26
王都を前にして門には入都待ちの馬車で溢れていた。
列に並ぶと遅々として進まない馬車に嫌気がさす。
そのくせ時々豪奢な馬車が横を通っていくのだから腹立たしい。
そんなようなことでも思っているんだろうなと、イライラしたようなソラの顔を見ながらリクはリリスの頭を撫でた。
しかし、業者や『金獅子の鬣』の冒険者たちはこれが当たり前なのか特に気にしたような様子もない。
20分ほどしてようやくソラ達が護衛する商隊の順番となった。
厳正に積み荷を確認され通され、冒険者が乗る馬車の方は全員ギルドカードを確認するだけで通される。
いざ、街門をくぐる。
中には、巨大な街が広がっていた。
反対側の街門など当たり前のように見えない。
実に様々な建物が立ち並んでいた。
全体的に白っぽいという、共通点なのかわからない共通点を持ちながら綺麗な街並みになっている。
「ウェルミュレとは比べもんになんねえな。あまり街中にはいなかったけどよ。」
ソラがつぶやく。
「そうだろ、王都では何でも揃うぜ。」
「そうね、学校もあるし教会もあるし、図書館もあるし、温泉もあるものね。」
「あれは何だ?」
頷きながらソラは馬車の幌の隙間から見える一際、いやもっともっと大きな建物を指す。
予想はついているが。
「王都は初めてかい?あれが我らが王の王城だよ。」
ソラの質問にはノーズワルドが答えた。
「王政か?」
「そうだね、ソラ君たちは他国から来たのかい?」
「いや、記憶喪失だ。何も覚えていない。」
「あぁ、そうだったのか、ごめんよ。」
「別にいい。で、学校はどこなんだ?」
一瞬暗い顔をするノーズワルドだったが気にしていないソラの質問にすぐに顔を戻すと答えた。
「さっき入って来たのが南門なんだけど、学校は北門から近いから王城に隠れて見えないだろう。よければ、この後案内しようか。まだ昼だから時間はあるよ。」
「……いや、ありがたいけどいい。色々しないといけないこともあるしな。」
「そうか、気が向いたらいつでも呼んでくれ。」
「あぁ、ありがとう。」
ソラが頷くと、ノーズワルドは微笑んだ。
それからまた20分ほど王都について質問をしていると商隊は一つの建物の前で止まる。
それほど大きくはないが小さくもない建物だった。
冒険者たちは馬車を降り、商品の運搬を手伝う。
全てを運び終えるとそこで解散となった。
報酬は冒険者ギルドから受け取ってくれ、ということらしい。
「ありがとう、何事も無くてよかった。ご飯、美味しかったよ。お疲れさま。」
「お疲れさん。じゃ、またどこかで会えたら。」
「お疲れ様でした、皆様。では、またどこかで。」
ソラが片手をポケットに突っ込みながら手を上げる横でリクはしっかりとしたお辞儀で礼をした。
「兄貴、どこか行かないといけないところあるか?」
「フラケートたちと合流しなければいけないからな。少し待っていよう。」
「了解。」
そうして待つこと数分。
商人の建物からフラケートたちを含めた数人が出てきた。
建物から出てすぐにふたりを見つけたフラケートは二人に駆け寄る。
その後ろにはリンカも付いていた。
「お疲れ様です、リクさん。ソラ君も。」
「おつかれさま!」
「うん、リリスちゃんもお疲れさま。」
「お疲れ、リンカも。」
「私がついでみたいな扱いになってるんだけど。」
「気付くなんて頭がいいな。」
「ひどい。ソラくーん、お兄さんがいじめるー。」
リンカは泣きまねをしながらソラに絡みに行く。
「兄貴はこういう奴っすからね。」
「まぁ、そうよね。」
元からあまり気にしていないらしい。
「ところで、昼はもう食べたのか?」
話を切ってリクが聞く。
「まだよ。」
「まだですね。」
「では、食べに行くぞ。」
「じゃあ、リクのおごりね。」
少し強引なリクの言葉にも気にした様子無くリンカはリクの腕に抱きつき微笑む。
対してリクは少し呆れたような顔をしてから歩き出した。
「そう簡単に男に抱きつくものではないぞ。」
「勘違いされてもいい相手ならいいんでしょ?」
「それは光栄だよ。」
王都のことはあまり知らないため適当にファミレスのようなところに入っていく。
それからまた適当に料理を頼むとリクとフラケートは話し始めた。
「リクさん、月一のオークションが五日後に開かれるようです。そこに出品者として参加します。」
「参加の手続きなどは。」
「まだですが、三日前まで大丈夫です。今日中にリストを作っておきますので明日行きましょう。」
「了解した。オークションにおける作法も相場もわからない、頼んだぞ。」
「はい、お任せください。と、言っても最低金額を設定するだけで後は参加者さんたちの気分や予算次第ですが。あ、もしかして、お客としても参加したいですか?」
「あぁ、頼みたい。」
「わかりました。それに関しても申請が必要なので出しておきますね。」
「お待たせいたしました。ご注文のお品です。」
ふたりは適当にメニュー表を指してこれで、と言ったから合っているかわからないが、フラケートとリンカが何も言わなかったので合っているのだろう。
リクは一度話すのをやめてスプーンを手に取る。
リリスと一緒に合掌すると料理を口に運んだ。
「ではまた明日の朝、南の冒険者ギルド前で会いましょう。」
「あぁ、また。」
昼ご飯を食べ終わった一同はそこで解散となった。
「どこか行くのか?」
ソラがリクに聞く。
「学校を見に行く。」
「なんでまた学校なんかに?」
「リリスに学校を見せてやりたいと思ってな。」
リクの腕の中でリリスは首を傾げる。
リクはその頭を優しく撫でた。
都の南部を出店で買い食いをしながらゆっくりと歩いていく。
城壁とお堀を遠目に見ながら北部に抜けると何かの制服を着た子どもたちがちらほらと見えるようになってきた。
おそらく王都の学校の生徒たちだろう。
城壁近くの商業区画を抜けると、王城ほどではないのだろうが同じくらい大きい建物が見えた。
「あれか?」
「そうだ。リリス、あれが教えた学校だ。本に書かれていないことも教えてくれる。それこそ、何でもな。」
リクは言いながら少し寂しそうな表情をした。
「兄貴、いわゆる魔法学校ってやつだよな。」
「そんなところだな。」
王都に作られたこの国で唯一の学園。
国立ストレノス学園。
学費は8割がた国が負担してくれるという。
ただ、入学時のテストで毎年128人しか合格しないため倍率は高い。
全員が成績で順位がつけられ完全実力主義となる。
財力も実力のうちとされ毎年貴族の坊ちゃんが入ってくることも少なくない。
校内ではさらに細かい決まり事や制度があるらしいが外に出てくることはこれくらいだ。
校外に出ることは許可されているものの、全寮制なのも情報が漏れにくくなっているのだろう。
だが、部外者が校内に入ることは禁止とされていない。
それどころか申請すれば校内の施設を利用することも出来る。
そんな一風変わった学校に三人は足を踏み入れる。
賑やかな話声を懐かしいと感じながら設置されていたフロアマップを頼りに二つある運動場のうち北側の運動場へと向かった。
渡り廊下をくぐり運動場に出る。
運動場はコロシアムの様な形になっており大きくハートとクローバーの紋章が掲げられていた。
運動場ではたくさんの生徒が剣を振るったり、魔法を出したりと賑わっている。
教師らしき人物もいて、まだ昼過ぎのため授業中ではあるのだろうが、部外者がいても咎められない辺り不思議な学校である。
リクが一歩後ろに下がりソラを前に出すと教師らしき人物の元へと向かった。
「失礼、授業中ですか?」
「えぇ、授業中ですが構いませんよ。」
気付いた教師は手のひらを地面に向けると土属性の魔法で土のイスを作り出すと、ふたりにそこに座るように言った。
ありがとうございます、と一言言うとリクはそこに座りその横にソラが座る。
教師の方は座らないようで生徒たちの方を見ながら自分の身の丈ほどもある杖を握っていた。
リクはリリスを下ろすと耳元で囁く。
「遊んでおいで。ただし、帽子は取られてはだめだ。」
「うん!」
一瞬くすぐったそうにするリリスだったが最後まで聞くと元気に頷いて走っていった。
教師は止める様子は無いからいいのだろう。
「あの子を学校に?」
メガネをかけた若い教師は生徒たちから目を離さずリクに聞く。
「えぇ、それが出来れば嬉しいですね。」
「ここは入るのが一番難しいと言われていますからね。あぁ、失礼、ハートの一年生の担任をしています、マーキーといいます。」
「冒険者のリクと、同じく冒険者で弟のソラです。以後お見知りおきを。」
「よろしくー。」
ソラが座ったまま生徒たちを見ながら片手だけを上げて言うも、マーキーも生徒たちを見ていてソラ達の方を見ていなかった。
「覚えておきましょう。入学試験での贔屓は出来ませんが、あなた達とはまたどこかで会いそうですからね。」
そう言ってマーキーは意味深げに微笑んだ。
「ハート?」
ソラが疑問符を浮かべる。
「この学園は四つの寮に分かれて競い合っています。一人一人にも順位は付けられて競わされますがね。トランプを基にハート、クローバー、ダイヤ、スペードに分けられています。」
「あの有名な魔法学校みたいだな。」
ソラは小声でつぶやきリクは静かに頷いた。
それから少しの間何か話したりせずに生徒たちを見ていた。
リリスは上手く輪に入って魔法の出し方を教わっているようだった。
魔素が基本的に見えない能力者でさえ見えるほどの濃い魔力に皆驚いているようだった。
横ではマーキーも難しい顔をしている。
そこに一人の女子生徒が駆け寄ってきた。
切羽詰まったような表情ではないため緊急ではないのだろうが、何かあったのか。




