25
特に何も起きたりせずに一週間が過ぎ、商隊護衛依頼の日の朝となった。
出発は昼過ぎだからとソラは日課の瞑想に入る。
その横で、リクは空気イス状態で瞑想をしていた。
鳥のさえずりが聞こえる静かな朝に二人は自然を感じながら目をつむっていた。
30分ほどして瞑想を終えると二人は実戦訓練へと入る。
ただ、適当に打ち合うわけでは無く、空手などでは型と呼ばれるような、決まった動きを何度も繰り返し体に動きを覚えさせるように打ち合う。
実戦でもこの型は意外と役に立つ。
ソラは技より威力や手数を増やそうと思っているため型はあまり得意としないが。
対して、リクは技を極限まで鍛えている。
能力を見る限りは普通は逆になりそうなものだが、こればかりは性格だからしょうがない。
型の打ち合いが一段落すると二人は上着を脱いで湖に飛び込む。
無論、遊ぶわけでも休むためでもない。
水泳訓練と肺活量の訓練を同時にするためである。
いつもはこれくらいの時にリリスが起きだしてカミナに連れられて泳ぎに来る。
今日もいつも通りリリスがカミナに連れられて湖までやって来た。
リリスは水面に浮かぶ波紋を目ざとく見つけると服を脱いで湖に飛び込んだ。
入れ替わりの様にソラが湖から上がりカミナの元へと行く。
いつもここからソラはカミナとの修行に移るのだが、今日はカミナの修行は無いらしい。
「今日は、依頼があるんでしょ?」
「そういや、今日からだな。」
「今日は修行はなし。」
「了解。」
答えると、ソラはカミナと拠点のたき火に当たりに行った。
リクは少し泳いでからリリスと一緒にたき火のある拠点まで戻っていった。
ソラ、リク、リリスの三人はソラの摩擦でつけたたき火に当たる。
カミナは少し離れたところで朝ごはんの準備をしていた。
「兄貴、そういや宴会前の一週間くらい返ってこなかった時何してたんだ?」
ソラが枝の先に火をつけて遊びながらリクに聞く。
聞かれれば隠すこともないとリクはそれに答えた。
「能力をいろいろと試していた。」
「おぉ!何かわかったか?」
期待を込めてリクを見るソラ。
リクは頷いた。
「まだ憶測の範囲でしかないが、俺の能力はただの馬鹿力ではない可能性がある。」
「なるほど?」
このなるほどは憶測の範囲でしかないが、何もわかっていない時のなるほどだろう。
「攻撃力、守備力、耐久力、知力、体力、聴力、視力、握力、自分の内部に関する力の操作だと予想した。権力、遠心力、神力など自分の内側でないものは操作できない。これを、俺は『力の操作』と呼ぶことにした。」
「なんとなくわかった。」
「そうか。」
そこへ、カミナがご飯が出来たと声を掛ける。
真っ先に反応したのはリリスだった。
テーブルまで駆けていき自分でイスを引いて席についておとなしく待つ。
もう少しわがままを言わせてもらうなら自分の分のフォークくらいは用意して欲しい。
しかし、こればかりはしょうがない。
過保護のリクに、世話好きのカミナ、兄に頼りきりのソラしか周りにいないからリクかカミナが何でもやってしまうのだ。
「リリス、箸か、フォークか?」
リクが箸とフォークを持ってリリスに聞く。
「フォーク。」
リリスはリクからフォークを受け取ると自分の前にあるランチョンマットの上に置く。
今はランチではなくブレックファーストだが。
「リリス、お皿。」
そう言って、リクがリリスに四枚のお皿を渡すとリリスは椅子の上に立ち、四つあるランチョンマットにそれぞれお皿を置いた。
その中心に大きな鹿肉の丸焼きがカミナによって置かれる。
リリスは、もう待ちきれないとでも言いたげに鹿肉を見つめて目を輝かせていた。
ソラがその鹿肉の横にパンの入ったカゴを置き、リクが洗った生野菜を入れたザルを置き全員がイスに座る。
リクが小さく頷くと四人が揃って手を合わせた。
「「「「いただきます。」」」」
カゴからパンを取り出し肉を、野菜を挟んで各々食べ始める。
リクにも、ソラにも苦手な野菜が少なからずあるが、リリスは元気に何でも食べた。
今もその小さな口に入るのか怪しいくらい大きなサンドウィッチを作っては満面の笑みで頬張っている。
他の三人はその笑顔に毎日癒されているのは言うまでもないが。
四人は朝ごはんを食べ終わるとカミナとリリスが出す水魔法で食器を洗う。
最近ではリリスも生活魔法と呼ばれる威力までは魔法を使えるようになってきていた。
魔族の子の成長の仕方はわからないが、魔法に関してはもっと強くなるのだろう。
食器を洗い終わると、特に何もすることが無いので四人は湖まで行き木陰でボーっと過ごした。
野生の動物がやってきては逃げ、小さな鳥がやって来てはリクの膝に座るリリスの角に留まっていく。
横ではリクとリリスを見たカミナがソラを捕まえて、自分の足の間に座らせ抱きついて昼寝をしていた。
ソラは少し呆れたような顔をしながらもカミナに体重を預けて眠っている。
その様子を見て、リクも目をつむった。
リリスに叩かれてリクは目を開ける。
空を見上げて丁度昼頃だと気づく。
「ソラも起こしてきてくれ。」
リリスは頷くと横の木に歩いていった。
リクは立ち上がると湖で顔を水で流す。
すぐにソラも同じことをしに来た。
「パパ、お早う。」
「あぁ、おはよう。もう昼だがな。」
挨拶を返してリクはリリスを抱き上げる。
「師匠、行ってくるぜ。」
「えぇ、行ってらっしゃい。」
ふたりはカミナを残し冒険者ギルドへと向かった。
ふたりがギルドに着くと、商人らしき中年の男性が冒険者のグループと会話をしているようだった。
ふたりがそこに近づいていくと、冒険者グループのリーダーらしき者がふたりに気付く。
「やあ、どうも、はじめまして。クラン『金獅子の鬣』のリーダーをやらしてもらっているノーズワルドだ。こっちにいるのが僕の仲間たちなんだが、紹介は出発してからでいいかな?」
「あぁ、俺はソラ。こっちは兄貴のリクだ。よろしく。」
「ああ、よろしく。」
ソラとノーズワルドは握手をする。
リクはソラの一歩後ろでそっぽを向いていた。
少し急がなければいけなくなったらしく、ふたりがギルドに来てすぐに出発となった。
『金獅子の鬣』一同とソラ、リクは一つの馬車にまとめて入れられた。
リンカとフラケートは護衛ではなく運搬や作業関係の人員として他の馬車に乗せられた。
ここから王都まで約7日の道のりだ。
「さて、出発できたし仲間の紹介をさせてくれ。」
出発して少し落ちつくとノーズワルドが2人に声を掛けた。
「こっちのフード被ったのが魔法使いをやっているレーナー。」
「よろしくお願いします。」
「この筋肉男が盾役のモルヴァイス。」
「筋肉男とは何だ。あぁ、よろしく。」
「で、こっちに居るのが回復役のミナレスだ。」
「よろしく。」
「五日間だけだけどよろしく。何も起こらないことを祈っていよう。」
「フラグを立てるのはやめて欲しいが、まあよろしく。」
ソラは微妙な笑顔を返す。
「フラグ?」
「いや、こっちの話だ。気にすんな。」
「そうか、それで、Cランクが一人入ってくれたと聞いたんだが君かい?」
「いや、俺はFランクだ。Cランクは兄貴だ。」
そう言って、ソラは馬車の一番後ろでリリスと外を見ていたリクを指す。
「兄貴のリクと、あの娘はリリスだ。仕事はしっかりやると思うから気にしないでくれ。」
「あぁ、わかった。」
困惑しながらもノーズワルドは頷いた。
「ねぇ、ソラ君だっけ?君も冒険者なんだよね?」
「あぁ、そうだな。」
「最近なったの?」
「いや、一、二か月前だったと思う。」
「なのにFランクなの?」
「おい、ミナレス、失礼だろ。」
「登録しただけで依頼一つも受けてないからな。」
ソラが笑ったことで注意したモルヴァイスもそれならいいかと黙る。
「お金は兄貴が何とかしてくれるからずっと師匠の下で修行してたんだ。」
「へぇ、有名な人?」
「いや、有名かは知らないけど一応暗部だよ。」
「暗部!?」
『金獅子の鬣』の一同は目を丸くして驚く。
暗部はそういう組織があることは知られていながらメンバーはほとんど知られていない。
それ故に、暗部の弟子というだけで冒険者たちにとって名誉なことなのだ。
「たまたま目を付けられたんだ。最初に腹に穴まで空けられたしな。」
それからソラは『金獅子の鬣』の一同に修業内容や日常生活の一部を話した。
非常識なことばかりだったらしく、一々驚かれた。
その間もリクはリリスと外を眺めていた。
やがて陽は落ち闇が広まり野宿の準備に入ることになった。
運搬、作業担当の人たちには依頼の中にご飯が入っているが冒険者は入っていないため冒険者たちは別グループで作ることになっている。
男性冒険者は大喰らいだかららしい。
たき火を作るために乾いた枝を持ってきてミナレスの火魔法で着火する。
そこで『金獅子の鬣』の一同とソラが世間話をしていると、おもむろにリクはカバンから食材と鍋を取り出し無言で料理を始めた。
それを見て、慌ててレーナーが立ち上がり手伝いに行こうとすると、ソラがそれを止めた。
「いや、兄貴に任せておけばいい。大丈夫、兄貴の料理は旨いから。」
「そ、そうですか。」
「本当にいいのかい?任せてしまって。」
「あぁ、あれが日課みたいなもんだから大丈夫だろう。」
ソラは料理の準備をするリクを見て肩をすくめる。
「ソラ、火。」
「あいよ。」
言われて、ソラが即席のかまどに火をつけに行く。
「あのお兄さんがCランクだとはね。ほとんど喋らないから弟君の方がランクが高いと思ったよ。お兄さんからはほとんど冒険者にありがちな気配とか、気迫とかが感じられなかったしね。」
「あぁ、俺もそう思ったぜ。弟の方がオーラがある。」
「そうね、弟君ばかり私たちと話してたしね。」
「俺がどうかしたか?」
そこにリクの手伝いをしていたソラが戻ってくる。
「いや、なんでもないよ。」
「そうか、すぐに飯できるから待っててくれ。」
「あぁ、ありがとう。」
それから少し話をしていると料理が出来たようでリクが鍋を持ってきた。
それをたき火の横に置くとまたかまどに戻っていく。
しかし、すぐに戻ってくるとお椀とスプーンを配った。
「自分でよそって食べるといい。」
全員に配り終えると自分はリリスの分をよそい膝に乗せたリリスに渡す。
時々リリスがリクの口にスプーンを持っていくのを貰い自分の分をよそいはしなかった。
その様子を見て『金獅子の鬣』の一同は自分たちの分をよそい食べ始める。
「美味しいね。」
「旨いな。」
「美味しいわね。」
口々に賞賛する『金獅子の鬣』の一同。
リクはほんの少し頭を下げてそれの答えとした。
「リク君が、Cランクだったんだね。」
ノーズワルドが食べながらリクに話しかける。
「あぁ。」
リクは一言だけ応えるとリリスが服の上にこぼしたものを拾い上げて後ろに捨てた。
「あー、君のお兄さんは喋るのが苦手かい?」
「ん、そうかもしれないな。」
「そうか、まぁ、無理して喋ることもないし、ご飯が美味しいってことは伝わってるみたいだからいいけど。」
それから全員が食べ終わると仮眠の時間となる。
そこで、見張りはという話になったがリクが俺が行こう、と一言だけ言ってそのまま朝まで一人で起きていた。
次の日、リリスに起こされたソラと『金獅子の鬣』たちはリリスの出した水で顔を洗う。
それからリリスに渡されたタオルで顔を拭く。
リリスは使い終わった後のタオルを回収するとリクの元へ駆けていく。
料理中だったリクは駆けてくるリリスを片腕で受け止めると、包丁を置き手を拭き柔らかい笑顔でリリスの頭を撫でた。
自分のカバンを指し中に入れてくれるように頼むと、リクはソラ達の所まで歩いてきた。
「おはようございます。もう少しで朝食が出来上がります。少々お待ちください。」
リクはゆっくりと礼をすると即席の調理台へと戻っていった。
「お兄さんってあんなんだった?」
「元からあんなんじゃなかったか?」
「そうだったっけ?」
「ごめん、座って待っててくれ。すぐに用意させるから。」
リクの突然の変わりように困惑を隠せない『金獅子の鬣』たちにソラが声を掛けると戸惑いながらも頷いた。
ソラは料理をするリクの元へと向かう。
「どうかされましたか?」
リクは振り返らずに言葉を発した。
「『金獅子の鬣』の人たち、驚いてたぜ。」
「…………どういったキャラでいればいいのか一晩考えた結果、この人格を使うことにした。人前ではこれで行く。」
「そか、わかった。」
「……さて、料理が出来上がりました。朝ごはんにしましょう。」
リクが振り返り柔らかい笑顔を浮かべる。
いつもの眠そうな、やる気の無さそうな顔を見慣れたソラには少し不気味に見えた。
そして、五日。
ゴブリンやらオオトカゲなどとの遭遇戦にはなったものの、特に大事なく護衛依頼が終わった。
結局、夜の番は全てリクが請け負った。
『金獅子の鬣』が実は寝ているのではないかと偵察したようだがリクはずっと起きていたという。
今見えている30mはあるだろう壁をくぐれば王都となる。
王都の門前はたくさんの馬車で騒がしかった。




