを落札した青年商人と商談を行うために、朝から冒険者ギルドに来ていた。
「おはようございます、皆さん。」
「おはようございます商人さん。」
「ホント早えよ。さっきまで寝てたわ。」
青年商人の挨拶にフラケートとソラが答えると一同は席に着いた。
ちなみに、リンカは今日は仕事だとかでこの場にはいない。
席に着くとすぐにウェイトレスが水を持ってきた。
そのウェイトレスにリクが、いつものお子様セットを、と頼むとウェイトレスは笑顔で頷き下がって行った。
本来、冒険者しか来ないはずのギルドにはお子様ランチなどなかった。
だが、ソラ、リクが頻繁にリリスを連れてギルドで食事をするために料理長がリリスの為にと凝りに凝りまくったお子様セットを作り出したのだ。
しかも、リリスが飽きないようにと14種類の中から日替わりで内容が変わる。
それも、レパートリーは少しづつ増えていっているとか。
そのメニュー追加があってから冒険者ギルドなのにもかかわらず、冒険者の少ない昼間に子育てママが集まるようになったらしい。
「それで、えっと、」
水で全員が一息ついてから、青年商人はどう切り出そうかと声を上げた。
それに気付いたソラが助け船を渡す。
「商売の事に関しては兄貴に聞いてくれ。」
「はい、わかりました。それで、リクさん。」
「なんだ?」
相変わらず怖い顔してるなー、と思いながらも青年商人は続ける。
「ダンジョンスターを落札させていただきました、ウィーマーリズ商会のゴウルディマ・ウィーマーリズです。本日は交渉に応じていただきありがとうございます。」
オークションでの落札額が気に入らなければ、出品者側は一方的に断ることが出来るからこそのこの言葉なのだが、リクは別の言葉が気になっていた。
「名字持ちか。」
「はい、ですが祖父の代に領地は返納しましたから、ただの名字持ちです。」
返納したとは言うが、没落貴族だということだ。
「そうか。それで?」
「はい、それで、単刀直入に本題に入らせてもらいますと、白金貨77枚なのですが……」
「用意できないから少し待ってほしい、だな?」
リクはリリスの口元に着いたソースを拭きとりながら言う。
対して、ゴウルディマは驚きながらも素直に頷いた。
「はい、お恥ずかしながらまだ商人を始めてから一年も経っていないのです。オークションには見学の予定で参加していたのですが、つい手を上げてしまいました。」
「俺は好きだぜ、そういう奴。」
「取り返しがつかなくなってからでは遅いのだ。お前は自重するべきだ。」
いたずらっぽい笑顔でゴウルディマに親指を立てるソラだったが、リクは溜息を吐いていた。
実は、ソラが何かをやるたびに陰でリクとカミナが動いて何とか大事にならないようにしていたのだ。
全く依頼を受けないソラの分までリクがやることでソラの冒険者の資格がはく奪されないようにしたり、勝手に倒してしまった溶岩竜の後始末や情報統制をしたり。
麓の村にはリクとカミナで頭を下げに行っている。
幸い、優しい人たちばかりで予想に反して歓迎さえされてしまったのだが。
リクが長い間放置されていたダンジョンをわざわざ踏破しに行ったのも上からの依頼があったからであったりもする。
「条件付きで受けよう。俺たちと専属契約を結べ。」
「専属契約ですか。」
専属契約という言葉にゴウルディマは一瞬で顔を商人の顔に変えた。
「俺たちの持ち込む素材を優先的に買え、ということだ。俺たちは冒険者だ。魔物の素材や危険な場所にしか生えないような植物や珍しい鉱物を仕入れる。それを法外な値段でない限りお前が買い、売れと言うことだ。」
「ですが、それは貴方たちに利益が少なくありませんか?」
「冒険者にとって、ほぼ確実に買い取ってくれる取引先がいるだけで十分だ。それ以上は期待も希望もしない。」
「わかりました。その条件でお願いします。」
「……考える時間は、いらないのか?」
「商機を逃すのは、商人として絶対にしてはいけないことですからね。」
そう言うと、ゴウルディマは立ち上がり片手を差し出す。
リクは、自分も立ち上がりそれを握り返すとそこで初めてゴウルディマの目を見返した。
「綺麗な目を、していますね。」
「女に同じ言葉をかけてやるんだな。」
ゴウルディマが微笑みかけるのを、リクは鼻で笑うとお子様セットを食べ終わったリリスを抱き上げ膝の上に座らせた。
「連絡や依頼は冒険者ギルドから。送金も冒険者ギルド経由でいい。」
「ギルド経由では手数料が。」
「報酬から引け。それと、これがダンジョンスターだ。」
着ているコートの内ポケットから小さな袋を取り出すと、それをゴウルディマに手渡す。
ゴウルディマは、そこからダンジョンスターを取り出しその虹色に輝く宝石を一度眺めると袋に戻ししまいこんだ。
「確かに受け取りました。これからもよろしくお願いします。」
「よろしく頼む。」
「よろしくな、商人さんよ。」
「よろしく!」
リリスが腕を振り上げて元気に挨拶をするのをギルドの酒場にいる冒険者たちは微笑みながら見ていた。
「専属で思い出した。フラケート、正式にパーティーを組まないか?クランでもいい。」
「それは、嬉しいですが、何故ですか?それと、クランは冒険者が5人以上いないとできませんよ。」
訂正を入れながらもフラケートは首を傾げる。
その様子にゴウルディマは少し頬を赤らめ慌てて麦茶を飲みこんでいた。
「お前といれば楽しいことに出会えそうな気がするからだ。」
「俺もフラさんと一緒なら楽しめる気がすんな。」
「それにフラケートにとっても悪いことではないだろう?」
「もちろん悪い話ではないですし、さっき言った通り嬉しいので受けさせてもらいますよ。申請は、後でしておきますね。」
「頼んだ。」
「リクさん、バディを捕まえておきたかったんでしょう?」
フラケートがフフッと柔らかく笑いながら言うとリクは頷いた。
「周りの者達はバディは金をとるだけだ、だとか自分でやれるだろ、と言ったりもするがもっとのんびりやればいいのだ。長い目で見ればバディが居た方が儲けを出せることの方が多い。」
「リクさんはしっかりしているように見えて、その実意外にのんびり屋さんですもんね
~。」
フラさんもだいぶのんびりしている気がするが、と思いながらも自分も相当なのんびり屋であることに気付いていないソラだった。
そこで、大人たちの会話に飽きたのかリリスが声を上げた。
「パパ~、遊んできていい?」
「あぁ、行ってくるといい。迷惑をかけてはダメだよ。」
「うん!」
リリスは満面の笑みで頷くと厨房の中へと入っていった。
実は、リリスは遊び感覚なのだが、リリスはこのギルドで配膳のお手伝いをしている。
終わった後に貰えるお菓子やおつまみが目当てではあるのだが。
冒険者相手のギルドであるため、少し酒をこぼしたりぶつかったところで気にしないし、周りではいかついおっさんたちがにらみを利かせているのだから旅人や新顔でも滅多に声を出せない。
それに、魔物と血と武器ばかりの冒険者たちにはリリスが一生懸命働く姿は目の保養にもなる。
最初こそ色々あったが、リリス親衛隊によってここまでほんわかとした雰囲気の中でリリスがお手伝いを出来るようになった。
もちろん、料理長が親衛隊隊長を務めている。
冒険者はすぐに親衛隊を作りたがるようだ。
リリスが魔人であることはすでに暗黙の了解になっている。
今では、大きくて良く引っかかる麦わら帽子もやめ角が辛うじて隠れる程度のシルクハットに変えてもいる。
服も可愛らしいゴスロリ系の服を20着ほど用意してあり、王都の服屋ともすでに仲良くしている。
これからも可愛い服が入ったら連絡が貰えるようにしてあった。
「可愛らしい子ですね。」
「そうだな。」
ゴウルディマの言葉にリクが答えるとフラケートとソラも横で頷いていた。
「あの角は、魔人ですね。」
「そうだ。」
「でも、愛されているんですね。」
「あぁ、これまでも、これからもな。」
リリスが魔人であることはすでに王都の冒険者ギルドにも知らせてある。
ウェルミュレにいるカミナをわざわざ呼んでの話し合いとなった。
結局、範囲を制限されその内側であればいい、という話に決まった。
特に、国の建物や教会の多い北東方面や貧民街のある南西方面には気を付けるように言われた。
その場には、ソラとリクだけでなくリンカとフラケートも参道させられたため、つれていってしまう、ということは無いだろう。
これはさすがにフラグではないと思いたい。
「それでは、そろそろお暇させてもらいます。店の準備もありますので。」
「どのへんだ?手伝いに行ってやろう。」
「おっ、商店か。俺も手伝いてぇな。」
リクの提案にソラも振り向く。
「北西の方にあります。詳しい場所は、地図にしてもらいましょう。」
そう言って、ゴウルディマはギルドの受付へと歩いていく。
少ししてソラ達の元に帰ってくると一つの小さい地図をリクに渡すと、
「いつでも来てください。お茶を出しますので。」
とだけ言って帰っていった。
「リリス、そろそろ帰るぞ。」
ちょうど近くを通ったリリスに声を掛けるとリクはギルドを出ていった。
その後ろを眠そうにあくびをするソラと私服のスカート姿のフラケートが続く。
それから、遅れてギルドを出てきたリリスをリクが抱き上げると三人は歩き出した。




