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「なんでこんな堅っ苦しいの着なきゃいけねえんだよ。」
「貴族や大手の商人も出席する場だ。それなりの服装でなくてはいけないだろう。それに、これからも取引をしていくかもしれないのだ、第一印象は良い方がいいだろう。」
リクの言葉に、ソラは肩をすくめるとギルドの酒場のイスに腰かけた。
太陽が沈みかけた夕方、ふたりはフラケートとリンカを待っていた。
リンカは居る必要はあまりないのだが、付いて行きたいと言っていたから一緒に行くことになった。
オークションは陽が完全に沈んでからの開催となる。
「お待たせしました、リクさん。ソラ君もその服似合ってますよ。」
そこへ、リンカとフラケートが合流した。
「か、堅っ苦しいだけっすよ。」
微笑みかけてくるフラケートにソラは目をそらすと素っ気なく答えた。
「リクは着ないの?」
リンカがリクに首を傾げると、リクは頷いた。
「舞台には出ないからな。」
「あぁ、リリスちゃんいるもんね。」
「そうだ。」
「リクは親バカだもんねー。そんなことより、お腹すいちゃった。リク、おごってよ。」
リンカはリクの横に座るとウェイターを呼んで料理を注文した。
フラケートもその対面に着席する。
「お前も金は持っているだろう。」
「今日は持ってきてないの。」
「はぁ、勝手にしろ。」
「やったー、じゃあ私雨魚のムニエルで。」
「俺は海鳥の丸焼き。」
「弟と同じものを。フォークは二本頼む。」
「はい、かしこまりました。えっと、以上でよろしい、ですか?」
ウェイターが一瞬フラケートの方を向いてリクに尋ねる。
リクがフラケートの方を見ると、ソラが質問をした。
「フラさんは食べないんすか?遠慮なんていらないっすよ。」
本来はリクの言葉のはずだが、リクは気にしていない。
「いえ、私は。」
「ダイエット中でなければ食べるといい。ソラもこう言っている。」
「兄貴の金だがな。」
ソラがフラケートに向けて笑いかけると、そこまで言うなら、と料理を注文した。
「緊張してんすか?」
ウェイターが下がって行ったのを見届けてからソラがフラケートに話しかける。
「そうかも、しれません。」
「大丈夫っすよ、俺が居ますから。今朝の情報はギルドから連絡が?」
「はい、来ました。」
「そのルパンってやつ、兄貴がギルドから仕入れた情報によるとケガ人さえ一人も出していないらしいんすよ。」
「じゃあ。」
「俺の指示に従ってくれれば指一本触れさせないっすよ。」
「ソラ君、ありがとう。」
そこへ、さっきのウェイターによって料理が運ばれてくる。
料理は熱いうちに食べるのが一番いい、とソラ達はフォークを手に取った。
そこに一人の男が近づく。
男はソラ達のすぐ近くまで来るとソラに声を掛けた。
「貴方が、ダンジョンスターをオークションに出したというソラさん、で間違いないですか?」
「あ?こっちは飯食ってんだけど。」
「これは失礼いたしました。ですが、お許しください。商人として居ても立ってもいられなかったのです。」
「へぇ、商人?」
一度ソラがフォークを置くと喰いついたと思ったのか一瞬商人と名乗った者の目が光る。
「えぇ、申し遅れました、クーレアンス商会の副会長をしています、フューリゲールと申します。以後、お見知り置きを。」
「覚えておこう。二度と会うことは無いだろうがな。帰りな。」
「なっ、し、しかし、ダンジョンスターは本当はお兄さんが手に入れたとか。」
流石はプロか。
一瞬怯むも、ソラは無理だと判断し今度はリクに営業スマイルを向ける。
しかし、リクは顔さえそちらに向けることなく答えた。
「帰れ。」
「ですが、」
「弟が返れと言っているんだ。帰れ。」
「……チッ。冒険者風情が。」
フューリゲールは舌打ちして毒づく。
冒険者ギルドで冒険者を悪く言う時点で命知らずなのはわかりきったことだが、フューリゲールはさらにリリスの帽子を奪い去って大声を上げた。
「知っているんだぞ!お前らが魔人を連れているということは!」
その瞬間に、ギルド全体が凍り付いた。
リリスとそれを抱っこするリクに視線が集まる。
その視線は学園で向けられたものと同様に、憎悪、怒り、驚きといったものだった。
いつもは食い意地の強いリリスもこの時ばかりは怯えてリクにしがみ付いていた。
リクは他が全員食べ終わっているのを確認すると、おもむろに立ち上がり麦わら帽子を拾い上げリリスにかぶせる。
「ウェイター、代金は俺のギルドの口座から出しておけ。」
「は、はい。」
ウェイターは戸惑いながらも頷く。
「おい、兄貴、待てよ。」
「そろそろ時間だ、全員行くぞ。」
「は、はい。」
「おごりならもうちょっと食べておけばよかったかも。」
ソラ達はギルドの扉を出ていく。
残されたフューリゲールは冒険者たちの視線を感じながらも遅れてギルドを出て行った。
ソラ達はオークションの行われる演劇ホールに到着すると裏口から中に入っていく。
係員に案内されて出品者控室に通された。
ソラ達はそこでやっとイスに腰を掛け長い息を吐く。
今では、怯えていたリリスもフラケートに抱っこされて上機嫌にしている。
ソラもリクもリリスさえよければ気にしないので一安心だ。
「リクさん、一応説明しておきますが、クーレアンス商会というのは王都で一、二を争う大手の商会です。」
「構わない。商会など潰れかけでもない限り利用できる。」
「それより、魔人の事が広まっちまったってことの方が問題、だな?」
「そうだ、もう噂では収まらない。フラグだ。何かが起こる。」
リクはソファに腰を掛けると大きく息を吐いた。
その気負いを知ってか知らぬか、フラケートの腕から離れたリリスはリクの膝の上に落ち着いた。
「あんまりフラグを建てたくもないんだが、大ごとにならないといいな。」
「そうだな。」
それから、ソラ達しかいない控え室で待つこと20分ほど。
係員が部屋のドアをノックした。
「えっと、ソラさん、フラケートさん始まりますので舞台裏にお願いできますか?」
その声に少し警戒しながらリクがドアを開ける。
立っていたのはしっかりとしたスーツを着込んだ係員だった。
「聞きたいことが一つ。他の出品者はどこにいる?」
部屋へ招き入れることはせずにリクは質問をする。
しかし、リクは『力の操作』で聴力を上げていて知っていたりする。
「えっと、ダンジョンスターを出品していただけるということで個室となっております。連絡が十分に回っていなかったようで、申し訳ありませんでした。」
頭を下げる係員に、いやいい、とだけ言うとリクは下がった。
「あの、私とリクさんは……」
「えぇ、わかっております。ドレスを選んでいただいたらご案内いたします。」
「え、ドレス?」
首を傾げるフラケートとソラ、リクが通されたのはミュージカルや舞台で使われる衣装室だった。
「レンタルを頼んでおいた。適当なのを選ぶといい。」
「ど、どれでもいいんですか?」
優に100着を超えるドレスに戸惑うフラケート。
リクはそれに頷いた。
フラケーは目を輝かせてドレスを選び出す。
すでにスーツを着ているソラと、着替える必要のないリクは衣装室のソファに腰かけた。
「リリスから受け取ったか?」
「ダンジョンスターな、受け取った。」
ソラは小さな布袋を掲げて見せる。
これはダンジョンを制覇してからずっとリリスの首に下げさせていた。
最初は少し重そうにしていたものの、リクがパパの大事なものだから少しの間持っていてくれ、と言うと笑顔で頷いた。
「それはそうと、なんで俺のスーツは買ったんだ?」
「少し大きめの物を買った。また何かに使えるだろうとな。」
「なるほどな。あぁ、それと、どんな奴だと思う?」
顔色一つ変えることなくソラはダンジョンスターを狙うという怪盗の話に移る。
しかしてリクも顔色など変えずに答えた。
「スーツ、だろうな。客の一人に紛れるのが一番簡単だ。ただ、ルパンの名前を名乗るからには何をしてきてもおかしくはない。何が起きても対応できるようにしなければ。」
「兄貴らしいな。ま、フラさんは守るからよ。」
「あぁ。」
難しい顔をして悩み始めるリクを見ながらソラはソファに深く沈んだ。
そこに幾つかのドレスを持ったフラケートが駆け寄ってきた。
「どのドレスがいいでしょうか?」
そう言って、三つのドレスを見せる。
元気な太陽を思わせる黄色のドレス、落ち着いた空を思わせる群青色のドレス、優しい森を思わせる薄緑色のドレス。
怪盗の事で悩んでフラケートの方を見ていないリクを見て、ソラは立ち上がった。
「フラさんにはその緑色が似合うと思うっすよ。試着してみたらどうっすか?あそこに試着室ありますし。」
「うん、ありがとう、じゃあ着てみるね。」
ソラが指すと、フラケートはドレスを持って試着室に入っていった。
ソラものんびりとその後を付いて行くと、試着室の前でしゃがみ込んであくびをした。
入っていくわけにはいかないからな。
「どうかな?」
カーテンを開けて聞いてきたフラケートにソラはいつも通りの子どもっぽい笑みを浮かべた。
「いいんじゃないっすかね。似合ってるすよ。」
「ほんと?よかった、じゃあこれにしようかな。リクさんは?」
「今回の怪盗の件で考え込んでるっす。すぐに回復すると思うんで放っておけばいいすよ。」
ソラは肩をすくめる。
フラケートは少し不満そうな顔をして頷いた。
思考状態から回復したリクをつれてフラケートは観覧席に向かう。
リクがなかなか戻ってこなかったせいか、フラケートがドレス選びに時間をかけすぎたせいか、オークションはすでに始まっていた。
フラケートはリクの手を引き薄暗い中を身をかがめて適当な席に着く。
「埋まってますね。」
フラケートが小声でリクに話しかける。
リクも同じく小声になって頷いた。
「もう少し少ないものと思っていた。」
「私もです。」
客席は薄暗く、舞台上が絢爛豪華に飾り付けられ客の目は舞台に釘付けとなっていた。
リクは周りを見回す。
知り合いに商人がいるわけでもないため見知った顔はほとんどいないが、いつぞやの門番たちが似合わぬスーツ姿で参加しているのが見えた。
いくら警戒してもダンジョンスター登場までは何も起きないのだろうな、とリクは周りを見回すのをやめオークションを見ることにした。
「こちら、名工が打ったブロードソード、その名もヴィーネガス!又の名を女神の鉄杭。この剣はある名工の元で……」
司会者と思われる人物が身振り手振りを合わせてテンション高く商品の説明をする。
客たちはほぅ、だのはぁ、だの感嘆のうめきを上げながら商品を吟味する。
そして、一通りの説明が終わると落札と時間となった。
各人が好き勝手に値段を言いあい、その中でも一番高いものを聞き分け司会者が言っていく。
「金貨20枚!30枚!45枚!50枚!53枚!55!57!58!」
リクが『力の操作』で聴力を操作しても聞き分けられるかわからないほどの大量の声が飛び交う。
かの聖徳太子を超える耳をお持ちらしい。
「金貨66枚!66枚!おめでとうございます。」
結局、ヴィーネガスと呼ばれた剣は金貨66枚で落札された。
金貨は一枚で日本円で言えばだいたい一万円ほどである。
一本66万する剣が高いのか安いのかわからない。
日本では高いと言えるのは確かではあるが、この世界は武器が無ければ生きていけないのだ。
そう考えると、名工が作ったらしいのだし安いのかもしれない。
それから、鎧やらマスクやら調度品から幻の珍味まで様々な「物」がオークションにかけられた。
ものによっては一枚で百万円分ほどの価値のある白金貨数枚で取引されるようなものまであった。
最後のダンジョンスターまであと数品というところまで来ると、フラケートが客席を離れ舞台裏に向かった。
そして、それから数品の後、ついに一番最後の大目玉、ダンジョンスターの順番となった。
一つ前の商品が載せてあるワゴンを引いて司会者とそれを出品したのであろう人物が舞台裏に戻っていく。
会場に沈黙が訪れる。
先ほどまでは常にざわざわとしていたにも関わらず、空調の小さな音まで聞こえるほどだ。
空調。
リクはとっさに息を大きく吸い止めた。
もう無駄かもしれないが、怪盗が空調から何がしかのガスを撒いていたら。
怪盗。
なぜ、怪盗が来るというのにこの客たちはこんなに落ち着いている。
ギルドや運営側から通達は……。
そこまで考えたリクは立ち上がり通路に出るとゆっくりと舞台の方へと歩き出した。
ちょうどその時、舞台袖からワゴンを押して司会者が出てくる。
見た感じは何もない。
その後ろからスーツ姿のソラとドレスを着たフラケートが出てくる。
その瞬間、会場が無言ながらも騒然といった雰囲気になった。
舞台に出てきたソラがリクに向かって頷く。
それを見て、リクは大きく息を吐きだし一番近い席に座った。
ソラからの何も無い、という合図だ。
しかし、リクは違和感を感じていた。




