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舞台にワゴンを引いた司会とソラ、フラケートが出てきて起こったざわめきが少し収まるとオークションが再開した。
最低金額は白金貨10枚。
1000万円相当なわけだが、最低金額なだけでダンジョンスターの競争率は高く毎回白金貨50枚は超えるらしい。
なぜそれほどダンジョンスターは高いのか。
それは単純に出回っている数が少ないということもあるが、ダンジョンスターは内部に莫大な魔力を格納しており大規模魔法の生け贄替わりや魔導装置を動かす、いわゆる電源として使うことが出来るという理由がある。
司会が客を煽り金額が上がっていく。
ソラとフラケートは何かできるわけもなく、客の気迫に気圧されていた。
「50!51!」
司会は大げさな身振り手振りでスーツの上着を翻らせる。
金額が高くなり会場が落ち着いてくると司会がまた客を煽った。
「76.5!76.5ですよ!たった金貨50枚上乗せするだけでダンジョンスターは貴方の物ですよ!」
「な、77!」
それに乗せられたのか、一人の若い商人が声を上げる。
76.5枚を宣言していた商人はものすごいしかめ面をしながら会場を出て行った。
「77!ダンジョンスターは白金貨77枚で落札です!これで全品のオークションが終了となりました。本日はお楽しみいただけたでしょうか?それでは、さようなら。またお会いできる日を楽しみにしております。」
司会が客席に向けてこれまた大仰な礼をする。
司会のその言葉に客たちは帰り支度をはじめた。
そんな中で司会が普通の大きさの声でソラに話しかけた。
「ソラ様、おめでとうございます。私は少し手続きがありますので下がりますが、貴方たちは少しだけここに残ってダンジョンスターを見ていてもらえますか?」
舞台の中心で今なお虹色に輝く宝石を指す。
ソラは頷いてフラケートの方を一度見てからダンジョンスターの横に立った。
フラケートも反対側に立ちダンジョンスターを観察し始めた。
司会は微笑むと舞台袖へとおもむろに歩いていった。
それと入れ替わるようにリクが小走りで舞台に上がってきた。
「兄貴、かいと……」
バリンッ。
会場全体にガラスの割れる音が響く。
リクがダンジョンスターを床に叩きつけた音だった。
帰り支度をしていた客たちが固まる。
ダンジョンスターを落札した若い商人が唖然としてしまっているのも見えた。
「リクさん?」
何か起こったのかとフラケートがリクの顔を覗くと、リクは舞台袖で同じく固まっている司会を見た。
「ダンジョンスターはダイヤモンドの数倍は固い。この程度では割れない。」
その言葉と同時に司会は目を丸くして舞台裏へと逃げ出し、ソラは能力を発動させて舞台袖に飛び込んだ。
そこには、目を丸くした職員が一人いた。
リクはその職員に早口に問いかける。
「あいつはどっちに行った?」
「だ、ダンジョンスターを持った人なら奥に。」
その言葉を聞くとソラはリクの方を一度見た。
「兄貴!」
「館内だ、追え。」
「了解!」
ソラはその場から掻き消えた。
「大丈夫か、そこの。オークション関係者か?」
「はい、何ともないです。それでは、私はやることがありますので。」
そう言うと、職員は舞台裏へと歩いていった。
「フラケート、警備に誰も出すなと伝えた後リリスとリンカの元へ戻り待機していろ。」
「わ、わかりました。」
いつもの眠そうな顔とは裏腹に真剣な表情を浮かべるリクに動揺しながらもフラケートは頷き出口に走っていった。
そういえば、とリクはダンジョンスターを落札した商人を一瞥だけすると自身も舞台裏に消えた。
ソラは裏口を突き破って外に出ようとした時点でリクの言葉を思い出し足を止めた。
館内だ、追え。
ソラはリク程頭がいいわけではないからリクの言外の言の全てを理解することは出来ないが、この場合は恐らく外には出るなということが含まれているのは確かだろう。
裏口のドアを見る。
ソラがここに来た時点ではドアは開いていなかったということはここからは出ていないということだ。
とりあえずここを見張っておけばいいだろうか。
そうして、待つこと数分。
腰に剣を下げた警備がやって来た。
この建物の中で帯剣しているのは、唯一帯剣の許された警備達だけである。
「ありがとうございます。冒険者の方ですね。変わります。」
リクかフラケートから言われて知っていたのか警備はドアの前で剣を抜くとドアを背にして一層真剣な顔になった。
ソラはその警備に裏口のドアを任せると、舞台に戻った。
舞台では、リクがさっきソラがすれ違った職員を押さえ込んでいた。
「そいつか?兄貴。」
「そうだ。」
リクは振り返ることなく押さえ込んだ職員の尋問を始めた。
「お前が、ルパンだな?」
「そうだ。」
「金が目当てか。」
「それ以外に何がある?」
「あるのかどうか聞いているんだ。」
「ない。」
尋問されているのにもかかわらずめんどくさそうに答えるルパンと名乗る男。
「変身能力、だな?」
「あぁ、能力者だ。」
「親近感がわくな。」
「冗談なんて言ってる場合じゃねぇだろ兄貴。」
「……」
思わずソラがツッコミを入れるが見事にスルーされた。
「そろそろかねぇ。」
「もう時間か?」
「お?気付いてたのか?」
「さっきから余裕たっぷりだからな。」
「あ?さっきから何の会話してんだ?二人は。」
よくわからずソラは首を傾げる。
しかし押さえ込まれている男はもちろん、リクもそれを教えてはくれなかった。
「わからないのなら、知らぬが仏という場合もある、と教えたはずだ。」
と。
リクが意地悪いことなんていつものことか、とソラはため息だけを吐いて横に座った。
「そうだ、おふたりさん。良いことを教えてやろう。ルパンは、俺じゃない。俺の入っている組織の名前だ。」
そう言うと、男は顔だけを上げると舌を出して見せた。
それと同時にリクとソラは飛び退った。
男はおもむろに立ち上がる。
その舌には魔方陣と呼ばれるものが描かれていた。
「そんなにビビるなよ。ただの転移魔方陣だ。じゃ、帰らせてもらうぜ。ダンジョンスターは……あり?」
「ここだ。」
「おぉ、俺から盗り返すとは。」
男はリクが持つダンジョンスターを見て驚いたような顔をするとにやけた笑みで舌の魔方陣を発動させて消えていった。
「おい、商人。」
一段落したか、と座席の裏にうずくまっていた商人を呼んだ。
「は、はい。何でしょうか?」
「明日、北の冒険者ギルドへ来い。交渉に応じる。」
「はい、わかりました。」
商人の青年が頷くのを見届けリリス達三人の待つ控え室へと戻っていった。
控え室へと戻る廊下でソラはリクに質問を投げかけた。
「何で犯人が分かったんだ?」
「あいつはお前に質問されとっさにダンジョンスターを持った人は、と答えた。司会者状態のあいつはダンジョンスターを持ってはいなかった。」
「なるほどな、で、何で見逃したんだ?」
「見逃されたんだ。」
「俺にはまだ感じることさえ出来ない境地の奴らってことか。」
ソラはあっけらかんと答える。
しかし、心中では舌打ちをしていた。
兄に追い付こうとしているのにこの世界に来てからさらに離れて行っている気がしてならない。
兄は兄で、弟の様に誰とでも仲良くなれるようになりたい、と弟を追いかけているのだが。
それはお互いに知らない、心の深くに隠された思いだった。
その後は気分もあまり乗らず黙って控え室まで戻ると、無残にも破壊されたドアの前で警備が倒れていた。




