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駆け寄ってきた女子生徒はマーキーの前で立ち止まると話し出した。


「先生、火魔法がどうしても使えないんです。コツを教えてください。」

「いいですよ、火魔法は……」

「失礼、お嬢さん。」


答えようとしたマーキーの声はしかし、リクに遮られた。

リクは立ち上がると、女子生徒に向かって礼をする。


「失礼、先生。お嬢さん、火魔法を使用する際どういうイメージを持っていますか?」

「えっと、小さな火の玉で、熱を持っていて……」

「なるほど。弟、火魔法といえば?」

「街一つ焼き尽くすほどの業火、数百メートル先からでも熱が感じられるほどの熱さ、だな。」


ソラはいたずらっぽく笑う。


「そこまで行くと上級どころか伝説上の魔導士が使っていたとされる特級魔法です。」

「ですが、それくらいのイメージがあれば小さい火の玉くらい簡単そうではありませんか?」

「そこまでできる人にとっては初級の火魔法くらい簡単かもしれませんが、私は初級さえ使えないんです。それより、この人たちは誰ですか先生?」

「学外の見学の方です。」

「まぁ、そんなことどうでもいいんだよ。俺に向かってさっき俺が言ったイメージで撃ってみろよ。」

「人に向けてなんてダメに決まってるでしょう。」

「いいから、やってみろって。」


言うと、ソラは上の服を脱いでリクに渡した。


「ちょ、ちょっと何脱いでるの!?先生。」

「この子がいいと言っているのですからいいでしょう。周りの邪魔にならないようにだけ気を付けてください。」

「は、はい。」


女子生徒とソラは少し脇に避けると離れて向かい合う。

周りには上半身裸のソラを見つけて何事かと気になったやじ馬たちが囲んでいた。


「本当にいいのね?」

「あぁ、いつでも来いよ。」


ソラは親指を立てて見せた。


「わかったわ、ケガしても知らないからね。『漂う火精たちよ、我が魔力を吸い、ここに顕現せよ。ファイアボール』。」


女生徒が掲げた手のひらから火の粉が舞った。

しかし、女生徒はそれにさえ驚いているようで自分の手のひらを見て目を丸くしていた。

そこにやじ馬の中の二人の女生徒が駆け寄る。


「ミリナ、よかったじゃない、その調子よ。」

「火の粉が見えたわ。」


自分の事の様に喜び笑む少女たち。

ミリナと呼ばれた女生徒も嬉しそうに微笑み返していた。


一瞬笑顔を消してしまいそうになりながらも気を取り直してリクは女生徒の元へと向かう。


「失礼。」

「あっ、冒険者さん?ありがとうございます。」

「冒険者で合っています。名前はリクといいます。呼び方はどちらでも構いません。」

「じゃ、じゃあ、リク先生で。」

「……先生ですか、まぁ、いいでしょう。」


訂正させようと手を持ち上げかけるもどうでもいいかと手を下ろし言葉を続ける。


「先ほどの呪文ですが、学校で習ったものですか?」

「いえ、違います。」


ミリナは首を横に振る。


「では、どこで覚えましたか?」

「母が、いつもキッチンで使っていたので、これでいいのかと。」

「なるほど、書物によく書かれているのはこれの事でしたか。先生。」


リクは振り返りマーキーを呼んだ。

少し離れたところではソラと生徒たちが仲良く何かを話していた。


「はい。」

「呪文に関してはまだ教えていないのですか?」

「教えてはいますが、人それぞれ合う詠唱が違いますから一人一人全員に個別に教えることは出来ていません。それを私のせいにしないでくださいね。」


マーキーは苦笑して見せ、リクはそれに頷いた。


「やはりですか、ミリナさん。」


再度振り向いて今度はミリナの方を向く。


「はい。」


いつの間にか本当の先生から教えを乞うような真剣な顔になっていた。


「おそらく、その呪文、詠唱ですかね、は初級魔法に満たない生活魔法用に貴方のお母さんが考えた詠唱だと思われます。なので、火力が抑えられすぎていてファイアボールさえ出せないのだと思います。まずは、詠唱から考えましょう。他の皆さんも威力が足りないなと思っているのなら詠唱から変えて見てはどうですか?その時はぜひお友達と仲良く楽しくやってみてください。もし、詰まってしまったら私もお手伝いしましょう。」


周りに向かってリクが声を掛けると一斉に数人のグループが幾つか出来、詠唱を考え出した。

リリスもミリナのグループに入っていき、言葉足らずながらも楽しそうに魔力で遊び始めた。

ソラも適当なあまり勉強が出来なさそうなグループに入っていき会話に参加した。

それを見てリクはマーキーの横まで戻ると土魔法で作られたイスに腰かけた。




「お前、なんでミリナの魔法受けようなんて思ったんだ?結局出なかったから良いものの危ねえだろ。」

「火の玉くらい大丈夫だ。」

「あれ、お前の兄貴なんだろ。すげえな。お前も冒険者なのか?」

「兄貴、すげえよな、同じ冒険者なんだけどな。」


ソラは男子生徒に苦笑する。


「そんなことはいいんだよ、お前らは何属性の魔法が得意なんだよ?」

「俺は火魔法が得意だ。」

「俺も火魔法だ。」

「俺はマーキー先生と同じ土魔法だ。お前は何が得意なんだ?」


三人目が最後にソラに振る。

それに、ソラは何でもないというように答えた。


「俺か、俺は能力者だからな。魔法は使えない。」

「え?」

「え?」


ソラと一緒に居た三人の男子生徒はソラの顔を見て止まる。

その時だった。

突如として運動場に女生徒の悲鳴が響く。


「きゃあぁ!」


声の主はミリナと一緒に居た女生徒の一人だったらしい。

たまたま当たってしまったのかリリスの麦わら帽子が地面に落ちていた。


「ま、魔人っ……。」


リリスの黒い角が陽の光を反射して妖しく光る。

その瞬間にリクがリリスを抱き上げていた。

ソラもその横に立つ。


「何で魔人が街中にいるのよ。」


その女生徒の目からは恐怖がありありと感じられた。

周りで固まる生徒たちからも恐怖や困惑、怒りといった感情が感じられる。

それを見てふたりはこういうことか、と心の中で溜息を吐いた。


「騒がせたな、帰るとしよう。」


リクはリリスを魔人と言って怖がった女生徒を見下すと運動場を、ストレノス学園を出て行った。



学園を出て街を歩きながら、リクは後悔していた。

魔人も能力者も少なくともこの国ではあまり良しとされない。

そんな中で安易にリリスを連れて学校なんぞに連れて行くものではなかった。

なぜか感じてしまった懐かしさがリクの判断力を鈍らせたのかもしれない。

しかし、落ち込むようなその背中をソラは叩いた。


「気にしてねえよ。リリスもそん時はびっくりしてたみたいだけどよ、今はそんなことないだろ?」


リリスはさっきの事など無かったかのように出店に出される果物に夢中だった。

それを買って渡すとリリスは嬉しそうに食べ始めた。


「そうだな、ありがとう。」


リクは小さくため息を吐くと、いつも通りの眠たそうな顔へと戻っていった。



それから、冒険者ギルドに寄って依頼の完了報告をしてから適当な宿に泊まり次の日。

ふたりは、ギルドに併設された酒場でフラケートを前に苦笑を返していた。

一応リンカも一緒にいるが部外者のために困ったような笑みを浮かべて黙っている。


「王都に到着してわずか24時間以内。なんでもう魔人の噂が広まっているのでしょうか?」

「若気の至り、というやつなんだろうな。」

「リクさんはもう若くないでしょ。それに、ソラ君もなんで止めなかったんです?」

「いや、俺は、そこまで頭が回らなかったというか……すいません。」


ふたり揃って頭を下げる。

その様子を見てリリスは首を傾げながらも朝ごはんを頬張った。


「私に謝られてもしょうがないんです。気を付けてくださいね。リリスちゃんのために。」


リリスのためにというところを強調する。

当然だ。

ふたりは襲われたりしても何とかなるがリリスでは抵抗できないのだから。


「以後、気を付ける。」

「き、気を付けます。」

「それと、弟よ。目上の者以外に敬語を使うのはやめることにする。案外、面倒くさかった。」

「なんでもいいさ。文句言ってくる奴はぶっ飛ばせばいい。」

「冒険者同士の私闘は禁止ですからね。いくらリリスちゃんのためでもそこまではダメですよ。」

「は、はい。」


ソラは、頬を膨らますフラケートに苦笑を返すしかなかった。

リクはもうこの話はいいだろと本題に入る。


「フラケート、リストは出来たのか?」

「あっ、はい。これです。」


フラケートは腰のバッグから一枚の紙を取り出すと、机に広げた。

それを四人はのぞき込む。

全部で20項目ほどあった。

その一番下にダンジョンスターと記されている。

それを見ながらフラケートは言った。


「恐らく、この中のほとんどが開催側に買い取られまとめて売られます。ですが、特にダンジョンスターなんかは買取ではなく所持者が直接落札者に売ることになります。ただ、その一割を開催側に渡さなければいけませんが。」

「わかった。」

「それで、俺はその間どこにいればいいんだ?」


あまり関係のないソラは全員いなくなってしまうことを予想して声を上げる。

しかし、帰ってきたのは予想外の言葉だった。


「何を言っている、舞台の上に決まっているだろう。」


有無を言わさぬリクに勝手に決められその後、オークションへの参加が決まった。

その帰り際にソラはリクに文句を言う。


「何で俺が出なきゃいけないんだよ。」


それに、リクは何当たり前なことを聞いているとでも言いたげな顔をする。


「なぜ出品者側が商品と一緒に出ないといけないかを考えろ。有事の際の責任を出品者に押し付けるために決まっているだろう。」

「それなら兄貴でもいいだろ。」

「パワー型よりスピード型の方が重要物の護衛は適任だろう。」

「あぁ、なるほど。」

「それにリリスのこともある。」

「そうだな、わかった、任せろよ。」

「ただし、フラケートが最優先だ。いいな?」

「わかったよ。」


ソラは渋々頷くとリクの一歩前を歩き出した。


そして、その数日後、オークションの日の朝。


ふたりの泊る宿に一通の手紙が届いた。

女将曰く、フードを被っていて顔は見えなかったらしい。


「『今夜のオークションにて、怪盗ルパンがダンジョンスターをもらい受けに行く。』だそうだ。」

「確かにフラグは立ってたけどよ。やめて欲しいな。」

「色々と起きそうな予感がする。ダンジョンスターとフラケートは頼んだぞ。」

「あぁ、わかってる。」



ソラは手紙を握りつぶした。


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